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2018.04.10

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愛犬の余命宣告からの日々を考える<前編>

残された時間をポーと一緒に楽しみ、生き抜きたい

2015年から2016年にかけてInstagramFacebookで全米中の注目をあつめたポー(Poh)という犬のことをご存知でしょうか。3月16日発売の雑誌『RETRIEVER 2018年4月号』(※RETRIEVER公式サイトはこちら)でも紹介されていましたが、14歳で余命宣告を受けたあと、飼い主カップルと全米を旅し、多くの犬、そして愛犬家と交流したポーの姿は、シニア犬や病気を抱える犬のケアをしている飼い主、犬を愛する人たちの共感を呼びました。日本に滞在中の飼い主のニール・ロドリゲスさん、荻野有子さんに、旅のこと、老犬介護のことについて話を聞きました。

#Lifestyle

Author :写真=大浦真吾、荻野有子、ニール・ロドリゲス 文=古川 あや

愛犬の記憶に残る大冒険に出かけよう

―――愛犬ポーの余命宣告をきかっけに、アメリカ横断をする旅"Poh the dog's big adventure(愛犬ポーの大冒険)" にポーを連れて飛び出したお二人。どんな思いだったのでしょうか?

有子さん:ポーは2015年3月に突然、いつ何が起きてもおかしくない状態だと余命宣告を受けました。内臓に大きな腫瘍があるけど、14歳という高齢のために手術は難しいと......。そして、すでに腎不全の状態にあるというのが獣医師の説明でした。最近元気がないな、とは思っていましたが、信じられない思いでした。余命宣告を受けたら、家で静かに過ごすことを選ぶ人も多いと思いますが、私たちは、ただ死を待つのではなく、生きていることを実感してほしいと思ったんです。その夜、ニールから今までどこにも連れていってあげなかったぶん、何か記憶に残る、ポーにとっての大冒険をしたいと相談されました。

ニールさん:ポーは2000年にシェルターで出会ってから、いつも私の近くにいて、私を笑顔にしてくれました。アパートに強盗が入ってからは、いつも見知らぬ人から守ろうとしてくれていたと思います。だから、そんなポーにお返しがしたいと思いました。ポーはNYからほとんど出たことがなかったので、西海岸の綺麗な海でポーの初めての海水浴をして、海岸からサンセットを一緒に見たいと思いました。

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海に行くとポーはパワーをチャージするのか、夜もぐっすり眠ったそうだ

ポーの存在が私たちの人生を大きく変えた

―――余命宣告を受けた3日後、ニールさんと有子さんはすべての仕事や予定をキャンセルし、アメリカ横断の旅に出ました。この旅ではトータル46日間で22州を巡ったそうですが、訪問した都市はどのように選んだのでしょうか?

有子さん:旅のルートや宿の手配はもっぱら私が行いました。宿については犬のサイズに関係なく宿泊できるホテルグループがあったので、そこを主に利用しました。いい宿が見つからないときは、SNSで情報を呼びかけると、紹介してくれる人もいたので、それほど大変ではなかったです。
 訪問先は、①ポーと一緒に見学できる、②記憶に残る写真が撮れる、③新しい体験ができる、この3つをポイントに選びました。私はアメリカに20年近く住んでいますが、ほとんどNY州から出たことがなかったので、ポーと一緒に冒険した感じです。ポーがいたからアメリカ横断の旅をしたし、ニールとも結婚した、と思います。実はポーとは衝撃的な出会いをしました。初めてニールの家に遊びに行ったとき、ポーが噛んでいた紙を取ろうとして、激しく噛まれてしまったんです。でも、ちょっとマヌケでいたずら好きで、怒りっぽくて頑固、そんなポーの魅力にはまって、とにかく一緒にいたいという思いが強かったです。

―――ポーのケアをしながらの旅ではたくさんの場所を訪れていますが、特に印象に残っているのはどちらですか?

ニールさん:パワースポットのセドナを訪れた頃、ポーは荒い息をしていることが多かったのですが、カセドラルロックやホーリークロス教会に着くと穏やかな息になって、寝息をたてて眠りはじめました。やはり癒しの力がある場所なのかなと。

有子さん:ポーは海が好きだということが、この旅でわかったんです。海に入ると波に身を任せてとても気持ちよさそうで、なかなか海から出ようとしないほどでした。夜もあまり眠れない状態だったけど、海水浴をした日は少し笑顔を浮かべて、ぐっすりと眠っていましたね。自然の癒しの力を感じましたし、元気なうちから海に連れていってあげればよかったと思いました。

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ポーの思い出を語るお二人。テーブルの上のぬいぐるみは、工房を探して、二人で手作りしたポーの人形。どこに行くにもこのポー人形と一緒だ

SNSに批判がよせられたことも

―――1度目の旅を終えた後も、2〜3泊の小旅行を重ね、10月には2度目の横断旅行に出ています。旅を続けた理由は?

有子さん:旅を終えてNYに戻ってきて、ポーは弱ってはいてもまだ元気でした。旅に出ている間は、移動中も窓から外を見たりして、とても生き生きしていたのに、NYのアパートではつまらなさそうで。そんなポーを見ていたら、いろんなチャンスを作って、また一緒に出かけたいと思ったんです。1度目の旅やSNSで知り合った人に会いに行ったり、ポーに海水浴させたくてフロリダのドッグビーチには2回も行きました。
 2度目のアメリカ横断の旅は、DJとして各地で音楽イベントを開催するニールの仕事を兼ねた旅でした。ポーのケアにかなり出費もしていたし、働かないといけない。でも、ポーは少しずつ弱っていたので、とにかく一緒にいたかったんです。だったら仕事先に私たちが同行しようと。その頃にはポーは車椅子を使っていたので、荷物はもっと大掛かりになりましたけど。

ニールさん:体も痩せてきていたのでSNSなどに批判的な声が寄せられることもあって、悲しい気持ちになることもありました。でも、知らない人に会ったり、新しい土地に移動したりすると、ポーの目は輝いて、一生懸命ににおいを嗅ごうとしました。旅は、ポーの生きる力に間違いなくなっていたと思います。フォロワーの方との交流では、ポーも楽しそうにしていましたし、私たちも勇気づけられました。

―――犬連れ、特に介護を必要とするポーとの旅で大変だったこと、気をつけていたことはありますか?

ニールさん:腎不全のポーの症状を緩和するために、朝晩2回の皮下点滴が必要だったので、数箱分の点滴パックをクルマに積み込みました。腎不全になったシニア犬の特徴でもあるのですが、食事のえり好みも激しくなっていたので、調理器具や食材を入れるクーラーボックスも持参しました。毎日、数種類のお肉を焼いたり、煮たり、焼き加減も変えたりしながら、ポーがその日に食べるものを探っていましたね。クルマは後ろが見えないぐらい荷物でいっぱいになって、そのほとんどがポーのものでした。

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セドナのパワースポットに向かうニールさんとポー

有子さん:1回目の旅ではまだポーも元気だったので、ゆっくりではあったけど歩いていろんなところを見て回れました。でも、セドナでは長い距離を歩かなきゃいけなかったり、足場が悪かったりで、ニールが肩にかかえて歩きました。ポーのペースに合わせての移動を心掛けたので、どうしても移動には時間がかかっていましたが、ある日、コスコ(=コストコ)で、荷物を入れるカートを見かけ、試しに買ってみたらすごく便利で。
 カートのおかげで、夜のトイレも楽になりました。シニア犬になるとどうしてもトイレが近くなります。でも、ホテルでは毎回外に近い部屋を取れるわけではなく、外に出るまでに粗相してしまうこともありましたが、その心配はなくなりました。
 そうそう、カートには後日談があるんです。しばらくしてコスコから、急にカートの売れ行きがよくなった理由を調べたら、私たちのインスタグラムだったと連絡をいただきました。ポーにおもちゃをプレゼントしてくれました(笑)。

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コスコカートに乗って笑顔のポー。海風に吹かれるだけでもご機嫌だった

介護に関する情報共有の場になったSNS

―――1度目の横断旅行で始めたインスタグラムは、最初は旅の記録の場でしたが、次第に介護に役立つ情報共有の場という性質もプラスされ、老犬や病気の犬を介護をしている人との交流も深まったそうですね。

有子さん:弱っていく愛犬を見るのはとても辛いことです。最初はシニア犬の介護に関する、ネガティブなことを載せることに迷いもありました。でも、同じように悩んでいる人もいるかもしれない。私たちの悩みや抱えている問題をシェアすることで何か解決方法が見つかったり、気持ちが楽になったりするかもしれないと、すべてではありませんが共有するようになりました。するとすごい反響があって、私たちの心のよりどころにもなりました。

ニールさん:ポーとの旅を通じて出会った方の中には、Dr. Buzbyという方がいます。犬の滑り止め「Toe grip」を開発した方で、ポーが使っている写真を見て、機会があったら立ち寄ってとメッセージをいただきました。その頃、ポーは舌が紫色になって、主治医からは安楽死を考えたほうがいいと言われていました。でも、Dr.Buzbyはこれは腎不全からくるものではないから、食事の内容を少し見直せば大丈夫だとアドバイスをくれました。実際に、食事のバランスを変えただけで、症状は改善しました。

有子さん:Dr.Buzbyは老犬のQOL維持にとても熱心で、飼い主にも親身に接してくれました。NYのクリニックを紹介していただき、そこでのリハビリを続けたところ、ポーの体調は一時期上向いて、穏やかな時間を過ごすことができました。医師との出会いでこんなに変わるんだと驚いたし、先生には本当に感謝しています。試行錯誤しながらの介護だったので常に不安もありましたが、先生と出会ったことで光が射した、そんな気持ちになりました。

(後編へ続く)

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