magazine

  1. HOME
  2. MAGAZINE
  3. 災害救助犬育成現場を視察してきた!

2017.09.30

読みもの        

防災月間特別企画<前編>

災害救助犬育成現場を視察してきた!

9月の防災月間の締めくくりとして、さまざまな災害現場で犬を使った救助活動、また被災地支援活動を行っている特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンを取材。前編となる今回は、災害救助犬の訓練風景の視察を通して、災害現場における「リスク」について考えてみたい。

#Lifestyle

Author :文=白石かえ 写真=docdog編集部 取材協力=特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン、tomoドッグスクール

地球規模で活躍する緊急災害支援のプロ・PWJ

 まずは、特定非営利活動法人(認定NPO)ピースウィンズ・ジャパン(以下、PWJ)について紹介しよう。PWJは「紛争や災害などにより、生命が脅かされている人びとに対し、迅速に緊急人道支援を行ったり、社会的基盤の崩壊などにより、困窮している人びとに対し、自立のための復興・開発支援を行うこと」などをミッションに掲げて、活動している国際NGO(非政府組織)だ。

 最近では、日本からみて地球の裏側、西アフリカにあるシエラレオネの首都フリータウンで2017年8月14日に起きた豪雨による土砂崩れや洪水(1000人以上が行方不明または死亡)の災害に対して、支援物資などのニーズ調査を進めていたり、8月11日の大雨の影響で災害が起きたネパール平野部(約140人以上が亡くなり、46万人以上が避難)に9月6日からPWJ日本人スタッフを派遣し、支援活動に向けて準備を開始したりしている。また海外だけでなく、日本国内での緊急支援も行っている。7月上旬には記録的な大雨が続いた九州北部に、災害救助犬3頭とレスキューチームをアジアパシフィックアライアンス・ジャパンなどと合同でいち早く現地に派遣し、今も支援をしている。

 このようにPWJでは、国内外で緊急を要する自然災害、紛争、貧困などの脅威にさらされている人々に対して、スピーディかつ大規模に、現地主義で支援活動を行っている。そのPWJは、救助犬など災害支援の「仲間」であるはずの「犬」が、現在、日本で多く殺処分されている現状を知った。そのことで、「犬」たちも同じく「緊急に支援を要する仲間」と考えたようだ。これまで国際NGOとして培ったネットワークや社会変革の経験を活かして、日本の捨て犬問題を改善するべく、全国に適用可能なモデルを構築することが必要との考えから、ピースワンコ・プロジェクトをスタートさせたという。

 PWJで最初に訓育された災害救助犬が、日本犬雑種の夢之丞(ゆめのすけ)だ。テレビなどにも多く取り上げられ、今ではすっかり有名な夢之丞だが、本来なら彼は7年前、広島県動物愛護センターで、生後3〜4ヶ月のときにガス室で処分されるはずだった。そこにPWJ代表の大西健丞さんらスタッフが訪れ、小さな彼と出会い、センターから引き出した。最初のうちは臆病で人が苦手な夢之丞だったが、愛情と手間をかけてトレーニングされ、夢之丞はついに災害救助犬として現場で活躍する犬に成長した。

 夢之丞を出発点として始まった2010年からのPWJの災害救助犬育成活動。それから救助犬とレスキューチームの災害派遣は、2014年の広島土砂災害、フィリピン台風、2015年のネパール地震、台湾台風、関東大雨災害、2016年の熊本地震、イタリア地震、鳥取地震、今年7月の九州豪雨、秋田県の大雨と合わせて10回となる。広島土砂災害のときは、PWJの本部がある広島県内だったこともあり現地到着は素早く、発生当日に捜索・救助活動に入った。そして、PWJの救助犬2頭が行方不明者2名を発見。災害は起きないに越したことはないけれど、いざというときに、すぐに駆けつけてくれる救助犬たちがいるのはとても心強いことだ。

170916_02.jpg

ガス室送りから生還し、今ではPWJの顔となった夢之丞

瓦礫や泥地など、災害現場の環境はいろいろ

 PWJでは、毎週、災害救助犬の育成訓練を行っている。プロジェクトの本部からクルマで5分ほどのところに、専用の災害救助犬訓練場(瓦礫サイト)を作り、日々訓練に余念がない。その訓練の様子を見学させてもらった。

 現在、訓練している災害救助犬が5頭いる。そのうち出動経験のある救助犬は3頭。夢之丞、ハルク(ゴールデン・レトリーバー)、ルーク(ラブラドール・レトリーバー)。そして出動の候補生としてらいぞう(ラブラドール・レトリーバー)、ゼルダ(雑種・保護犬)の2頭がいる。それぞれの犬に、担当スタッフが専任ハンドラーとしてついている。今回、お話しを聞いたPWJの大西純子さんは、ハルクのハンドラーでもあり、実際各地の災害現場への出動経験も豊富だ。

 ちなみに近年では災害現場だけでなく、認知症などのお年寄りの徘徊、迷子の捜索を依頼されることも増えているそうだ。最近ではルークが、谷底に落ちてしまったお年寄りの発見に貢献したという(残念ながらお亡くなりになっていた)。高齢化社会の日本において、こうした捜索案件は全国的に増加傾向とのこと。救助犬や捜索犬など犬の鼻を使った作業犬の需要は、今後さらに高まっていくと思われる。

170916_03.jpg

本部から少し離れたところに特設された瓦礫サイト。ここでPWJの災害救助犬たちがいつも訓練している

 さて、取材当日は、いつもPWJと共同訓練を行っている岡山県井原市の「tomoドッグスクール」の佐藤委子(ともこ)先生(以下、とも先生)も合流していた。とも先生のハイエースには、マリノアとジャック・ラッセル・テリア、ブリタニー・スパニエルが乗っていた。彼女は、訓練士歴25年、そして15〜16年も救助犬訓練に携わるベテランである。

 訓練は、1頭ずつ順番に行われる。今回は「アラート(告知)訓練」だった。瓦礫、丸太があるような足場が不安定なところでも"ビビらず"勇気を出して進む、見えないところにいる人のニオイを探す、そして見つけたら吠えて知らせる。それらを上手にでき、ちゃんと人を発見したら、「ヘルパー」という要救助者役から褒められ、各犬にとって大好きなモノ(ルークだったら赤いオモチャ)をもらえる。犬たちは、「辛い大変な仕事」をしているつもりはさらさらなく、「犬の本能である鼻を使って見つけたものに対し、ごほうびがもらえる」、その一心で行動している。過酷な現場で勇敢な仕事をしてくれるのだが、中味は可愛い、普通の犬と変わらない。信頼しているハンドラー(飼い主)と一緒に共同作業を行い、狩猟本能が刺激されるから夢中になる。犬は犬であり、やっていること、嬉しいことは、家庭犬と基本同じなのである。

170916_04.jpg

アラート(告知)訓練中のハルクと、ハンドラーの大西純子さん。茶色の箱の中に人が隠れている。それを嗅覚で探し、吠えて知らせる練習

170916_05.jpg

ちゃんとアラートができて、ヘルパーからごほうびの赤いオモチャをもらって嬉しそうに私たちに見せびらかしにきた黒ラブのルーク(左)や、ハンドラーと引っ張りっこしているどや顔のゴールデンのハルク(右)。中味は普通の可愛い犬とまったく変わらない

 犬たちはそれぞれに個性があり、苦手なことも違うし、探し方のくせも違っていた。たとえば、探すことは上手で本当はとっくに人のニオイを見つけて、どこにいるのかわかっているのに、吠えることがうまくできないコ。また、身体能力は十分あるのに足場のグラグラするようなところは進む勇気がなく、回り込むルートはないかと一生懸命自分で考えて何度もグルグル回るコなどだ。ハンドラーに指示されてその通りにこなすこと(させた体験)ももちろん大事ではあるが、犬自身が自分で考えて得た経験はとても大事とのこと。ハンドラーはそうしたことをふまえて、犬が苦手意識を克服するよう、犬の安全を確保しつつ訓練メニューを工夫する。隠れる人の位置を変えたり、自信を持って吠えることができるように「欲」を上手につけてあげたり。ちなみに、家庭犬だと吠えられると困る場面も多いが、吠えるのにはいつだって理由がある。吠えるのは「今の状況、変われ!」という要求の合図、要求の呪文のようなものだと、とも先生が教えてくれた。救助犬なら、上手に吠えて、「見つけたよ!ごほうびちょうだい!」だし、家庭犬であれば退屈でストレスが多い状況なら「遊んで! ヒマでヒマで仕方ないよ!」などと、今の状況を打破するよう飼い主に伝える"欲"なのだ。なるほど、よくわかる。救助犬たちは、交代で訓練をこなしながら、上手くできたら、担当のハンドラーはもちろん、みんなから褒められ、モチベーションを高めていた。

足の裏はセンサーの役目をする

 ところで、訓練中や実際の災害現場では、犬に靴を履かせないのか、とも先生に聞いてみた。

「足の裏はセンサーのようなもの。だから靴は履かせていません。不安定な瓦礫の上や、中を、進むうえでは履かせることによるリスクも大きいんです」と言う。

 グラグラする瓦礫場や、洪水、土石流現場など人間の膝まで沈む泥だらけの災害現場の足元は、私たちの想像以上に多様な状況なのだと思う。

「たとえば泥だらけの現場でも、犬の通るところは意外と下がしっかりしていて通りやすかったりします。反対に犬が避けていたところを通ったら、ズブズブと泥がゆるくてはまり込んだことがあったり......。犬はちゃんとわかっていて、いいところを選んで歩いている」と、とも先生。

 犬は、足の裏の肉球センサーを使って、最善のルートを選んでいるらしい。救助犬として訓練されている犬は、鼻、目だけでなく、足の裏の感触も駆使して、自分の身の安全を守っているのだ。

 でも、海外の災害救助犬は靴を履いている映像を見たことがある。なぜ海外の災害救助犬は靴を履いていたのだろう? どんなときに履かせた方がいいのだろうか。

「たとえば、ガラスが散乱している場所、薬品がこぼれていたり、充満していたりする場所、熱い火山灰が積もっているような場所などでは、靴を履かせる必要があるでしょう。でも私たちの場合、化学工場など薬品のある現場は、危険区域ですから関係各所ともよく連携して、安全確認ののちに入ります。また危険な場所かもしれないのに、犬が先へ先へ行くようなことがあれば、すぐ呼び戻します。呼び戻しに即座に応じることはとても大切です。彼らは、自分の判断力を持ち、自分で考えて捜索行動をしていますが、ハンドラーの指示にもきちんと従うように訓練しています。犬自身の自己判断力と、ハンドラーの指示には絶対に従うこと。この両方をしっかりできることが災害救助犬として非常に重要です。たとえば、ガラスが落ちているような場所を通らなければいけないときは、一度犬を呼び戻し、私ならその場所だけ犬を抱っこします。また、薬品や火山灰、煙などのある現場ではそもそもニオイはとれないですね。犬の鼻が使えない、仕事ができないところには私は犬を入れません。役に立つかどうかわからないのに、"試しに"犬を入れてみよう、というのはイヤです。だから靴を履かせないと入れないような現場に犬を出動させることはないですね」

 探索ロボットではなくて、<生きている>大事な相棒なのだから、とりあえず"試しに"使うなんてことはしない。そうキッパリ断言するのは、それだけ犬の身の安全を最優先しているからこその言葉だ。

捜索中の夢之丞。四角いコンクリート製土管の上に寝そべって隠れているのがヘルパー(仮の要救助者)。寝そべっているのは犬の視覚で探さないで、嗅覚で探させるため(寝ていれば、犬の目線の高さから土管上に隠れている人は見えない)。夢之丞は見つけるのは早いのに、吠えるのが苦手だった。でも今ではそれを克服し、ちゃんと吠えて教えてくれる。頼もしい

救助犬は、マイシューズはつねに持参している

 大西さんも同意見だ。

「そのほかに-10℃など、たとえばアラスカのような寒い場所では、凍傷の心配がありますから靴は必要かもしれません。でも日本での出動では、なかなかそういう現場はないですね。また、それだけ寒い場所ではニオイもとりにくいですから、そもそも犬を出動させるかどうかもわからないです」と言う。

 ちなみに基本的な臭気のことだが、寒いところより暖かい場所の方が、ニオイは膨張して漂いやすい。そして、ニオイは高いところから低いところに落ちてくる。だから練習のときでも、人間が高いところに隠れると、まず犬はその下に溜まっているニオイを察知し、下の方を探し出す。
 現場の状況は、足場だけでなく、気温、風向きなど、いろいろな自然環境に左右されるので、救助犬を出動させるかどうか、靴を履かせるかどうかの判断は、犬にとっての最善策をトレーナーが考えている。素人の考えが及ばない範疇ともいえるだろう。

「ただ、出動の際は、靴は用意していて、持って行きます。万が一、足をケガしたとき、傷口を消毒した処置後に再び雑菌が傷に入らないように靴を履かせます。そういう意味では、救助犬もいつも靴は用意していますよ」

170916_06.jpg

瓦礫サイトで、いろいろと教えてくれたPWJの大西純子さん。英語のサインは、国際的に共通のサイン。捜索ゾーンの位置、どのチームがすでにここをチェックしたか、何をチェックしたか(危険物をチェックするチーム、救助犬を使って捜索するチームなど、いろいろと役割の違う班が何度も同じエリアに入るという)、危険物はないか(ここでは「アスベスト」と書いてある)などが明記してある(ちなみにこの現場は練習場なので本物ではない。アスベストはないですよ)

 このように、災害救助犬は、毎週、足場の悪い瓦礫サイトや、実際の捜索を模した山中などで訓練を実施している。救助犬もハンドラーのみなさんも、こういう現場や足場に精通したプロ。そして誰よりも相棒の身の安全を考えて行動しているということがよくわかった。どういうときに靴を履かせた方がいいのか、履かせない方がいいのか。それは現場に応じて、救助犬の身体の安全を考えて、冷静に何がベストかを判断しているのである。

 それでは、一般の家庭犬が、災害時の避難の際にできることはなんだろう。前もって飼い主が準備しておくことはなんだろう。緊急災害の現場を多数見てきた大西さんに伺ったことを、このあと後編で紹介しよう。

■関連記事
>>災害救助のプロに聞く、一般飼い主にできること
>>災害時の非常持ち出し袋、何を入れる?
>>東日本大震災から6年、docdogが考える防災グッズとしての靴・靴下とは
>>熊本地震の被災者として、飼い主として、動物との共生社会を考える
>>熊本地震の経験から、犬の靴の必要性を学ぶ
>>犬という動物を知らなければ、犬を守ることはできない
>>飼い主と犬が基本を一緒に学ぶ必要性
>>犬を飼うということ、飼い主の覚悟と振る舞いが社会を変える




 この記事が気に入ったらいいねしよう!
 最新記事をお届けします。

災害救助のプロに聞く、一般飼い主にできること

科学的に食事を捉えて、健康管理へつなげよう

科学的に食事を捉えて、健康管理へつなげよう
災害救助のプロに聞く、一般飼い主にできること