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2017.10.30

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先端獣医療現場レポート<後編>

TPLO後にプールでリハビリ。そしてついに完治!

前十字靱帯損傷は、犬種にかかわらずよく起きる、膝を痛める疾患だ。多くの場合、運動制限、体重制限で温存していく療法を勧められるが、近年、TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)という先端の整形外科手術によって、痛みを克服し、運動機能が回復できるようになってきた。前編では、この疾病および術式の説明、そして手術を決断するまでの飼い主さんの心の迷いなどについて紹介した。後編では、実際の手術の様子、術後のプールでのハイドロセラピーの効果、さらに整形外科領域における予防医学の普及を夢見る種子島先生の想いを紹介する。

#Healthcare / #Lifestyle

Author : 写真=白石かえ、飯岡澄子 文=白石かえ

翌日から歩けた! 先端外科技術のミラクルを実感

 マーレ動物クリニックは房総半島の南端、館山市にある個人病院。都会から離れたリゾート地のようなこの地のイメージとはちょっと違い、このクリニックには大学病院並みの本格的な陽圧手術室(クリーンルーム)や腹腔鏡や関節鏡などの最新鋭の医療機器、2年前には日本でここだけにしか導入されてなかったLEDを使った無影灯(手術台の上にある大きな照明器具)などの最新設備が揃っていた。それもそのはず、院長の種子島貢司先生は、週の半分は母校の日本大学動物病院で多くの手術や研究に携わる、日本有数の整形外科医なのだ。

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マーレ動物クリニックの別棟である「整形外科&リハビリテーションセンター」には、本格的な陽圧手術室(クリーンルーム)もある

 前十字靱帯を損傷したワイマラナーのジョジョ(オス、9歳、去勢済)は、これまで約2年間、鎮痛剤・消炎剤を使いながら温存療法(運動制限、体重管理)を続けてきたが、2017年4月3日に種子島先生の執刀のもと、TPLOを受けた。この術式の経験豊かな獣医師2人以上を含め4人がかりで行う手術だが、手術時間は正味2時間ほど。関節鏡スコープで半月板の奥の方にある前十字靱帯の様子を探りながら行う。手術をして初めてわかったことだが、ジョジョの前十字靱帯は損傷レベルではなく完全断裂だった。さらに膝のクッションの役割をする半月板はかなり損傷し、何枚かに裂けていたという。この半月板をそのままにしていたら、関節の軟骨がすり減って、ジョジョは激痛に見舞われるところだったかもしれない。手術が間に合ってよかった。温存療法というのは、当然のことながら「治す」ものではない。現状維持を目標に、なるべく進行しないことを期待するもの。しかしTPLOは、完治を目指す積極的治療だ。半分くらい損傷があってもまだ半月板があるうちに、ひどい痛みが発現する前に、熟達した獣医師たちの手によってTPLOを受けることができたジョジョはラッキーボーイだ。

 術後は、通常は1週間、経過観察およびケージレスト(おとなしくケージで管理する)のため入院する。しかしジョジョは、おうちに帰りたがるタイプ。かつ少々分離不安。なので、特別許可で5日後に退院することとなった。それも経過が順調だったからともいえよう。なにしろジョジョは、手術の翌日には普通に歩いた(すごい!)。そして普通にそのまま歩いて外へ散歩に行こうとした。とはいえ、さすがにそれは禁止。歩くのはトイレタイムのみにして、1回5分×1日2回。これを入院中含め、2週間行った。それにしても、先生の手術が完璧だったのもあるだろうけれど、犬の回復力、生命力も本当にすごい。

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術後のジョジョの左後肢の手術痕。左が退院翌日の4月8日、右が5月14日。1か月ちょっとでこの回復ぶり。犬の生命力は素晴らしい

サラブレッドも御用達のハイドロセラピー

 ジョジョ、待望の退院。柔らかいギブスのようなものを巻いた状態で帰宅したという。幸いジョジョは、家の中ではまったり派なので、ケージに入れなくても大丈夫だったそう。飯岡さんが昼間会社に行っている間は、隣に住むお父様、お母様が、ジョジョの監視をしてくれた。そうして術後1か月ほどで傷口もふさがってきたが、傷の治りかけは痒くなるらしく、舐めようとする。それは要注意だった。

 4月3日に手術をして、7日に退院、19日に抜糸とレントゲン。その後、5月17日、7月17日とレントゲンを撮り、プレートやビスに異常がないか、骨の修復は進んでいるか、仮骨(骨の欠損が起きた部分に新しくできる不完全な骨組織)のでき具合などをチェック。ジョジョは問題なく、順調に回復していった。

 術後2か月経った6月には、待ちに待ったプールでのリハビリの許可がでた。マーレ動物クリニック自慢のリハビリ専用プールの出番だ。プールは、病院のすぐ隣に2015年にできたばかりの「整形外科&リハビリテーションセンター」内にある。

 7m×2.5mのプールで、深さは泳ぎをサポートするリハビリの先生が立つことができるくらいだが、大型犬のジョジョでも足は床につかない。ハイドロセラピー(水泳療法)とは、水の浮力や抵抗力を利用した運動療法だ。子どものときのプールの授業を思い出してもらえばわかると思うが、水中での運動というのは水の抵抗があるため、楽しいけれどけっこうくたびれるもの。陸上で運動するよりも、効率よく筋肉強化ができる。何よりも浮力があるため、重量級の大型犬であっても骨関節への負担が少ない。だからジョジョのような術後やケガ後のリハビリ、肥満犬やシニア犬(普通に陸上を走らせて筋トレしたら、逆に関節などを痛める恐れがある)の運動に最適なのである。日本でもJRA(中央競馬会)の美浦トレーニングセンター(茨城県稲敷郡)や競走馬総合研究所の競走馬リハビリテーションセンター(福島県いわき市)に、競走馬プール、ウォーターウォーキングマシーン、温浴場などがある。動物医療の中でも最高峰の健康管理をしてもらえるサラブレッドたちも、ハイドロセラピーで筋肉強化やリハビリをしているということが、この療法が優れていることを実証している。

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術後のリハビリ、筋肉アップに最適なハイドロ・セラピー。ジョジョにとってはリハビリというより楽しい時間! 水を得た魚よろしく「水を得たジョジョ」になる

1セット約30~40分の水中運動

 マーレ動物クリニックでは、看護士の石田香澄さんが主にプールでのリハビリ担当で、ジョジョもお世話になっている。ハイドロセラピーの一連の流れは、以下のとおり。

①診察:その日の体調のチェック
②温かめのシャワーで濡らして体をほぐす。準備運動
③ライフジャケットを着用し、いよいよ泳ぐ
[5分泳ぐ+2分休憩]×3セット。基本的に石田さんも一緒にプールに入り、オモチャなどで誘導するなどしてサポートする
④最後に温めのシャワーで流し、筋肉を軽くほぐして終了

②~④で、だいたい30~40分。これが1回のハイドロセラピーに要する時間だ。

 術後のリハビリや、肥満犬、シニア犬の筋トレ、体重管理、運動管理に最適のハイドロセラピーであるが、念のためマーレ動物クリニックの阿部洋子獣医師に、プール運動をしてはいけないような整形外科領域の疾患はあるのかを聞いてみた。

「NGな病気というのは、むしろないですね。椎間板ヘルニアで、背骨が上から見てS字になっている、バランスの悪いコでも、水圧が均等にかかることにより背骨がまっすぐになったりすることもあります。泳ぐのが苦手だったコでも、ライフジャケットを着せればたいていプールで泳げるようになりますね。また普段攻撃的で咬むような、なおかつそれで水嫌いなコでも、水に気持ちが集中するせいか、意外とプールの中では触れるようになったりするんですよ」と言う。
プールでの水泳療法は、筋トレだけでなく、さまざまな効果が期待できそうだ。

 ちなみにジョジョは、マーレの患者の中でも、1、2を争うプール好きだと、石田さんが笑って教えてくれた。そして朗報。こうしたプールでのリハビリが功を奏して、ジョジョは、もうすっかり陸上で全力疾走が可能となっている(素晴らしい!)。ただ、直線なら何の問題もないのだが、急旋回や咄嗟の動き、足に力を入れる動作は心配なので、陸上でのボール遊びは封印しているという。けれども、水の中なら大丈夫だ。水中ならば急旋回はしないし、踏ん張ることもしないし、浮力があるからダイレクトに骨関節に響くことはない。プールで、ボールのモッテコイ遊びを何度もする笑顔のジョジョを見ていると、ああ、やっぱり犬は、運動できるということ、飼い主と一緒に遊ぶということが、何よりもQOLを向上させるのだなぁと、しみじみ思った。

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甘えん坊のジョジョが、万が一レントゲン台から飛び降りたら、また左足が壊れるかもしれないので、飼い主の飯岡さんもレントゲン室に入り、保定する。そういう飼い主のお願いにも、できるかぎり応じてくれるのが種子島先生のステキなところ

リハビリ中の犬も老犬も、犬の靴は重要なアイテム

 すっかりマーレのスタッフみんなとも顔なじみになり、可愛がられているジョジョ。この9月27日のレントゲン検診で(この記事の取材日!)、ついに種子島先生から、完治のお墨付きをいただいた。ジョジョ、おめでとう! 4月3日に手術をして、7日に退院して家に帰り、6月からプールでのリハビリを始めて、そして半年弱で完治! 桜が咲く前、あんなに不安で悩んでいた日々が嘘のように、半年経った今、飼い主の飯岡さんは安堵と悦びの笑顔で輝いていた。

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左は、TPLO手術直後のレントゲン。いったん脛骨(すねの骨)の骨頭部分を骨切りして、ひねってからプレートで固定しているのがよくわかる。右は、9月27日、完治宣言されたときのレントゲン。すっかり骨がくっついている。このプレートとビスは、ジョジョの場合もう抜釘しない

 ちなみに、ジョジョのような整形手術後の生活で、何か気をつけることはないのか、種子島先生に聞いてみた。

「術後は、犬の指先にグッと力を入れられなくて、ズルズルッとなりやすいんです。そのため、滑らないというのは非常に重要。リハビリ期間中、犬の靴というのは重要なアイテムだと思っています」とのこと。さらに、 「年齢が増してくると、神経の問題(椎間板ヘルニアや変形性脊椎症など)が多くの犬にでてきます。そこで(ほかの疾患の影響で)滑ると、これまた前十字靱帯を切ったり、脱臼したりという、さらなるアクシデントを招きやすい。したがって滑らないために靴を使うことはよいことです。ただ、患者さんから"先生、すぐに靴を脱いじゃうんですよ"という声をよく聞きます。だから、履かせやすく、脱げづらい、より安定のいい靴に改善してくれると嬉しいですね。つま先だけのタイプでなく、ハイカットタイプの靴もあるといいなぁ」というご意見をいただいた。

 靴によって、少しでも安全で滑らない生活を与え、術後のリハビリ期間中に踏ん張りが効くように、また、老犬が二次災害的な疾病を予防できるように、靴に期待される役割は大きい。

一緒に楽しんで一緒にリハビリ。一緒に整形外科の予防医学をやりたい

 整形外科のスペシャリストでありながら、傲ったところがなく、本当に実直でハートフルな種子島先生。最後に、プールまで造ってしまった先生の熱い想いを聞いてみた。

「一流の手術をしっかりやって、そのあと人間並みにリハビリをして機能回復をさせることで、犬が快適な生活を送れるようになってほしいんです。リハビリもオーナーさんに参加してもらい、理解してもらうと同時に楽しんでもらいたい。一緒に楽しんで、一緒にリハビリ。そして(獣医師も)一緒になって整形外科の予防医学をやっていきたいんです。
病気にならない方がいいに決まっている。だから動物が大好きな人たち(=飼い主さん)と一緒に、犬でも、ヒトの整形外科的な分野で話題になっているロコモティブシンドローム(骨や関節、筋肉の衰えが原因で生活に支障をきたす状態)の予防医学もやりたいのです。そう考えて、2年前にプールを造ったんです」と、先生は本気でそう語ってくれた。

 飼い主さんたちを呼んで、プールを使った講義や、みんなと楽しく海や山に行ったりして、整形外科医ならではの予防のアドバイスを紹介したいと言う。またアジリティーなどのドッグスポーツも禁止するのではなく、関節を悪くする前にできること、工夫することはないか、なども一緒に考えていきたいそうだ。普通、整形外科の手術に特化したお医者さんなら、「特技:手術」なわけで、どんどん手術をしたがる人も少なくない。けれど種子島先生は、日本有数の技術と人脈を持ちながら、「手術しないですむなら、犬のためにはそっちの方が絶対いい。だから病気にならないように、予防医学を確立することがボクの夢です」と明言する。整形外科医なのに、変わってる、と思ってしまうくらい、やっぱり実直で、真面目で、犬目線の獣医さんだ。

「楽しく、いつまでも元気に過ごせるように、犬をみてあげるのが人間の役目です。犬は自分で予防できないから。人間が予防医学を理解して、犬がなるべく病気にならないように心がける。まさに"ヒューマン・アニマル・ボンド"、そういう犬と人の絆を高めていければなぁと思うのです。犬も人間も、楽しくともに生きていけるのがいちばんいい。こんな意識を、飼い主さんもぜひ持ってもらえれば嬉しいです」

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TPLOだけでなく骨折、脱臼、股関節脱臼、関節疾患、椎間板ヘルニアなど整形外科のスペシャリスト、種子島貢司院長先生。プライベートでは海を愛し、館山を愛する。ちなみに「マーレ」はイタリア語で「海」の意味だ

 なんとも、本当に心根のいい先生なのである。この世知辛い世の中で、こんな夢と理想に溢れた、犬と飼い主の絆を重視してくれるいい先生がいるんだ、とある意味びっくりした。TPLOはじめとする難しい整形外科領域の腕も一流、そして心も一流。ついでに言うと、夢を追求するために造ったプールも、整形外科領域の手術室や設備、道具も一流。ジョジョは本当にいい先生に巡り会えたものだ。

 前十字靱帯の損傷や断裂のことで、悩んでいる犬と飼い主がいたら、TPLOという積極的治療の選択肢があることを知ってほしい。ちなみに前十字靱帯の術式には従来の方法も含み、約100種類以上もの方法があるそうだ。靱帯の損傷具合や、犬のサイズなどによりどの術式がよいかを検討される。もちろん膝関節周辺の炎症の程度やそのほかの身体の状態、年齢などにより、手術結果は一様ではなく、個体差がある。ジョジョの例も、1症例のひとつに過ぎない。しかし、前十字靱帯を不要にする、前十字靱帯がなくても大丈夫になるという画期的なTPLOは、数あるものの中でも間違いなく優れた最先端の治療法である。もし今、愛犬の四肢の不調で悩んでいる飼い主さんがいたら、あるいは将来的に愛犬の後肢に歩様異常が起きたら、飼い主は諦めずに、愛犬のQOLを向上する方法を探してほしい。さらには、種子島先生が理想とする犬の整形外科の予防医学が実現し、いつか当たり前になって日本に根付くよう、私たちも頑張ろう。

◎INFORMATION

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マーレ動物クリニック

「動物と飼い主さんを第一に」がモットー。検査内容や治療法、手術法、費用などをわかりやすく説明してくれる。休診日を設けず、毎日診療してくれるのもありがたい。一般診療科にくわえ、日本有数のハイレベルな整形外科と、プール完備のリハビリテーションセンターもある。初診は予約制。

■住所:千葉県館山市北条317-4
■TEL:0470-25-3338
■HP:http://mare-clinic.com/

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>>先端獣医療現場レポート<前編> 前十字靭帯断裂・損傷の犬を救う、TPLO手術とは




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