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2017.01.11

人間と野生動物が共生するには(後編)

動物好きなら知っておきたい、動物園と野生動物の窮状

黒鳥英俊 京都大学霊長類研究所共同研究員

ゾウやキリン、ライオン、ゴリラなどのいる動物園は、私たちにとってあって当たり前の存在。ところがその動物園が、今存続の危機に遭っています。未来に野生動物を残し、人間が彼らと共生していくために、できることとは? 前編に引き続き、動物園での大型類人猿飼育歴約30年、現在は京都大学霊長類研究所にてオランウータンを研究している、黒鳥英俊先生にお聞きしました。

写真=docdog編集部 写真提供=黒鳥英俊  文=山賀沙耶

数十年後、動物園から動物が消えるかも!?

 誰もが一度は訪れたことがあるであろう、動物園。ところが、動物園の現状については、どのぐらい知っているだろうか。

――今、動物園にいる動物たちは、どこから来ているんですか?

黒鳥:これは世界的にそうなんだけど、類人猿の場合、昔は散弾銃で動物の群れの親を殺して、子どもだけ獲っていたんです。その子どもたちをアフリカから船で輸送するんだけど、輸送中に9割以上は死んじゃって......。
 その後、1975年にワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)ができて、1980年に日本も締結国になりました。今動物園にいる動物たちの9割は、野生を知らない動物園生まれですね。

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1978年、上野動物園にて、オランウータンのタンタンと

――例えば、野生で暮らしているゴリラと動物園生まれのゴリラでは、生態に違いが出てきたりしないのですか?

黒鳥:それはありますね。野生だったら、毎日移動しながら巣作りをして寝て、また次の日移動してという形だけど、動物園ならそういう必要はないですし。食べ物に関しても、自分で探すという性質は欠如していますよね。だから、動物園側でもあえて食事の回数やメニューを増やし、食べ物を隠して探させるなど、動物が楽しめるように工夫することもあります。

――そのあたりは犬と同じですね。最近は、自然に近い環境を作ったり、動物の福祉を考えた展示をしている動物園も増えていますよね。

黒鳥:今は展示方法に国際的な基準もできてきていますね。例えばホッキョクグマならマニトバ基準というのがあって、プールがあること、産室があること、そこに太陽光が入ることなどの条件をクリアしていないと、新たに動物を移動してはいけないとされています。動物の繁殖が難しい中で、条件を満たさない動物園はだんだん動物を維持できなくなってきていますね。

――そうすると、動物園から動物が減っていってしまうわけですか?

黒鳥:そうですね。例えば先日、井の頭公園のアジアゾウのはな子が亡くなりましたが、亡くなったからと新しくゾウを入れようと思っても、もう入れられない場合も多いです。先日新聞にも載っていたんですが、20年後、30年後の動物の推測飼育頭数を見ると、国内に1桁とか0とかになっているんです。そうなったら、動物園も閉鎖せざるを得ないですよね。今、特に地方の動物園は厳しいと思います。

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多摩動物公園にて、キリンたちと

変わりつつある、動物園の役割

 動物の飼育環境に対する周囲の目や、国際的な基準が厳しくなっていく中で、今動物園が生き残りをかけて取り組んでいることとは?

――動物園にいる動物を見ると、この環境で幸せなのかなと心配になる反面、もし動物園がなくなったら、彼らのことを知る機会ってなくなってしまうんだろうなと、複雑な気持ちになります。

黒鳥:そうですね。おっしゃる通り、今動物園が力を入れているのが、教育です。珍しい動物を見世物みたいに見せるのは、もう一昔も二昔も前の話。今動物園が一生懸命やっているのは、やはり園内にいる動物のことをお客さんにもっと知ってもらうことです。
 もう一つ力を入れているのが、現地の保全です。今、アマゾンや東南アジア、アフリカでも、人間の開発によって動物たちの生息地がどんどん脅かされていて。その生息地の保全に、動物園が今まで飼育してきた技術を生かしてサポートをしたり、基金を設立して金銭的に協力したりしています。
 そうやって、動物のことを知れる場所として、人と動物との接点になっていくことが、動物園には求められています。

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 動物の生態を解説したパネルを設けるなど、各動物園で展示方法を工夫している。写真は多摩動物公園のオランウータンの室内展示場

――なるほど。動物を見せるだけが動物園ではないんですね。

黒鳥:あとは、動物の生態や人工授精の方法など、彼らに関する研究も行っています。動物園と連携して研究を進めている研究所もいろいろありますしね。

 動物の好きな人が集まる場所、動物に関する情報を豊富に持つ場所として、動物のために何ができるのか。動物園の模索は続いている。

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多様な動物のいる未来を守るために

 動物園の動物だけでなく、現地の野生動物たちの数も減り続けている今、動物をこれ以上減らさないためにできることは何だろうか。

――例えば、野生動物の数が減ってしまったからといって、動物園の動物を野生に戻すわけにはいかないですよね?

黒鳥:それはすごく難しい問題ですね。世界にはそういうプロジェクトもいくつかありますが、資金も動力もすごくかかります。トキなどの小動物では成功例がないわけではないですが、類人猿などの頭のいい動物は、1回人の手が入ってしまうとなかなか難しいですね。

――自然に戻すにしても、人工で育ってしまった大人よりも若い動物のほうが、適応できるのでしょうか。

黒鳥:かといって、生まれたばかりだと、野生では生きていけないですよね。
 オランウータンに関しては、マレーシアのボルネオ島のセピロックというところにリハビリテーションセンターがあって。半分森のようなところで、少しずつエサを与えなくしていって、だんだん森に戻すという試みをしていますが、なかなか難しいようです。森から戻ってこなくなったとしても、果たして生きているかわからないし......。

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『セピロック・オランウータン・リハビリテーション・センター』での、オランウータンの食事風景

――最後に、野生動物たちを保護するために、現在黒鳥先生がされている活動について教えてください。

黒鳥:一つは『ボルネオ保全トラスト・ジャパン』というNPOで、ボルネオ島での生物多様性保全活動と環境保護活動をしています。ボルネオでは、パーム油を生産するためのアブラヤシプランテーション開発のために熱帯雨林が伐採され続け、動物たちの住処である土地が分断されて、動物たちが孤立してしまっています。それらの土地を購入してどんどん繋げていき、ナショナルパークまで繋げようという、「緑の回廊」構想を実施しています。
 もう一つは、昨春立ち上げたばかりの『日本オランウータン・リサーチセンター』。野生動物の研究って長期間でやらなくてはいけないし、すぐに成果が出るというものではないのですが、国からもなかなかお金が下りなかったりで、若い研究者がなかなか研究しにくい状況なんですね。その人たちを支え、動物園にも貢献しようということで、クラウドファンディングなどでお金を集めたり、いろんな人に知っていただくために講演会やコラボでイベントを開催したりしています。
 もしよろしければご協力いただけるとありがたいです。

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黒鳥先生が撮影した、野生のマウンテンゴリラたちの群れ

 地球上のあらゆる生物は相互のつながりを持って存在しており、生物の多様性を守ることは、私たちにとって必要な水や大気、食べ物、住居の建材、医薬品など、地球上の大切な資源を守ることにつながっている。それと同時に、他の生物が人間のためだけに存在しているわけではないことも忘れてはならない。
 ともに地球を分かち合う生物の一員として、犬猫以外の動物たちとも共生していくために、私たちに何ができるのか、改めて考えてみよう。

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>>人間と野生動物が共生するには(前編) 人と動物とのコミュニケーションの不思議

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