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2017.02.01

海外との比較から考える、日本の動物福祉(前編)

欧米の動物福祉は日本の手本となり得るか

加隈良枝 帝京科学大学 生命環境学部

「欧米の動物福祉は進んでいる」という話をよく耳にしますが、実際のところはどうなのでしょうか。生活環境、文化、制度など、動物をめぐる状況は、国や地域によっても実にさまざまです。そんな中で、日本に合った動物福祉の形を見つけるには? 帝京科学大学 生命環境学部の准教授、加隈良枝先生と一緒に考えます。前編では、日本とアメリカ、ヨーロッパの飼い犬に関する法律や条例、社会におけるルールなどから、各国の飼い犬たちの置かれている状況を見ていきます。

写真=永田雅裕、古川あや 文=山賀沙耶

「日本はペット後進国」は本当?

"動物福祉"というテーマがよく話題に上る昨今。日本は"ペット後進国"とも言われ、ともすると「動物福祉の進んでいる欧米に比べて、日本は......」といった論調になりがちだ。それでは、日本の動物業界は欧米に比べてそんなに遅れているのかというと、実は一概にそうとは言い切れないという。

「環境や文化、歴史の違いもありますし、多様な国や地域を一律で語ることには、あまり意味がありません。
 また、例えば犬猫の引き取り数で言うと、アメリカでは年間数百万頭にのぼるのに対して、日本での行政による引き取り数は年間10万頭あまりです。人口規模を考慮しても、日本はアメリカに比べて圧倒的に少ないです。しかも、最近日本では殺処分の問題が顕在化しているため、あたかも殺処分される犬猫が増えているかのような印象を受けますが、実際には逆で、殺処分数は急激に減少しています。実は、日本の動物業界は、他国に比べてもひけをとらない部分もあるのです」
と帝京科学大学 生命環境学部の准教授、加隈良枝先生は話す。

 それぞれの国に対する何となくのイメージや、聞きかじりの知識から判断するのではなく、きちんとしたエビデンスに基づいて冷静に話し合うこと。まずはそれを前提に、日本と海外の犬事情を比較し、日本社会に合った犬との共生の方法を探っていきたい。

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法律でしっかり守られるヨーロッパの動物福祉

 まずは、犬に関する法律や条例、社会におけるルールなどから、日本やアメリカ、ヨーロッパの国々で飼い犬が置かれている状況について、具体的に見ていこう。

 日本では、2013年9月に改正法が施行された動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)によって、犬猫販売業者の遵守すべき事項が強化され、動物たちが最低限の健康を確保できるよう配慮することが定められた。けれども、ペットショップでの犬の生体展示販売は一般的に行われており、犬を飼い始めることに対するハードルはかなり低いと言える。
"ペット大国"とも呼ばれるアメリカでも、子犬の生体展示販売を行うペットショップがないわけではなく(一部には禁止されている自治体もある)、小遣い稼ぎや趣味で無計画に繁殖させるバックヤードブリーダーも、多くの自治体の規制にもかかわらず存在している。犬を飼育する場合、一部の地区では毎年登録料が必要だが、年間10〜20ドル程度とそれほど高くはない。日本に比べれば多少のハードルはあるものの、適性の有無や飼育環境の是非にかかわらず、誰でも飼うことができる状況と言えるだろう。

 一方、ヨーロッパの中でも動物先進国と言われる国々では、犬を飼うことに対するハードルが高めだ。
 中でも最も厳しい制度のあるスイスでは、2008年9月から、犬の飼養に関する専門知識証明、いわば"犬の飼い主免許"の習得を飼い主の義務としている。この証明を得るには、犬を迎える前に最低4時間の講習を受け、迎えたら1年以内に1回1時間×4回のしつけの訓練および実技テストを受けなければならない。
 ドイツでも、一部の州で専門知識証明の習得が義務付けられている他、犬税を設けている自治体が多く、ベルリンでは1頭目が120ユーロ(約1万4千円)と、その金額は決して安くない。

 それでは、実際に犬と暮らす中では、どのようなルールの違いがあるのだろうか。
 ドイツでは、電車やバス、タクシーなどの公共交通機関は、すべて犬と一緒に乗ることができる。レストランもほとんどが犬連れOKで、一緒に入れないのは屋内の食料品店や病院など。トレーニングにクレートを使う習慣はなく、逆に『犬に関する政令』で飼育環境の面積などが決められているため、クレートに入れていると虐待とも見なされかねない。首都ベルリンには州管轄のノーリードOKの森があり、ジョギングする人や森林浴する人に混じって、犬の散歩をする人の姿が見られるという(ただし、排泄物の放置問題は日本よりも深刻のよう)。
 イギリスもほとんどの場合は公共交通機関に一緒に乗れるし、レストランもほぼ犬連れOK。フランスも多くの公共施設が犬連れOKだが、公共交通機関に関しては、運行会社によってサイズの上限やキャリーバッグに入れるなどの規則があるようだ。

 一方のアメリカでは、地域にもよるが、補助犬を除いて、公共交通機関や公共施設、レストランに犬と入れるケースは少ない。その代わりといっては何だが、犬連れ専用のドッグカフェやドッグランが存在している。また、しつけではハウスの中でじっとしていられる"クレートトレーニング"の重要性が強調されるのも、ヨーロッパと異なるところだ。
 これらの点では、ヨーロッパよりアメリカの情報が入りやすいこともあり、日本はかなりアメリカに近い。

 大ざっぱにまとめると、犬を飼い始めることに対して門戸は広いものの、飼った後は囲い込み管理するのが日米。それに対して、犬を飼うのは多少狭き門だが、飼った後はしっかりとトレーニングをしたうえで自由に行動させるのがヨーロッパだ。
 双方を動物福祉という観点で見比べたときに、法や社会のルールによって飼い犬たちがより守られているのは、ヨーロッパのほうだろう。

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イギリスの保護施設『バタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム』は一般に開放されており、年間10万人以上が訪れている(写真提供=加隈良枝先生)

蛇口の閉めすぎは犬との共生社会を退歩させることも

 それでは、日本にとってヨーロッパの動物先進国が理想でありゴールであると言えるかというと、そうは言い切れない実態もあるという。

「ヨーロッパの動物先進国では、日本のペットショップのように店舗を構えて子犬をたくさん展示販売しているところは、多くはありません。ただ、無許可のブリーダーがインターネットなどで生体販売を行うケースは後を絶たず、国内だけでなく東欧などで安く繁殖された犬がブローカーを通じて入ってくるケースもあるようです。
 例えば、イギリスにはブリーダーのライセンス制度がありますが、1年間に流通する子犬約77万頭のうちの半数以上にあたる約50万頭は、ライセンスのないブリーダーや輸入によって供給されているという推計が、RSPCA(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals=英国動物虐待防止協会。イギリスの非営利団体で、世界最古にして最大の動物福祉団体でもある)により2016年に報告されました。ライセンスのないブリーダーには趣味レベルの個人や小規模業者も含まれますが、大規模の繁殖業者もたびたび検挙されています。特に過去5年間で隣国アイルランドや東欧諸国からの違法な輸入が激増しており、法は整備したものの、また新たに別の問題が噴出し、そこに取り組む必要性が出てきているようです」

 犬を飼うことのハードルが上がれば、そのひずみとして、抜け道を探して販売したり購入したりする人が出てくる。そこをさらに締め付ければ、犬の数自体が激減してしまうことになりかねない。これはどこの国でも起こり得る問題で、やみくもに法を厳しくすれば解決、とはいかないだろう。
 蛇口を閉める行為と、受け皿を準備する行為。この2つをバランスよく進めてこそ、社会全体で犬の恩恵を受けつつも、動物福祉の守られる社会の実現に、一歩近づけるのだろう。

>>次回は、日本の動物福祉を推進させるための方法を、欧米との比較から考えます。

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