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2018.04.19

ブログ        

私の犬の育て方 vol.1

俺、ボーダー・コリーに恋する

これは私と愛犬アリーとの物語。なぜ私はボーダー・コリーという犬を飼いたいと思ったのか?どうして私が里親になることを選んだのか?犬を飼って悩んだこと、笑ったことを書いていきたい。

#Activity / #Lifestyle

Author :写真・文=五十嵐廣幸

ボーダー・コリーとの出会い

「ボーダー・コリーを飼いたい」そう思ったのには訳がある。私は以前、母ヤギ一頭と、子ヤギ二頭を買った。当時乗っていたワンボックスカーの荷室にヤギを入れ、フリーウェイを30kmほど走って自宅に戻った。裏庭にクルマを乗り入れて荷室のドアを開けると、三頭のヤギたちは勢いよく飛び出してその草原を歩いた。先導する母ヤギ、それに続く子ヤギたち。私はまるで「アルプスの少女ハイジみたい」と喜び、その光景を楽しんでいた。

 しかし、それも束の間「あら?あら?ちょっとそっちはダメだよー」そんな私の気持ちなど関係なく、ヤギたちはフェンスの隙間を潜り抜けて隣の敷地に入ってしまった。隣家の馬が突然のヤギの訪問に驚く。「ヤギが逃げたんだよー」と馬に謝りながら、そのヤギたちを連れ戻そうと必死だった。次第に日が傾き始め、焦っていく私。追いかければ追いかけるほど、ヤギは怖がり逃げていく。太陽が沈んだ時には、三頭のヤギは田舎道を超えて、向かいの牧場へ逃げ込んでしまったのだ。

 翌日、早起きをしてその牧場に向かった。牧場主のおじいさんに「逃げたヤギを探したい」とお願いをした。メルボルンカップ(日本でいう競馬の天皇賞)で何度も優勝した元ジョッキーのおじいさんに笑われながらも、牧場内に入ることを許され私はヤギを探し始めた。クルマで小高い丘を登り、目を凝らす。しかし見えるのは巨大な牛ばかりだった。日中の気温が30度を超え、ヤギも喉が渇いただろう、怖がらせてごめんよ。と反省しながらも、気持ちはますます焦っていった。

 歩けど歩けど、ヤギの姿は見つけられない。「いた!ヤギだ!!」と思ったら、白い羊でがっかりもした。とうとう日が暮れて、その日の捜索を終えた。牧場主のおじいさんに、「明日も探しにきてもいいですか?」と聞くと、おじいさんは「そりゃ簡単には見つからないだろう」と笑いながら教えてくれた。ヤギが逃げたこの牧場は、なんと東京ドーム500個分の敷地だったのだ。

 翌日も朝早くから捜索開始。この広い牧場の中で動くヤギを捕まえるのは、「東京ドームの中で落ちたビー玉を探すより難しいかもしれない」。そんなことを思いながら、丘を登り始めた。しばらくすると牧場主のおじいさんが、四輪バギーで「一緒に探してやろう」と来てくれた。どうやったら見つかるのだろうか?と困り果てた頃、私は三頭のヤギを見つけた!「いたーーーーーっ!」と大声で叫びたい気持ちを抑えて、おじいさんに合図をした。焦る気持ちと同時にヤギがまたこの広大な牧場のどこかに行ってしまわないようにと慎重になった。

 ヤギは近づいてくる私に気がつくと一気に逃げた。その瞬間、おじいさんのバギーから"ピョーーーン"と勢いよく飛び降りた白と黒のボーダー・コリーが、母ヤギの行く手を阻止した。ヤギは違う方向へ逃げようする。しかし犬はその先手を打ち、ヤギの行き先をことごとくブロックしながらヤギを囲うように動き続けた。行き場に困った母ヤギの角を私は掴んで、ヤギを捕まえることができた。

 これが、私が初めて働くボーダー・コリーを見た瞬間だった。こんな強烈な体験があって「いつかボーダー・コリーを飼ってみたい」そう思い始めたのだった。正直にいえば、私はバギーから勢いよく飛び降り、困っている私を助けてくれた働く犬に恋をしたのだ。

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戻ってきたヤギたちは暫くの間ロングリードを装着した

飼うという決意、犬をどこから手に入れるか?

 本格的にボーダー・コリーを飼おうと決めた時に、その犬種の特徴を知ることや、飼い主として必要なことを勉強しようと思った。例えば......

  • ■ボーダー・コリーという犬はどういう犬なのか?
  • ■どのくらいの運動量が必要なのか?
  • ■どのくらい食べるのか?
  • ■多い怪我や病気は?
  • ■何が得意で何が不得意なのか?
  • ■どのくらいのお金が月々かかるのか?

 本やインターネットを使って調べたり、実際にボーダー・コリーを飼っている人、ブリーダーの方にお話を伺ったりもした。最終的に「自信はないけど犬と暮らすために努力する」と自分に約束をした。じゃあそのボーダー・コリーをどこで手に入れるか?ここビクトリア州で犬を手に入れるには、ほぼ二つの方法しかない。ブリーダーから買う方法と、保護施設で犬の里親になる方法だ。

 ブリーダーから犬を買うということは、「子犬」を手に入れることになる。平日仕事をしているという私自身の生活を考えれば、子犬から育てることは難しいだろう。子犬も人間の赤ちゃんと同様に、親と一緒に過ごす時間が絶対に必要だと思うからだ。それは餌や体調管理だけでなく、飼い主と一緒に過ごすこと、他の犬たちや多くの人たちとたくさん過ごす時間が大切で、それによって犬は社会性や社交性を身につける。家の中でずっと待つだけでは、犬も健やかに成長しないからだ。私は子犬を選択肢から外した。

 そしてボーダー・コリーについて色々調べていくうちに、自分の中でどんどん保護施設からの「譲渡」という選択肢が膨らんでいった。保護されている犬には、さまざまなバックグラウンドがある。「飼いきれなくなったから」「吠える声がうるさいから」「飼い主が亡くなったから」というものから「散歩に行けないから」「子犬でなくなってもう可愛くないから」という、なんだか身勝手と思える理由もある。それらを知れば知るほど、「この同じ世界に存在する命を無視して、これから生まれてくる子犬を待つこと」について深く考えた。私は「どんな理由で手放された犬でも、思いっきりこの世界で遊ばせてあげたい。そこに私が一緒に加わってみたい」そう思った。

 よし、犬は保護施設から迎え入れよう。

愛犬との出会い

 私は、毎日多くの保護施設のサイトで自分に合った犬を探した。オーストラリアには犬種別の保護施設もある。ケルピーやクーリー、ボーダー・コリー、オーストラリアン・キャトルドッグ(ヒーラー)などが集まるワーキングドッグ・レスキューと呼ばれる団体。また犬や猫だけでなく羊や牛、アヒルやウサギなども保護するRSPCA(王立動物虐待防止協会)など多くの団体がその小さな命を消すまいと活動している。

 ある日、私は一頭の白と黒のボーダー・コリーの写真を見つけた。推定1歳のメス犬だ。まるで笑っているようなその写真を見て、私はすぐにその保護施設へ電話をした。

「今日そちらに行けば、この犬と遊べますか?」
 すると担当者は、
「どうぞどうぞ!実際に一緒に犬と遊ばないと、その犬があなたに合っているか分からないから。ぜひいらしてください」と言われた。

 私は急いで支度をして、クルマのエンジンをかけた。向かったのはフリーウェイを乗り継ぎ、田舎道を走っていく300km先の海辺の町だった。

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 休憩せず4時間走り続け、小さい保護施設にたどり着いた。氏名を名乗り午前中に電話したことを伝える。気持ち良い応対の職員が先導してくれて、犬たちが保護されている部屋に入った。檻の一つには、サイトで見た白と黒のボーダー・コリーが尻尾を振りながら私を見ている。私はその檻の隙間から手を差し出すと、その犬は指先のにおいを嗅ぎにきた。

 職員の方に「ぜひ犬と一緒に遊んでみて」と促され、裏庭に遊びに行った。アリーと名付けられたその犬は落ちていたボールを持ってきて、私の目の前でポトリと落す。「投げて」彼女はそう言っているようだ。私は「投げるよー」といってボールを投げる。アリーはそのボールを勢いよく走って取りにいき、また私の目の前でポトリと落とす。私もアリーもたくさんキャッチボールを楽しんだ。そのあと担当者とアリーのことを含め、里親の条件などについて色々教わった。たとえば......

  • ■庭には必ず高さのあるフェンスが必要なこと
  • ■犬を外で飼うのか、室内に入れられるのか?
  • ■譲渡の後は犬のしつけ教室や訓練などできるかどうか?
  • ■犬の具合が悪いときには治療ができるかどうか?
  • ■怪我や病気で治癒の見込みがなく、痛みで苦しんでいる場合は安楽死をさせることができるか?

 職員の方は「もし本当にアリーを飼いたいなら、ボーダー・コリーという犬種をじっくり調べること、この先ずっと飼い続けられるかを考えて焦らず決めてください」とアドバイスをくれた。私は「決まり次第連絡します」と約束をして保護施設をあとにした。

 長い帰り道、運転しながらアリーという犬のこと、ボーダー・コリーという犬種のこと、犬を手に入れた瞬間から発生する飼い主としての責任、これからは自分だけでなく、犬という命も守らなければいけないこと、一度大きな悲しみや辛さを知ったこの犬に、もう二度と同じ悲しみを与えてはいけないこと、そんなことを考えながら自宅まで戻った。また夕飯を済ませてから、今までボーダー・コリーに関して集めまくった資料をもう一度読み返して自問し続けた。

「私は犬を飼っても経済的な面を含め問題にならないだろうか?」
「私が犬を飼ったら、日本に長期間の里帰りはできないだろう」
「残業で長時間犬を待たせることになったら?」

 自分目線だけでなく、犬からの目線や気持ち、さまざまな場面や状況を考えた。そして翌日、私は保護施設に電話をした。

「私、アリーを飼いたいです」

(つづく)

◎プロフィール

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五十嵐廣幸

オーストラリア在住。元dog actuallyライター。週末は愛犬と一緒にSheep Herding(羊追い)をして過ごす。サザンオールスターズ、クレイジーケンバンド、そして動物を愛す。犬との生活で一番大切にしているのは、犬が犬として生きるためのクオリティ・オブ・ライフ。

掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法等により保護されています。



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