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2017.03.17

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ペットの悲しみに飼い主はどう対処すればいいの?<前編>

「グリーフケア」でつくる、ペットと飼い主の理想の関係とは?

日本における「動物医療グリーフケア」の第一人者、獣医師・阿部美奈子先生。ペットの死後も続く飼い主とペットの"Happy Life"を目指し、全国各地でセミナーや講演を行っている。今回は、いずれ訪れる愛犬の死や普段の愛犬との関係性に悩む全ての飼い主の方に向けて、「動物医療グリーフケア発想」に基づく、より良いペットへの接し方を教えてもらいました! 

#Healthcare

Author :写真:大浦真吾、阿部美奈子先生 文:塩見拓也(編集部)

人と出会うことで動物の生き方はどう変わるか?

「野生動物は、人との関わりを持たずともイキイキと生きています。当たり前ですが、その生活には人間が提供する医療も食事もありません。でも、イキイキと生きている。そこには、たくさんのヒントがあるように思います。動物の本能を尊重しながら、人と出会った動物をいかに幸せにしていくのか?を考えなければなりません。人と出会った動物をペットと呼ぶとするならば、動物から見て人が安全で安心できる存在であること。せっかく出会ったのだから、そういう関係を目指していく必要があると思うんです」。

 そう語るのは、現在マレーシアを拠点に、日本との往復生活を行っている阿部先生。多くの野生動物が暮らすマレーシアでの体験を通じて、根本的に考えるべき、人とペットとの関係についてお話いただいた。

 結婚、出産をきっかけに、約11年間専業主婦をしていた阿部先生は、久しぶりに戻った獣医療の現場を見てある違和感を覚えたと言う。本来、人はペットに安心感を与える存在であるべきなのにも関わらず、医療の現場では笑顔の見えない犬や飼い主が存在していた。

「医療技術はもちろん進歩しています。でも、11年ぶりに復帰した現場ではふと受付から待合室を見たときに、飼い主の皆さんが緊張した顔をしていたんです。そして、その横にいる動物も同様に、緊張していました。ペットは人と出会ったからこそ医療というサービスを受けることができるようになったにも関わらず、これでは全然ハッピーじゃないですよね。でも、医療者側は治療をすればペットが救われたと思ってしまう。そのギャップから、本当にペットを安全に守る医療とはどういうことか、ということを考え始めました」

 ペットの体調に異変を感じ病院に来ているとき、飼い主は元気なときの当たり前の日常が失われたことに不安を抱いているはずだ。このような、自分にとって大切なものを失ったり、失うかもしれないときに生まれる「ごく自然な心と身体の反応」のことを「グリーフ」と呼ぶ。動物医療グリーフケアは、このグリーフの発生原因を知り、さまざまな喪失で現れる反応を理解し、そのような飼い主の心模様に対処する方法のことを指す。

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(写真提供=阿部美奈子先生)

「動物医療グリーフケア」に求められる3つの"C"

 本当の意味でペットを救う医療とは、どういうものなのか。阿部先生はそれを3つの"C"で表現する。

「苦痛を取るための医療として、"Care"。これは人と出会った動物だからこそ受けられる、大きな恩恵の一つですね。次に、"Cure"。これは感情・ストレスへの配慮を指します。病気の理屈はわからない動物たちにとって医療を受ける彼らの心模様に対しての配慮は欠かせません。"動物にとっての最良・最善"を第一に考え行動すると、飼い主の幸せは自然とついてくるものなんです。なぜなら、ペットの元気な姿、穏やかな表情や仕草が、飼い主にとっては何よりもうれしいですし、ホッとできますからね。そして最後に、"Communication"。これもすごく大切なのですが、難しいことでもあります。コミュニケーションが医療者と飼い主という人と人で行われている光景を目にしますが、動物医療は絶対にペットを中心に3者間方向でなければ意味がありません。言葉を話さないペットと、声や身体の動き、表情で人は自分の気持ちを伝えていく必要があります」

 ペットの幸せは、最初に出会った人の笑顔がないと絶対に成立しないと、阿部先生は言う。ペットの幸せは人の上にしか成立しない。ペットのストレスを軽減するためには、その犬や猫にとって、関わる人が安全地帯になる必要がある。人がどんなときも味方でいること。それが"動物医療グリーフケア"の根本的な考え方の背景だ。

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(写真提供=阿部美奈子先生)

ペットは人の心を映す鏡。人はなぜ動物を飼うのか?

 人とペットの関係とは......。それは、けっして人から動物へのGIVEだけではない。飼い主はもちろん、関わる人たちはペットから大きな影響を受けている。

「飼い主にとってペットは、自分の意思で手に入る家族、自分だけをそばで見てくれる存在だと思うんです。人と動物に共通言語はないので、ペットが言葉で否定することはありません。だからこそ、人は安心してペットにありのままのことを話せます。ペットは言葉ではなくその温かく柔らかい体で心を癒してくれます。また、ペットは自立をして自分のもとから離れていかないという安心感もあるでしょう。例えるなら、"自立しない子ども"のような(笑)。
 どんなときもペットが自分を必要としてくれることは自分自身の存在価値を自然に高めてくれることに繋がっています。ペットと出会うことで、笑う機会が増えることは間違いありません。ペットは言葉ではなく、何気ない行動や仕草で私たちを笑わせてくれます」

 ペットとの生活の中で自然と笑顔が増え、笑うことによって人はエネルギーを得ている。動物を飼う前と後では、生活の質は確実に向上しているはずだ。

 日本では、信仰を持たない無宗教という人が多い。それゆえに、人は心の拠り所としてペットを捉え、依存関係になることが多いという。"ハグ"することが最大の癒しだと言われているが、日本で習慣の違いからできないことも多い。そこでいつでもハグさせてくれるペットが必要になるのかもしれない。ただ、人と犬は種が異なる動物であり、犬の目から感じる心地よい距離感、関係性を考えることは必要だ。だからこそ、きちんとした意識、正しい理解をベースにお互いが安全基地となる関係性を作っていく必要があるだろう。

>>後編では、"ペットロス"などペットにまつわる悲しみに向き合うために、生前にどうペットと過ごしていけばいいのか。「動物医療グリーフケア」の実践を通じて、その答えを探っていきます。

◎監修者プロフィール

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阿部美奈子先生
麻布大学大学院修士課程修了後、大学病院研修医、動物病院勤務、専門学校講師を経て、現在は「待合室診療」という新しい獣医療分野を展開中。新しい動物医療として「グリーフケア」を実施し、待合室診療グリーフケア、個別グリーフケアカウンセリング、人材育成グリーフケアセミナーなど多方面で活躍中。http://grief-care.net/

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