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2017.12.12

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オーストラリアの犬事情 vol.2

動物の自由と守ることの意味

日本は猫ブームらしい。散歩、訓練、騒音、居住スペースなどの理由から、「犬」を諦め「猫」を選ぶ人が多いと聞く。猫は大きな声で吠えることをしない。しかし猫は爪を研ぎ、木に登り、壁をつたって隣近所で遊ぶなどの「犬と違う行動をする動物」と理解して飼うべきだ。犬や他の動物と比較し「○○より楽だから」という理由で手にすることはその命に対して失礼である。
今回はオーストラリアのある飼い主さんの「犬と猫との暮らし」を通してその動物に必要な環境を考えてもらいたい。

#Activity / #Lifestyle

Author :写真・文=五十嵐廣幸

地域によって違う飼い方のルール

 オーストラリアの空港は世界一厳しいと言われる。それはオーストラリアの環境、野生動物や酪農業、そして我々が飼っているペットなどへの影響がある、食品や土産物など国内への持ち込みが厳しく規制されているからだ。例えば牧場や田畑などで履いた靴は入国時に申請し、検査を受けなければならない。新品の長靴でも検査官に所持を告げる必要がある。また豚脂などが使われているカレールー、おにぎりに入っているイクラなどの食品の持ち込みも禁止されている。これらはすべて「オーストラリアの環境を守るため」にあるのだ。

 国内に於いてもこの厳しさは同様で、シドニーのあるニューサウスウェールズ州とメルボルンが州都のビクトリア州の間は飛行機で約1時間半の距離であるが、「生蜂蜜を他の州に持ち込むことはできない」これはオーストラリアにある6つの州と2つの特別地域の人々が「その地域の環境を保つため」に努力していると言える。

 犬に関しても、糞を取らないこと、オンリード区域でのリードを外しての散歩の禁止は当然であるが、犬が脱走したことも「飼い主としての義務を怠った」として罰金対象である。海水浴客が多くなる夏は、犬が入れるビーチの区域と時間帯が細かく指定される。毎年更新される犬登録届けにはマイクロチップの番号は必須記入事項であるし、Basic Obedience(基本的な服従訓練)の習得有無、去勢、避妊の申告によって登録費用が違う場合がある。ドッグスクール、多くの犬が集まるアクティビティの大会などに参加するには、毎年必要な予防接種証明書の提示も必要だ。

 また、猫に関して、鳥などの野生動物を獲ることを防ぐために「早朝と夕刻以降、猫を室外に出してはいけない」というルールがあるのは興味深い。これらの決まりや罰金額はその自治体によって異なる。

オーストラリアにみる猫の飼い方

 私の友人ダイさんは2頭のドーベルマン、そして3匹のベンガル猫の飼い主だ。家には猫専用の部屋があり、そこから伸びた鉄製のケージはそのまま屋外の庭へと続いている。そこは野球やゴルフで使われるネットで守られている猫専用の庭。猫はそのネットの外に出ることはない。また他の動物がネット内に侵入することもできない。庭には猫がいつでも自由に遊べる倒木や砂場があり、ハシゴを登った頂上に設置してあるベッドで寝ることもできる。この場所はまさに動物園そのものだ。

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部屋の一つは上記の写真のように外へのアクセス可能。もう一つの部屋にはベッドが置かれていて猫たちは安心してそこで眠ることができる

「大事なことは環境を守ること、そして猫の行動を尊重しながら安全を確保すること」とダイさんは言う。

 ベンガル猫は野生のヤマネコと短毛種のイエネコの交配に成功して作られ、運動量も多く遊びが大好きな猫だ。そして視覚、聴覚、嗅覚に優れておりハンティングを得意とする。つまり、この猫が外で遊んでいれば、野鳥、木々で暮らしている野生のポッサムやモモンガなどを獲ってしまう可能性は非常に高い。だからといって"猫を室内から出さない"のは、猫にストレスを与えることになり、猫という生き物を尊重していることにはならない。

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「外で遊ぶことは猫にとって楽しみなこと、必要なことでもあるけれど、それは同時に危険なことでもあります」とダイさんは続けて教えてくれた。

 猫は、一度外に出たらどこいるのかを把握するのが難しい。もしかしたらペンキ塗りたての壁を登ってしまうかもしれない。隣家のガレージ内に入り込んで、閉じ込められてしまう可能性もある。隣近所の方が育てている家庭菜園を荒らしてしまうこと、糞尿で近隣住民に迷惑をかけることも考えられる。猫に必要な運動や十分な行動範囲を提供しながら猫が安全に過ごすことを考えれば、猫専用の庭をつくることが必要だったという。

「ドーベルマンと猫たちはとっても仲が良いけど、犬はこの中には入れないルールなの」

 猫専用の2つの部屋と、ネットで区切られた庭はベンガル猫たちにとって安全が保障された場所になっている。ダイさんの猫たちは、天気の良い日は好きな時に外で遊び、日向ぼっこをし、風を感じ、木に登り、土の上を歩いて過ごす。

 また、猫の部屋とダイさんや犬たちが過ごすリビングスペースの間にはキャットドアが取り付けられており、猫は自分たちの意思でいつでもそこを行き来できる。昼寝に飽きた雄猫ローレンスが、犬たちの前にふらーっと遊びにきた。犬のオモチャを横取りして、「僕が持ってるよ?」と見せつけるように遊ぶ。そして遊び飽きた猫はソファーの上で飼い主に撫でられ甘えて過ごし、犬は床で昼寝をする。犬と猫がお互いの場所を守り、共有し、安心して寝ることができる場所が、そこにはあった。

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交通事故は殺処分の3倍

 日本の猫たちが住んでいる環境、「ふらっとひとり散歩」が見られる風景は微笑ましく思うこともある。しかしその気ままさ、自由さと引き換えに猫の交通事故がとても多いことをご存知だろうか?

 環境省自然環境局の発表によると、平成28年度の「犬・猫の負傷動物の収容数」は以下のとおりだ。

●東京都:犬21頭・猫366匹・その他1匹 合計388件/内殺処分数309件
●大阪府:犬7頭・猫221匹・その他2匹 合計230件/内殺処分数217件
●福岡県:犬64頭・猫322匹 合計386件/内殺処分数307件

また市町村で猫の負傷収容数で多いのが、

○静岡市:犬1頭・猫477匹・その他24匹 合計520件/内殺処分数112件
○横浜市:犬4頭・ 猫500匹・その他8匹 合計512件/内殺処分数348件

【参考】
◎全 国:犬981頭・ 猫11,475匹・その他243匹 合計12,699件/内殺処分数8,468件

*出典:犬・猫の負傷動物の収容状況(都道府県・指定都市・中核市別) [PDF 226KB]

 また、猫の交通事故死数について、わかりやすい数値を大分市が公表(出典:大分市猫の適正飼養・管理ガイドライン)していたのでこちらも紹介しておこう。少し古い数値だが、平成22年度から平成25年度までの猫の交通事故などによる死体の回収数は、殺処分数の約3倍!!(平成25年の猫の殺処分数=725、交通事故などによる死体の回収数=2,631)だ。この数字は、正直驚かされた。

 現在、保護犬や保護猫の関心はとても強く、多くの人が殺処分ゼロを目標にして活動している。しかし、地域によってはその廃止を願う「殺処分」の3倍もの猫の命が、毎年交通事故で奪われていることを飼い主だけでなく我々は知るべきである。

命を守ること、暮らすこと

 飼育のスタイルは国の文化そのものだ。下町を歩く猫に、私たちは歩みを止める。港で採れた魚のおこぼれを貰おうとする姿に、可愛らしさを感じる。平安時代末期の絵巻物であり国宝の『信貴山縁起』に猫が描かれているように、彼らは昔から屋外をのんびり歩き、心地よい場所を見つけては昼寝をして過ごしていたはずだ。しかし、猫が昔と同じように、この現代でのんびり歩くには、「生まれくる猫を殺処分にしないための去勢や避妊」「事故や虐待を減らすこと」といった、命を守ることが基本条件ではないだろうか?

 これは我々、犬の飼い主にも言えることである。オーストラリアには犬と人が一緒に入れる海や川がある。多くの人たちがピクニックしている場所で、リードをしていないドーベルマンや、アイリッシュウルフハウンドの散歩ができる。小さな子どもさえも「あなたの犬触ってもいいですか?」と飼い主に犬を撫でる許可を求める文化を持っている。それらはこの国の人たちが犬と暮らしやすい環境を考え、実行した結果、獲得したものだといえる。飼い主の多くがレッスンを受けて安全に散歩できる技術を身につけること、幼児に犬の触り方を学校や保護者が教え監督したことによって、私たちの愛する犬が自分たちの地域、国で嫌われないための環境を保ってきたのだ。

 今回の飼い方で例えたオーストラリアと日本では、文化や考え方を背景としたそのライフスタイルは大きく異なる。日本が他の国をそっくり真似る必要はない。日本に必要なのは日本人が自ら考えたその価値観のもとで、犬や猫などの動物だけでなく、多くの野生動物、森や林に住む命、環境を守る方法を作り上げていくことだ。大事なのは、一人ひとりが、その動物の行動を正しく理解しようとすること、必要な暮らしを提供しようと努力することではないだろうか?

「犬とくらべて猫のほうが楽だから飼おう」という安易な考えは、とてもナンセンスだ。飼い主は手を抜いて動物を飼うべきではない。その動物に対してベストを尽くし、常に理想と現実の差を埋めるため、勉強と努力をする責任があるのだから。

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◎プロフィール

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五十嵐廣幸

オーストラリア在住。元dog actuallyライター。週末は愛犬と一緒にSheep Herding(羊追い)をして過ごす。サザンオールスターズ、クレイジーケンバンド、そして動物を愛す。犬との生活で一番大切にしているのは、犬が犬として生きるためのクオリティ・オブ・ライフ。

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