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2017.04.05

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進化版 成犬にも役立つパピートレーニングのすべて<前編>

アップデートされた子犬たちの学びのプログラム

ノーズワークを使った犬のトレーニングを広めているスニッファードッグ・カンパニー主催セミナーとして、ドッグトレーナーの鈴木ひろみ先生による「進化版 成犬にも役立つパピートレーニングのすべて」が開催されました。セミナーの模様を、前編・後編にわたってお届けします。

#Lifestyle

Author :写真=鈴木博之 文=古川あや

 子犬の時期における社会化の重要性が語られるようになって、10数年が経つ。今や、社会化を意識せず育てられた家庭犬はそれほど多くないように思う。一方で、鈴木先生の紹介記事にもあったように、これまで社会化によって「吠える」「噛む」などの問題行動は防ぐことができると信じられていたが、未だに問題行動が出ている犬の数は減っていないと、鈴木先生は言う。 では、どうしたらよいのか......。

 セミナーの第一部では、何が問題行動の原因となっているのかを突き止め、改善へ向けたパピー期における「レイドバックトレーニング」について紹介。映像や実例を交えながら、その方向性や考え方についてレクチャーを受けた。まずは、その中からいくつか要点をピックアップしてみよう。

レイドバックトレーニングとは?

 パピートレーニングが普及し始めてから10数年経つが、プログラムはアップデートされないまま。それを改善したのが、「レイドバックトレーニング」である(ここに至るまでの詳細についてはこちら)。レイドバックとは「ゆったりと、くつろいだ」という意味で、犬にもオーナーにも負担のないプログラムを通して、どんな状況においてもゆったりと冷静に対応できるようにするトレーニングだ。
 子犬期のトレーニングを前提にしているが、成犬にも応用できるので愛犬が子犬でなかったとしても、しっかりとお読みいただきたい(※パピー期を過ぎた犬への対応については後編で紹介します)。

パピートレーニングは思春期に向けた準備

「生後8週から6カ月の間は脳が形成される期間なので、学んだことがスポッと入っていくんです。特に最初に入ってくる情報は一生モノです。
 パピートレーニングでは成長過程で必要な学びを行いますが、それぞれのパピーの状況に応じてトレーニングの方針が決まっていきます。例えば、一軒家に住んでいる犬にとっては、エレベーターに乗る練習は優先されません。マニュアルのない、オーダーメイドのトレーニングが必要なんです。そして忘れてならないのは、パピー期のトレーニングは問題行動が出始める思春期のための準備でもあるということです」

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社会化の落とし穴

 子犬に社会化が必要なことは、すでに共通認識になってきている。しかし、社会化と同時に行うべき学習があることについては、まだまだ知られていない。具体的には、噛みつきの抑制、習得行動(犬に学んでほしい行動)だ。

「社会化が育って、噛みつきの抑制が効いていない場合が一番怖いケースです。人間は好きだから最初はなでてもらいます。でも、もう十分、と思った瞬間に抑制が効かずカブっといくんです」

 噛みつきの抑制を学ぶのに最適なのは、犬の世界。だが、これはドッグランなどに連れて行って他の犬と交わらせることではないと言う。

「犬の遊びは、コミュニケーションを取るための練習です。犬語も使わないと忘れてしまうんです。ただ、その子に合った遊び相手が必要なんですね。良い遊びとは冷静な精神状態が続いているもので、目が血走ってしまうようなものではありません。遊びの目的は何か、いつどこで人間が介入するか、なぜ介入するかを明確にしておく必要があります。他の犬と関わりたくない犬もいますから、その場合は無理に遊ばせなくていいんです。遊びたくないという意思表示をする練習の場を作ってあげなくてはいけません。反対に元気いっぱい遊び好きな犬は、相手が遊びたくないと伝えているのならば、それを受け入れ違う友達を探す練習をする事も大切です」

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 ここで留意したいのは、コミュニケーション能力がまだ育っていないパピーの場合、成犬での判断材料がそのまま当てはまらないということ。

「微妙な感情反応である筋肉の一瞬の固まり、尻尾の巻き込みなどをしっかり観察して、適切に介入しなければなりません。"恐怖・戸惑い・不安"という負の感情を見逃すことが重なると、その感情が貯蓄され、突然他の犬を攻撃するということにつながります」

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この写真のパピー、みなさんにはどのように見えるだろうか。ドッグランなどでよく見られるシーンではあるが、実は要注意なシチュエーションだと鈴木先生は言う。このパピー、かなりの緊張状態なのだ

人間は「支配」ではなく「管理」を

「人間社会における管理職は、快適な環境を整え、見守りつつも必要にあわせて助言し、部下たちをつなぐパイプにもなり、課題を与えていきますよね。トレーニングにおける人間の役割も同じで、必要に応じて犬を助け、犬と環境とのパイプ役となることが必要です。オビディエンス(しつけ)はどうしても支配的になりやすいので、注意が必要です(※後編で詳しく触れます)。
 古典的動機付けから始まって定着した行動は消えにくいので、スニッファードッグ・カンパニーが広めているノーズワークはトレーニングにおいて理想とする流れをくんでいます。パピーのうちからこういったトレーニングをするのはおすすめで、オーナーにとっては一歩下がって自分の犬を見守る練習となり、自分の犬を信じることにもつながっていくはずです」

編集部山賀の愛犬ベルがノーズワークに初めてチャレンジした時の動画を再掲載しておこう。記事にもあるが、「飼い主も気づいていない愛犬の優れた能力に気づける! 感動した!!」という山賀

パピートレーニングを始める前に

 愛犬の今ある姿を見て、何が必要かをリストアップし、実際にどうしていきたいかという具体的な行動を描いてからトレーニングに入りたい。それぞれの犬の生育歴や性格によって、食への執着や環境(例えばドライヤーや掃除機など)への反応などさまざまだからだ。

「"掃除機に出会う"という項目に取り組む際、まずは犬の反応が"ゼロ"なのかプラスかマイナスか考えましょう。すでに怖がっている場合は"マイナス"状態としてとらえ、掃除機のどの部分(物体そのもの、動き、音)に対してそのマイナス反応が出ているのかを、見極めていきます。この観察により、犬と掃除機の距離や出会わせ方の方針が決まるわけです。子犬の身体的特徴(筋肉のこわばり、耳の位置、シッポの位置、カラダ全体)を見ずに、とにかく怖がる音や物に慣れさせていくというやり方では、悪化させてしまう可能性も大きいということを覚えておいてください」

 気をつけたいのが、「強制した」オビディエンスだ。例えば、通行人が挨拶にやってきたとき、自分が自ら望んでオスワリするならいいが、ピュンと飛びつくのを防ぐために座らせていたとしたら、心が置き去りにされた状態になる。犬が自ら自分の意思で座る行動をとらない限り、症状は悪化していく危険性がある。

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「何がその犬にとって最適な社会化なのかを、まずは考えてほしいですね。感情反応を知るためにも、一瞬一瞬の反応を見て欲しい。そして、リードを見るとうれしい、スプーンの音がご飯というように、肯定的な感情反応をたくさん作ってあげることが大切です。
 私の愛犬のゴールデン・レトリーバーがパピーの頃、ウサギを追いかけて脱走したことがありました。焦りましたが、キッチンに入って、スプーンを持ってカンカンカン!と鳴らしたら、4秒後にはキッチンの前でご飯まだ?とオスワリしていました(笑)。それくらい楽しい、幸せということに自分から関わらせることが大切です。
 その一方で、否定的な反応は恐怖になり、フラストレーションにつながっていくので、予防するか修正しなければいけません」

レイドバックトレーニングのキーワード

 最後に、レイドバックトレーニングを行う際の10のポイントを紹介する。家庭でのトレーニングの参考にしてみてはいかがだろう。

1.出会いの三大原則
● うれしい=出会うものから嫌なことは起こらない
● たのしい=出会うものから行動選択ゲーム(人間とのトレーニング)が始まる
● おいしい=出会うものからトリーツを食べる
 特にパピーの場合はこの三大原則を徹底させたい。
「パピーにとってはあらゆるものが初めての出会いであり、体験することばかり。動物病院に入ったら、出迎えるのは受付台に載った"生首"です(笑)。怖いですよ。犬の目線から受付を見ると、そう見えるんです。動物病院に慣らすトレーニングでは、病院の入り口にトリーツをまいて、嬉しいことの起きる、おいしい場所だってまず教えるんです」

2.犬の心をつかむなら胃袋をつかめ! 
 心をつかむには、犬の好みを知らないといけない。しかし、ずっとご馳走を出さないといけないかというと、そうではない。
「新しい出会いのタイミングではケチらないことです。その後は普通でいいんです。出だしでガッチリと心をつかむために大判振る舞いをするわけですが、これは量ではなく質が問題です。犬は臭いものが大好きなので、犬の心をつかみたいときは臭いおやつを!」

3.トレーニングは選択ゲーム
「選択ゲームというとアタリとハズレの選択が一般的ですが、特にパピートレーニングの場合ハズレはありません。アタリとアタリのゲームです。強制的に何かをさせるのではなく、犬に判断をさせて自由選択をさせるのが目的です。自発行動の結果、犬からもう1個おやつをちょうだいという反応がくれば成功です。自分で選択・判断ができないとストレスがたまって、いずれ拒否、拒絶につながります」

4.求める行動のみに着目
「犬がオスワリという行動をしたとき、トリーツが出てくると、犬は"やった"という気持ちになります。でも、もう1つ欲しいのにくれない。そこで何をやったら貰えるんだろうと考える。座ってみたら、また貰えた。もう1つ欲しいから座ってみよう、となります。
 そうするうちに、オスワリし続けるコと、フセるコ、ワンと吠えるコが出てきます。でも、私たちは求める行動のみに注目します。すると犬はあれ?と思います。犬は頭を使って考え、それが正の評価へとつながります。この場合、具体的な映像を浮かべての環境設定と段階設定の準備が不可欠です。ここを大雑把に進めていくと、フードがないと反応しない、フードに対する衝動が出る、といったことになってしまいます」

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5.慣らすから習得するへ
 行動習得への手続きは(1)行動が起こる、(2)熟練する、(3)さまざまな場所でも行動が起こる 、(4)定着するの4ステップ。
「社会化は慣らすことと考え浅く広く行ってきましたが、2の段階で終わってしまい、3、4の部分が不足していました。パピートレーニングはとにかくやることが多く6カ月かけても足りないのですが、パピー期が終わっても1歳半ぐらいを目安に(4)の定着までトレーニング続けることを意識しましょう」

6.エラーレスラーニング
 個別の適切な課題設定を行い、絶対に失敗させない環境づくりを行うことは、オーナーやトレーナーとの信頼関係にもつながっていく。
「犬と信頼関係を作るってどういうこと?とよく聞かれますが、裏切ると信頼関係は崩れますから、裏切らないことです。エラーレスラーニングでは、犬に課題を与えるときに、無理なことは課題として与えないから信用してというわけです。
 特に新しいことを導入する際には注意が必要です。犬によって未知のものに対する反応は違います。どんなものだろうと期待する場合もあれば、一体何?と疑いの目を向ける犬もいます。その犬に合わせた段階設定、必ず成功に導けるような設定を行います」

7.自発行動と誘導方法を絶妙なバランスで
「シェイピング(自発行動)は犬の自発行動による行動を強化することで、プロンプティング(誘導方法)はフードなどで誘導する方法です。それぞれ長所短所があり、シェイピングはタイミングと設定が難しいですが、覚えた行動は忘れにくい。プロンプティングは求めている行動を導きやすい反面、導かれているゆえに自発行動に移りにくい側面があります。
 プロンプティングで始めた場合は、早いうちに誘導を外さないと、フードでの誘導なしには行動が起こらなくなってしまいます。両方をバランス良く使うことが重要で、3〜5回プロンプティングした後に、シェイピングに移り、犬の自発行動を促すことで定着率はぐんと高まります」

8.ペーストは最強の味方
「噛む行動は心拍数をあげ興奮につながる一方、舐める行動は心を落ち着かせる効果があります。そういう意味でも、トレーニングに使いやすいのが、レバーペーストやクリームチーズ。嫌いなコがいないんじゃないかというくらい、犬はレバーとチーズが大好き。ただし、レバーペーストは腎臓病がある子にはNGなので注意しましょう。今アメリカではクリームチーズがブームですが、使いすぎると健康上の問題につながるので、リスクを知った上で使うように。スティックタイプのクリームチーズに小さく穴を開けて、少量ずつ使うとよいでしょう」

9.報酬の貯蓄を
「フードをベースにしたトレーニングをするときには、犬の銀行を作るというイメージを持ってください。犬の自発行動に対してフードを与えるときは、銀行に貯蓄をしているとき。フードの報酬がなくても銀行に残っている貯蓄を使うことができるんです。家の中にできた銀行は家の外では引き出せないので、家の外にも支店を作らないといけません。これは学習段階の"(3)さまざまな場所で練習する"ということに通じます。
 トレーニングをやめてしまうということは、以降貯蓄を切り崩し続けることで、思春期を迎える頃には預金が底をついてしまいます。そうすると犬は行動しなくなってしまいます。定期的な預金=トレーニングは続けていくようにしましょう」

10.何の気なしに犬に関わらない
「何かに反応して吠えたり、何かを怖がったりといった反応が出た場合には、まずは環境をコントロールして犬の前から取り除き、修復を掛ける必要があります。しかし、必ずその犬に合わせた計画を立ててから関わること。無計画に関わってはいけません」

>>次回は第2部についてレポートします。

◎監修者プロフィール

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鈴木ひろみ先生

2004年愛犬のゴールデン・レトリーバーとともに、家庭犬トレーニングをオーナーに教えることができるトレーナーになるために渡米。10年以上にわたる介助犬トレーニングを指導してきたアリータ・ダウナー氏を師と仰ぎ、3年間、家庭犬トレーニングとオーナートレーニングの基礎を徹底的に学ぶためのべ2万頭にわたる犬達との生活を送る。
2009年サンディエゴで初の、パピーを対象としたデイケアを開始。幼稚園教諭時代の教訓「家庭では培えないものを提供する事が幼稚園の仕事」をモットーに犬同士のコミュニケーション能力を引き出す場所としてCanine to Five Training Centerをスタート。オーナーが楽しく自分の愛犬をトレーニングできる環境を作り、予防トレーニングの提唱に情熱を燃やしている

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「犬のいる暮らしを、もっと愉快に、もっと豊かに」/Marble & Co.代表/大瀧昭一郎

ペットロスを乗り越えるために必要な、飼い主の心構え

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