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2017.12.19

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オーストラリアの犬事情 vol.3

ここが変だよ、日本の散歩!

今回は、オーストラリアに住む私が、一人の飼い主として思った「都会における犬の散歩の不思議なこと」についてまとめてみた。国の違いは文化の違いである。場所が変わればその暮らし方が違って当たり前。しかし同じ犬という動物でありながら、「その扱い」に対して、これほど日本とオーストラリアとでギャップがあることに私は驚いている。これは、私から日本に住む皆さんのへの質問状でもある。

#Activity / #Lifestyle

Author :文・写真=五十嵐廣幸 協力=藤田りか子、ガニング亜紀

よりよい暮らしのために?

 私は東京都の中野区という場所で生まれ育った。小学生のときにマルチーズを飼い始め、雨の日には屋根のある商店街の中で散歩をした。散歩道は決して広くはなかったが、車道と歩道の間にはツツジの植え込みがあり、犬はそこでもオシッコをし、ウンチをした。ウンチは毎回ビニール袋に入れて持ち帰っていたので、私は散歩をしていて褒められた思い出はあるが、文句を言われた記憶はない。愛犬との散歩を約14 年間続けながらその土地で過ごした。しかしそんな犬公方の街でも、現在では以前と同じように散歩はできないようである。中野区役所のWEBサイトには、以下のように記されていた。

散歩時のマナーについて
・トイレが終わってから、散歩に連れて行きましょう 犬は訓練をすれば、家の中で上手にトイレをすることができます。トイレのために犬の散歩に行くのでなく、家の中でトイレをしたご褒美に散歩に行くようにしましょう。

 正直に言おう。この文言はドッグトレーナーとしても、また私の個人的な意見でも、まったくナンセンスである。

 まず、「犬の散歩」は家で排泄をした対価としてあるものではなく、犬が犬として生きる上で肉体的、精神的に毎日必要とする行為である。しかしここに記載されているのは、「もし犬がうまく犬用のトイレで排泄しなかった場合は、散歩に連れて行かないで良いでしょう」とも受け取れるものだ。それは私たち人間で例えるならば、「家でうまくオシッコできなかったら、遊びに行ってはダメ」というような取引のように感じる。皆さんはどう思うだろうか?

 そしてもう一つ、不思議なのが「トイレが終わってから、散歩に連れて行きましょう」だ。散歩=排泄だけではないことは、docdogの読者の皆さんなら知っているはずだ。散歩は犬にとって運動であり、冒険、遊び、犬同士のコミュニケーション、会話、変わったことがないか?という見張り、情報交換、肉体的、精神的なストレス発散などたくさんの役割がある。そして、散歩中の排泄は犬にとって大事な行動・コミュニケーションのひとつでもあるのだ。にもかかわらず、散歩で排泄してはいけないとあるのは実に犬の行動を無視したルールだと思う。

 調べると「トイレが終わってから、散歩に連れて行きましょう」というルールは、東京23区の内、中野区を含めた17の区が掲げている。

*参考までに、各区の当該文言記載ページのリンクをまとめておきます。
目黒区杉並区練馬区渋谷区大田区文京区足立区葛飾区江東区世田谷区板橋区千代田区北区新宿区品川区
(※品川区は、東京都福祉保健局「犬の飼い主の皆様へ」のリンクとなっている)

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メルボルンの児童用具のある公園。犬もリードをつけて入ることができる。左に見えるゴミ箱にはウンチ袋が備え付けられている

 また、上記以外の6区のWEBサイトには以下のように書いてあった。
(※記載文言は、各区HPの表記を引用しています)

▼墨田区
オシッコをさせる場所も考えて下さい。他人の家の軒先や、オシッコで真っ黒になった電信柱などは、臭いが残って迷惑になります。

中央区
1.ふんは必ず飼い主が始末しましょう。
2.犬が外でふんをした場合は、飼い主が必ず家庭に持ち帰り、トイレに流して、始末した袋や紙などはゴミとしてきちんと処分しましょう。

港区
散歩のときはフンを入れる袋を用意し、フンは自宅に持ち帰って捨てましょう。おしっこをした時はペットシーツで吸い取り水を流すなどの配慮も必要です。

台東区
ふんは飼い主が必ず持ち帰り、自宅で処分し、尿は水で流すなどの配慮をしましょう。排せつは、ほかの人の迷惑にならない場所でさせましょう。しつけ次第では、外で 排せつをせず、自宅の一定の場所(専用のトイレ)で排せつできるようになります。

▼以下2区はトイレに関しての記述は見つけられず
江戸川区豊島区

(2017年12月18日時点、著者調べ)

 上記4区の記載内容は、当然理解できる。一部の飼い主が糞を取らないなどのマナー違反により、マナーを守っている多くの飼い主も周りから冷たい目で見られ、犬が歩いているだけなのに嫌な思い、肩身の狭い思いもする。また、犬を飼わない、犬の糞尿問題で悩む方がいることも事実である。私たち飼い主は、愛犬の糞をどんな状況、環境でも取らなければいけないし、人様の家や車に犬のおしっこをすることも避けるべきだと思う。しかし、動物である以上下痢であったり、排泄場所が選べないことだってあるはずだと思うのだが......。

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左側半分はアスファルト、右側半分は砂、土があり樹木が植えられているメルボルンの歩道。犬たちは匂いを嗅ぎ、土の上での自然な排泄ができる

犬の排泄の意味

 犬にとっての排泄とはなんだろうか。本来動物は、自分の巣穴に排泄はしたくないはずである。排泄すればその匂いから敵に見つかりやすくなるからだ。だから「安心して寝られる場所」は清潔にしたいというのが、犬の本能だといえる。そして犬にとって排泄という行為はテリトリーの維持や、情報交換でもあることは多くの人が知っている。つまり、犬の排泄という行為は、人間の排泄とは全く違うことなのだ。しかし東京都福祉保健局や区役所が記している「トイレが終わってから、散歩に連れて行きましょう」には、この犬の本能が汲み取られておらず、人間の都合だけで決めてしまったものに思えるのだ。

自宅のトイレに対する疑問

「散歩前に自宅のトイレで排泄」にも個人的にいろいろ思うところがある。

 先述の「足立区のwebサイト」では、「トイレはご自宅で済ませることが基本です。犬も自宅でトイレをさせるしつけを行いましょう」とある。

 この基本とは誰の目線での基本なのだろうか?足立区の犬の基本なのか?それとも犬という動物の基本行動として、ヒールポジションと同じような位置付けで求められる行動なのであろうか?

 犬は賢い動物だ。教えればトイレシートの上、自宅の庭などで排泄をすることができるはずだ。しかし、繰り返すが犬の排泄は本能としての必要な行動である。だから特にオス犬などは少しずつオシッコをしてその縄張りを確認しながら散歩を続ける。たとえ散歩始めに溜め込んでいたおしっこを沢山しても、人間のように全部は出し切ることはせず、その先にある魅力的な数カ所、気になった場所でオシッコをしたい動物なのだ。しかしこれが、自宅のトイレと決めた場所や、トイレシートの上だけでしか排泄が許されないのは、「鳥に対して飛ぶな」というようなものと私は感じるのだ。

 あえて言おう「日本人」はどこまで人間だけの都合で、犬などの他の動物までもを支配、コントロールしたいのだろうか。

私が思う、東京での不思議な犬の飼い方

 排泄の仕方だけでなく、「区のオススメの飼い方」の記述には、もう驚きを通り越して呆れてしまう。

▼江東区
・人に危険がないようにつないで飼うか、囲いの中で飼いましょう。

 犬を飼うことが外という前提であるのだろうか?動物先進国に於いて、犬は室内飼いであるのはいうまでもない。もちろんそれは犬種によって外で飼うことが適している犬もいるが、その為にはその犬に必要な「条件」を揃えなければ、外で飼うことはできない。またオーストラリアでいえば犬を繋いで飼うこと、檻などに入れっぱなしで飼うことは虐待とみなされるといえる。

▼中野区
・家の中ではケージに入れましょう
 家の中で犬を放し飼いにしている人がいますが、そうすると家の周りを歩く人たちに反応して吠えるようになってしまいます。犬と遊んだりするとき以外は、柵などで囲ったケージの中に入れておいてあげましょう。犬も自分のテリトリーができて、安心していられます。

 この記述はあまりにも犬に対しての理解が薄いように感じる。家の中でケージに入れる?それは一体なんのためにだろうか?文書にあるように家の周りを歩く人に反応して吠えるのであれば、吠え続けることを止めるトレーニングの仕方や、犬の縄張り意識をカットするためにカーテンで目隠しすること、または犬のアグレッションについての記述をするほうが根本的な解決方法になるはずだ。ケージに犬を入れるのは、ただの「臭いものには蓋」でしかない。またここで記述されているケージの使い方は、クレートや犬小屋の使い方と履き違えているようにも思う。クレートや犬小屋は犬にとって安全を意味する巣穴であるが、それは犬が寝るときや不安を感じたときに犬が自ら入る安全地帯として備えるべきものだ。しかしここで記載されているように、遊ぶ時以外はケージに入れることとするのは、犬に疎外感、懲罰を与える場所としてしか存在しないように個人的に思っている。

トイレシートを考える

 トイレシートに関しては、日本に住んでいる読者の方のほうが私より詳しいと思う。これはいわゆる赤ちゃんのオムツみたいな構造である。オシッコはトイレシートに浸透するが、床には届かないで匂いも抑えることができる。

 日本のトイレシートの使い方は、他の国の使い方と異なるようにも思う。私のトイレシートの役割は、子犬のトイレトレーニングのため、もしくは老犬用に使うものであった。つまり子犬にトイレはここだよ。と教えるアイテムがトイレシートだと思っていたが、東京23区のルールのように、散歩で犬の排泄を禁止されている実情があると、トイレシートは必需品だろう。しかしどう考えても、それらは環境に対して優しくないような気がする。つまり犬の寿命である15年間のあいだ、数枚のシートを東京都に住んでいる犬、519,061頭(2015年の東京都の登録頭数)が毎日使えば、ゴミは増えるばかりではないだろうか?

 もし自宅に庭がなく、トイレシートもなかったらあなたはどうやって犬に排泄をさせるのだろうか?

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オーストラリアでは「トレーニング用」として売られているトイレシート

オーストラリア、スウェーデン、アメリカの散歩、排泄について

 オーストラリアといっても日本の20倍もの国土があるので、ここでの記述が全てと思わないでいただきたいが、私が知る限りトイレシートなるものを使っている人は多くない。また、私自身はトイレシートを使ったことがない。例えば今の愛犬の場合、基本的には、朝晩合わせて3時間から4時間の散歩の間でほとんどの排泄を済ませてしまう。犬が下痢のときや、たくさん水を飲んだときなどは、ドアの前に座り込んだり、鼻で鳴いたりすることで「トイレに行きたい」と私に知らせてくれる。私は夜中でも明け方でもドアを開ければ、犬は勝手に外に行って庭の好きな場所で排泄をして戻ってくる。また就寝前に犬と庭に行き、私のコマンドで犬は排泄をすることもできる。成犬のほとんどは自分の巣穴である室内でオシッコをしたくないのはすでに記載の通り。だから、室内で漏らしてしまうのは飼い主が愛犬のシグナルに気がつかなかった、もしくは散歩に連れて行かないという原因があると思うのだ。

【スウェーデンの場合】
 犬友達でもある、ドッグライターの藤田りか子さんにスウェーデンの犬のトイレ事情を尋ねてみた。

「スウェーデンでは、誰もトイレシートの存在を知らないと思います。確か、ブリーダーの一人が、トイレシートをパピーの柵の中に敷いていたと思いましたが、それでも、使う人はほとんどおらず、普及率は限りなく低いはずです。犬の排泄は散歩時にさせるのが当たり前です。ウンチは拾うのが当然で、こちらはきちんとしています」

 犬を飼うこと、自然や野生動物との関係も含めストイックなスウェーデンでさえも、犬の外の排泄に対して東京都のようなルールはないとのことだ。

【メルボルンのアパートでの飼育の場合】
 私の友人Kさんは、メルボルンのシティど真ん中で犬と猫と暮らしている。トイレシートを使わないで「犬はどのようにして家で排泄をしているか?」と聞いてみた。

「留守中、室内で待っている犬は、ドッグドアを通して自由に外のベランダに行き来ができます。そして、屋外に設置してあるdoggy wee patchと呼ばれる人工芝で作られたトイレで排泄します」

 オシッコは人口芝を通って箱内にあるトレイに収まり始末ができる。ウンチはテッシュで取りトイレに流す。ということらしい。

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【アメリカ・カリフォルニア州の場合】
 アメリカ・カリフォルニア州に住むドッグライターのガニング亜紀さんにも、同様に質問してみた。

「LAには犬の屋外での排泄を禁止する規則やマナーを問われることもありませんが、よそ様の芝生ではさせないなどの気配りはありますね。オシッコシートはペット用品店などで普通に売っていますが、日本のように散歩に持ち歩くということはありません。アパートや高層住宅の人は、日本の人と同じようにシートでのトイレをしつけします。  うちの犬は加齢と避妊手術の後遺症で寝ている時に漏らしたりするので、寝る場所のシーツやタオルの下に防水シートとして使ったりもしています。でも、アメリカ人的に家の中に常にトイレシートが広げられていることに抵抗があるという人も多く、犬にとってももうちょっと自然に近い形でということから、メルボルンの写真と同じタイプの室内トイレも人気があるようです。アパートなどではこういうのをポーチに置いたりもしますね」

 上記写真のタイプなら、使い捨てのトイレシートより排泄の度にゴミがでることもないのではないだろうか?一つのアイディアとして考えてもらいたい。もちろん日本のペット産業は世界トップレベルだ。良いもの売れるものはどんどん出てくるだろう。しかし、犬の行動を人間の勝手な都合に合わせるということを、私は快く思えない。

 さて、そのトイレシートから尿や糞がはみ出したからといって犬を叱る、部屋が汚れたことで嘆く飼い主もいると聞く。犬の本能である排泄という行為をトイレシートのような決まった狭い場所で毎回させることは、犬本来の行動ではないことを、まず飼い主自身が理解してほしい。庭や外にある土の上で排泄することが正しい犬の行動であり健全であるのだから。

 もちろん都市部の住宅事情、飼い主の家に庭がないことの意見はよく分かる。しかしだ、あなたの住宅事情を理由に、犬の大事な排泄という本能を人間と同じように「決まった場所ですること」とあなたが押し付けてしまうことは、犬の気持ちを無視した行為であって先述の区役所の記述と何も変わらないことだ。だからせめて、犬がその狭い範囲での排泄を失敗しても、犬を叱らないでもらいたい。本当にあなたが家の中を汚されたくなければ、犬を叱るのではなく庭がある場所に引っ越すべきなのだ。

 都市部でも環境に悪くなく、それでいて犬が正しく排泄することができる方法を手に入れたいと願うのは私だけではないはずだ。


 私の住むオーストラリアだけでなくアメリカ、そしてスウェーデンの友人から見ても、東京都のこの「散歩時に排泄はさせないで」というルールはとても不思議に思える。もちろんそこにはコンクリートやアスファルトで敷き詰められた地面、密集した住宅地、潔癖すぎる日本人の感覚があるのかもしれない。

 しかしだからこそ、東京や都市部に住む飼い主の方には、犬の本能をしっかりと理解して、大切にその命と暮らしてもらいたい。そして、これから少しでも犬が健全に暮らせる街を作って欲しい。

 2020年には世界中の国から多くの人が東京に訪れるだろう。綺麗な東京の街をアピールすることは必要であるが、東京の飼い主が地面のオシッコをシートで拭き取って歩いている姿や、犬の排泄をさせたくない街「TOKYO」は各国の人々の目にどのように映るのだろうか。

◎プロフィール

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五十嵐廣幸

オーストラリア在住。元dog actuallyライター。週末は愛犬と一緒にSheep Herding(羊追い)をして過ごす。サザンオールスターズ、クレイジーケンバンド、そして動物を愛す。犬との生活で一番大切にしているのは、犬が犬として生きるためのクオリティ・オブ・ライフ。

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