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2017.05.26

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「盲導犬を連れた先生」が特別でなくなるために Vol.2

使用者から見た、盲導犬の幸せとは?

今までに3頭の盲導犬を連れて、養護学校や中学校に勤務してきた、新井淑則先生。その新井先生が思う、盲導犬とはどんな存在なのでしょうか。新井先生と犬たちとの出会いと別れや、それぞれの性格、彼らとの暮らしぶりなど、リアルな盲導犬の姿について、教えてもらいました。

#Lifestyle

Author :写真=大浦真吾 文=山賀沙耶

吠える、甘える......個性豊かな盲導犬たち

 盲導犬というと、聡明でおとなしく、どんなときもユーザーを守ってくれる完璧な犬をイメージする人もいるかもしれない。ところが、新井先生が語る実際の盲導犬の姿は、少し違うようだ。

「初代のクロードは30キロもあるオスだったんですが、他の犬に吠えられると向かっていってしまって。『え、盲導犬って吠えるの?』と、まわりの人たちにもよく驚かれました(笑)。
 でも幸せなやつで、ちょうど引退するころに、飼育奉仕(パピーウォーカー)さんから『そろそろ引退するなら引き取りたい』と協会に連絡があって。引退後は、子犬のころ育った家で余生を過ごしました。ヤンチャな性格だったから、飼育奉仕さんも愛着があって、よく覚えていたんでしょうね」
 それに対して、二代目のマーリンは優等生タイプのおとなしい犬。そして、現在のパートナーであるリルは、フレンドリーすぎて人や犬に寄っていってしまうという性格。同じ盲導犬でも、3頭とも性格はバラバラ。
 そんな彼らに、ときには手を焼くこともあったと話す新井先生は、どこか嬉しそうだ。

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現在のパートナーであるリルは、人も犬も大好き

 もちろん、出会いもあれば別れもある。10年近く、トイレとお風呂以外ずっと一緒に過ごしてきた盲導犬が引退を迎えて、離れ離れにならなければいけないのは、つらくてたまらないことだろう。
「別れが悲しいからこそ、あえて間を置かないようにしていて。協会に行って、さよならして、そのまま悲しむ暇もなく次の犬と訓練に入るという形をとってきました。

 それに、今まで2頭の盲導犬を引退させてきて気づいたことなんですが、引退後に引き取ってくださる方たちがすごく大事にしてくれるので、使用者のエゴであまりギリギリまで引っ張ってはいけないなと。彼らの余生を一緒に楽しく過ごそうという方たちのためにも、早め早めに引退させてあげないと、と思っています」

 盲導犬は機械でもなければ、スーパードッグでもない。盲導犬としての資質を生まれ持ち、しっかりとトレーニングされてはいるけれど、生身の一頭の犬だ。
 だからこそ、ユーザーである新井先生だけでなく、子犬時代の飼育奉仕や引退後のリタイヤ犬奉仕、繁殖奉仕のボランティアの人たち、訓練時代の歩行指導員など、多くの人たちに気にかけられて一生を送る。そこにある愛情関係は、一般の家庭犬と何ら変わりないもののように思える。

体重管理や歯磨き、ブラッシングもユーザーの役目

 街中で出会う盲導犬は、ユーザーを導く仕事中のことが多いが、普段はどのような生活を送っているのだろうか。
 新井先生のパートナーとして、皆野町立皆野中学校に出勤する盲導犬リルの典型的な1日は、こんな調子だ。

 まずは朝起きるとすぐに食事の時間。その後、排泄のために外に出してもらい、歯磨きとブラッシング。それが終わると、今のハウスで新井先生の身支度を待つ。準備ができると、ハーネスをつけてシット、ダウン、ウェイトなどの基本訓練をしたら、いよいよ出勤。
 学校では、職員室や授業をする部屋、トイレなど、新井先生とずっと行動をともにする。1日に2〜3回、外での排泄と水分補給の時間もある。
 仕事が終わって自宅に戻り、ハーネスを外すと、居間のハウスで寝て過ごしたり、新井先生とじゃれて遊んだり。寝る前にもう一度排泄に出たら、新井先生と一緒の部屋で就寝。

「盲導犬は健康管理の仕方もしっかりルール化されていて、管理状態は一般の家庭犬と比べても遜色ないと思います。ベスト体重のリルを見て、『やせてますね』なんて言われることもありますが、実は現代の家庭犬に肥満気味のコが多いだけ。本当の愛情って、欲しがっているからと人間の食べ物を与えたりすることではなくて、彼らのためを考えて与えないことだと思うんです」

 盲導犬は短命だという誤解もあるが、日本盲導犬協会によると、その寿命は13歳ぐらい。アイメイトの中には18年以上生きた犬もいるという。ラブラドール・レトリーバーの平均寿命の12.8歳(2016年、アニコム損害保険株式会社調べ)と比べても、彼らが決して短命ではないことがわかる。
 それもそのはず、一般の家庭犬でここまで健康管理をしっかりされている犬は、なかなかいないのではないだろうか。

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仕事中の盲導犬は、ハーネスをつけて過ごす

"働く犬"はかわいそうなのか

 もともと犬は、人間の生活に役立つように品種改良され、何らかの役割を担って生きてきた動物だ。ところが現代では、ほとんどの犬は家庭犬として静かに一生を送っている。
 そんな中で、盲導犬のように仕事をする犬に対しては、賛否両論があるようだ。

 一方、20年間、3頭の盲導犬と一緒に暮らしてきた新井先生の実感は、こうだ。
「盲導犬には、仕事中のオンモードとハーネスを外したときのオフモードがあるとよく言いますが、私はあまりそう感じたことはないですね。盲導犬は仕事があるから幸せというよりも、むしろ主人とずっと一緒にいられることが、彼らの幸せなんじゃないかなあと思います。彼らと接していると、こんなに人が好きなのかって驚かされることがあります」
 毎朝決まって、主人と学校にも行くし、出張にも旅行にも行く。そうやってずっと一緒にいられること自体が彼らの幸せなのではないか、と新井先生は考えているのだ。

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学校の渡り廊下を歩くリルの足取りも慣れたもの

 犬が"働く""仕事をする"ということへのイメージを、つい私たち人間の労働と重ね合わせて考えてしまいがちだが、働く犬たちが自分のしていることを"無理やりやらされている仕事"ととらえているとは限らない。また、生まれつき狩猟本能や作業欲求を持つ犬たちにとって、仕事があることと、することもなく家で退屈していることのどちらがかわいそうかは、一概には言えないだろう。
 人間社会の中で、できるだけ快適で幸せな生活を送らせてあげたいという思いは、盲導犬ユーザーも一般の飼い主も同じであるはずだ。

>>次回は、盲導犬を連れた新井先生のお話を通して、すべての人が生きやすい社会について考えます。

◎プロフィール

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新井淑則先生

埼玉県秩父郡皆野町立皆野中学校に務める国語教師。1961年、埼玉県生まれ。埼玉県内で教師をしていた28歳のときに網膜剥離を発症し、34歳で全盲に。37歳で盲導犬とともに養護学校に復職し、2008年には普通中学への復帰を果たす。相棒は三代目盲導犬のリル。著書に『光を失って心が見えた 全盲先生のメッセージ』(2015年、金の星社刊)などがある。

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