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2017.07.31

高齢犬の問題行動<前編>

その行動、本当に「認知症」が原因?

荒田明香 東京大学 大学院農学生命科学研究科

愛犬が高齢になってくると、以前は吠えなかった場面で吠える、トイレの失敗が増えるなど、今までとは違った問題行動が見られることも。そうなると、これって認知症? とすぐに思ってしまうかもしれません。ところが、専門家が飼い主から相談されるケースの中で、実際に認知症である場合は少ないのだとか。それでは、高齢犬の問題行動に多い原因と、その対処法とは? 東京大学の特任助教・荒田明香先生に話を聞きました。
※犬の認知症の診断名は、正確には「高齢性認知機能不全症候群」と言いますが、ここではわかりやすく「認知症」という表現を使っています。

写真=スタジオさる 文=山賀沙耶

#健康

トイレの失敗、吠え、分離不安......高齢犬の問題行動って?

 飼い主と愛犬で、お互いの考えや行動パターンが手に取るようにわかってくる、愛犬の中年時代。ところが、さらに年月がたって愛犬が高齢になってくると、分離不安、物事を怖がるようになる、トイレの失敗が増えるなど、今までには見られなかった問題行動が見られることも。
 また、名前を呼んでも反応しない、飼い主の指示に従わない、家の中や庭で迷ったり動けなくなったりする、昼夜逆転して夜中に起きているなど、問題行動とまでは言えないものの、加齢によってよく見られる行動の変化は他にもいろいろある。

 愛犬のこれらの変化に気づいても、飼い主は高齢だから仕方ないと放置してしまったり、認知症を疑ったりしがちだ。ところが、実はその裏には痛みや病気など、別の原因が潜んでいることも多い。
「例えば、高齢になってからトイレの失敗が増えたとしても、その原因は認知症以外にもいろいろと考えられます。加齢あるいは病気が原因でトイレが近くなったのかもしれないし、関節炎のせいで排泄時にしゃがみにくいのかもしれません。まずは認知症や加齢のせいと決めつけて放置せず、愛犬の状態を客観的によく観察することが大切です」
と、荒田先生は話す。

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犬の"認知症"は人間と何が違う?

 犬にも認知症のような症状があることはよく知られているが、そもそも犬の認知症とはどのようなものだろうか。診断名は正しくは「高齢性認知機能不全症候群」といい、これにかかると人間同様、脳の一部である大脳皮質の萎縮など、MRI(核磁気共鳴画像法)を撮ると明らかにわかる変化が表れる。
 また、実際の症状としては、以下のような行動が挙げられる。

■時間・場所・人がわからなくなる
■人や他の犬とのコミュニケーションがうまくいかなくなる
■昼夜逆転など睡眠サイクルが狂う
■記憶力低下によるトイレの失敗
■活動性の低下、あるいは常同行動の増加
■不安の増加による吠えや落ち着きのなさ
■学習能力・記憶能力の低下

 これらの症状は人間の認知症と似ているものの、犬の場合、人間よりも発症に気付きにくいという問題がある。なぜなら、人間の認知症は、本人が話す言葉によって早期発見されることが多い。ところが、犬は言葉を使わないため、変化がわかるほど行動に表れるまで気付きにくく、診断を受けたときにはかなり進行してしまっているケースが多々あるのだ。

「そもそも、正常な犬や人間の場合でも、老化によって脳が少しずつ萎縮し、認知機能も低下します。人間では、年齢に応じた正常な認知機能レベルが設定されていますが、犬の場合、年齢に応じた基準はまだ存在していません。また、どの症状がどういう順番で出るのかもはっきりしていないため、早期発見が大きな課題となっているのです」
 犬の場合、認知機能低下を言葉でチェックできないうえ、麻酔が必要なMRIを撮ってまで、わざわざ認知症の診断を下すことは少ない。現在、診断の補助となる症状チェックリストはいくつかあるものの、認知症以外の病気で同じような症状が出ることも珍しくないという。そのため、特徴的な症状があり、他の原因がないかを調べることで、認知症の診断をする、という方法が、犬では一般的なのだ。

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「今までは平気だったのに」は実は勘違い

 それほど認知が低下しているわけではないのに、分離不安の症状が出たり、今まで平気だったものを怖がるようになったりなど、高齢になってから問題行動が出るパターンは、実は多いという。これには、その犬自身が持つ、ストレスに対する"許容範囲"の問題がかかわっている。
 下の図を見てほしい。

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(引用元:Karagiannis., 2015, In Feline Behavioral Health and Welfare; 138-147.)

 図のAは、「苦手な刺激」が加わっても許容範囲から出ていないため、実際の行動には表れていないパターン。それに対してBは、Aよりも「ベースラインのストレス」が増えたために、同程度の「苦手な刺激」が加わったときに、行動として表れてしまうパターンだ。
「ベースラインのストレス」には、病気や痛み、加齢による機能低下、発散不足など、愛犬が慢性的に抱えているストレスが当てはまる。この「ベースラインのストレス」が増えると、雷の音や知らない人との接触、飼い主と離れ離れになるなどもともと「苦手な刺激」が許容範囲からはみ出してしまい、それまで大きな反応を示さなかった物事に対しても、不安や恐怖を表すようになってしまうのだ。

「雷が鳴ると少しだけ震えていたのが、高齢になったらパニックを起こすようになってしまった、若いころの引っ越しはすぐに順応したけど、高齢になってからの引っ越し後は分離不安になってしまった、というような相談を受けることがよくあります。高齢になってこういった問題行動が出てくると、『今まで平気だったのに』と言う飼い主さんがいます。ところが、実は今までも平気だったわけではなくて、苦手だけどギリギリのところで我慢できていた、あるいは苦手のサインが些細だったために飼い主さんは問題視していなかっただけ、という場合が多いんです」

 このケースの問題行動に対しては、苦手な刺激を取り除くだけでは根本解決にならない。高齢犬が常に抱えているベースラインのストレスに気づき、そのストレスレベルを下げることで、ようやく彼らを恐怖や不安から解放してあげることができるのだ。

>>後編では、高齢犬の問題行動が起きてしまった場合の対策と、起きないようにするための備えについて取り上げます。

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