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2018.02.05

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トレーナー直伝!愛犬との暮らしに役立つワンポイントアドバイス vol.9

犬のボディランゲージを読む

こんにちは。ドッグトレーニングインストラクターの三井です。今日は犬の「噛む・咬む」について少しお話したいと思います。ちょっと重たいかもしれませんが、ご自分の目の前にいる愛犬だけのことではなく、どの犬にも言えることなのでお伝えできればと思います。

#Activity / #Lifestyle

Author :写真・文=三井 惇

噛む行動は犬にとって特別なことではない

 子犬同士の遊びを見ていると、喧嘩になったときは相手の耳や足に噛みつき、お互いの強さを見せようとすることがあります。もちろん子犬なので、まだ歯が生え揃っていなかったり、あったとしても乳歯だったりで、大きな怪我にはなりません。しかし、それでも相手が痛みを感じれば、「キャン!」と声をあげてその場からいなくなってしまいます。嫌なことをしたら遊んでもらえなくなるということを、子犬たちは小さい頃から学んでいくわけです。やり過ぎれば母犬に叱られることもあります。そういうときも、母犬は優しく子犬を噛んで教えていきます。つまり、口を使ったコミュニケーションは小さい頃から始まっているのです。そのために、小さい頃に母犬や兄弟犬と離されてしまった子犬には、その学習の機会を与えられなかったことによる弊害が出ることがあります。この話はまた別の機会になりますが、いずれにしても、人間のような言葉を使わない犬たちは「噛む(口を使う)」ことを意思表示の手段として生まれた時から備えているわけです。

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子犬同士の遊びの中では、当然のように口が出ます

 口を使う行動は、親元から離れて新しい環境に行っても犬たちは使い続けます。「甘噛み」と言われる行動もそのひとつです。甘噛み自体は、「かまってほしい」「遊ぼう!」「やめて~」などさまざまな意味を持っています。ガジガジと人間の手を楽しそうに噛んだり、傍から離れていこうとする飼い主のかかとにツンツンと歯を当てたり、体をつかまれたり、足などを触られたときに、嫌がって歯をあててくるなどさまざまです。また、子犬の大きさによって、甘噛みの強さも異なります。小型犬であればさほど気にならない強さであっても、大型犬の甘噛みはアザになるようなときもあります。犬たちの意思表示である甘噛みに対し、体罰を与えるのではなく、無視をしたりして甘噛みの効果がないことを教えることで、甘噛みをしても要求が通らないことを学ばせていけば、甘噛みは自然と無くなり、本気咬みに発展する確率は低くなります。もちろん、甘噛みをほとんどしない犬もいます。個体差(性格の違い)と言っていいでしょう。

 甘噛みをするから悪いということではありません。甘ったれのコは、飼い主さんの手が口に入っているだけで安心するコもいます。歯の生え変わりで、ムズムズするからという説もあります。要は人間の皮膚は犬の毛皮よりも弱いので、噛まないで欲しいことを伝えていくことが大切なのです。

犬に噛まないことを選択させるためには

 甘噛みや日常のマナーを教える段階での対処法を間違えてしまう(その個体に合わない方法を取る)と、逆効果になることがあります。つまり、飼い主との信頼関係が築けるかどうかがポイントです。

 以前「噛む」トラブルを抱えた日本犬のお宅に伺ったときに言われたことですが、愛犬の甘噛みがひどく怪我が耐えないので獣医さんに相談したところ、「首輪に付けたリードを引っ張り上げて犬を吊りあげれば大丈夫です」と言われたそうです。確かに何十年か前のトレーニングでは、当たり前のように行われていたかも知れませんが、トレーニング方法も進歩しています。体罰だけでは問題の解決にはなりません。結果その犬は、「やられる前にやり返す」ことを学習してしまいました。つまり、「咬みつき」はさらにひどくなったということです。

 もしかしたら、「痛いことをされるならもう噛むのはやめよう」と考える犬もいるかもしれません。犬にも性格や気質の違いがあるので、従順なタイプと負けず嫌いなタイプがいます。それぞれの気質を理解しないで、十把一絡げで同じ手法を使っても効果が出ないだけでなく、逆効果になってしまうことを知っておかなければいけません。そのためにトレーナーは、トレーニングやリハビリテーションを行う前に、カウンセリングなどでその犬の状況を確認します。飼い主さんに、それらのことすべてを熟知しているように要求することは当然無理ですから、プロとして自分の持っている知識と経験を屈指して関わっていきます。

 子犬の頃からひっくり返してお腹を出させる「しつけ」というのがありました。今でもやられている方はいるかもしれません。犬が「お腹を見せる」というのは降参のボディランゲージとして知られていますが、リラックスして気持ちがいい時も寝そべってお腹を見せてくれます。リラックスしていない犬を無理やりひっくり返しても緊張させるだけです。犬自らリラックスできるような環境づくりをしないで、ただひっくり返せばいいというものではないはずです。これでは、「人間の方が強いんだから降参しろよ!」と犬に強制していることになり、従順とは言えないタイプの犬にとっては屈辱的な状況とも言えるでしょう。そんなことをする人間を犬は信頼するでしょうか。

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床に座ると、自分から寄ってきて寝っころがって腹を見せる若いオス犬

「陽性強化トレーニング」は、ただ褒めるだけの手法ではありません。できたことを繰り返し褒め、よい習慣を身につけさせるもので、やって欲しくない行動が出ないように環境づくりをしながらトレーニングプランを考えていきます。ダメなものはダメだと毅然とした態度で接することも大事ですが、体罰とは違います。手を振りかざして止めようとすれば、首を吊りあげることと同様に、その手に咬みつくことを犬は学習していきます。咬まれれば当然普通の人は一瞬ひるんでしまいます。犬はそれを敏感に感じとります。

 犬にとって心地よくないことをしなくてはいけない状況は、必ずあります。獣医さんに行く。当然体中触られます。トリミングに行く。長い時間我慢していなければいけません。自宅でのシャンプー、足裏カット、爪切りなどなど、犬にとって楽しくないことも日常では起きるわけです。そんなことを喜んではいないにしても、許容できるようになってもらうために、子犬の頃からトレーニングを有効に使うことができます。もちろんその際は、犬が発するボディランゲージを読む力も必要です。正常な犬であれば、「咬む」行為は最終手段です。そこに至るまでに、さまざまなボディランゲージを見せているはずです。顔の表情、耳の動き、小さな唸り声。それらを見逃してしまうと、いつの間にか「咬む」行動が出るまでの時間が非常に短くなってしまいます。嫌なものを少しでも嫌でなくするために、人間も力ではなく、折り合いをつけてもらえるよう努力することで、咬む状況を減らしていくことができるのではないでしょうか。

 犬は賢いので、日々学習していきます。家族と阿吽の呼吸がとれるようになるには1日2日ではできません。人間の子育てと同じですね。

おわりに

 子犬の成長は目覚ましく、日々驚かされることばかりですが、成犬になっても犬たちは学習し、成長しています。今まで咬んだことが無い犬であっても、何かのきっかけで咬まないとは限りません。追い詰められれば「窮鼠猫を咬む」の言葉通り、反撃に出る可能性はあります。するどい犬歯を持っている犬たちですから、「絶対に」はあり得ないと思った方がいいでしょう。

 人にも犬にもフレンドリーで、飼い主も安心していた犬が、自分の遊んでいたボールを小さい子どもに取られそうになって歯を当てたことがありました。本気咬みではなくても、「やめてよ」という犬の意思表示だったわけです。

 我が家の先住犬が公園で伏せていた時のこと、突然小さいこどもが走り寄ってきて犬の尻尾を踏みました。犬はキャンと吠えて立ち上がったのですが、ちょうど犬の顔とこども顔が同じ高さになって頬に歯が当たってしまい、擦り傷になってしまったことがありました。幸運にもその一部始終を親御さんが見ていて、自分の子どもがウチの犬を驚かせたことを謝られましたが、アクシデントとはいえ、歯が入っていたらと思うと一瞬背筋が凍りました。

 犬を飼っている以上、誰しも愛犬が咬むことで意思表示をしないように学習して欲しいと思うのではないでしょうか。そのためには、犬の気質や性格に頼るのではなく、飼い主側としても予防策や対策を講じる手間を惜しんではいけないと思います。また、犬種を選んだり、個体を選んだりできる機会があるのでしたら、ぜひその犬種の特性を把握し、できることなら母犬を見てみてください。見た目だけでなく性格や気質も遺伝するものです。保護犬との出逢いにおいても、保護主さんからその犬の情報をしっかり入手しましょう。その犬すべてを丸ごと受けとめられれば一番いいことですが、だからと言って、無理をしたり、犠牲を払ったりしては人も犬も不幸になります。

 そして万が一「咬む」ことを覚えてしまった場合は、リハビリテーションに時間と手間がかかることも覚えておきましょう。人間も習慣を変えるのは難しいものです。ましてや、不信感を持たれてしまった関係を修復するには、時間がかかります。

 犬との生活をよりよくするためには、犬を力で制するのではなく、好き勝手に甘やかすのでもなく、家庭のルールを一つひとつ教えていくことで、少なくともコミュニケーションは取りやすくなります。犬も感情のある生き物であることを、忘れてはいけませんね。

 最後に、愛犬が今まで一度も「咬む」ことで意思表示をしなかったのであれば、それはたまたまいい気質の犬だったのかもしれませんし、あるいは飼い主さんが愛犬と真剣に向き合ってこられたからでしょう。誰のせいでもなく、人間同様気の短い犬もいます。元々「咬む行動」へのスイッチの入りやすい個体もいます。それは、パーソナルスペースがそれぞれ異なるのと同じです。愛犬を良く知るためにも、愛犬の発するボディランゲージに気づける飼い主になることが、快適なドッグライフへの一歩かもしれません。

◎プロフィール

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三井 惇
CPDT-KA(国際資格)ドッグトレーニングインストラクター。1997年に迎えたボーダーコリーと始めたオビディエンス(服従訓練)をきっかけに、犬の行動学や学習理論を学ぶ。2004年にドッグダンスをと出会ってその奥の深さに魅了され、愛犬家に広めたいと2006年からインストラクターとしてドッグダンスを教え始める。自身も一競技者として、オビディエンスやドッグダンスの競技会に参加。

●ブログ: Dance with Dogs
●HP:http://wanbywan.com/
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●主な著書:『ニコルとドッグダンス』/エー・ディー・サマーズ




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