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2017.09.30

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防災月間特別企画<後編>

災害救助のプロに聞く、一般飼い主にできること

地球規模で活動し、世界の自然災害などの現場を見てきている特定非営利活動法人(認定NPO)ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)。前編ではPWJの災害救助犬の訓練の様子、そして救助犬にとっての靴について紹介した。今回は、一般の家庭犬にとって大事なこと、飼い主ができること、どんな心構えが必要なのかなどについて、多くの自然災害の現場を見てきたPWJの救助犬ハンドラー・大西純子さんのアドバイスを交えて紹介しよう。

#Lifestyle

Author :文=白石かえ 写真=docdog編集部、白石かえ 取材協力=特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン

ケガのリスクを避けるため、靴で歩ける練習をしておく

 突然、災害に見舞われ、同行避難したり、避難所に寝泊まりしたりするような事態が、いつ誰の身に起きるかわからない。災害救助犬の場合は「犬の足の裏はセンサー」ということで、基本的に捜索活動中に靴は履かせないことが多く、ケガをしてしまったときに患部の保護のために靴を使うことがある、ということだったが、一般の家庭犬はどうすればいいのだろうか。

 災害救助犬の場合は、常日頃から瓦礫サイトなどでの訓練を行っているが、一般の家庭犬は瓦礫の中を歩いた経験はまずないだろう。建物が倒壊し、いろいろなものが散乱している場所を歩いて進むことに慣れていないといえる。そんな中で万が一ケガをさせてしまったら、飼い主も不慣れだったり、救急セットの用意が足りなかったりで、災害救助レスキュー隊員のように救急処置が上手にできないかもしれない。動物病院も非常時にやっているとは思えず、すぐに手当ができない可能性は高い。そのためdocdog(ドックドッグ)としては、災害救助犬のようにケガをした後に靴を履かせるのではなく、家庭犬には避難時や被災直後の災害現場を歩かせる際、靴を活用してほしいと考えている。飼い主にとっても犬にとっても、ただでさえストレスが大きい被災生活において、可能な限りケガのリスクを避けるためだ。

「そうですね。一般の飼い主の方がそうした理由で靴を履かせるのであれば、普段から履く練習をしておいた方がいいですね。いきなり履かせたら、犬も戸惑って嫌がったり、靴を履いて歩くことに慣れておらず捻挫することもあり得ますから」と、大西さんはアドバイスしてくれた。

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基本的に健康体の犬にとって、日常的な靴の着用は不要だ。しかし、災害時のケガ予防や救助犬などと同様に傷を負ってしまった時の保護など、いざ使いたいと思った時にストレスなく履かせられるようになっておくためにも、楽しく遊べるシチュエーションで少しずつ慣らしていくことが大切

しつけ、トレーニング、訓練の違い

 やはり普段からの練習や慣れが大事。それは災害時全般に言えるそうだ。

「とにかくいちばん大切なのは、日常のしつけです。環境への馴化、社会化を含めたしつけが大事なんです」と、大西さん。

 基本はやっぱり「しつけ」らしい。ではもう少し詳しく、掘り下げてみよう。
 大西さん曰く、しつけ、トレーニング、訓練、の3つは以下のように分類できるという。

①しつけ
犬が人の社会で生きていく上で、困らないようにしてあげることが「しつけ」。人と犬がこの社会で共生するためのルールを犬に教えてあげる。人間の幼児も、親や大人から教えてもらわないと社会のルールはわからないものだが、犬も同じで、教えてもらわないと社会にあるものがわからない。見たことないもの(=警戒するもの)だらけになってしまう。だから犬も教えてもらったり、たくさん社会見学をしたりして、心のキャパシティを広げて、寛容な心を持てるように練習をさせる。つまり「環境馴化」(環境に馴らすこと)、「社会化」をして、人間社会の中で出会うものに順応できる、環境適応能力を高めるように導いていくのが、しつけである。

②トレーニング
これは人間(飼い主)の自己満足で、犬にある意味、芸当を教えること。繰り返し繰り返し行い、忘れないようにさせる。たとえば、オスワリ、オテ、マテ、フセ、飼い主について歩くなど。言うなれば、人間がフィットネスクラブに通ってエクササイズしたり、英会話教室に足繁く通ったりして、何かを習得することと似ている。しばらく何もしなければ筋肉は落ちるし、英単語も忘れてしまうから、繰り返しリピートすることが大切だ。実は、オスワリやマテができなくても、社会性や環境馴化(①のしつけ)ができていれば、よそ様には迷惑はかけない。ただ、トレーニングは、飼い主と犬との関係性を深めることに大いに役立つ。 

③訓練

犬の能力を活かして、目的となる仕事や作業が行えるようにすること。たとえば、警察犬、盲導犬、聴導犬、災害救助犬、牧羊犬、猟犬などの訓練。犬自身が考え、行動し、作業ができるように導くのが訓練だ。

日常生活でも災害時でも、必要なのは「しつけ」

 先述した3つの中で、とにかく大事なのは、"①のしつけ"だと、大西さんは力を込めて言う。

「どんな環境においても、犬がストレスを感じないようにしてあげることが<しつけ>です。たとえば、避難所のケージの中でも平常心で休めるとか、避難所の外に係留されても静かに待てるようにしつけができていれば、犬は現場でストレスを感じずに過ごすことができます。とにかくしつけは、家庭における日常生活でも必要ですし、災害時にも必要です。ちなみに、災害救助犬が習得するのは③の訓練ですが、①のしつけができ、②のトレーニングを行い、③の訓練があるのです。それは災害救助犬が人間社会で働く犬だからです」

 すなわち、オスワリやマテができなくても、よそ様には迷惑をかけない。けれども「吠える必要はない」「咬む必要はない」というしつけができていなければ、社会に迷惑をかけることになり、そのため社会の一員として認めてもらえなくなる。結果、被災時に快く受け入れてもらえなかったり、邪魔者扱いされたりしてしまうことになる。でも、しつけが悪いのは、犬がバカだからではない。教えてあげなければ、犬には人間社会のルールはわからないのだ。社会のルールを知らなかったり、社会にあるものを見たらなんでもかんでも怖がって吠えたり、咬んだりしてしまうのは、犬のせいではなくて、教えてあげていない飼い主の責任だということを肝に銘じたい(自戒を込めて書いています)。

 普段の生活にも当然だが、災害時にも重要なのは、やっぱりしつけであり、環境馴化、社会化に尽きると言われ、改めて私たち一般飼い主は一層努力しなくては!と、痛感した。

「非日常ごっこ」を楽しみながらしておく

 それにしても、しつけにしろ、環境馴化、社会化にしろ、わかってはいるけれど、まだまだ至らぬ点は多く、ブルーになりそうになる。でも......

「災害時に初めてテントで寝るとなると、犬も飼い主も不安ですよね。だから、普段の生活のときから、キャンプでも、友人宅にお泊まりでも、登山でも、いつもとは違うことを犬にたくさん経験させることが大切です。楽しみながら"非日常ごっこ"をたくさんしておくといいですね」と、大西さんに言われてハッとした。「楽しみながら」なら、頑張りやすい。

 そうか、なるほど。キャンプに行くのも、避難所でテント生活する環境と類似する。これもひとつの環境馴化となるのだ。環境馴化や社会化は、いつもとは違うことを見たり、経験させたりすることであり、つまり非日常的な体験をすること。"非日常ごっこ"をどんどん体験することによって、犬の心のキャパシティが広がっていく。きっと飼い主の環境適応能力も高まる。"非日常ごっこ"は、ちょっとした防災訓練のひとつのようなものだ(ああ、小学生が林間学校に行くのも、いつもの生活からかけ離れた"非日常ごっこ"をすることによって、子どもの心を鍛えているのかもしれない)。

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テント泊、車中泊、ペット同伴でのホテル泊など、さまざまな環境での宿泊はまさに"非日常ごっこ"。しかも、どんな宿泊スタイルにしても、道中~滞在先で目にするもの、耳にする音、そして嗅ぐニオイすべてが普段とは異なるわけで、犬連れ旅行は環境適応能力を高めるための環境馴化といえよう

災害は防げない。でも減災はできる

 そのほかの災害時の心得として「飼い主が平常心でいることの大切さ」も、大西さんは説く。

「緊急時に、犬がストレスを強く感じるかどうかは、個体差も大きいですが、平気なコはけっこう大丈夫なんですね。これは、飼い主の心情がとっても影響します。災害救助犬も同じで、救助する側はつねに平常心で、フラットな気持ちでないといけない。ハンドラーが慌てふためくと、それは救助犬にも影響してしまいます。(犬は群れの気持ちに同調する動物なので)人が落ち着けば、犬も落ち着くものです。だから、犬にストレスを与えないため、まず飼い主が落ち着くことが大切です」

 被災したら飼い主も不安だし、緊張するし、家族の安全を確保しないといけないし......平常心を保つということは口で言うほど容易ではないと思う。でも、これは人間の子どもに対しても同じな気がする。保護者(親)が慌てたり、神経質になったりしていると、子どももよけいに不安になり、神経過敏になるだろう。愛犬も同じだ。神経過敏になった犬は、普段は吠えるコでなくても、不安や恐怖から吠えやすくなるなど悪循環を生みやすい。保護者は、できるかぎりドーンとかまえて、平常心を保つようにしたい。

 最後に、大西さんは「物はなんとでもなる。命より大事なものはない」と、確固たる口調で言った。

「自宅に物を取りに行ってしまい、余震が起きて被災する例もあります。なので、なにはともあれ、①慌てず、②その場に留まった方がいいのか、逃げた方がいいのかを冷静に判断し、③命さえ助かっていれば、物はなんとでもなります。命より大事なものはありません。自分と愛犬の命を守るために、一番よい方法を判断してください」

 大西さんは今までどれだけ辛い現場をその目で見てきたのだろう......と、一瞬頭をよぎった。本物の被災地での現場を数多く見てきた人が言うのだから、これは心からの言葉なのだと思った。何はなくとも、命さえ助かっていればなんとでもなる。何よりもまず命を優先しよう。

 そのためには、普段からできることとして......

●被災したことを想定し、いろいろなシミュレーションしておく。
●被災地ボランティアに行ってみる。
(自宅の建物の強度や立地などと比較したり、我が身と置き換えて考えてみたりすることもできる)
●被災を他人事と思わない。

 などを挙げてくれた。

「とにかく、<防災>とよく言われますが、自然災害は防げない。でも<減災>はできます」

 いざというときに、少しでも飼い主が平常心を保てるように、愛犬を守れるように、そして少しでも被害を減らせるように、私たち飼い主ができることは、まず「しつけ」。そして普段からの「非日常ごっこ」。アスファルトばかりでなく、土、原っぱ、砂利道などのいろいろな場所を素足で歩かせて足の裏センサーを鍛えたり、ときに靴を履かせても普通に歩けるように練習したり、山や川へ出かけたりすることも、「しつけ」(環境馴化)かつ「非日常ごっこ」だ。練習していなければ、いざというときに飼い主は手際よく靴を履かせることができないかもしれないし、犬も嫌がってしまうかもしれない。日頃から犬にいろいろなことを体験させ、馴れさせる。この日々の積み重ねが、減災につながることになるのだ。さっそく今日から、ちょっとずつ始めてみよう。

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(写真左)今年7月、岩手県陸前高田市にて撮影。6年経っても津波の傷跡がそのまま残っていた。4階の高さまで津波が到達し、ベランダがなくなり、部屋の中はベランダ側から玄関側まで海水がぶち抜いていった様子が覗えた。5階のベランダはそのまま残っているということは4階以下がやられたということ。津波の高さ、威力のすごさに、戦慄を覚えた。そして悲しくなった。「災害は防げない」。でも減災はできる!
(写真右)今年8月、千葉県の外房で撮影。港に津波シェルターが用意されていた。東北大震災のときに外房は、銚子~館山にかけて、1.72~2.5mの高さの津波を観測。ちなみに東京湾内の方が津波は高く、千葉県では千葉港で2.98m、葛南で3.65mを観測している。昔話のように感じている場合ではない。他人事ではない。災害はいつ自分に降りかかるかわからない

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遊びのスタイルや高い身体能力。犬の魅力に触れた1年半

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