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2017.11.02

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犬の飼い主に求められること vol.7

なぜあなたの犬は戻ってこないのか? ~呼び戻しを考える~

何度呼んでも戻ってこない犬。おいでー、ご飯だよー、もう帰っちゃうよー。そして呼ぶことに疲れた飼い主は、しまいに腹を立て始める。なんであなたの犬は戻ってこないのか?すぐに戻ってきてもらうには?犬のおかれた環境、呼び戻しの技術、呼び戻しには何が必要なのだろう?

#Activity / #Lifestyle

Author :写真=飯岡澄子、sarii、山脇 真  文=五十嵐廣幸

呼び戻しってなに?

 呼び戻し(recall)とは、「飼い主が犬を呼んだ時に、その犬がすぐに飼い主の足元まで戻ってくる」動作で、犬のBasic Obedience(基本の服従訓練)の中でも最も重要な行為の一つである。オーストラリアのドッグクラブやドッグスクールの初級クラスでは、「オフリード状態で待っている犬が、最低5メートル先にいる飼い主の"come"の1回のコマンドで、まっすぐ戻り、飼い主の目の前で座ること」が必須とされている。これができないと、その先のレベルには進めないのだ。

 同じ基本の服従訓練である、ソーシャルウォークや、スワレ、フセなどの指示は飼い主がリードを持っていることもあり、犬が実行できない場合はリードや手を使ってやり方を犬に伝えることができる。しかし呼び戻しは、距離が短い場合、ロングリードを使っている場合、オフリードの場合のいずれも、飼い主がその失敗をすぐに矯正させることが難しい。また犬が戻ってこない、その場から脱走してしまうことがあると、それ以降「またあるんじゃないか?」と飼い主はストレスを感じてリードを放すことを躊躇したり、心配したりと犬も飼い主も散歩や遊びを「十分に楽しめない」状態になってしまう。

 しかしだ、呼び戻しが苦手な飼い主は、逆に明るい方を考えてほしい。呼び戻しが、ドッグクラブの初級クラスにあるということは、どんな犬種、どんな犬でも実行できるという意味でもあるはず!散歩で遠く離れた犬が"come"というコマンドひとつで、あなたの元にすぐに戻ってくれば、犬とあなたの行動範囲はグッと広がるのではないだろうか?リードなしの犬は、人間が追いつくこともできないスピードと長い距離を疾走することもできる。自由にボールを追いかけられる。リードに邪魔されないで他の犬と遊ぶこと、匂いを嗅ぎまわること、水の中にだって自由に入ることだって可能なのだ。だから呼び戻しというのは、訓練としてとても大切であるのと同時に、犬の自由や飼い主の安心にもつながるのだ。

間違ったやり方から学ぶ。なぜその犬は戻ってこないのか?

呼び戻し「失敗の光景」をあげてみる。

1. 何度呼んでも戻ってこない犬に飼い主が腹を立て、怒鳴り声をあげ怒りながら犬を呼び続ける
2. ごはんだよー、おいでー、come here! 帰っちゃうよー、置いていっちゃうよー、バイバーイと「戻る」に当たる言葉や犬が興味を持ちそうな言葉を並べる
3. 名前だけを呼んでいる
4. トリーツを見せびらかせて呼んでいる

 これらは、私が住むオーストラリアのオフリード可能な公園で実際にみられる「戻ってこない犬の飼い主」の呼び戻し方法であるが、同じことは日本でもみられると思う。「呼び戻しが苦手だなー」と思う方は、なぜ上記のことが「失敗の原因」「犬がすぐに戻ってこない」に繋がるのかを考えてもらいたい。そこに気がつけば、犬は案外すんなり戻ってくることが多いのだ。

 上記1.の「犬に腹を立てる、怒鳴り声を出す」は一番やってはいけないことだ。自分に照らし合わせてもらいたい。奥さんや恋人が、すごい剣幕で怒鳴りながら、あなたこっちに来なさい!!!!と叫びまくっていたら......あなたは「気持ち良くそこに行くこと」ができるだろうか?
怒られるのかな?叩かれるんじゃないか?痛い思いをするんじゃないか?罰として高価なハンドバッグを買わないといけないんじゃないか?そんな事を考えながら、人間は「戻らなかったら、その後もっとひどい状況になるから」と"嫌々、仕方なくそこに向かう"だろう。

 犬が飼い主の威圧的な感情や声から感じとるのは、「そこに戻っても楽しいことがない」「痛い思いをするかも」「叩かれるかもしれない」「また叱られる」などのネガティブなことばかりだ。人間のように「戻らなかったその後のこと」よりも一番手前にある、「恐怖から逃れること」「身を守ること」を優先するのは、動物として当然だろう。これは獣医に行くことに似ているかもしれない。つまり治療を受ければ痛みが減るが、その診察や治療過程での「痛み」を知っている犬は、獣医に行くことを怖がり、診察室には入りたがらないこともある。犬の今の気持ちを理解すれば、犬とのコミュニケーションはもっとスムースになる。

 また、最終的に犬が戻ってきたのに、そこで「今まで戻ってこなかった」ことに対して怒るのも、絶対にやってはいけないことだ。イメージしてもらいたい。犬が飼い主の元に戻った(どんなに長い時間がかかったとしても)。そうしたら飼い主から怒られた。ダメな犬、言うことを聞かない犬だと言われた。「飼い主がcomeって呼んだからボクは戻ったのに、なんでボクを叱るのさ?」「戻って叱られるならもうこれからは、呼ばれても行かないよ」犬はそう思う。これは犬が好ましくない動作をして「それはやってはイケナイを伝える時」にも起こしやすい間違いでもある。例えば、犬がベンチに座っている人の膝に飛び乗った。すこし離れた所にいる飼い主は犬を呼び、その指示で戻ってきた犬に「飛び乗ることはダメ」と叱る。しかし犬は「呼ばれて戻ることがダメ」だと認識してしまう。

 2.の「たくさんの種類の言葉を使う」。これは、フセや、オスワリなどにも同じことが言える。一つの動作に対して使うコマンドは、一つに統一する方が犬には分かりやすい。呼び戻しの訓練や、練習でcomeを使ったのであれば、コマンドはcomeで貫くべきだろう。そこに「ここ」というhereをつけたりすると飼い主の発する声、音程やリズムが変化して犬は混乱を起こしやすい。犬には聞き取りやすく、短くて分かりやすい「ひとつ」の言葉でクリアに届かせることがよいだろう。もし「ご飯だよー」という言葉を使って練習し、その言葉でしか戻れないなら、常にあなたの呼び戻しのコマンドの掛け声は「ご飯だよー」でいいと思う。しかし、家で餌をあげるときに「ご飯だよー」は使えないことになる。

 3.「名前だけを呼んでいる」というのも見かけるが、名前を呼ばれてもその後、実際なにをしたらいいの?と人間の私自身でも思う。私は犬と接している時、アテンションとしてまず犬の名前を呼ぶ。彼女は私の顔を見て、「ハイなんでしょ?」と集中する。そこからコマンドである「レッツゴー」を発して、愛犬にソーシャルウォークだよ。と伝える。「ヒール」という言葉でそれがヒールウォークだよと伝える。私は名前を呼ぶことは「自分がこれからコマンドを出しますよ、集中してください」というきっかけに使っている。またタロウという犬に「君」をつけて呼んでいる場合、「君:クン」と「come:カム」は似ていて紛らわしい。君をつけて呼ぶのであれば、comeをコマンドとして使わない方が良いだろう。それは、Noを使うならGoを使わないほうがよいのも同様の理由だ。

 4.の「トリーツを見せびらかせて呼ぶ」。これは食いしん坊の犬にとっては効果的で多くの人がやっている。しかし、遠く離れてしまった犬にトリーツが見えないこともあるし、トリーツ切れで「戻れない」というのはとても困るだろう。トリーツなしの状態でもあなたの声で戻ってこられるように練習することが必要だ。トリーツは犬を呼ぶために見せびらかせるのではなく、あなたの声で戻ってきた成功報酬、ご褒美として使うほうがよいだろう。

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運動不足、欲求不満ではコマンドが届きづらい

 当たり前だが、犬にも気持ちがある。十分な散歩やアクティビティがなければ、犬は日頃の退屈や運動不足から、その肉体的、精神的な不満を「久々の散歩の場」で爆発させる。そのストレス発散中の犬に対していくら「トリーツ」を見せて呼び戻そうとしても、「やっと走れる」「外は楽しい!」「ボール遊びは最高だなー」という状態の犬にコマンドを届かせるのはとても難しい。私が「犬には毎日適度な散歩や運動を行う必要がある」という理由の一つがこれで、犬が欲求不満状態にないことは、飼い主のコマンドがとても届きやすいことに繋がる。オフリードにした犬が戻ってこないからと怒るのではなく、その犬は十分な運動が毎日提供されているのか?長い間、家で退屈に過ごしていないか?と、犬のおかれている環境も飼い主は考える必要があるだろう。犬の「戻りたくない」には意味があるのだ。

声のトーンを使い分けすること

 私は、犬に動作を伝える時、以下の三つの声のトーンを使っている。

●Command tone:
コマンド・トーンは、通常の声のトーンでクリアかつ伝わりやすく指示を出す。

●Praise tone:
賞賛の声、成功のときの声、ハッピートーンとも呼ばれ、Good girl !! Good dog!! と褒めるときはこの高いトーンの声を使う。呼び戻し時のコマンドだけはこのトーンを使うことを勧める。

●Correction tone:
矯正、補正時に使うトーン、母犬が子犬を叱るときのトーンで 低いトーンで「あ゛ーー」とアに濁点がついた音で注意を促す。なので犬に間違った行動を教える際は、高い声で伝えると、犬は褒められていると勘違いする場合があるだろう。

 私は、呼び戻しの「come」のコマンドは、「sit」や「stay」などで使うコマンド・トーンよりも一段高いトーンで犬に伝えている。この「高い声」は私たちが楽しんでいる声、喜んでいる声そのもの。つまり飼い主のハッピーな声は「戻ったら楽しいことがあるんだ!」と犬をワクワクさせながら、飼い主の元に向かわせる原動力なのだ。飼い主は犬のアイドル!エンターテイナーであるべきと私は考える。

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飼い主も犬も常にハッピーであること

 褒められることは喜びであり、それらが増えれば自信を持つ。たまには調子に乗りすぎて失敗することもあるけど、それぐらいは勘弁してもらいたい。これは人間の私自身のことであるが、実は犬も同じだ。楽しいこと、褒められること、飼い主が喜んでくれることは犬の自信になる。「楽しい」を通じての学びはとても吸収がはやい。しかし、逆に脅したり、痛みをちらつかせたりして「止めること」「強制すること」には喜びがなく「ただ恐怖を感じて動けなくなる」ことでしかない。だから私は犬に対して叱るではなく褒めることをし、讃えることをする。飼い主自身が楽しみながら犬に「やるべきこと」を伝える。私の愛犬にとって呼び戻しは「楽しい、嬉しい」「戻ると褒められる行為」そのものなのだ。

「呼び戻し」は、すべての犬ができる基本の行動だ。「うちの犬はできない」「言うことを聞かない」という飼い主がいるが、そうではない。「飼い主のところに戻ることは喜びである」と身をもって犬が繰り返し体験することによって、犬はあなたの「come」の一言で一直線に戻ってくる。その時に愛犬を沢山撫でてやり、褒めてやること、愛犬が戻ってきたことがあなたの最高の幸せだということを、心から犬に伝えるべきなのだ。犬は飼い主の喜ぶ顔が好きだ。ハッピーが大好きだ。飼い主と一緒に喜びを分かち合えることが、最高のご褒美(トリーツ)なのだ。

◎プロフィール

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五十嵐廣幸

オーストラリア在住。元dog actuallyライター。週末は愛犬と一緒にSheep Herding(羊追い)をして過ごす。サザンオールスターズ、クレイジーケンバンド、そして動物を愛す。犬との生活で一番大切にしているのは、犬が犬として生きるためのクオリティ・オブ・ライフ。

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