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2018.03.08

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犬の飼い主に求められること vol.13

犬の気持ちは「ホップ・ステップ・ジャンプ!」

犬に何かを教える、体験させる第一歩は、「犬が楽しめること」「犬に興味をもってもらうこと」という土台作りが大切だ。教えたいこと、体験させたいことそのものを初めから目的としてしまうと、その後つまづいてしまうことも少なくない。そんなことを踏まえて、今回は犬たちが何かに取り組むにあたって大事にしたい、「印象」についてまとめてみた。

#activity / #lifestyle

Author :文・写真=五十嵐廣幸

必ず楽しませること

 犬は(多くの人もまた同様に)、何かに取り組む際"はじめの一歩"が好印象であると、その次のステップや最終目標まで楽しみながら、スムーズに進むことができる。しかし、逆にその第一歩が「怒られる、痛い目にあう」という悪い印象であった場合、それ以降、警戒や面白くないという壁をつくり、はじめの一歩でつまづいてしまうことが多い。一昔前に「ホップ、ステップ、ジャンプ」という言葉が流行ったが、ホップである第一歩は、その行為の目的を重視するのではなく、まず「犬が楽しめること」「犬に興味をもってもらう」という土台を作ることが大切だ。

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悪い体験を克服する難しさ

 私の愛犬は、以前の飼い主から蹴られるなど、足(脚)によって何か痛い、怖い思いをしたと思う。私が彼女の新しい飼い主になって、ヒールポジションの練習を始めると、彼女は常に私の足(脚)から距離をおいた。また、私が机に向かっている時などに足を動かすと、怯えながらその場から去った。これは「悪印象」と一言では片付けることはできないが、私の愛犬にとって人の「足」「脚」は怖い存在であったに違いない。

 結果から言えば、今では右ヒール、左ヒールと喜んでできるようになった。しかし、それらの練習をする前に、愛犬の「足(脚)に対する恐怖」を減らすために、私たちはたくさんのことをやり、多くの時間を費やした。

 まず、私は自分の足(脚)を極力動かさないようにしながら、愛犬に私の足(脚)に「慣れてもらう」ことをした。その次に、足(脚)を動かす際は「足(脚)を動かすよー、怖くないからね」と愛犬に優しく言葉で伝えながら、スローモーションのようにゆっくりと足(脚)を動かした。また散歩中に愛犬が急に止まった際でも、私の足(脚)が愛犬に触れないようにと、特別の注意を払いながら過ごしたのを今でも覚えている。

 これらを長い間、何度も何度も繰り返し、愛犬が私の足(脚)にだいぶ慣れてきたところで、私はディスクでの遊びにヒールポジションを取り入れることにした。私がディスクを持つと、愛犬はディスクを投げてもらいたいと喜び興奮する。そこでヒールというコマンドで犬が足元についたら、トリーツとして、すぐにディスクを前方に投げた。愛犬にとって足(脚)への恐怖よりも、遊びたい気持ちが勝ってきた瞬間だと思った。

「どうしてそこまで、ヒールポジションにこだわるのか?」と疑問に思う人もいるかもしれないが、ベーシックオビディエンスや、アジリティ、そしてシープハーディング(羊追い)などのアクティビティを一緒に楽しむ条件として、犬はヒールポジションに着くことが必須であることが一つの理由だ。また、愛犬が私とできるだけ多くの時間や場所で楽しく過ごすためには、「足(脚)への恐怖心を減らし、飼い主の足元に座れること」を目標としたことがもう一つの理由だった。

 これら犬が一度作ってしまった壁や恐怖心を減らすこと、それ以上増やさないことは本当に気を使う。大事なことは、焦らず「少しずつ」「ゆっくり」と犬のストレスを減らしていくこと、半年、1年、2年という長期的なスパンで伝え続け、慣れてもらうことだ。愛犬がヒールでぴったりと、私の左足にくっつくようになるまで、おおよそ2年ちょっとの時間が必要だった。

好印象を与えてリハビリを楽しむ

 まずはこちらをご覧いただきたい。

 上記の動画は、私の愛犬が自らハイドロセラピーで使うトレッドミル(水中歩行器)に入っていく様子だ。犬が喜びながらトレッドミルに入っているのが分かるだろう。リハビリが辛い、苦しい、大変なものと決めつけているのは人間だけで、犬の気持ち次第で、リハビリも楽しめること、嬉しいことになるのは、大きな大きな治療の一歩であると思う。

 初回のリハビリでは、まず「トレッドミルを怖がらせないこと」を目指し、何度も水のないトレッドミルの中に出入りする練習から始めた。トリーツを使って誘導したり、ボールを置いたりして、ここは「怖くないよ」と犬に理解してもらう。愛犬には、「Good girl!」とハッピートーンと呼ばれる賞賛の声で伝え、楽しい気分になるように応援をする。

 出入りの練習を終えると、トレッドミルには約30度の温水が湧き出てきて、愛犬はゆっくりと歩くことになるわけだが、最初のリハビリで最も大事なのは、「歩くこと」ではなく、これからのリハビリに繋げることだ。犬がこのリハビリの過程を退屈、苦痛と感じることなく、ハッピーエンドで終わらせること、「もうちょっと楽しみたいな」と、トレッドミルに対して「好印象」を持ってもらうことだ。

 これはリハビリだけでなく、訓練やトリックを教えることでも、共通していえる。

ボールを離さない犬

 よくある、「ボールを口から離さなくて困る」という行動にも、犬に「好印象」を与えることによって解決に結びつけることができる。多くの飼い主は、ボールを咥えて離さない犬に対して、叱ったり、強い口調で怒鳴ったりして、そのボールを奪いとり、最後には犬にとって楽しいボール遊びを中止してしまう。そうされた犬は「ボールを渡してしまうと、大好きなボールは戻ってこない」と悪い印象を受けて記憶し、それ以降は余計に、一度咥えたボールを離すまいと必死になって逃げ回る。

 この場合、犬がボールを落とす、ボールを飼い主の手に渡す、もしくは飼い主が犬の口からボールを取ったら、飼い主は間髪入れずに、そのまま同じボールを犬に与えることだ。その際は、犬が必ずボールを取れるように、鼻先にでも軽く放れば犬は再びボールを得ることができる。それを何度も何度も繰り返して「ボールを口から離しても、宝物はすぐに戻ってくる」と犬に理解してもらい、ボールを口から離すことすら喜びにしていくのだ。

 逆に、意地悪をしてなかなか犬にボールを渡さないことや、受け取ったボールを遠くに投げた結果、他の犬にそのボールが取られてしまえば、犬のボールへの執着心はさらに増すことに繋がってしまうから注意した方が良いだろう。

 私たちは「犬の気持ち、肉体的なストレスや疲労」を敏感に感じとる必要があり、それらを無視してはならない。また「集中力がなくなった」と思ったら、だらだらと飼い主の都合で続けるのではなく、その行為を中止するか、犬を楽しませるために飼い主が手助けすることが望ましい。

 私たち人間は言葉の動物でもある。
「このリハビリは苦しいけど、これを乗り越えれば楽しいことがある、早くよくなる」という言葉は、その行動を続けるモチベーションになるが、犬は過去の記憶も含め、今現在のその行動が楽しい、嬉しい、美味しいという、「犬にとってのポジティブな印象」が伴わなければ、閉鎖的であり、飼い主と厚いガラスで隔てられるトレッドミルに、自ら進んで入っていくことはしないだろう。

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◎プロフィール

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五十嵐廣幸

オーストラリア在住。元dog actuallyライター。週末は愛犬と一緒にSheep Herding(羊追い)をして過ごす。サザンオールスターズ、クレイジーケンバンド、そして動物を愛す。犬との生活で一番大切にしているのは、犬が犬として生きるためのクオリティ・オブ・ライフ。

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