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2017.04.03

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ペットの悲しみにどう対処すればいいの?<後編>

ペットロスを乗り越えるために必要な、飼い主の心構え

日本における「動物医療グリーフケア」の第一人者、獣医師・阿部美奈子先生。ペットの死後も続く飼い主とペットの"Happy Life"を目指し、全国各地でセミナーや講演を行っている。前回に続き、医療の現場での「グリーフケア」の実践の様子や、ペットロスを乗り越えるための心構えについて教えてもらいました。

#Healthcare / #Lifestyle

Author :写真=阿部美奈子先生 文=塩見拓也(編集部)

病気治療が中心の医療から、動物や人の心の不安も軽くする医療へ 

「先生にお任せします」では通用しなくなってきた現在の動物医療。ペットの家族化が進むことで、飼い主はひと昔前よりもペットの些細な異変や体調変化に敏感になってきている。同時に、情報へのアクセスが容易になったことで、以前より病気そのものや治療方法に関する知識が増えた。皮肉にもそうした情報が手軽に入手できるようになったことで、逆に考え、迷い、悩むことが増えているのではないだろうか。
 このような背景を踏まえると、「病気中心のケアで満足できていた」時代から確実に変化してきている。そこで、現代のあるべき動物医療のコンセプトを表したものとして、阿部先生が提唱しているのが"Home Doctor"である。

「ペットが人の生活に深く関与するようになった現代、動物病院にはペットにまつわる人の不安を軽くするという新たな役割が必要なのではないかと思います。病気をただ治療するだけではなく、飼い主が"安心して悲しみ、迷い、苦しめる"場所であると同時に、"安心して喜び、笑い、楽しめる"場所に病院がなっていくべきだと思うんですね。前編でもお伝えしたようにペットの幸せは飼い主の幸せの上に成り立つのですから。"Home Doctor"には、飼い主にとってありのままの気持ちを否定されず、エネルギーを充電できる安全な本拠地という意味が込められています」

 ペットの体調に異変があると、飼い主は不安や悩みを抱く。そうした飼い主の心には、ペットとのいつもの日常が失われたこと、そしてそのような状況から「もっと悪い状況になってしまうのではないか......」と、さらに大きな不安を抱くことが多い。飼い主はそのような悲しみの感情、いわゆる"グリーフ"を抱いて動物病院に来るのである。

 グリーフは、悲しみの発生から時間を追うごとに否認~受容へと変化する心理過程に応じて、以下の4段階にわかれている。

⒈ 衝撃期
グリーフの原因となる事柄に直面し、ショック・思考困難・緊張といった感情を抱く。

⒉ 悲痛期
悲しみ・嘆き・後悔・自責・罪悪感など、衝撃を経た後に訪れる真の心の痛みに直面する。

⒊ 回復期
辛く苦しい悲痛期を乗り越え、肯定的に現実を捉えられるようになっていく。

⒋ 再生期
現実に希望を抱けるようになり、再出発していく。

「グリーフに直面すると、このような基本パターンとなる心理過程を経験することになりますが、一般的に飼い主が病院にくるのは"衝撃期"や"悲痛期"であることが多いでしょう。だから、まずは飼い主のグリーフに共感し、ありのままの感情を受け入れることが、ペットの病気治療の前に求められます。話を聞いてもらえた、共感してもらえたという安心感は、飼い主のグリーフを緩和することに繋がり、表情が穏やかになります。ペットは飼い主の表情・声色・仕草を読み取るため、まずは飼い主の心をケアすることが、結果的にペットの安心・安全にも繋がっていくと考えています」

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ペット・飼い主・医療者の3者間で、グリーフケアコミュニケーションの実践を

 人の考えや感情の93%は、言葉ではないところで相手に伝わるとされている。視覚や聴覚などによる、非言語コミュニケーションもとても重要な要素だ。この点、ペットと飼い主のコミュニケーションは100%非言語で行われている。表情やしぐさ、声の調子、言葉の響きなどで人はペットに自分の心情を伝え、ペットはそれを敏感に察知して心を通わせていることになるのだ。

 例えば、病院の診察室で飼い主と獣医師との間で"人中心の言語コミュニケーション"のみが行われた場合、病気に関する話題がメインになるだろう。ここでの会話では、病名や検査結果、治療方法など一般的にあまり表情が明るくなるような話題ではないはずだ。そうした言葉は飼い主のグリーフをさらに大きくする結果となり、本来はペットのことを想った会話であるにも関わらず、ペットと人の心の温度差はますます開いていくことになる。必ず目の前のペットのストレスレベルを見ながら、優しい目で接し、声をかけ、診察台の上での緊張をリラックスできるよう配慮することが重要なのです。

 治療を始める際、具体的な病名など表情が固くなる話題からはじめるのではなく、飼い主のグリーフを少しでも楽にすることからはじめたらどうだろうか。人のストレスの原因となっている不安・疑問・悩みに共感し、ありのままの気持ちを安心して話せるようにする。また、ペットに優しく接する姿を見せていく。すると、人の表情は緩むだろうし、ペットはその様子を察してさらに安心するはずだ。まずは診察室をペットと飼い主にとって安心・安全な場所に変えることが、ペット・飼い主・医療者の3者間でのグリーフケアコミュニケーションでは重要なポイントになる。

「グリーフケアのポイントは、獣医師が飼い主の悩みを共有し、一体感を持ってもらうことで安心・安全な場所を作ることです。また、飼い主・ペットの名前を何度も呼びながらコミュニケーションするだけでも、安心感を抱いてもらいやすくなるんですね。名前はその人、そのペット固有のオンリーワンのものですから、穏やかな声で呼ばれることは心を落ち着かせる大きな要素になります」

 ペットや飼い主のしぐさ・視線・声に着目し、言葉を発する奥に抱える感情を読み取れるよう努めるのだと阿部先生は言う。共感目線から問いかけることによって、相手のグリーフの存在に気づき、さらに傾聴することにより思いをどんどん引き出していくのだ。相手が話した言葉は、第一声では絶対に否定せず、認める・共感することで相手の張りつめた緊張を緩めていく。そして、現時点でできていることをきちんと評価し、問題の解決方法を提案する。
 この一連のプロセスによって飼い主の心を解きほぐしながら、動物の治療に終始するだけではなくその先のペットと人との、ハッピーライフへ共感する姿勢をしっかり示していくことが大切だ。

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阿部先生が取り組む"待合室診療"の様子。飼い主は待合室で不安や心配を抱えて順番を待っている。"待合室診療"ではその感情に共感し、グリーフを軽減させ安定した気持ちで診察室に入ってもらい、スムーズな診療を行うことを目指している

最終章に"プレゼント"できた喜びが達成感へつながる

 ペットにまつわる代表的なグリーフに、死後に訪れる"ペットロス"がある。長年連れ添った大切な家族を失い、飼い主としてグリーフを感じないことは難しい。では、このグリーフの衝撃、悲痛に立ち向かうためになにができるのだろうか。
"ペットロス"の悲痛期を乗り越えるためには、生前どのような時間をペットと過ごしてきたかが重要だ。生活の中でどのように救われ、そして癒やしてきたのか、その積み重ねが死後のグリーフを小さくすることに繋がっていく。生前の救いや癒やしが多くあればあるほど、それが悲痛期を支える力になるのだ。

「死が近づいている時には、死を覚悟させるようなマイナスの言葉を何度も繰り返し使うことは、ペットロスケアでは逆効果です。生きている時間のペットのQOLを守り、ハッピーな時間になるようサポートすることの方が重要です。残された貴重な時間である最終章だからこそ、一番ハッピーに、一番安心・安全に、警戒させたり緊張させたりせず、いつも通りの時間を過ごしてほしいと思います。それができると、亡くなった後もわがコの存在はお守りとして残っていき、悲しみから立ち直る心の支えになってくれるはずです」

◎監修者プロフィール

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阿部美奈子先生
麻布大学大学院修士課程修了後、大学病院研修医、動物病院勤務、専門学校講師を経て、現在は「待合室診療」という新しい獣医療分野を展開中。新しい動物医療として「グリーフケア」を実施し、待合室診療グリーフケア、個別グリーフケアカウンセリング、人材育成グリーフケアセミナーなど多方面で活躍中。http://grief-care.net/

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