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2018.03.16

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コントみたいな犬との暮らし【柴犬生活漂流記 vol.20】

あお、自転車に突っ込まれる

2015年・秋。「あお」と名付けた柴の仔犬を迎え入れ、生まれて初めて「犬の飼育員」となった「僕」と「もうひとり」。あおに何かが起きる時、それは飼育員がひとりの時。 この日も例外ではなかった......。

#lifestyle

Author :写真・文=舘川範雄 協力=(株)浅井企画

自転車親子

 2016年10月9日。あお1歳2カ月ちょっと。日曜日の午後、僕はあおとひとつ目の公園を後にし、次の公園に向かう歩道を歩いていた。

 後ろから自転車がくる気配がした。振り向くと父親と(おそらく)小学生の娘が縦になって走ってくる。あおの右側にいた僕が歩道の真ん中を歩く形になっていたので、左によける形であおの前に出た。"僕⇒その後ろにあお"という縦並び。振り返ったまま、自転車が通り過ぎるのを待った。まず、僕が空けた歩道の右側を、父親の乗った自転車が通り過ぎた。そして続いて来る娘の自転車も同じように......と思ったら、右に~左に~と、なんだかフラフラ走ってくる。(ヨロヨロしてんな~)と思いながらそれをぼんやり見ていると、自転車に乗った小学生女子は右によけず、左によけている僕らの方に突っ込んできた!

 急いであおをさらに左に寄せたのだが、なぜかその子はブレーキすらかけることなく、あおがよけているさらに左の方に向かって突進!そしてそのままあおの左後ろ足を前輪でガンッ!

 ビョーン!その瞬間、あおは前に跳んだ。ぶつかった瞬間、「あぶない!」と前に跳び逃げたのだろう。

 その時僕が考えたのは、「最悪の事態」ではなく、「不幸中の幸い」の方だった。うまくよけた!大事故にならかった!と。なぜならあおは「痛い!」と声を上げなかったからだ(キャン!と鳴かなかったの意)。

 あおにぶつかって、やっと止まった女の子。前方、少し離れたところにいた父親もその様子を見ていた。

「大丈夫ですか?!」

 その場から動かず、僕に声をかけてきた。

 多分大丈夫だとは思ったが、念の為、あおを抱き上げ足を触った。もし痛がったら何か起きている。でもあおは特に痛がる様子もみせない。出血もないし、骨も折れていないと思われたが、はっきり「大丈夫です」と言い切る自信はなかった。

「大丈夫......だと思いますが......」と、歯切れの悪い言い方。「......」の後には(だと思うけど、ちょっとなにやってくれちゃってんのさ)が心の中でついている。

 今思えば、その時もっと、あおの足を念入りにチェックしておけばよかった。でも今までそんな事態に巻き込まれたことがないので、どうしていいのかわからなかった。

 次に父親は、僕とあおを挟んだ形で娘を叱りはじめた。

「お前はなにをフラフラやってるんだ!」というようなことを言っていたような気がする。親子の間に挟まれながら、心の中で(ホントだよ小学生~)と思いつつ、叱られている娘の顔を見てみると、これがまさかのニヤつき顔。
(え?笑ってる?)

 ニヤニヤしている娘を見て、父親はついに強い口調で言った。

「ワンちゃんに謝れ!」

 ワンちゃん?

「ワンちゃんに謝れ!」

 この緊迫感の中で"ワンちゃん"?違和感~。言っていることは、まあ間違っていない。「犬に謝れ!」とも言いにくいだろう、人んちの犬だから。でも「ワンちゃん」って......。それに犬を連れている人間もいるよ。なのに父親は続ける。

「ワンちゃんに謝れ!」

 まあいいや、痛い目に遭ったのはあおだ。そうだよ、ワンちゃんに謝ってよ!そう思いながら、再び娘の顔を見ると、まだニヤニヤしている。

 とんでもないことをしてしまい、緊張が度を越えて、ついニヤついてしまうタイプなのか?そういう人いるけど。うちの「もうひとりの飼育員」もこのタイプで、祖母の葬式で、エラいお坊さんが長い帽子を被ってお経をあげているのを見ているうちに、その妙に長い帽子がツボにハマったらしく、吹き出しそうになって笑いをこらえているのを、隣にいた妹に見られ「おねえちゃんやめて」と注意されていたらしい。が、「もうひとりの飼育員」だってこういう時は謝るぞ。

 なのにその小学生女子は、父親の言うことも聞かず、謝ることもなく、ただ黙ってニヤニヤしている。

 一向に言うことを聞かない娘に、父親は顔をこわばらせ、さらに強い口調で言った(ご一緒に)。

「ワンちゃんに謝れ!」

 もう"ワンちゃん"やめて~。緊迫した空気の中に"ワンちゃん"、合わないから!謝れだけでいいよ!

 しかもその日"ワンちゃん"=あおは、服に慣れる練習で黄色いフード付きの服を着せられていた。さらに首輪には季節柄、ハロウィンのかぼちゃまで付けられていた。そんなワンちゃんに謝るのって、もしかしたらけっこうハードル高いかもしれない。

 小学生女子は一向に謝らない。そんな娘に父親はひきつった顔で連呼する。

「ワンちゃんに謝れ!ワンちゃんに謝れ!!」

 なんだこれ!?
 それでも娘はただニヤニヤしているだけ。必死になって「ワンちゃんに謝れ!」と言っている父親の姿を見て「ワンちゃんとか言っちゃってるし、笑える」ぐらい思っている顔だ。

 そのうち僕には、この「ワンちゃんに謝れ!」が、我々への謝罪ではなく、謝ろうとしない自分の娘に対する"しつけ"に聞こえてきた。

『人に迷惑をかけた時は謝れって教えてきただろ!』
『やったのはお父さんじゃない、お前がしたことなんだからお前が謝れ!』

 だから「うちの子がすみません」ではなく、「ワンちゃんに謝れ!」か......。なんだか釈然としなくなってきた。でも、こちらは血が出ているわけでも、骨が折れているわけでもなく、見たところ大丈夫そうなので、何をどう言っていいのか、その時はわからなかった。

 この場をおさめるのはもう、小学生女子の「ワンちゃんごめんなさい」しかない......。なのに......謝らねぇ~!

 しばしの沈黙が流れ、そしてその親子は......走り去った!
(え?行っちゃうわけ?)

 確かに、こちらが何かを要求したわけでもないし、確かに、これ以上ここにいても何があるわけでもないが、父親も娘も自転車から降りることなく、あんなに「ワンちゃんに謝れ!」と言っていたのにどちらからも「ワンちゃんごめんなさい」もなく、ふたりは走り去っていった......。

 違和感が残った。
 これ以上ここにいて、僕にことを荒立てられたらマズいと思ったのかもしれない。良い方に解釈すれば、向こうも気が動転していたのかもしれない。でも......なんだかすっきりしなかった。

 そんなやり取りに付き合わされたあと、当の"服を着たワンちゃん"=あおは、足を引きずることもなく歩き出し、いつも入り浸っている大好きなドッグカフェに突入し、しばらくまったりしてから帰路についた。スタスタ歩くあお。その姿を見ながら、よかった何もなくて!と安心した。

 帰宅し、いつものように浴室であおの足をシャワーで洗い、濡れた足を拭きながら、ふと見ると、毛に覆われていて気が付かなかったのだが、ほんの少し、ぶつけられた左後ろ足の毛と皮膚が削り取られていた!

 出血はなかった。人間で言えば擦り傷程度。すぐに治るだろう。一瞬、放っておいてもいいかな、とも思ったが、でもよくよくあおの足を観察すると、柴犬の足って細い!!まさに折れそうな細さだ。もしかしたらさっき、折れていてもおかしくなかったぐらい細い!そこから急に怖くなった。ネガティブな考えしか浮かばなくなってきた。

 もしこのまま放っておいて、あとから骨に異常があったとわかったら?!実は体の中にダメージを受けていて、あとからとんでもない症状が出たら!?

 ほら、またこういう時にひとりだ。相談できない。判断できない。いてもたってもいられなくなり、濡れた足を急いで(そして優しく)拭き、あおを抱き上げ、かかりつけの病院へ向かった。病院は日曜も開いている、家からは歩いて数分、こういう時は本当にありがたい。

 あおは「なんで急に病院?」と、不安になってキュンキュン声を出している。

 診察台にあおを乗せ、こんなことがあったんですと説明すると、先生はあおの後ろ足の傷を見ながら
「痛そうだね~......。キャン!て言いました?」
「いえ、なにも」
「血も出ていないし、まあ、大丈夫でしょう」

 よかった~!消毒し、念のために化膿止めの注射も打ってもらった。そして傷口を舐めてしまわないようにと、先生は包帯を巻き、さらに蛍光ピンクのテーピングをしてくれた。

「では計算しますからあちらでお待ち下さい」

 治療費......そうだった。すっかり忘れていた。どんなにいい先生だって、犬の治療はタダじゃない。この日の治療費、6,500円。ガーン......。

 セコい話だが、なんでこんな出費をさせられるんだ?と思った時はじめて、あの父親の連絡先を聞かなかったことを後悔した。お金のこともそうだが、この程度で済んだが、もしかしたらもっと大変な事態になっていたかもしれないと考えて、ゾッとした。

 どうして「なにかあったら連絡しますから」と、電話番号を交換しなかったのか?と悔やんだ。車で事故を起こした時、保険会社に電話をし、あとの処理は全てお任せ......。こういう時に自分でトラブルを解決する力が備わっていない人間は弱い......。反省。

 先生の診断通り、幸運にも、あおの足に異常は出なかった。翌朝。黄色い服にピンクのテーピングという、けっこう目立つファッションでいつも行く公園へ行った。公園仲間の飼い主さんたちに「あおちゃんどうしたの?」と聞かれ、事情を説明するたびに、そういう時は念の為に相手の連絡先を聞いた方がいいと言われた。あとから実は大怪我だった!ということもなくはない。

『何かあった時は、最悪の事態を想定して行動する』

 これが、飼育員としての鉄則を学んだ「小学生ニヤニヤ女子自転車追突事故」(通称・ワンちゃんに謝れ!事件)」である。

追記:
あとで気がついたのだが、その時あおが着ていた黄色いパーカーは、数種類ある色の中から、「白いし、女子だからこの中では黄色かな」と、気軽に選び着せていたものだった。このシリーズのパーカーは色ごとに背中のロゴも違うのだが、ケガした翌日もこの服を来て公園に行くと、飼い主さんのひとりに真顔で「じゃあその服は病院でもらったんですか?」と聞かれた。

「え?」その時僕は初めて、あおの服のロゴの意味に気がついた......。

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[medical]=医療

 これを着ていたから、医療のお世話になってしまったのか?それともこれを着ていたから、大したことなく済んだのか......?

 どちらにしても、あお......いいオチ!!

初めての「服着て散歩」だったので記念に撮っていた、
ケガする10数分前のあお

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突っ込まれたあと、のんきにカフェへ
この時もまだ背中のロゴには気が付かず

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翌朝イエロー&ピンクの派手なファッションで公園へ
目立たないわけなし

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いつものように、みんな並んでの撮影にも参加

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左から(顔見えてないけど)茶々丸、ソラ、あお、あずき、ジロ、仁、ジャスパー、MAX

翌々日 包帯巻いてボールを追う姿はまさに仮病

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(つづく)

◎プロフィール

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舘川範雄 (たてかわ のりお)
1966年9月19日生まれ。1987年4月から作家活動に入る。
「コサキン」「SMAPxSMAP」「ポンキッキーズ」「スクール革命!」などテレビ、ラジオで多数の番組構成を担当。また関根勤主宰「カンコンキンシアター」の他、オリジナルコメディーやミュージカルの作・演出など、活動は多岐にわたる。
インスタグラム(ao20150721)で白柴「あお」が毎日、犬の目線で日々の出来事を投稿中! 

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