2回のオリエンテーションの次に待っていたのは、先輩ボランティアによる実地トレーニングです。どんな犬や仲間に会えるのかな......。緊張しながらシェルターに向かいました。
実地トレーニングには週末と平日の2日間が設定されていました。私が選んだのは平日午後のトレーニング。指定の時間にシェルターに行くと、なんと参加者は私1人でした。他にも2人ほど参加予定者がいたそうですが、その方々は現れず、マンツーマンでのトレーニングとなりました。
一緒にオリエンテーションを受けた人のほとんどが、週末に実施されたトレーニングを受けたのだそうです。子育て中でもなく、仕事もしていない、私のように平日の昼間自由に時間が使える人は少ない、ということなのでしょう。のちに親しくなった平日午前中のボランティア仲間たちはリタイヤ組、現役のドッグトレーナー、そして自営やパート勤務の方である程度時間が自由になる方々でした。
1対1のトレーニングということで、少々緊張しましたが、トレーナーのゲーリーは仕事で日本に訪れたことがある日本通、そして偶然にも以前、同じ犬種を飼っていた方でした。平日の日中にボランティアできる人は少ないこと、そして、特に人と関わらずに行うボランティアの場合は孤独を感じがちで、それが原因でやめてしまう人が少なくない、などなど。ボランティアの先輩と多岐にわたる話ができたことは、いろいろな意味でその後の私のボランティア活動にプラスに働きました。
実際、私も孤独を感じることがありました。スタッフや他の仕事を担当しているボランティアたちと挨拶程度しか言葉を交わさない日が続いたからです。でも、「こんな風に感じるのは私だけではない、アメリカ人でも同じように感じる人はいるんだ」と、寂しさを感じたときの支えになりました。
ボランティア時の必需品。クリッカーとおやつ、そしてポシェット
第3回でお伝えしたようにエンリッチメントの活動内容には難しいことはありませんが、「クリッカートレーニング」だけはコツが必要です。自分の愛犬とお遊びで試したことはありましたが、改めてゲーリーのアドバイスを受けながら、クリッカーを鳴らすタイミング、間を空けずにおやつを与える練習などを行いました。
クリッカートレーニングについては今では多くの方がご存知だとは思いますが、人間にとって好ましい行動を行ったときに合図とおやつを与え、その行動を強化していくというトレーニング法です。
シェルターにおいてクリッカートレーニングを取り入れる目的はひとつ。犬たちをできるだけ早く里親さんの元に送り出すということです。
里親希望者がケンネル内に入ると、興奮して、吠えたり、ぴょんぴょん跳ねたり、さらにはその逆で人間を怖がってケンネルの隅っこで固まったり、背を向ける犬もいます。こういった犬たちはどうしてもシェルター滞在期間が長くなりがちです。
その一方で、ゲートのところで静かにおすわりして見学者を見上げるという行為は「おすわりができる」「人間とコミュニケーションが取れる」というプラスのアピールとなり、早く引き取られていくというのです。
そこで、人間が来たらゲートのところにきて静かにおすわりする、という行動を強化していくのですが、一番の目的はしつけではありませんから、ただ通路側にやってくるだけでもご褒美を出しますし、首を傾げて人間の顔を見上げるというかわいらしいジェスチャーもご褒美につながります。
こうした経験を積むうちに訪問者に興奮して吠えていた犬もケンネルの入り口にやってきて、静かに待っていられるようになるのです。足踏みしつつ、体を震わしつつ、飛び跳ねたいのをガマンしている子さえいました。吠えていた犬も、吠えるのをやめたタイミングでクリッカーを鳴らし、おやつをご褒美に与えていくことで、なんとか我慢できるようになっていくのです。間違ったタイミングで与えると、犬が勘違いしてしまいますから責任重大です。
「Good」「Good boy(girl)」などの言葉をかけてもいいのですが、ボランティアによって声質や強弱高さは違いますから、犬たちは混乱しかねません。それを避けるためにクリッカーが導入されているとのことでした。
おすわりしたりゲートのところにやってきたり。静かに見学者を迎えられる犬は早く引き取られていく傾向がある
ようやく始まったシェルターでのボランティアで、私はたくさんの犬たちと出会いました。ラブラドール・レトリバーとしか暮らしたことのなかったので、はじめて接する犬種やサイズの犬たちがほとんどで、日本ではあまりみかけないピットブル系、ハウンド系の犬が多いなというのが最初の印象でした。
「シェルターボランティアで学んだこと」記事一覧