散歩中やドッグランなどで犬同士が会ったとき、彼らはカラダを使ってどのような会話をしているのでしょうか。飼い主側では「相手のことを好きか、嫌いか」など単純にとらえてしまいがちですが、実はけっこう複雑なやりとりをしているようです。そこで、貸切ドッグランで犬同士のコミュニケーションを動画撮影し、彼らが出しているボディランゲージを、東京大学の特任助教・荒田明香先生に読み解いてもらいました。前編では、初対面のあいさつについて取り上げます。
写真=日高奈々子、大浦真吾 動画=docdog編集部、荒田明香 文=山賀沙耶
犬のボディランゲージについては過去に何度か取り上げてきたが(ボディランゲージ読み取り術 Vol.1、Vol.2、Vol.3など)、どんなふうにボディランゲージを出しているのかは、実際に見てみるのがいちばんわかりやすい。そこで、今回はドッグランを貸し切り、スタッフの愛犬たちを連れて集合して、その初対面のシーンを動画で撮影。彼らが出しているボディランゲージについて、荒田先生に一つひとつ詳しく解説してもらった。
その前に、登場する犬たちの簡単なプロフィールを紹介しておく。
■ルアン(キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、7歳、去勢済みオス)
基本的におおらかだけど、時々強いこだわりを見せる。他の犬に興味を持ってあいさつをするものの、一緒に遊びたいという気持ちはあまりない。O次郎の同居犬。
■モーフ(オーストラリアン・ラブラドゥードル、1歳、未去勢オス)
ご存知docdog(ドックドッグ)の看板犬で、レトリーブ大好きな湘南ボーイ。遊びたい盛りだが、人に対しても犬に対しても、ちょっとビビりな一面もある。
■ベル(Mix、7歳、去勢済みオス)
若いころに親犬や兄弟犬と育っていたらしく、人間より犬が大好き。他の犬にすごく興味を持ってあいさつはしたがるけれど、一緒に遊ぶことは少ない。マイペースで、どこか悟ったようなところがある。
■O次郎(Mix、4歳、去勢済みオス)
ビビりだけれど強がりで、他の犬と接するのはあまり得意ではない。ボディランゲージの出方があまり一般的でない部分もある。ルアンの後輩犬。
それでは、実際の動画を解説とともに見てみよう。
まとめると、それぞれの対面シーンでは以下のような関係性が読み取れる。
①ルアン×モーフ
⇒フレンドリーな犬同士の場合(1)
お互い同じようなペースでにおい嗅ぎをする。後半、モーフが一方的に嗅ぐが、しばらくすると離れ、平和にあいさつ終了。
②ベル×ルアン
⇒フレンドリーな犬同士の場合(2)
ベルが積極的なため、ルアンが引き気味。最終的には、ルアンの意思表示をベルが読み取り、トラブルにならずにあいさつ終了。
③ベル×O次郎
⇒片方の犬だけあいさつが苦手な場合(1)
興味と怖さが入り混じり、相手のにおいを嗅ぎたいけれど、嗅がれるのは嫌という素振りを見せるO次郎。一方、牽制されても動じず、O次郎のサインを読み取りほど良い距離を取るベルは、犬同士のコミュニケーションに慣れている。
④O次郎×モーフ
⇒片方の犬だけあいさつが苦手な場合(2)
隙を見てにおいを嗅ごうとしたところ、モーフに気付かれ慌てるO次郎。追い詰められたと思いO次郎が攻撃的になると、モーフはカーミングシグナルで対応。
ちなみに、O次郎は突然モーフのおしりのにおいを嗅ごうとするが、これは犬の世界ではマナー違反で、まずは鼻をつけるところからスタートすべき。社会化不足の場合や、自信がなく顔を近づけるのが苦手な場合に、相手のにおいだけ一方的に嗅ごうとすることがあるが、相手によっては怒られることもあるだろう。
①と④のモーフのあいさつ、②と③のベルのあいさつを比較すると、フレンドリーなルアンか、あいさつが苦手なO次郎かで、そもそもあいさつが成立するかどうかが異なる。お互いのにおいを嗅ぎ合う犬同士のあいさつは、私たちの自己紹介や名刺交換のようなもの。犬同士でもあいさつ時のマナーが大切であることは、想像できるだろう。
ただし、あいさつは子犬のころの自然な犬同士のやり取りの中で学ぶため、社会化期を過ぎてから教えるのは難しい。あいさつが苦手な犬を人間が無理やり他の犬に近づけても、あいさつができないどころか、相手の犬に嫌悪感が持つことも多い。
「O次郎のようなタイプは、少しでも追い詰められたとか逃げられないと感じると、攻撃的になる可能性があります。特にリードが張ると、そういう状況になりやすいので、今回はリードを離して出会わせています。
他の犬の場合でも、ボディランゲージをできるだけ正確に表せるようにするためにも、リードが張らないように気を付けてあいさつをさせましょう」と荒田先生。
また、①と②のルアンのあいさつ、③と④のO次郎のあいさつを比較すると、相手によって反応が変わるのがわかる。あいさつは双方向のものであるため、相手の出方や年齢・性別によって対応が異なり、またそれが刻一刻と変わっていく。まるで人間同士の会話のようだ。
さらに、「近づいてみたいけど怖い」「嫌いじゃないけどしつこいのは嫌」など入り組んだ感情になることも少なくなく、この場合ボディランゲージも入り混じるため、より複雑になってくる。その場合でも、日ごろから観察する習慣をつけておけば、徐々に読み取れるようになるはず。ボディランゲージが読み取れるようになってくれば、あいさつの途中で介入すべきかどうか、そもそもあいさつをさせるべきかどうかなど、判断できるようになるだろう。
そして、今回は犬同士のボテディランゲージを取り上げたが、同様のボディランゲージは飼い主に対しても必ず出しているはず。飼い主側がそれらを細かく汲み取って対応することで、愛犬は理解されていると感じ、より飼い主のことを信頼するようになる。
もちろん、ボディランゲージのすべてを理解することは不可能だが、彼らのカラダがこれほど雄弁に語っていることを知るだけでも、愛犬を観察する目が変わるのではないだろうか。
>>次回は、初対面のあいさつ以降、ドッグランなどで実際に遊ばせているときに出すボディランゲージについて取り上げます。
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