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2018.03.06

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人と犬の幸福な関係を目指して ~こだわり人探訪 vol.5~

「よけいなものは排除してシンプルに。犬の肌にいいものは、自然環境にもいい」 ――Qcompany代表/桜井 求

「人と犬の幸福な関係」を目指すdocdog(ドックドッグ)。そのビジョンに合致した、ユニークなシャンプー&クリームをたったひとりで模索して世に送り出している人が九州の南端にいる。そんなQcompany代表の桜井求さんを訪ねて、宮崎県串間市へ飛んだ。

#lifestyle

Author :写真=前島大介(編集部) 文=白石かえ

江戸っ子、宮崎発の犬用シャンプーを売る人生に

 宮崎県串間市といえば、都井岬の野生馬(御崎馬や岬馬と言われる)が有名。現存する日本在来馬(北海道和種、木曽馬、対州馬、トカラ馬、宮古馬、与那国馬)のひとつで、昭和28年(1953年)に純粋な日本在来馬として国の天然記念物に指定された馬だ。それくらい自然豊かで、のんびりしていて、野生動物とヒトがゆるやかに共生している風土である。

 そんな九州の南端へ、東京は下町生まれ、下町育ちの生粋の江戸っ子である桜井さんが、宮崎へ移り住んだのは10年前。東京で知り合った奥様の実家が、この串間市市木だった。

「もともと僕は、子どもの頃から魚釣りが大好きだったんです。川も海もどこでも行きました」

 自然に親しみ、美味しい自然の恵みを自分で獲っていただくことが好きだった彼は、義理のお父様と出会い、イノシシ猟に惚れ込み、宮崎へ移住することに。お父様は、これまた気合いの入った古き良き昭和のイノシシ猟師。プロットハウンド系の犬たちがわんさかいるなかで、桜井さんは先輩猟師たちと犬たちに鍛えられ、宮崎の山あいの集落で、地元に溶け込み今暮らしている。

 その一方で、彼は宮崎で事業を起こした。きっかけは東京で暮らしていたときからの相棒の北海道犬が、肌荒れで悩んでいたから。

「なんで、もともと日本にいた在来の日本犬なのに、そんなに皮膚が荒れてしまうのか、意味がわかんなかったんです」

 そこで、愛犬のために自分で納得のいくシャンプーを作ることにした。当時、桜井さんは東京で、化粧品やトイレタリー(ヘアケア、ボディケア、スキンケアなどの商品)の原材料を扱う会社に勤めていて、開発や研究、製造するメーカーとの人脈があったのだ。

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一つひとつ桜井さんがラベルシールを貼って完成するシャンプー

犬が舐めても安全なシャンプー

 原料を一つひとつ自分で吟味し、動物が本来備えている皮膚の強さや、自然治癒力を阻害しない商品を目指した。

「そもそも、なぜシャンプーはいい香りがするのか、わかります? それは多くの場合、原材料のにおいを消すため。あるいは、飼い主であるニンゲンが望むからなんですよ。その方が売れるからです。だけどそれは本当に犬のためにいいことなのかな、って思いません?」

 いろいろな説があるが、「犬の嗅覚は人間の1000~1億倍、皮膚の薄さは5分の1」とも言われるのに、粗悪な原料や人工的な香料、色素は人間が思う以上に犬たちにとってはストレスになるのではないか、と桜井さんは考えている。

 また、シャンプーは汚れを落とすために必要ではあるが、皮膚や被毛にとって少なからずダメージを与えるものでもある。大事な脂分を奪ったり、大切な常在菌を殺したりしかねない。やりすぎはいけない。そして、余計なものはいらない。

「ヒト用のシャンプーやコンディショナーもそうなんだけど、コーティング剤などを入れることにより一見手触りはよくなるけれど、それは皮膚や被毛を<余計なもの>で覆っているだけなんですよ」と、桜井さんは言う。

 必要なものを必要なだけ。余計なものは排除して、シンプルに。実際に彼は自分でも必ず商品を試している。というか、自分もいつも常用している。

「最良の材料を使った犬にいいものは、ヒトにもいいに決まってるでしょ」というのが彼の持論。裏を返せば、ヒトにも使える安全なものを、犬にも使いたいということなのだろう。よってQcompanyの商品は、いつのまにかファンの間では「哺乳類用」として、愛犬にもニンゲン家族にも、みんな同じシャンプー1本となっている家庭も増えてきている。

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シャンプーは3種類。左から「クリスタルライフフォードッグ」のフレングランスフリー(精油なしの無香料。原材料のニオイはそのまま残っている)。真ん中の「クリスタルライフフォードッグ【厭わず】」は、滅菌効果や消臭効果を目的として、タイ産のオーガニックハーブ精油、ミント、ティーツリー、レモングラスの3種の精油を使用。右の「ドッグシャンプー COCORO 」は、より犬向けに、敏感肌を整えたり、虫を忌避するために、カモミール、オレンジ、ミント、マジョラム、シトロネラの5種の精油を配合している

 ちなみに筆者宅でも、ここ半年近く使って実験している。犬の毛はシャンプー後、柔らかくなる(そんなに頻繁に洗っていないけれど。冬期だったこともあり、2カ月に1度しかまだ実験していないので今後さらに継続予定)。またニンゲンの人体実験結果、髪の毛の多い人やくせっ毛の人は髪の毛がよけい爆発して膨らむ可能性は高い。パサつく印象はある。でも、コンディショナーやトリートメントをしていないわりに手触りは悪くなく、コシが出てきた感じ。また髪の毛が細い人や少ない人は逆にふわっとして、ぺしゃんこにならない良さがある。さらに、薄毛のお父さんの毛が生えてきた例も聞いた。この話は個人差のある特殊事例だと思うが、頭皮を余計な化学的汚れで覆うことをやめたことにより、毛根が息を吹き返したのかもしれない。効果のほどは科学的にはわからないが、とにかくシンプルに、余計なものは付着させない、残さない、というのはいずれにしても悪くはないだろう。

 ただ、「哺乳類用」とはいえ、犬は自分の体を舐めたりすることがある。そこで、桜井さんは多少すすぎ残しがあったとしても、舐めても安全なもの、肌への負担が少ないものを目指した。さらにシャンプー嫌いな犬のシャンプータイムの短縮のために、泡切れ、水切れが良く、(シャンプーなのに)保湿をするものを作った。桜井さんのシャンプーは、リンスやコンディショナーが不要というのも大きな特徴である。時短にもなるし、お財布にも優しい。売り上げのことを考えたら、コンディショナーもセットで売ればいいようなものだが、「コーティングする必要はない。それが皮膚や被毛の負担になる」と、桜井さんは信念を曲げない。

使用後の排水のことも考えた商品づくり

 さらに前述したように、魚釣りが大好きな桜井さんとしては、シャンプーをした後の、排水のことも考えている。

「川や海を汚すような商品は作りたくないんですよ」

 魚たちに迷惑をかけるし、それはいずれ自分たちの口に入る(=魚や海藻などを食べる)ものだから。自然の循環のひとつに自分たちニンゲンもいるんだという、強い信念、倫理観を感じる。そのため桜井さんのシャンプーは、生分解性の高い、海辺やキャンプ場でも使えるものなのだという。

 ついでに新情報をひとつお伝えしておくと、今年5月頃に食器洗い洗剤の発売を予定しているとのこと。提携先であるオーガニックのハーブ精油を作っている農家さんで作る、EM菌(有用微生物群)含有の発酵させたものを材料にしている洗剤とのこと。

「まるでワインみたいな感じで作っているんです。手ごねして、発酵させて。すごいアナログでしょ」と笑う。

 排水を汚さず、また配水管のニオイを消す効果が期待される。犬グッズとは少し離れるが、彼の信念はひとつ。自然環境にいいものは、ヒトや犬にもいいものであるということ。もちろん犬の食器を洗うときにも安全な洗剤だろう。

ニホンミツバチが従業員。自家製蜜蝋で作ったクリーム

 さらに、シャンプー以外にも好評なのが、ケア用のクリーム。肉球の保湿に使ったり、民間療法で擦り傷や火傷に使ったりする猪脂入りのものなど、犬用は3種類ある。共通点は主たる材料に桜井さん自家製のニホンミツバチの蜜蝋を使っていること。元養蚕業(この集落は、カイコを飼ってその繭から絹糸を作る産業が盛んだった)をしていた建物を、改築した桜井さんの事務所の庭先には、ミツバチたちの巣箱がいくつか設置してあった。そして取材に伺った2月下旬、ちょうど暖かい日で、冬眠から覚めたミツバチが箱から飛び立ち、活動するのを観察することができた。ちょっと感動した。地に足のついた仕事というか、自然と協力体制で成立する仕事というか。なにしろ自分の目の前で、自分で作っている原材料ほど、確かなものはない。

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クリームも3種類。左の「Organic g」は、自家製の蜜蝋とヘンプシードオイルが主原料。保湿力が高く、ハーブ精油が6種入っていて、いい香り。真ん中の「Organic w」は、蜜蝋と自家製の猪脂が主原料。猟師たちの間で猪脂は、傷や湿疹、火傷などのときに塗るもの。ちょっと独特なイノシシの油脂のニオイがするけれど、それだけに効果がありそう。右の「Organic p」は、もともと保湿力と浸透力の高い「Organic g」をベースに、さらに2種類の天然ひまし油を配合し、保湿力を高めている

 とはいえ、まだ試行錯誤の連続のようだが、地元の養蜂家に教えてもらいつつ、桜井さんは頑張っている。

「冬の間、ちゃんと巣箱の中で生きているかなぁって心配だったんですけど、元気でよかった」

 ハラハラしながらミツバチの春の目覚めを待ち、無事に活動を始めたときの安堵した気持ちが伝わってきた。ミツバチたちは、Qcompanyの大切な従業員のようにも見える。自然の力を借りて、自然の恵みをみんなに分配し、そしてまた自然に還元する。地域に根ざした、自然環境と共生したモノづくり。搾取ではなく、共生。野生動物とヒト(または産業)が共に生きていく理想型のモデルケースではなかろうか。未来永劫、ニホンミツバチが森の木や花の間を舞い、生き残れる宮崎の山の自然を残してほしいと心から願う。

 そして森と川と海はつながっている。森が豊かなまま残れば、川や海も豊かになる。持続可能な自然の循環とはそういうこと。そうして桜井さんは、自分の肌感覚で信じているポリシーを大事にしながら商品づくりをして、休みの日には愛犬エダァと共に大好きな魚釣りに出かけることだろう。ちょっと、いや、かなり羨ましいライフスタイル。こんな風に犬への深い愛情と、自然への思いやりに溢れたシャンプーやクリームと出会えたことに感謝したくなる。

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