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2018.02.28

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今、話題のしつけ法に関する講演会参加レポート

ハズバンダリートレーニングって何だ?

飼い主が愛犬の世話をするうえで、お互い負担なく行うのに役立つ、「ハズバンダリートレーニング(通称ハズトレ)」。最近話題のこのハズトレって、一体どんなもの? ハズトレのベースになっている応用行動分析学を専門とする、動物の行動コンサルタント、青木愛弓先生の講演会「イヌとの暮らしを変える『やさしい手を目指して』」に参加してきました!

#Lifestyle

Author :写真・文=山賀沙耶 取材協力=チャーリードッグスクール

犬より賢い!? 鳥たちの衝撃的な動画でスタート

 ここのところ、犬のしつけに関する話でよく耳にするようになってきた「ハズバンダリートレーニング」という言葉。実は動物園や水族館などでは、すでにかなり普及している方法だという。それを犬のしつけに取り入れると、どうなるのだろうか。

 今回の講師、青木愛弓先生は、そもそも応用行動分析学の実験を行うために、鳥のトレーニングをするようになったのだそう。
 ハズバンダリートレーニングの話に入る前に、スライドの動画には青木先生の愛鳥たちが登場。ニワトリのココちゃんは、呼び戻しやついて歩く、ヒザの上に乗るなど、私たちが悪戦苦闘して愛犬に教えるようなコマンドにささっと従う。インコのピーちゃんは、タオルの上にゴロンと転がったり、手の指で作った輪に首を入れる「指の輪くぐり」をしたり、自ら体重計に乗ったりと、健康管理に役立ちそうな技を披露してくれた。

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「なぜ私の鳥たちはこんなことができるか、わかりますか? 彼らが賢いからでしょうか? それとも、私に愛があるからでしょうか? いいえ、そうではなくて、私がホワイト企業だから!(笑) つまり、やれば報酬がもらえるからですよね」と、冗談を交えながらわかりやすく説明してくれる青木先生。

「動物の行動は本能によるものと思いがちですが、それなら同じ刺激に対して犬はみんな同じ反応をするはず。それが、犬によって違う反応をするということは、そこには経験による学習があるはずなんです」

 その動物のバックボーンや生まれつきの性格などはひとまず置いておいて、経験による「学習」の部分を科学的に分析し、問題解決に結びつけるのが応用行動分析学であり、それに基づくハズバンダリートレーニングなのだ。

野生動物に教えられることが、犬に教えられないのはなぜ?

 青木先生が愛鳥たちに行っているトレーニングは基本的に、以前にも取り上げたことのある、オペラント条件づけ=ほめるしつけと、レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)=嬉しい気持ちにさせるしつけと同じだ。
 オペラント条件づけに関して言えば、「望ましい動作をしたら嬉しいことがある」という法則さえ崩さなければ、望ましい動作を引き出すことは難しくないはず。もしそれができないとしたら、そもそもトレーニングする環境が整っていない、してほしい動作が正確に伝わっていない、ごほうびが実は愛犬にとって嬉しいことではないなど、法則が成立しない何らかの理由がある。

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 先生の愛鳥たちの他に、採血に協力する、動物園のライオンやキリンの動画も登場。法則にのっとってトレーニングしさえすれば、野生動物にもできることが、私たちは愛犬にすら教えられないことが多々あるのは、一体なぜなのだろうか。

 そこにはおそらく、私たちの犬に対する"甘え"が関係している。犬は1万年以上も前から人間と一緒に生活してきた過程で、選択繁殖によって攻撃性を抑えられ、人間社会の刺激に対して寛容な個体だけが残されてきた。だからこそ犬たちは、例えば私たちが無理やり他の犬に近づけたり、嫌がるのもかまわずブラッシングや爪切りをしたり、動物病院で押さえつけて採血や注射をしたりしても、じっと我慢してくれることも多い。
 けれども、私たちは犬が我慢したり、人間に合わせたりしてくれることに、少し甘えすぎなのだ。無理やり押さえ込んだり、抱きかかえたりすれば解決したように見えても、実は愛犬は内心ストレスを抱えており、何かのきっかけでそれが問題行動として出てしまうこともあるだろう。

「ハズトレって"備えること"だと思うんです。飼育管理に必要なんだけど、動物にとっては嫌い・苦手と想像できることに対して、準備をしておくこと。それをいきなりやると嫌いになってしまうんだけど、少しずつ慣らしていけば、平気にしてあげることができるんですよね」

クリッカートレーニングは有用か?

 講演前に全員に配られたのが、これ。

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 裏についている板バネを押すとカチッとなるブリキのおもちゃ、セミカチ。これをクリッカーとして、先生の愛鳥の動画に合わせて音を鳴らす、クリッカートレーニングの練習も行われた。

 クリッカートレーニングというと、「懐かしい」と思う人もいるかもしれない。簡単に言うと、クリッカー=嬉しいことと覚えさせたうえで、動物が特定の「正解の行動」をしたらクリッカーを鳴らして正解だと伝えるのが、クリッカートレーニングのやり方だ。
このように音を使ったトレーニング法は、もともとイルカなどの海洋動物に対して使われていたもので、一時期犬のしつけの世界にもどっと入ってきたことがあった。ただ、飼い主にとっては「クリッカーの使い方を覚える」という1ステップが増えるため、難易度が高く感じられ、また雑誌や書籍などではやり方が伝わりにくいこともあり、広まりきらず廃れてしまった(......というのが私の認識だ)。

 ところが、この音を使ったトレーニングは、動物園や水族館でのハズバンダリートレーニングでは使い続けられているようだ。その理由はやはり、動物にとってわかりやすいから。
 ということは、本当は有用な道具なのに、教える側の飼い主が使いこなせないがために、犬の世界ではあまり使われていないことになる。私もクリッカートレーニングは食わず嫌いしていたが、自分の怠慢だったのかもと反省した。

問題行動が起こるのは、飼い主だけが悪いわけではない

 今回の講演を通して終始感じたのは、「ちゃんとやれば野生動物にも教えられることなのに、これだけ人間に対して友好的な犬にすら教えられていないのは、完全に飼い主側の怠慢だ」ということ。その事実がズーンと重くのしかかっている私たち参加者に、青木先生が優しい言葉をかけてくれた。

「犬が問題行動をするのは、飼い主さんだけが悪いわけじゃないと思うんです。ブリーダーさんやペットショップ、獣医師の先生、トリマーさん、トレーナーさんなど、犬を取り巻くいろんな人たちが、きっと少しずつ"やらかして"いる。そういう人たちみんなが犬に好かれる、『やさしい手』になればと思います」

 確かに、ハズバンダリートレーニングは毎日愛犬を飼育管理する飼い主が知っておくべきなのはもちろん、獣医師やトリマーなど犬と接する専門家にもうまく活用してほしい方法と言える。忙しくてなかなか難しいとは思うが、例えば診察やトリミングのときに、飼い主にフードやオヤツを持ってきてもらうように伝えて、病院やサロンに慣らす練習に協力すれば、お互いにとってやりやすい環境を作ることができるだろう。

 犬の飼い主、犬にかかわる仕事をする人、そして社会を構成するすべての人が、犬にとってストレスの少ない接し方をもっと知ることこそが、問題行動を起こす犬を減らし、犬と暮らしやすい社会を作ることにつながるのは間違いない。

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