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2018.03.30

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コントみたいな犬との暮らし【柴犬生活漂流記 vol.22】

あお逃げる

2015年・秋。「あお」と名付けた柴の仔犬を迎え入れ、生まれて初めて「犬の飼育員」となった「僕」と「もうひとり」。1歳を越えてから、あおの「面白いこと好き」はさらにエスカレートしていたようで......。

#activity / #lifestyle

Author :写真・文=舘川範雄 協力=(株)浅井企画

わるい遊び

 ある日散歩から戻り、玄関の鍵を開けて中に入ろうとするとあおが(まだ中に入りたくない)と玄関前に座り込んだ。どんだけ外が好きなんだ?と思いながら、首輪からリードを外して抱きあげようとした瞬間、あおがパッと逃げた!

 マンションの廊下を2メートルほど駆けて距離をとり、僕を見ている。その顔はどうみても"おちょくっている"時の顔である。

 廊下はそれほど広くなく、非常階段の扉も閉まっていればどこかに行ってしまうこともないのだが、廊下は共有スペース、ルール上よろしくない。

「あおダメ、おいで!」

 言うと、あおは「ほら言うと思った」という顔で止まったまま。こちらに戻る気など さらさらない。

「おいで!おいで!!おいで!!!」と、来るまで言い続けるのは"おいで"が"来なくていい"という意味にとられてしまうと教わっていたので、おいでを連呼したい気持ちを抑えて、こちらから近付いた。 (あーめんどくさい)

 すると、あおはいきなりお尻をあげて前傾姿勢、いわゆるプレイバウ=「あそぼ!」の体勢を取った。シッポもブンブン振っている。

(誘ってる......)でもそんなヒマはない。
「あそばないよ」と言いながら首輪を掴もうとすると、素早く逃げ、さらに追いかけるとまた逃げる。

 その顔は......わっ、楽しそう!

 鬼ごっこのような遊びが終わると、今度はガウガウ遊び(犬同士がよくやる体当たりつき、遊び噛みあり)に移行。仕方なく30秒から1分ぐらい付き合って、「はいおわり」と言いながら首輪を掴むと、あおは満足そうな顔で動くのをやめ、あっさり抱きかかえられた。さらに「たのしかったね」というように振り向き、僕の鼻をペロッと2回舐めた。
(お礼のつもりか?まあ、ありがとう)

 その後しばらく、この遊びは続いた。大コーフンしているあおが、「はいおわり」の一言でパッとやめ、おとなしく抱き上げられるのが、なんだか面白くて、わるい遊びだとわかっていても、続けてしまっていた。

 さらに、僕はこの遊びに"フリ"を入れて楽しみ始めてしまった。

 我々が言うところの"フリ"とは、「もうやめろ」=「もっとやれ」、「危ないから落ちるなよ!」=「面白いから落ちろ!」〜である。

―――散歩から帰宅する。玄関のドアノブにリードを引っ掛ける。
「あお、これからリードを外すから、絶対に逃げるなよ、ダメだぞ」と、わざわざ言う。それを聞きながらあおは、首輪からリードを外されるまでじっと待つ。そして外された途端、あおはその場からパッと逃げる!それを僕が「おいおい!」と言いながら追う!あおはさらに逃げる!!―――

 ......こうして書いてみると、コレのどこが面白いのかさっぱりわからないが、あおがこの"フリ"を理解しているように行動するので楽しかったのだ。

 近所の公園で、草をかじるのを先輩犬たちから学び、真似し始めたあおを「ダメだよ!」と注意すると、わざとかじり、草をくわえたまま全速力で逃げ回った。こちらは草を食べさせたくないので本気でやめさせたいのだが、あおにはそれが最高の遊び。「ダメ!」はフリで、真意は「やれ!」だと勝手に解釈しているのだ。絶対に僕が追いつけないスピードで、ぐるぐるぐるぐる楽しそうに僕の周りを駆け回る。

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 公園ではリードをしているので、そのスピードについていかねばならず、僕にとっては『あお・ザ・ブートキャンプ』とでも呼びたくなるぐらいのハードなトレーニング。僕を振り回すあおは満足気。「ドS」となるのだ。

 そんなあおの本性がある日、さらに炸裂した......。

 2016年12月5日(月)。「もうひとりの飼育員」は家にはいなかった。その日の最高気温は18度。暖かな日だったこともあり、朝の散歩をたっぷり楽しんだあおは、昼間おとなしく寝ていた。あおが寝ている時間は飼育員にとっての休憩時間、本でも読もうかな......と思っていたら、いきなり玄関チャイムがけたたましく鳴った。びっくりして起きるあお。チャイムのボリュームをみると、なぜか最大。いつもはあおが起きないように最小にしてあるのに......。お馴染み、もうひとりの飼育員トラップである。

 もうひとりの飼育員は日常生活にこのような罠を無意識に仕掛けてくる。浴室に入って、シャワーがなかなか熱くならないな......と震えながらしばらく待っていると、温度設定がいつの間にか冷水にされていたり、iPadがない!ない!!と家の中を探しまわっていたら、畳んだ洗濯物がiPadの上に重ねて置かれていたりと、とにかく小さなダメージを与えるのが得意なので油断できない。この日は"インターフォンのボリュームトラップ"である。(宅配便の配達だった)。

 荷物を受け取って部屋に戻ってくると、あおはオスワリで僕を待っていた。(これはまずいパターンだ)見てる......黒いつぶらな瞳でこちらをじっと見てる。その瞳の奥にはいつもの強い意志が見える。

 「あそぼ」いや、「あそべ」に近い。無視する。お馴染みの「クーン」という甘え声を出す。気になるが無視する。まだ見てる。足を組み、あおの視線を遮る。すると組んだその足の先、靴下を噛んでくる。 (なに知らんぷりしてんのよ!)

 まずい、完全に「あそべ」だ。もう逃げられない。 (また違う公園に連れていくか......)

 その頃、もうひとりの飼育員は飼育業務に携われない時期で、朝晩の散歩は僕とあおのふたりきり。コースはさほど変わらない。さすがにちょっと飽きていた。手間ではあるが、クルマでちょっと離れた場所にある公園で新鮮な気分になろうと思った。

「あお、お出かけしよう。ハウス!」

 普段だと一発で決まらないクレートへのコマンドも、出かけるとわかると、あおは素直に従う。クレートを助手席に乗せ、クルマを用賀方面に走らせた。

『砧公園』。戦後、都営のゴルフ場だったこともある広い公園。駐車場に到着し、クレートの扉を開ける。1歳を過ぎ、扉が開いたらまずリードをつけるのが決まりだと理解しているあお。それでも念の為に「あおマテ......」と一応声をかけつつ、ロングリードを装着。あおと一緒に広場へ向かった。

 冬の芝生はすっかり色が抜けてはいたが、その開放感に変わりなかった。ここが全部ドッグランだったら楽しそう。

「あお、広くて楽しいな」などと声をかけていると、あおが何かを発見して止まった。視線の先には、ボール遊びをしている犬。当時、犬にも人にも挨拶したがりだったあおは、ボールという大好物も目に入って、もう居ても立ってもいられなくなっていきなり猛ダッシュ!すると、パチン!という音とともに、あおに引っ張られる感覚が一瞬にして消えた。

あお大暴走!

(リードが切れた?!) 最初はそう思った。あおの引きがあまりに強いので切れてしまったのか?!しかし見るとリードの先には首輪が!なんと首輪ごと外れている!
(うわ〜まずいよ〜まずいよ〜!!)

「あお、おいで!」あおを呼んだ。

 裸犬となったあおが、このままどこかに走り去ってしまったら最後だ......。

「あお、マテ......」ゆっくりとあおに近づく。

 普段のあおなら、こちらがうっかりリードを離してしまった時、いつもその場に止まって待ってくれる。けれどその時のあおは違った。

「開放感」があおの"邪悪なスイッチ"をONにしてしまっていた。

 あおは近づいていく僕の顔を見て、猛ダッシュで走り出した!まずい!これはいつも家の前でやっている、公園で草をくわえてやっている、あの"追いかけられ遊び"だ!その証拠に、あおはどこかへ、まっしぐらに走っていくわけではなく、僕に捕まりそうで捕まらない距離をとりながら、僕を中心に走っては止まり、こちらを見ている。僕はあおを呼んだ。

「あお、おいで!」

 するとあおはゆっくりと僕に近づいてきた。
(よかった〜!!)首輪を持ち、「あお、つけるよ」と言いながら近づこうとすると、あおは再びダッシュ!(こいつ、完全に俺をからかってる!)

 しばらく僕の周りを駆け回り、また止まる あお。

「あお、マテ!マジでマテ!」などと言いながら近づくと、あおはまたもやダッシュ!その向こうに見えるのは環状八号線。車がビュンビュン走っている。もしあおがこのまま公園の外に出てしまったら、どうしよう〜〜!

 これじゃこの前、別の公園で会った、自慢気にノーリードで犬を連れていたあのオヤジじゃないか!「おたくの犬はまだ、綱つけてないとドコに行っちゃうか分からないか〜」と、話しかけてきて、ウチの犬は逃げないんだよと誇らしげだったのに、その直後、茂みから出てきた猫を犬が追いかけちゃって、どっかに行かれちゃってたあのオヤジみたいじゃないか! 最初は「お〜い帰るぞ〜」と余裕で声をかけていたのに、全然どこに行ったかわからなくなって、最後は大声で名前を呼びながら、広い公園をくまなく探しまわっていたあのオヤジとおんなじじゃないか!

 飼い主そっちのけで猫を追い続けていたあの犬が、その後何時間ぐらいで飼い主の元に戻ったかは不明だが、その時、ノーリードは危ないから絶対にやらないようにしようと心に誓った。

 なのに、なのに!目の前を走り回るうちの犬は、ノーリードどころか首輪もしてない『ノーリード、ノーカラー』。タワレコか!

 真っ裸の犬を縦横無尽に走らせているなんて、マナー違反も甚だしい。

「あお!おいで!」

 呼ぶとあおは近づいてくる。こちらがそっと近づこうとすると逃げる!そして捕まらない位置でこちらを見る。その顔は、笑顔。あきらかにドSの顔だ。
「捕まえられるものならどうぞ」と言わんばかりの顔である。

こんな顔でした(※イメージ)

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 近くで見ていた犬を連れた人が「コレで釣ってみたらどうですか?」と、持っていたオヤツをくれた。その人は前に自分の犬がノーリードになってしまった時、オヤツ作戦で成功したと言う。

「ありがとうございます!やってみます!!」

 手の平にオヤツを乗せ、「あお!オヤツあるよ」と差し出した。するとあおは、僕の手の平の上に乗ったオヤツをくわえそのまま食い逃げしやがった!!そしてまたこちらを見て笑ってる!あおはこのゲームを存分に楽しんでる!腹立つー!

「追えば逃げる」がひたすら繰り返される無間地獄......。もしこのまま、この間の猫追い犬みたいに、消えてしまったらどうしよう!もし車道に出てしまったらどうしよう!!生きた心地がしない。

「あお!おいで!真剣!来て!」あおは来ない。笑ってる。

 そのうち段々「おいで」ばっかり言っている自分がアホらしく思えてきた。もう勝手にして。もしこのまま来ないのなら、お前とお別れになるかもしれないけど、もういいよ!と言いたくなってきて呼ぶのをやめた。

 しばらくしてあおは止まった。止まったら交渉しないわけにはいかない。僕はあおに向かって懇願した。

「あお......頼むから待って。もうこれはホントにマテだから。ホントに待って」

 いつもの"フリ"じゃないから!ホントにマテだから!その空気を感じたのだろう、あおはそのまま逃げることなく、おとなしく首輪をつけさせてくれた。あおとの長い攻防はこうして終結した。

 僕はきっと忘れない。あの時の、勝ち誇った女王のようなあおの顔を......。

こんな顔でした(※イメージ)

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 ......犬との暮らし、いつ何が起きるか、本当にわからないっ!(# ゚Д゚)

(つづく)

◎プロフィール

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舘川範雄 (たてかわ のりお)
1966年9月19日生まれ。1987年4月から作家活動に入る。
「コサキン」「SMAPxSMAP」「ポンキッキーズ」「スクール革命!」などテレビ、ラジオで多数の番組構成を担当。また関根勤主宰「カンコンキンシアター」の他、オリジナルコメディーやミュージカルの作・演出など、活動は多岐にわたる。
インスタグラム(ao20150721)で白柴「あお」が毎日、犬の目線で日々の出来事を投稿中! 

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