magazine

  1. トップページ
  2. MAGAZINE
  3. 噛むな、あお

2018.02.02

ブログ        

コントみたいな犬との暮らし【柴犬生活漂流記 vol.14】

噛むな、あお

2015年・秋。「あお」と名付けた柴の仔犬を迎え入れ、生まれて初めて「犬の飼育員」となった「僕」と「もうひとり」。生傷が絶えず、途方に暮れていたのはあおの「甘噛み」。ふたりはトレーナ一直伝の封じ込め作戦を実行し始めるが......。

#Lifestyle

Author :写真・文=舘川範雄 協力=(株)浅井企画

甘噛みと小芝居

「甘噛み」......言葉は甘いが実際は痛い。これまで犬と"ちゃんと"接したことのなかった僕には、あおが来るまで、噛むという行為に恐怖を感じていた。だから、公園で毎朝ネコにエサを食べさせている近所のネコおばさまが「まあ、白くてかわいいわね〜」と甘い声で近づいて来ながら急にトーンを変えて「この犬噛む?」と聞いてきても、「噛みませんよ!」とムキになって答えずに済んだ。

「犬は噛むから怖い」という感覚、わかる。実際に、機嫌が悪かったり、急な動きをされたりして、反射的に噛んでしまう犬もいることは事実だ。

 ドッグトレーナー川野輪さんにレスキューしてもらったのは、「トイレ」と「甘噛み」という、我々にはどうにもできなかったふたつの問題があったからだ。

 まず、どういうきっかけで噛んでくるかわからない。嫌なことをされたから、怖いからだけではなく、「うれしくなってガブ!」「面白くなってきてガブ!」「なんだか興奮してガブ!」と、とにかく「ガブ!」だった。

 今改めて、ドギーステップ(※愛犬のしつけ教室)に通い始めた頃の連絡ノートを読み返してみた。
以下、トレーナー川野輪さんの記述

【2015.11.20 (金)】※教室2回目
前回は初日で犬との接触も少なかったためか、遠慮がちな様子もありましたが、今日は一転、何頭かの子に歯ぐきを見せて吠え立てることが多くありました。
(※中略)
柴の気性の荒いところがかなりある様です。

 犬と暮らすのが初めてなので、他の犬もみんなこういうものだろうと思っていたのだが、どうやらあおは「柴」の部分がかなりあるタイプだったらしい......。当時は(そうだよなぁ〜)と思って普通に読んでいたが、今、客観的に読んでみると......おそろしい。さらに3回目の後のノートには......

【2015.11.24 (火)】
今朝のフリータイム(※犬同士の遊び時間)を見ていただいた様に、かなり強気です。まだ犬との接し方もよくわからない月齢ですが、普通のパピーの子ならビビるところでも向かっていきます。
(※後略)

 その後には"パピーなので吠えた後は知らん顔で遊んでいた"、"散歩中に会った人にはフレンドリーに近寄っていた"と記されていたのが救いだった。 (ちなみに今も、川野輪さんは「あおちゃんのいいところは、人が大好きなところ」と言ってくれる)

 4回目の教室。我々がノートに書いた川野輪さんへの報告は......
「もうひとりの飼育員」が記述

【2015.11.26(木)】
(前略)
〜元気いっぱいの時は激しさも加わってくるので、成長と共に少し怖さを感じるようになりました。あおが興奮すると、その場からすぐいなくなるようにしていますが、噛みつきや飛びかかりがあります。歯もしっかりしてきたので、今まで以上に本気で向き合わないといけません。
(後略)

川野輪さんからの返答

【2015.11.26(木)】
そうですね。柴の荒さは持っていますね。柴が(犬の)初心者に難しいと言われるのは、その辺りにあります。主導権を取るのは叱る事ではありません。日常の生活の中であおちゃんの要求に従わない事、逆に人の出した指示には従わせる事で決まっていきます。

「そんなことないですよ、あおちゃんは大丈夫ですよ」という答えが戻ってくるとは思っていなかったが、間違いなくこの頃のあおは「THE柴犬」だったようだ。

 川野輪さんのアドバイスは、「ルールを決めてそれを守らせる」「あおが支配的な態度の時には構わない」だった。さらに......

「噛んでくる犬に恐怖を感じるのは当然です。しかし犬がそれを常に感じ取ると益々強くさせてしまいます。中途半端に追い込むのも、攻撃性を引き出す可能性がありますので注意が必要です」

 まさに、どうすりゃいいの?である。

【怖がってはいけない、中途半端になるのなら怖がらせてもいけない】

 さじ加減は自分たちで探るしかなさそうだった。

あおの甘噛み撲滅作戦

 我々がやり始めたのは、以前も書いた「噛んだら低い声で(高い声で「イタ〜い!」と反応すると「わたしの甘噛み、なんかウケてる!」と思われてしまうので)『痛い⤵(語尾下げ)』と、エネルギーをぶつけながら言い、人に歯を当ててはいけないと思わせる」作戦と、「噛んだらイヤなことが起きたと思わせる」作戦を、合体させた作戦だった(作戦が多くてすみません)。

 この【噛んだら低い声でエネルギーをぶつけ作戦と噛んだらイヤな事が起きたと思わせる作戦を合体させた作戦】を実行する時、我々は演技を要求された。

 甘噛みされたら、『痛い⤵(語尾下げ)』と言って、すみやかにその場から立ち去るのだが、これは噛まれた者だけでなく、その場にいる者全員が同時に立ち去らなくては意味がない。

 人に歯を当てる⇒人が誰もいなくなる⇒いきなりひとりぼっち⇒イヤな事が起きた⇒と、思わせるのだ。

 どちらかが噛まれた、または歯が当たったとなると、それが全然痛くなくても「痛い⤵(語尾下げ)」と言って、即座に部屋を出る。もうひとりが別のことをしていたとしても、その場にいたなら即中断、同時に素早く部屋から出て、あおをひとりにしなくてはならない。これがけっこう面倒くさかった。

 いなくなるのは1分ほど。この1分も、長かった。扉を締めると部屋の様子がわからないので、もしかしたらこの間に、床で「小」または「大」をしちゃうんじゃないか?キレてそのへんの物を噛んだりするんじゃないか?と、あおだけにしたはいいが、あれこれ心配。しかも気配を消さないと孤独感が出ないだろうと、夜は電気もつけずに暗い廊下でふたりじっと、気配だけであおの様子を探りながら時間が経つのを待った。そして長い1分の後は、部屋に戻って何事もなかったかのようにする。しかしヘタすると数分後また甘噛みが発生し、「痛い⤵️(語尾下げ)」でふたり同時に部屋を出て息を潜めてまた1分......。

 果たしてこの小芝居はあおに効いているのか?けっこう勘が鋭いあお、すでに我々の行動を、芝居だと見抜いているのではないか?

 そんなことを思いつつも、『甘噛みされた!痛い⤵(語尾下げ)部屋から即座に去る』を繰り返した。

ひっくり返し練習

 2カ月の頃から開始した、人にカラダを触られることに慣れるさせる練習、膝の上で仰向けのままじっとさせる「ひっくり返し」の時も、あおはけっこう噛んできた。

 川野輪さんに習ったこの練習、ポイントは"逃げようとしても逃さない"。逃げようとしたら、前脚の肩のあたりの関節を軽く押さえて逃がさない! かんしゃくを起こして暴れだしても逃さない! 究極は"その状態のまま眠るぐらい"だと言われた。

 眠るまでひっくり返しておく?? お腹を上に向けられた瞬間から、上下左右にバタバタバタ!それでも逃げられないと、とにかく脱出しようとして押さえているこちらの手をガブガブ噛んでくる。痛い痛い痛い!

 眠るぐらいまでじっとさせておかなければならないこの練習、やられるあおもイヤだっただろうが、やらせるこっちもやりたくなかった。

暴れるあおを落ち着かせて"ひっくり返し"

180202_02.jpg
180202_03.jpg
180202_04.jpg

「どんなに暴れても、噛んできても、絶対に逃がさないように」

 噛んだら逃げられた!いいことが起きた!と、あおに思わせてはいけないからだと言われたが、我々もまだ、噛まれることに慣れていない頃。猛獣のような顔で噛んでくるあおが怖かった。さらにこの頃のあおの歯は細くて鋭い乳歯だったので、噛まれると傷だらけ、ヘタすると皮膚に食い込み出血。こちらが練習放棄したくなったが、避けては通れなかった。

不満が目に出るタイプ

180202_05.jpg

「もうひとりの飼育員の妹」の膝の上でもひっくり返し

180202_06.jpg

 この練習の時は、噛まれても部屋を出ていくことはできない。「痛い!(低音語尾下げ)」でエネルギーをぶつけて噛むのをやめさせ、ひっくり返し続けなければならなかった。あおはとにかく暴れた。逃げ出すために噛んできた。それでも練習を重ねるうちに、だんだんじっとしている時間は伸びていった。

 練習を始めてしばらく経ったある日、「もうひとりの飼育員」がささやいた。

「寝た......寝た......」

180202_07.jpg
180202_08.jpg

 うわ!ホントに寝てるー!

 あおはいつの間にか、ひっくり返されたまま寝息を立てていた。どうやら彼女のマッサージが眠りに誘った様子。

180202_09.jpg

 それから、あおは何度もひっくり返されたまま寝た。僕は、けっこう早く切り上げてしまうことが多かったが(せっかち)、もうひとりの飼育員はあおが眠るまで、ひっくり返し練習に付き合っていた(そして時々、あおをひっくり返したまま自分も一緒に眠ってしまうという奇跡を起こしていた)。

 こんなことを重ねていくうちに、あおはいつしか、カラダに触れられることにも慣れ、9カ月になる頃には、甘噛みもやめていた。そして、教室でも家でも、じゃれていて歯が当たり「痛い」と言われると、ペロペロ舐めてごまかすというテクニックも身につけていた。

「甘噛み時代」。もうひとりの飼育員は「あ〜長かった〜」と振り返る。今はもう、あおの歯を見ても怖いとは思わなくなった。

 散歩から帰って足を洗っていると、時々マズルにシワをよせて「ウゥ〜」と軽くうなるのも、威嚇ではなく「それやだー」だとわかるので、「いいじゃんすぐに終わるから」と、なだめながらさっさと終わらせることもできるようになった。あおも、これ以上抵抗しても無駄だと、ため息をつきながら引き続きシャワーで足を洗われている。飼育員としての慣れと、あおがオトナになってくれたことで少しずつ穏やかな暮らしができるようになった幸せを噛み締めながら(これは噛む)、我々は今日もあおを膝の上でひっくり返しつつ、散歩で汚れた足を拭いて(拭かせていただいて?)いる。

180202_10.jpg

(つづく)

◎プロフィール

mitsui_pr.jpg

舘川範雄 (たてかわ のりお)
1966年9月19日生まれ。1987年4月から作家活動に入る。
「コサキン」「SMAPxSMAP」「ポンキッキーズ」「スクール革命!」などテレビ、ラジオで多数の番組構成を担当。また関根勤主宰「カンコンキンシアター」の他、オリジナルコメディーやミュージカルの作・演出など、活動は多岐にわたる。
インスタグラム(ao20150721)で白柴「あお」が毎日、犬の目線で日々の出来事を投稿中! 

掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法等により保護されています。



 この記事が気に入ったらいいねしよう!
 最新記事をお届けします。

犬のボディランゲージを読む

雪だーーー♪ そして肋骨骨折......

雪だーーー♪ そして肋骨骨折......
犬のボディランゲージを読む