magazine

  1. トップページ
  2. MAGAZINE
  3. 日本における古代からの狩猟のお供。北海道、紀州など

2018.01.30

読みもの        

猟犬を知る vol.5【猟の種類と犬種/日本犬】

日本における古代からの狩猟のお供。北海道、紀州など

猟犬スペシャル、犬種グループのラストは、日本犬。太古の昔から、つい最近まで、日本人にとって狩りのパートナーといえば日本犬であった。古き良き日本在来の猟犬について学んでみよう。

#Activity / #Lifestyle

Author :写真=白石かえ、桜井求、高橋信行 文=白石かえ

現存している公認日本犬は6犬種

 JKCや日本犬保存会が公認している日本犬は、6種いる。、甲斐、紀州、四国、北海道、秋田だ。この6犬種は、国の天然記念物にも指定されている。

 しかし、この6犬種以外にも、日本国内にはもっとたくさんの種類の地方独特の和犬がいた。クルマも鉄道もない時代、山に囲まれた集落で人と暮らしていた日本犬は、よその土地の犬と交雑することなく、独立した血統の犬を残していった。野生動物の場合でいう「地域個体群」だと思えば、イメージしやすいのではないだろうか。

 たとえば小型日本犬である柴は、山陰小型犬(島根県、鳥取県、兵庫県の但馬地方など)、岐阜小型犬(美濃柴犬)、信州小型犬(信州柴、川上犬、伊那犬など)、それぞれの地域に土着の小型の和犬がいた。その土地の気候風土に適した毛質や体格を持っていたのだろう。

 それでは、まず日本犬の種類を整理してみる。以下、「●」は、JKCや日本犬保存会公認の日本犬。「〇」は、かつていた日本犬種や、数が少なくなっている日本犬だ。

  • 【小型】
  • ●柴犬(長野県、岐阜県、山陰地方)
  • ●甲斐犬(山梨県)

  • 【中型】
  • ●北海道犬
  • ●紀州犬(和歌山県、三重県)
  • ●四国犬
  • 〇越の犬(富山県、石川県、福井県)
    ※1934年(昭和9年)に国の天然記念物に指定されるも昭和40年代に絶滅したとされる。
  • 〇岩手犬(秋田マタギ犬、鹿角犬などとも呼ばれる)
    ※犬種として確立されていないが、いわゆる秋田県、岩手県の県境付近の山間部で、マタギとともに働いていたマタギ犬。
  • 〇琉球犬(沖縄県)
    ※1995年、沖縄県の天然記念物に指定されたが、数が少なく、琉球犬保存会も現時点では活動休止のもよう。洋犬との交雑も進み、純血種を探すのが難しい。ただ、県立中部農林高校の高校生が、琉球犬の純血保存に挑戦するニュースが2017年4月に流れている(琉球新報より)。

  • 【大型】
  • ●秋田犬
  • 〇樺太犬(樺太、千島列島)
    ※アイヌ・ニブフなどの北方の民族が犬ゾリ犬または猟犬に使っていた。南極地域観測隊第一次越冬隊のタロとジロが樺太犬。しかし戦後、自動車の発達により犬ゾリの需要がなくなったことと、外国の犬と交雑が進み純血種が減ったこと、そして人畜共通感染症のエキノコックス症予防のため大規模な野犬狩りがされたことが重なり、1970年代頃にはほぼ絶滅したとされる。

180121_02.jpg

中型日本犬の四国犬。高知県の幡多郡や本川方面から愛媛県境にかけて大正、昭和の初期から銃猟犬として多く飼育されていた。あまり知名度はなく、現在の土佐犬(土佐闘犬)と勘違いされやすいが、容姿も気質も全く異なる

 ちなみに、土佐犬(別名:土佐闘犬)は、闘犬用に日本で品種改良された犬で、ジャパニーズ・マスティフとも呼ばれる。日本犬の四国犬に、洋犬種(ブルドッグ、マスティフ、ジャーマン・ポインター、グレート・デーン、セント・バーナード、ブル・テリアなど)の血を入れて、作出された。土佐犬は、四国犬の血がベースとなってはいるが、もはや和犬らしさはない。また猟犬としての仕事はしていない。

ルーツは2つ。縄文犬と弥生犬

 ともあれ、日本犬の体のサイズは、小型・中型・大型の3サイズあり、北は北海道から、南は沖縄まで分布している。みな、立ち耳、短毛種、ダブルコートの北方スピッツ系の姿をしている。

 日本犬は、ニホンオオカミと交雑したという話は、まんざらありえない話ではないが、それ以前にもっともっと大昔から、犬は日本人のそばにいた。そこまで遡ると、海外から日本へ渡来した説の方が有力である。その渡来ルートは、2通りある。

①南方ルート
縄文犬(仮称):北海道犬、琉球犬(岩手マタギ犬、樺太犬もかも?)
縄文時代に、東南アジアなどの南方から渡ってきた。

②朝鮮半島ルート
弥生犬(仮称):柴犬、甲斐犬、紀州犬、四国犬
弥生時代に、モンゴル、中国、韓国方面から、朝鮮半島を経由して渡ってきた。

 一括りに日本犬といっても、上記2つのルーツがあるようだ。そして縄文犬と弥生犬には、決定的な違いがある。縄文時代は狩猟生活をしていたので、犬は狩猟犬として役立っていたに違いない。一方、弥生時代は農耕生活だったので、猟犬としての活躍の場はあまりなかったのではないか。

 つまり縄文犬を祖とする犬たち(北海道犬、琉球犬、マタギ犬など)は、狩猟生活のパートナーである猟犬種だった。当時は、鉄砲はおろか石器もない時代である。前々回で書いたサイト・ハウンド同様に、猟犬は、家族にとって食べ物を獲るために欠かせない生活必需品であり、運命共同体だったと思われる。その証拠に、縄文時代早期末の愛媛県美川村(現・久万高原町)の上黒岩陰遺跡からは、日本最古の犬の2体分の骨が出土しているのだが、きちんと埋葬されていた。狩猟犬の死を悼み、家族の一員として弔っているのが伺える。ついでに言うと、同遺跡では、ヨーロッパオオヤマネコの骨も出土している。オオヤマネコは体重20-30kgくらいあるが、おそらく縄文犬とニンゲンが協力して狩っていたのだろう。ヨーロッパオオヤマネコが四国にいたなんて、本当に大昔はユーラシア大陸と日本列島はつながっていたのだなぁと感慨深く思う。

 かたや、農耕生活の弥生人のそばにいた弥生犬は、もちろん中には狩猟犬として使われた犬もいただろうが、農耕がメインの人々の生活において、犬の仕事といえば番犬の役目くらいだったはず。集落のそばで犬は暮らし、ヒトの近くでうろちょろして、残飯をあさり、もしかしたら特定の飼い主もいなかったかもしれない。縄文犬より、ヒトと犬の家族意識は乏しかったと推察できる。そうした背景からか、犬は食用にもされていた。弥生時代の遺跡からは、犬を調理して食べたと思われる骨がしばしば出土している。現代においても中国や韓国で犬を食べるのは、この時代から変わらぬ食文化なのだろう。

 その後、大陸から隔絶された島国という閉鎖環境の中で、縄文犬と弥生犬は、日本犬として根付いていった。それが1万年前からなのか、3000年前からなのか、説はいろいろあるが、いずれにしても紀元前からの話である。 縄文犬と弥生犬は、長い歴史の中、接触するチャンスがあれば、自由に交雑していった。

 ただ、北海道犬を飼っている現役猟師から聞いた話で興味深かったのは、北海道犬は手をかけて育てないと「ふてくされる」「やさぐれる」という。それくらい人間が好き、家族が好き。その分、家族への要求も多い。やさぐれると、ガウガウ犬になったりして態度が悪くなる。でも、ちゃんと家族同様に接して飼うと、とても話のわかる忠犬になるという。かたや、弥生犬である紀州犬や柴犬、甲斐犬は、ニンゲンに食べられていた時代の、ニンゲンに対する警戒心や恐怖心がDNAに残っているのではないかという説。だからときどきブチ切れるようにスイッチが入り、本気で飼い主を噛んでくる犬がいるのではないかという......。真偽のほどはわからないし、長い歴史の中でだいぶ交雑も進んでいるはずなのでなんとも言えないが、もしそういう可能性があるとすれば、番犬としての才覚があるのは弥生犬、甘ったれなのは縄文犬という推論はできる。縄文犬と弥生犬の両方を、別血統で何頭か飼養経験した人がいれば、ぜひ意見を聞いてみたい。

180121_03.jpg

昔は「アイヌ犬」と言われていた北海道犬。 アイヌの人々は、家ごとに犬(アイヌ語で「セタ」)を飼っていて、ヒグマやエゾシカを獲るときの大事な戦力とし、またあるときはヒグマやオオカミから家人を守る護衛犬の役目も任せていた。ちなみに北海道犬は、鳥猟には使わないそうである

秋田犬はマタギ犬とは別犬種

 さて、クマ狩りの名手といえば北海道犬だが、秋田県と岩手県境付近の奥羽山脈の山あいで狩猟することを生業としていたマタギが使っていた犬は、岩手マタギ犬、岩手犬、秋田マタギ犬などと呼ばれ、こちらもクマ狩りに使われていた。しかし、秋田犬=マタギ犬と勘違いされがちだが、秋田犬とは別物。マタギが使っていた犬は、北海道犬や紀州犬くらいの中型サイズで、秋田犬よりずいぶん小さい。おそらくサイズも気質も北海道犬に近いはずだ。補足すると、北海道犬もそれほど大きくなくて、体高はオス48.5cm、メス45.5cm(「天然記念物北海道犬保存会」の犬種標準より)。ブリタニー・スパニエルの体高より下回るサイズなのに、ヒグマと闘えるとは恐れ入る。

 秋田犬は、明治以降に大館・北秋田を中心に闘犬が盛んに行われたのを機に、洋犬のマスティフ系の血が入った土佐闘犬と、秋田マタギ犬、岩手犬などの中型のマタギ犬を交配させて体格を大きくし、闘争心を高めるように犬種改良された。さらに第二次世界大戦中、軍用の防寒衣料として犬の毛皮を使用するために一般の犬は捕獲されたが、軍用犬のジャーマン・シェパード・ドッグだけはその難を逃れることができたため、秋田を絶やしたくなかった地元の人たちはあえてシェパードと交配させて「これは秋田じゃない、シェパードだ」と言って毛皮にされることから逃れたのだ。そうした経緯から、秋田犬はシェパードなどの洋犬との交雑が進んだ過去がある。

 戦後、愛好家が古来のマタギ秋田タイプの犬たちを繁殖に用いて、洋犬の特質を取り除く努力をした結果、大型でありながら和犬の風格のある今の秋田犬が固定化された。つまり昭和後半以降に完成した犬であり、秋田犬の歴史は長くない。意外なことだが、秋田犬はわりと最近完成した犬なのだ。ベースにマタギ犬が入っているのは確かだが、今の秋田犬は、クマ狩りの実猟に使われることはない。もっぱら番犬、大型コンパニオンとして生きている。よって秋田犬は、猟犬種には含まれないと私的には感じている。

大きくなくても実はすごい狩猟犬

 今回、現在も日本犬を実猟に使っている猟師の話を聞くことはできなかったのだが、おそらく北海道では、今も北海道犬を使った大物猟が行われていると思う。前述した「天然記念物北海道犬保存会」では、獣猟競技会も開かれている(厳密に言うと、どの団体でもそうだが競技会と実猟は似て非なるものであり、競技会に勝てる犬が実猟でも使えるかというとそうではないが)。

 おもしろいことに北海道犬は、クマに噛み止め(クマが移動しないように、猟師が来るまで時間稼ぎをする)を試みても、噛みっぱなしではなく、噛んだり、サッと離れたりを繰り返す技を持つという。クマからの攻撃をかわすためだ。俊敏で小ぶりなサイズなのも、クマのパンチをかわすことに適する。セント・ハウンドを使った猟師が言っていたが、大きい犬ほど強いというわけではない。むしろ中型犬など小さめの方が持久力があり(大型犬の方が意外とスタミナが切れやすい)、俊敏で、狭い藪にも入って行けて、日本の森の生態系での狩りに使いやすいという。大きい方がタフそうだし、強そうに思えていたが、案外、中型犬くらいがイノシシやクマ相手に適しているというのは意外だった。

 それを裏付けるように、日本犬の中でいちばん実猟犬として使われているのは、中型日本犬の紀州犬や紀州ミックスとのこと。紀州犬についてもう少し詳しく説明すると、本犬種は獲物に応じて「猪犬」「鹿犬」「兎犬」と大別されていて、体型や気質も少し違っている。猪犬は、鹿犬よりも少し体高が低めで、頑丈な外貌をしており、イノシシに負けない強い闘争心がある。鹿犬は体高が高めで、シカを追跡するのに適した軽快な体躯(頭部が小さく、首、四肢、しっぽが長め)と持続力(スタミナ)を有する。兎犬は、ウサギのほかヤマドリ猟などに使い、サイズは小型日本犬に近い(数はそんなにいない)。このように細分化されているということは、それだけ紀州犬は猟犬としての実力がある証しではないかと思う。

180121_04.jpg

展覧会で出会った紀州犬のオスとメス。「猪犬」サイズなのか「鹿犬」サイズなのかよくわからないが、とにかく紀州犬は大物猟の狩猟犬として有能なのは間違いない。ちなみに紀州犬というと白い犬と思いがちだが、「有色紀州」(茶色の被毛)のものもいる

猟性性能を失った日本犬は、日本犬にあらず

 日本犬は、鼻と目の両方を使って獲物を探すし、鳥猟も獣猟もやる。このあたりの気質や猟法は、HPR犬種と似通ったところがある。また立ち耳の日本犬は、耳もとてもよい。獣臭追跡はセント・ハウンドには劣るけれど、嗅覚に加えて、視覚、聴覚も駆使して、獲物を追うのは日本犬ならでは。

 日本犬特有といえば、イノシシなどの獲物の経路を推測して、近道して回り込み、イノシシを塞ぎ止める猟技。「寝床猟(床猟)」(イノシシの寝床まで犬が追いかけて、猟師が来るまで吠えて留めておく猟法)を、猟師1人と犬1頭または少人数で行うことができる。犬はときに獣道をモトクロスのバイクのように縦横無尽に駆け回り、ときには忍者のように茂みに隠れて獲物を待つ。日本の山あり谷ありの斜面のきつい猟場に適した肉体を持っている。足首が柔らかく、爪がスパイクのように地面をかむというのも日本犬ならではの特性ではなかろうか。面白い。さすが日本の生態系や風土に適した猟犬だ。

 また、もうひとつ日本犬猟犬種の優れた点は、帰家性が高いこと。セント・ハウンドは追跡スイッチが入ると何十kmでも獲物を追ってしまい、日が暮れても戻ってこないことがあるが、日本犬は約2時間もすれば飼い主の元に戻ってくる。そのため日本犬は回収が容易で、万が一山の中ではぐれても、クルマを降りたところに戻っているそうだ。そういう忠犬っぽいところも魅力である。

 日本犬保存会では、猟能研究会を設立し、単なる展覧会(ドッグショー)のための犬ではなく、日本犬らしい精悍な気迫を持つ「姿芸両全の犬が正しい犬であり、これから望まれる日本犬である」としている。「猫に追われて逃げる柴犬、イノシシはもちろんシカにすら立ち向かえない中型日本犬は、いかに体型が整い、一見日本犬らしく見えても、耳の垂れる日本犬にも劣るわけであります」と目録に綴ってある。文武両道ならぬ、美しい姿と日本犬に内在する気迫能力を備えてこそ日本犬。一部の洋犬のように、ショー系と実猟系と二分することはならないと考えているそうだ。

180121_05.jpg

近年では、噛みつくなどの問題行動を起こす柴犬の相談が、トレーナーのもとに急増している。柴犬や甲斐犬といった小型日本犬は、ウサギ、キジ、ヤマドリ猟に使われていたが、イノシシの実猟に出ている強者もいる。日本犬魂を甘くみてはいけない。また飼い主だけでなく、日本犬を繁殖する者は、正しく倫理観のある血統管理を行うことが求められる

 家庭犬として飼うのなら、猟欲の強いものはたしかに飼いにくいかもしれない。しかし、日本犬らしさは、日本犬らしい魂を伴ってこそともいえる。さらに言えば、生粋の日本犬だと家庭犬として飼いにくいとか、自分の手には負えない、と思うのであれば、最初から他人にもよその犬にもフレンドリーな性格の洋犬を選んだ方が、犬にとっても飼い主家族にとっても、両者が不幸にならない。「テレビで見て可愛かったから」などの軽い気持ちで迎えると、飼い犬に手を噛まれることになる。「豆柴は小さいので、散歩に行かなくていいと聞いたから」などは言語道断。そもそも「豆柴」という犬種は存在しないので(だから「豆柴」という血統書はない)、いつのまにか普通の柴犬サイズに大きくなるのはよくあることだし、だいたい散歩に行かなくていい犬はいない(柴犬だってイノシシ狩りをしている犬もいる。運動不足だとどんな問題行動を起こすだろうか)。日本犬が飼い主に忠義を尽くすイメージどおりの忠犬に育つかどうかは、日本犬に認められるだけの強く寛大なメンタルのある飼い主になれるかどうかにかかっている。

 さあ、これで猟犬の種類別の説明は終わりだ。次回はついに「猟犬スペシャル」の最終回。猟犬の抱える問題と猟犬の未来について考察したい。

◎著者プロフィール

shiraishi_pr.jpg

白石かえ
犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパン。犬猫と暮らして30数年。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせる、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

●執筆サイト: dogplus.me 犬種図鑑 ほか多数
●ブログ: バドバドサーカス
●主な著書:
『東京犬散歩ガイド』、『東京犬散歩ガイド武蔵野編』、『うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)

掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法等により保護されています。



 この記事が気に入ったらいいねしよう!
 最新記事をお届けします。

雪だーーー♪ そして肋骨骨折......

根本解決するための、ケース別「誤飲」対策

根本解決するための、ケース別「誤飲」対策
雪だーーー♪ そして肋骨骨折......