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2018.01.17

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猟犬を知る vol.3【猟の種類と犬種/サイト・ハウンド】

サルーキ、グレーハウンド......目でロックオンする高速獣猟犬たち

ハウンドには、目を使って獲物を見つけるサイト・ハウンドと、鼻を使って獲物を追跡するセント・ハウンドの2タイプがいる。世界最古の猟犬は、サルーキはじめとするサイト・ハウンドだ。ただ、日本でサイト・ハウンドを使っている猟師はいないようだ......。とはいえ、「猟犬スペシャル」連載なのに、サイト・ハウンドのことをスルーするわけにはいかない。「神様からの贈り物」と言われる古代からの猟犬種だからだ。

#Activity / #Lifestyle

Author :写真=E. Matsuda、横町亜佐子 文=白石かえ

サイト(視覚)ハウンドとセント(嗅覚)ハウンドの違い

 ハウンドとは、洋犬の獣猟犬の総称。かつてマタギが使っていたとおり、日本犬も、クマ、イノシシ、ウサギなどの獣用の猟犬として役に立つが、和犬はハウンドとは呼ばない。ハウンドは外国産の獣猟犬のことである。日本犬とよく似た姿の、同じルーツを持つ北方スピッツ系の犬であっても、ハウンドの名がつく犬はいる。ノルウェイジャン・エルクハウンドなどだ(エルク=ヘラジカ。ヘラジカ猟に使う犬)。

 冒頭でも記載したように、ハウンドには獲物の探し方により、2タイプいる。

●サイト・ハウンド(視覚ハウンド)
Group 10:Sighthounds(視覚ハウンド)に属する、サルーキ、グレーハウンド、ボルゾイ、アイリッシュ・ウルフハウンドなど

●セント・ハウンド(嗅覚ハウンド)
Group 6:Scent hounds and related breeds(嗅覚ハウンドとその関連犬種)に属するビーグル、ダックスフント、プロットなど

日本では実猟のサイト・ハウンドはいない?

 ただし、これまでの連載で紹介したとおり、近代の日本では外国から狩猟犬を輸入し、現在も使われているが、サイト・ハウンドをパートナーとしている猟師の話は聞かない。江戸時代前期には、長谷川等彝(はせがわとうい。生卒不詳)という画家が描いた「洋犬図」や「狗鷹図」、波多野等有(1624-1677)の「洋犬図屏風」、江戸時代後期の「唐蘭船持渡鳥獣之図」(作者不詳)の絵があり、明らかにサイト・ハウンドをモデルにしたと思われるのだが(絵からしてイタリアン・グレーハウンドよりも大きめのサイト・ハウンド。サルーキなのだろうか?)、どうもモデル犬は同じ犬のようにも見えた。推察するに、江戸時代のときは猟犬というより、珍しいスリムな姿の、日本犬とはまったく違う犬が遠い外国にはいるという、珍犬扱いだったように思う。

 また実際に今、サイト・ハウンドを実猟に使っている人はいないか、サイト・ハウンドのコーシング大会*などを開催している愛好団体やほかのファンシャーにも尋ねてみたが、日本で実猟に使っている人はいないようだ。
(*ウサギを模したダミーを機械で高速で引っ張ると、ダミーめがけて犬たちがいっせいに走る駆けっこレース。目で追いかける習性を利用した、サイト・ハウンドのドッグスポーツだ。イギリスやオーストラリアなどで、グレーハウンドを使って開催されるドッグレースと原理は同じ)

 古代より重宝された優れた猟犬種ではあるが、今の日本で使われない理由を想像してみた。まず鉄砲がない時代の日本では、小動物は鷹を使った猟をしていたからだろうか。また日本犬の中には、目で獲物を追うタイプもいるので(次々回で紹介する)、わざわざサイト・ハウンドを使わなくてもよかったとも思える。そして、もともとサイト・ハウンドは、広大な砂漠や草原、ウサギが隠れやすそうな小ぶりの岩がゴロゴロしている原っぱなど、広くて見晴らしのよい場所を高速で走る犬が大半。日本の小さな国土、見通しの悪い森林の多い生態系では、彼らの視力や脚力を披露する場がないことなどが考えられる。

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鋭い眼光、筋骨逞しい肉体。まさに芸術的な美しさを持つグレーハウンド

サイト・ハウンドは世界最古の猟犬

 さて、サイト・ハウンドの仲間は、ほとんど犬種改良されていなくて、大昔のままの姿を残している犬種も多い。とくに中東出身のサルーキの起源はものすごく古く、歴史は5000年とも7000年とも言われる。「世界最古の猟犬」のひとつと言われるが、世界最古の猟犬種と断言してもいいと思う。とはいえ、そんな大昔は、現代の地図や国境など、近代のルールは通用しない。現代で言うところの、東はカザフスタン、西はモロッコまでの広範囲のアラブの砂漠地帯とその近隣が原産地とされるサルーキなのだが、モロッコ原産のスルーギや、マリ共和国原産のアザワクともエリアはかぶっているので、サルーキなのかスルーギなのかアザワクなのか、特定しにくい。またモロッコ現地の人の話では、サルーキのこともスルーギと呼んだりするという。つまり現地では、足の長いスラッとしたサイト・ハウンドのことを、サルーキと呼んだり、スルーギと呼んだり、またタヅィー(TAZI)と呼んだりする。とにかく、あのあたり一帯に古代からいたサイト・ハウンドが、人類にとって世界初の、猟の相棒なのだろう。彼らのおかげで、人間はノウサギなどの陸上の動物性タンパク質を手に入れることができた。

 サイト・ハウンドは、バードドッグやHPR犬種やセント・ハウンドと違い、鉄砲のない時代から猟犬の仕事をしていた。犬そのものが武器というか、唯一かつ最強の手段。犬達は、目で獲物を見つけ、電光石火の如く俊足で走り、野生の肉食獣に近いやり方で獲物を捕まえる。野生動物的、古典的な猟法といえよう。なぜ彼らが、人間に協力してくれるようになったのか、きっかけは何だったのか気になるところだが、とにかくコーラン(イスラム教の聖典)にはサルーキのことを「サルーキは犬ではない。これは私たちの必要と喜びのために、アラーがお恵みくださった贈り物」と書かれている。それぐらい彼らへの感謝と畏敬の念は強かった。ちなみにイスラム教では、豚と犬は不浄の動物とされているのに(おそらく狂犬病や感染症を媒介することが薄々わかっていて避けていたのだろうという説が有力)、サルーキだけは特別扱いで室内飼育も許されていた。

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現代でもアラブの男たちは、サルーキで狩りやレースをしている。レース前に自分のサルーキを、アラーの神に祈りを捧げてから出陣させることもある。サルーキは単なる「愛犬」ではない。アラブ人の誇り、自分の、一族の、プライドのシンボルのよう

チーターよりも長く速く走れる有能ハンター

 サイト・ハウンドの獲物は生息域の生態系によって異なるが、主なターゲットはノウサギ、シカなどの獣。空に飛んで逃げる鳥は追いかけられないので、鳥猟には使わない。地域によってはガゼルやダチョウ、ヒョウ、オオカミなど大型の獲物も狩る。

 猟の仕方は、目で獲物を見つけ、ロックオンし、追いかけて、牙で捕らえてくる(人間の出る幕はない)。その走りっぷりは、サイト・ハウンドの仲間の中で個性がある。スプリンター型もいれば、長距離型もいる。サルーキの場合は、3kmほどの距離をトップスピード(時速60〜70kmくらい)を維持したまま走ることができる。速さだけでなく、スタミナもあるのだ。ちなみにチーターは世界最速の哺乳類として有名で、スタート2秒後にはトップギアに入るという。たしかに加速度はすごいし、時速100kmを超えるスピードを出せるのもすごいけれど、最高速度を維持できるのはせいぜい200~300mほど。瞬間的な爆発力はあるけれど、チーターにはスタミナや持久力はない。それに比べてサルーキなどは、最高速度はチーターに敵わないものの、もっと長い距離を長い時間走ることができるのだ。そういう意味では、サイト・ハウンドの方が世界最速の有能なハンターといえる気がする。

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速く走るために研ぎ澄まされた、サイト・ハウンドの流線型のフォルム。グレーハウンドは、サイト・ハウンドの中で最速、つまり犬界で最速。イギリス、オーストラリアなどで開催されるドッグレースは、競馬同様に上流社会の娯楽である

 また、FCI(国際畜犬連盟)の分類では、グループ10のサイト・ハウンドのグループではなく、Group 5:Spitz and primitive types(スピッツと原始的な犬)に分類されている、マルタ原産のファラオ・ハウンドや、ポルトガル原産のPODENCO PORTUGUÉS(ポテンゴ・ポーチュギース)、スペイン原産のPODENCO IBICENCO(イビザン・ハウンド)も、ウサギやアナウサギ狩りを得意とする昔ながらの猟犬種。彼らの姿はサイト・ハウンドに一見似ているのだが、地中海沿岸地域に多く見られる原始的な猟犬とされる。ちなみにイギリスのケネルクラブでは、ファラオ・ハウンド、ポテンゴ・ポーチュギース、イビザン・ハウンドは、サルーキたちや次回紹介するセント・ハウンドと一緒に「ハウンド」というカテゴリーに入っている。犬種の分類は、ケネルクラブや国によって異なり、ときにどういう区分なのか境界線がよくわからない。何が正解なのか混乱するが、生き物だし、クロス(雑種、中間の意)っぽいこともあるし、両方の特徴がある場合もあるから仕方がないのだろう。

猟銃のある現代では家庭犬に転向していることが多い

 スラッと体高の高い、目で獲物を追うタイプの猟犬サイト・ハウンドは、前述したとおり、日本で実猟犬として使われているという話は聞かない。彼らは広大な砂漠や草原を超ダッシュで走る脚力はあるが、日本の森林地帯での猟には向かないのだろう。日本でJKC(ジャパン・ケネルクラブ)に登録されているグループ10の犬は、もっぱらショードッグや家庭犬だ。

 蛇足ながら、ドッグショーでトップに君臨することも多い美しいボルゾイ(ロシア語)は、英語でRUSSIAN HUNTING SIGHTHOUNDと言い、元来はハンティング・ドッグ。ロシアン・ウルフハウンドとも呼ばれる。しかし、もはやボルゾイをオオカミ狩りに使う民族はいないのではないだろうか(ロシアではまだ使うことがあるのだろうか。情報求む)。また同じくショーリンクで美しい絹毛のロングヘアをたなびかせているアフガニスタン原産のアフガン・ハウンドも、現地では現役の猟犬として活躍しているのだろうか?

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美しい被毛をたなびかせて走るボルゾイ3頭。アメリカ系のショードッグ家系とは違い、野生的な健全性が漂う。本来サイト・ハウンドは、ほかの犬種に比べて、遺伝性疾患や先天性疾患が少ない。人為的な、商業的な犬種改良があまりされていないからだろう。健全な犬は美しい。そして美しい犬は健全。この法則を破ってはいけない

 そして、おそらく中東付近からイギリスに連れてこられて犬種改良され、今ではイギリス原産となっているグレーハウンドやウィペット、ディアハウンド(名前からしてシカ狩り用)、そしてアイルランド原産となっているアイリッシュ・ウルフハウンド(名前からしてはオオカミ狩り用)も、大部分はショードッグや家庭のコンパニオン(一部のグレーハウンドやウィペットは、俊足を買われてドッグレースに使われたりもしているが)。特に犬種の中で最も体高が高いとされるアイリッシュ・ウルフハウンドは、オオカミ猟犬だったとはもう思えない、穏和な性格に改良され、アメリカではコマーシャリズムにも乗って、家庭犬としての地位を確立している。

 かたや日本ではほぼ見ることのないサイト・ハウンドもいる。前述のアザワク(マリ共和国原産)、スルーギ(モロッコ原産)、ガルゴ・エスパニュール(スペイン原産)など。日本にショードッグとしても家庭犬としても見ないということは、あまり犬種改良されておらず、本来の獣猟犬としての血が色濃く残っていて、日本の家庭にはおさまりきらない野性味、狩猟欲を持ち合わせていると考えてよい。そういう犬を日本で幸せにしてあげることは、かなりハードルが高い。

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ボルゾイやグレーハウンドなどの大型サイト・ハウンド、サルーキなどの中型サイト・ハウンドが必要とする運動場はかなり広大。なにしろ中東の砂漠を縦横無尽に駆けていた犬の子孫なのだから。日本でこの環境を用意するのはなかなか難しいが、本物のファンシャーはそのための努力を惜しまない。世界最古、世界最速の猟犬の走る姿は最高に美しい

 ちなみにスペインのガルゴ・エスパニュールは、現代でもウサギ狩りの名手。しかしガルゴも、日本の猟犬遺棄問題と同じく、捨てられることが大きな問題となっている。ヨーロッパといえど地域差はあり、ドイツ、スイス、オーストリアといったドイツ語圏やスウェーデンなどの北欧圏は犬の動物福祉は進んでいるが、ラテン系の国では、日本同様に猟犬の扱いのひどさが問題となっているという話を伝え聞く。ただ幸か不幸か、ヨーロッパ大陸内で動物福祉先進国と後進国が地続きなので、スペインのガルゴたちが、ドイツなどの動物福祉団体の手によって、第2の人生(犬生)のために国境を越えて里親探しをしていることもある。猟犬をめぐる問題は、万国共通のようだ。

おうちでは猫のようにまったり、自由気まま

 たしかに獣猟犬というのは、犬は犬なのであるが、猟犬としての資質を磨かれてきた犬種。これまでの連載で紹介してきた鳥猟犬(バードドッグ)や、鳥と獣を両方やるにしてもハンターとの協力体制が不可欠なHPR犬種(ジャーマン・ポインターなど)に比べて、やはり自分の牙で相手に食らいつくことも辞さない強い精神力を持つ。もちろん人間と共に猟に出て、獲物を持ってきてくれるわけだから、信頼関係は必要と言えるのだが、それ以前の、目で獲物を見つけてダッシュするのは、自分の意志で、自分の本能。だから、鳥猟犬種やHPR犬種よりも、独立心があり、頑固でマイペース、自分というものを持っている。

 だからハウンドは、サイト・ハウンドもセント・ハウンドも、家庭犬としてトレーニングするのは基本的に難航傾向にある。鳥猟犬種たちのような素直さ、従順さ、人間への依存心が少ない。ラブラドール・レトリーバーやキャバリアのような、いわゆる「普通の犬」をイメージしていると、サイト・ハウンドの場合はそのツンデレぶりに驚くことになる。サイト・ハウンドは、野外では爆発的な運動性能を発揮するが、家ではまったり自由気ままで「猫のよう」と評される。それもまたファンシャーにとってはたまらない魅力なのだが、しつけやトレーニングにはコツがいる。根気と忍耐力も飼い主には必要だ。サイト・ハウンドを扱ったことのないトレーナーもいるので、むしろ同犬種を飼養している先輩諸氏のアドバイスを聞くようにするといい。

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ロシア原産のボルゾイ。サイト・ハウンドは、長い四肢を最大限伸ばし、猫のように背骨を丸めて体を最小限に縮ませるのを繰り返して走る。深い胸の中には、強靱な心臓と肺が収まっている。尋常じゃない心肺機能と、長い四肢としなやかな背骨。速く走るために生まれてきた肉体美の粋

 それでは次回はもうひとつのハウンド、嗅覚を使うセント・ハウンドについて紹介しよう。

◎著者プロフィール

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白石かえ
犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパン。犬猫と暮らして30数年。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせる、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

●執筆サイト: dogplus.me 犬種図鑑 ほか多数
●ブログ: バドバドサーカス
●主な著書:
『東京犬散歩ガイド』、『東京犬散歩ガイド武蔵野編』、『うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)

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