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2017.02.20

海外との比較から考える、日本の動物福祉(後編)

本当の意味で動物福祉を根付かせるには?

加隈良枝 帝京科学大学 生命環境学部

動物福祉を推進するうえで大切な、社会のルール作り。欧米では一体どのように行なわれているのでしょうか。また、法律や条例を変え、制度を作るだけで、動物福祉は守れるのでしょうか。後編では、日本社会に本当の意味で動物福祉を根付かせるための方法を、帝京科学大学 生命環境学部の准教授、加隈良枝先生と一緒に考えます。

写真=永田雅裕、公益社団法人アニマル・ドネーション クラブアニドネ:粂ひとみ 文=山賀沙耶

民間団体が法にも大きな影響を及ぼす欧米

 動物福祉の推進に大きな影響を与えるのが、犬に関する法律や条例、社会のルールなど。まずは、日本やアメリカ、ヨーロッパの国々では、それらのルールがどのように作られているのかを見てみよう。

 日本社会のルールの中で、もっとも犬の動物福祉に影響を与えるのが、動物の愛護及び゙管理に関する法律(動物愛護管理法)だろう。
 2012年の改正の経緯を例に上げると、5年ごとにくる法の見直しのタイミングということで、2010年に環境省の中央環境審議会 動物愛護部会が『動物愛護管理のあり方検討小委員会』を設置。加隈先生含め、動物にかかわるさまざまな立場の有識者18名が25回にわたって検討を重ね、各党における議論や与野党間の協議により、改正案がとりまとめられた。また、一般市民からも環境省に計17万件のパブリックコメント(公募意見)が寄せられ、改正内容に関する署名活動なども行われた(ちなみに、このときの改正から今年でちょうど5年目で、そろそろまた見直しが始まることになる)。

 一方、動物福祉が進んでいると言われる欧米の場合はどうか。
「これは日本との大きな違いの一つだと思うんですが、欧米の場合、民間の大手動物福祉団体などの中に獣医師やトレーナー、研究者などの専門家グループががっちりいて、そういった人たちがガイドラインを作り、提案していく、という流れがあります。政治家に直接働きかけを行うロビー活動も盛んです。イギリスのRSPCA(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals=英国動物虐待防止協会。世界最古にして最大の動物福祉団体)などはその代表で、一般の人も動物に関して気になることがあればそこに通報して、意見が集約されるという流れができています。
 民間の意見が反映されやすい反面、各団体の主張に流されすぎてしまうという側面もあるようです」
と帝京科学大学 生命環境学部の准教授、加隈良枝先生は話す。

 日本の場合は、民間団体の中に専門家が少ないこともあり、科学的根拠ではなく個人の考えや思いに頼ることになりがちだ。その結果、多少の考え方の違いを超えて連帯することができず、強固な民間組織を作って力を発揮することが難しくなっている。さらに、行政側にもペット業界に関する研究機関がなく、慣習的に行われていることがなかなか覆されなかったり、検討する際の根拠が海外の論文頼りになってしまったりという弱さもある。また、行政の担当者は数年で部署異動になることが多く、専門性を持って取り組みづらいのも難しい点だ。
 そもそも、獣医師の国家試験でも、食品衛生や環境衛生、感染症などの人間にかかわる分野に比べて、動物福祉の分野は十分に重視されてこなかった。それもあって、"犬と社会"にかかわる専門家が圧倒的に少ないという状況が生まれてしまっているのだ。

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ドイツの民間団体が運営する、ヨーロッパ最大の動物保護収容施設、ティアハイム・ベルリン。約150名の専属スタッフと500名のボランティアが勤務しており、運営費(1日約1000〜1200ユーロ) はほぼ寄付金や会員費で成り立っている(写真提供=公益社団法人アニマル・ドネーション クラブアニドネ:粂ひとみ)

民間作る自主ルールが機能しているアメリカ

 それでは、ここ30年ほどの間に保護動物のためのシェルターが整い、動物の殺処分数が激減したアメリカではどうか。
「アメリカでは、国の法律はそこまで厳しくないんですが、実験動物や保護活動などの各分野で、民間団体の専門家が集まって学会や協会を作って、自主ルールを設定するケースが多いように思います。そこには、"自由の国"という国柄や、移民が多くコンセンサスが取りにくいなどのお国事情も関係していると思うんですが......。保護活動に関して言えば、日本と違って行政よりも民間の保護施設のほうが機能していて、そこで働いている獣医師が集まってシェルター獣医師協会を作り、保護施設の設備や運営に関するガイドラインを作成しています。それが単なる努力目標ではなく、例えば実験動物の分野では、NIH(National Institutes of Health=アメリカ国立衛生研究所)が各研究機関に対して研究資金を出す際にNIHのガイドラインを守っていることを条件にするなど、公的なものとして機能しています。
 上から言われて動くのではなく、自分たちで決まりを作って守るというのが、アメリカの特徴かもしれないですね」

 こういったアメリカの姿勢の中には、法律や条例を作る以外の解決策を見出すことができる。
 日本では、例えば「殺処分ゼロの実現」といった理想を外部から押し付けておいて、その具体的な道筋に関しては行政任せといった民間団体も少なくない。自分たちには何ができるのかを考え、民間の力を合わせて動くことで、変えられる部分もあるはずだ。

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業界の垣根を越えて、社会全体で取り組むことが大切

 日本では、1999年、2005年、2012年と動物愛護管理法が改正されて、動物福祉が守られる方向へと徐々に進んでいる。犬猫の殺処分数も、1974年度の122万頭以上から2015年度の8万2,902頭へと、約40年の間に15分の1ほどに激減している。これは誇るべき成果だ。
 一方で、2015年度の国内の犬の飼育率は、アメリカの約44%(2015年アメリカペットプロダクツ協会調べ)に対して、たった13.9%。小動物や魚等も含めペットを飼っていない人の割合は68.5%にものぼり(ともにペットフード協会調べ)、日常的に動物に触れながら暮らしている人の割合は驚くほど少ない。そのせいか、一般の人々の「そもそも動物とはどういうものか、犬とはどういうものか」という根本的な理解が追いついているのかどうかは、疑問が残る。

「動物福祉を根付かせるには教育が不可欠だとは思うのですが、日本では、動物に触れてきた唯一の経験がウサギやニワトリなどの学校飼育動物という人も多いと思います。その経験から、動物というのは小屋に閉じ込めておいて、ちょっと掃除して適当にエサをやっておけばとりあえず生きているんだな、というような感覚が、もしかしたら身についているのかもしれません。
 また、最近は犬を学校などに一時的に連れてきて、触れ合いをさせるプログラムもあるようですが、どんなふうに扱われても平気な犬を子どもに触らせておいて、汚いところや大変なところに一切触れないのでは、本当に効果があるのかな、と少し疑問に思います。それで『犬って可愛いな、欲しいな』と思ったとしても、本当に犬の魅力がわかったと言えるのかどうか......」

 本当の意味で動物福祉を社会に根付かせるには、行政と民間団体が連携して取り組むことに加えて、一般の人たちの理解を深めることが必要不可欠だ。それには、犬の飼い主や犬業界の人自身が犬のことをよく理解するとともに、犬好きだけで閉じこもらず、積極的に社会とかかわっていくことも大切だろう。
 そうして、日本の状況に合わせた、犬にも人間にも優しい社会の実現方法を、社会全体で考え取り組んでいくことが、今後重要になってくるのではないだろうか。

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