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2018.01.03

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猟犬を知る vol.1【猟の種類と犬種/鳥猟犬】

バードドッグとは。セッター、レト、スパニエル

前回、プロローグで、猟犬の全体像を解説した。それでは、ここから獲物の種類別に発達した猟犬種について4回にわたり紹介する。まずは、鳥猟犬だ。

#Activity / #Lifestyle

Author :写真=横井徹、大浦真吾、宮本廣、川道美保子、黒川喜則 文=白石かえ

鳥猟犬は意外なくらい平和主義者

 鳥猟犬は、バードドッグとも呼ばれる。鳥専門の猟犬だ。FCI(国際畜犬連盟)のカテゴリーだと、Group 7:Pointing Dogsの内イギリスとアイルランド原産の犬と、Group 8:Retrievers - Flushing Dogs - Water Dogsに入る犬たちである。

 鳥といえば、当然だが、空に飛んで逃げられる獲物。だから、鳥猟には猟銃(ガン)が必要であり、つまりハンターが必要。古くからいるサイト・ハウンド(視覚ハウンド。サルーキなど)以外の猟犬種は、現代ではハンターが鉄砲を使って猟をする。その中でもバードドッグは、自分の牙で獲物を捕らえたり、仕留めたりする仕事は一切しない。ゆえに、猟犬種ではあるが、攻撃性が必要ない。そのかわりハンターとの協調性が必要。一緒にトレーニングするのが大好きで、とにかくニンゲンの役に立ちたくて仕方ない。猟は、ハンター(飼い主)との共同作業。信頼関係が大事。飼い主の指示を待ち、「次は何しましょう!」といつもニコニコ待っているフレンドリーなタイプだ。

 だから、このチームは、家庭犬としても飼いやすい。もちろん猟犬種なので、運動量は多いし、猟欲もあるから、その点の覚悟は必要だが、性格のマイルドさ、飼い主への愛着、反抗心があまりないなど、コンパニオン(伴侶犬)としての才能も持ち合わせている。だからラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーが、欧米でも日本でもよき家庭犬として選ばれるのだ。またニンゲンが大好きだし、我慢強く、穏やかで、環境適応能力も高いことから盲導犬や介助犬などの使役犬としての仕事もできる。裏を返せば、番犬や警備犬はできない。警察犬として登録されているラブラドールやゴールデンもいるが、一括りに警察犬といってもいろいろ区分けがあり、ラブたちが得意なのは「臭気選別」(複数のニオイの中から指定されたニオイを嗅ぎ当てる)。優しいラブたちは、犯人を「襲撃」したり、「警戒・警備」(鞄を守る。盗まれそうになったら吠えて噛みつかんばかりに威嚇する)したりする仕事は向いていない。猟犬種のくせに平和主義者なのである。ついでに言うと「ソフトマウス」。獲物のカモなどを、そーっと優しくくわえる。鳥をガジガジに噛んでしまったら、ハンターは困るからバードドッグは教えられなくてもそう育つ。DNAのミラクルを感じてしまう。

 これはレトリーバーだけでなく、基本的にイギリスのポインター、セッター、スパニエルに共通した気質といってよいと思う。イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、イングリッシュ・コッカー・スパニエルなども、往々にして朗らかでフレンドリーでよきコンパニオンになる。

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ラブラドール・レトリーバー(チョコレート)。世界的にファミリードッグとしてナンバーワンの人気がある。ラブは優しく、大らか、子どもにも寛容。日本人は小型犬を選びやすいが、ラブやゴールデンの方が穏和で無駄吠えもなく家庭犬向きというのが世界の常識

イギリスは鳥猟犬の中でも専門職がある

 元々イギリスは犬種改良をするのが好きな国である。犬種改良、血統管理、繁殖管理(ブリーディング)は、貴族さまの優雅な娯楽、壮大な趣味なのだ。お金持ちだからできることである。広大な領地の中で、何日間も狩猟に興ずるような暮らし、食べ物に困らない生活、使用人が犬の世話をするような身分の人たちの崇高なホビー(趣味)だから、損得勘定なく犬種のスタンダードを純粋に守っていくことができる。それが真のブリーダーだ(つまり子犬を売って生活費を稼ぐ、というのは本物のブリーダーとはいえない)。

 そんなイギリスでは、鳥猟犬の仕事をさらに細分化して、犬に専門職を与えた。

①鳥を探してポイント、セットする。ハンターに「この先に鳥がいます!!」と伝える役
イングリッシュ・ポインター(以下、英ポインターと略す)、イングリッシュ・セッター(以下、英セッターと略す)など(子犬のときから鳥への興味が強く、誰にも教わってないのにスズメやハトに向かっていっちょ前に片足をあげてポイントをする)。イギリス以外でも、ポインター種やセッター種は、ヨーロッパに多種いる。

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実猟系のイングリッシュ・ポインターの若犬。ショー系よりも実猟系の方がさらに運動欲求が高い。その欲求が満たされないと、問題行動を起こすことはあるので、安易に鳥猟犬種を飼いたい!と思うものは考えもの。けれどもポインターのことを熟知している人にとっては、たまらなく可愛い犬種

②ハンターが鉄砲を構えたところで、ワッと鳥を驚かせ、飛び立たせる(フラッシング)させる役
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル(鉄砲が発達する前の時代は、獲物を見つけたら飛びかかってカスミ網に追い込んだりする仕事をしていた)。フラッシング・ドッグだけをしていた犬種はあまりいない。特別な役回りの犬種といえよう。

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フラッシング・ドッグ(飛び立たせ屋)の代表選手イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル。きっと彼らは馬を使った優雅な貴族スタイルのハンティングで愛用されていただろう。水辺で、カモなどの水鳥のフラッシュ(パッと驚かせて飛ばせる)もしていたせいか、泳ぐのも得意だ

③鉄砲をズドンと撃ち、獲物に当たり、草はらや湖沼の落ちた鳥を回収する(リトリーブ)する役
ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー(だからレトリーバーは泳ぐのが大好きなのだ)。ウォータードッグと言われる犬たちもここに入る。耐水性のある巻き毛のアイリッシュ・ウォーター・スパニエルなどだ。巻き毛種のウォータードッグはヨーロッパにほかにもいるが、もとはといえばプードルの血もここにつながる。回収だけが仕事の犬は、鳥猟犬種の中でも(猟犬種全部の中でも)いちばん平和的な任務といえる。だから家庭犬としても向いている。

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ラブラドール・レトリーバー(イエロー)。とにかくラブは水が好き! 泥んこの水たまりにもダイブする! ラブと暮らすなら、川、湖、海へちょくちょく行ける環境に住んでいる飼い主がいい

 このように専門分野を分けられるというのは、1度の猟に複数の役割分担をした猟犬をお伴に連れて行くということ。しかもハンターは、たいてい馬に乗っている。猟場で泥んこまみれになることはない。今夜の食料を獲りに行かねば!という生活のかかったものではなく、とても優雅なスタイルの狩猟である。こういう貴族的な狩猟の伝統文化は、日本人には馴染みがなく想像しにくいかもしれない。ただ、犬にとっては、そんな伝統や国民性の違いは関係ない。長年の犬種改良の歴史の中で、遺伝子の中に組み込まれた仕事をすることが、とにかく自然の欲求なのである。特に、ショーの血統ではなく、実猟犬の血統にとっては、猟犬の仕事をしないとストレスが溜まるのはそういうことだ。狩猟本能は、DNAの中に深く刻まれた、強い欲求なのだ。

英ポインター、英セッターは伝家の宝刀

 日本では、現在、鳥猟専門のハンターは、英ポインターや英セッターを使っている人が多い。一般社団法人全日本狩猟倶楽部(通称:全猟)の品評会のリストを見ても、鳥猟犬に関してはこの2犬種が占めている。ジャーマン・ショートヘアード・ポインターブルトン(ブリタニー・スパニエル)がなぜ品評会にいないのかちょっと不思議(参加していないだけなのだろうか?)。ただ、回収屋のレトリーバーやフラッシング係のスプリンガーだけでは猟にならないのはわかる。日本のハンターは、イギリス貴族のように役割分担のある犬を多数引き連れて、馬で狩猟に出ることはまずないだろうから。

 ともあれ日本では、鳥猟犬といえば「ポインター、セッター、ブルトン」だと言われ、おそらく英ポインター、英セッターのことだろう。彼らはトレーニングをすれば、ポイントから回収までしてくれる。3犬種とも、性格は優しく朗らかで素直なので、扱いやすいとも思える。また、なかにはアイリッシュ・セッター、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターを使っている人もいる。かたやラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーは、イギリスには実猟系の血統があり、日本でもそういう血統を謳っているのを聞いたことはあるが、ドッグスポーツやオビィディエンスで使われていても、果たして本当に実猟に出ているかは今のところ確証はない。

 余談であるが、FCIが公認している犬種は、世界で344犬種(2017年7月現在)いて、すべての犬種に登録された順にナンバーがついているのだが、FCI-No.1は英ポインターである。FCI-No.2は英セッター。数ある犬種の中で、イギリスを代表するテリア種やイギリスの国犬とされるブルドッグよりも先に、ガンドッグの英ポインターと英セッターが最初に登録されていることに驚きと感銘を受ける。やはりそれだけ猟犬というものは、誇りであり、いないと困る存在だったのではないかと思う。ちなみに、世界最初のドッグショー(1859年。イギリス・ニューカッスル)に出陳された犬も、英ポインターと英セッターだ。そもそも本来のドッグショーの目的は、見かけの美しさだけでなく、猟犬としての優れた気質を純血種として残すためのものである。

 ちなみに、今もドイツなどコンチネンタル(ヨーロッパ大陸側)では猟犬としての気質を重視した繁殖管理が行われているが、イギリスやアメリカ、日本などでは外貌重視になっているのは否めない。猟犬たるもの、狩猟能力の高さを重視するのは当然と思える。しかし一方、狩猟本能を抑え、家庭犬として飼いやすいような気質に犬種改良することはいけないことなのか。これも是非が問われるところであるが、答えはひとつではないように思う。

 特にこの鳥猟犬チームは、素直で、ニンゲンが好きで、共同作業が好き。そして攻撃心、反抗心が低い。数ある猟犬種の中で、最も家庭犬としての才覚がある犬たちといえる。ラブラドール・レトリーバーがハトを見ても興奮せずに都会で盲導犬の仕事ができるのは、鳥猟犬種としての欲求よりも、ニンゲンの役に立ちたい、褒めてもらえたらうれしいという気持ちが優先できるように、より穏和で、電車の音にもビビらないような環境適応能力の高い犬に改良したおかげ。時代によって、犬に期待する仕事、役割が変化する一例といえる。だけど、そうはいっても今でもラブラドールは、野山を走り、プールや湖に飛び込むことが大好きだ。それは回収屋としての血がそうさせるのである。

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ショー系のアイリッシュ・セッター(オス。6歳当時)。朗らかで、脳天気で、素直で、攻撃心がなく、ニンゲンが大好き! ただし、正しい気質を守っている血統ならば、である。そのためにも外貌だけでなく、性格、気質を重視した繁殖管理が重要だ

狩猟本能を最大限発揮させて犬の幸せを確保

 さて、日本では珍しく、3代続けて、アイリッシュ・セッターを飼い、鳥猟をしている趣味のハンター歴50年の方に、鳥猟犬とともに行う狩猟の醍醐味を聞いてみた。すると、とにかく「猟芸」が素晴らしいのだと言う。

 鳥を見つけたらセット(フセのような姿勢)をしたあと、ジリジリと低姿勢のまま匍匐前進し、ハンター(飼い主)が撃ちやすい方向に回り込んで(この猟芸を「ラウンド」とか「ラウンド芸」と言うそうだ)、鳥を飛び立たせる。

 

「本当に猟犬の猟芸は素晴らしいんだよ。しかもセッターが面白いのは、1年ごとに上手になること。まるで小学生みたいに、5年生より6年生と年を追うごとに成長していくんだ」と、とてもうれしそうに語ってくれた。

 相棒の、毎年の成長を喜ぶ気持ちが伝わってくる。

「鳥のニオイを確実にとっているときは、セッターはしっぽが真横にビーンと伸びるんだ。ポインターだと、しっぽが90度に立つ。犬種によって違うのも面白いよ。そしてセッターはね、風向きが変わったりして鳥のニオイがとれなくなると(見失うと)、しっぽの先を小さく振り始める。そんな風に、状況に応じて、しっぽ、耳、表情、動きなどがみるみる変わる。猟野で放しているとき、そうやって犬を観察するのがとても楽しいんだ」

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実猟系のアイリッシュ・セッター(メス。10歳)。この犬種を使って鳥猟をしている人は日本ではほとんどいないそうだが、セットも回収もお手の物。キジをふわっとソフトマウスでくわえているのがわかる。鳥を回収してきて、ハンター(飼い主)に褒めてもらえるのが嬉しい。これぞバードドッグ。猟犬訓練と愛犬への愛着のない人は、猟犬を使った狩猟をすべきではない

 犬の行動をよく見て、犬の気持ちを汲み取る。そして、飼い主と愛犬が同じ目的に向かって、一緒に頑張る。その運命共同体な感じ。これは、オビィディエンスやドッグスポーツなどと同じ悦びではないか。飼い主との絆を強める共同作業だ。あ、違う、逆か。狩猟犬や牧羊犬のワーカホリック(仕事中毒)のストレスを転嫁させるためのゲームが、ドッグスポーツだった。だから狩猟ゲームこそが本家本元なのだ。

「僕は犬と遊ぶのが好きだから(犬と猟をしている)。訓練もするけれど、基本は犬の本能に任せている。猟場では犬が、僕に合わせてくれますよ。なにしろ僕が犬に合わせることはできないから(笑)」

 山野では、犬の方が身体能力や獲物を見つける能力が上。犬に対する敬意を感じた。猟犬がいちばん本能的に悦ぶ遊び(ゲーム)こそ、狩猟。

「猟犬は外に出てナンボの犬。そういうのがわかっていて、飼った方がいい」

 鳥猟犬を愛犬に選ぶなら、狩猟免許は取らないまでも、最低限この基本原則は忘れないようにしたい。

◎著者プロフィール

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白石かえ
犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパン。犬猫と暮らして30数年。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせる、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

●執筆サイト: dogplus.me 犬種図鑑 ほか多数
●ブログ: バドバドサーカス
●主な著書:
『東京犬散歩ガイド』、『東京犬散歩ガイド武蔵野編』、『うちの犬 あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』(構成・文)




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