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2017.01.04

人間と野生動物が共生するには(前編)

人と動物とのコミュニケーションの不思議

黒鳥英俊 京都大学霊長類研究所共同研究員

言葉を使わず、コミュニケーション手段も違う動物たちと、どのように意思疎通をはかり、付き合っていけばいいのでしょうか。東京都内の動物園にて約30年大型類人猿の飼育を行ってきて、現在は京都大学霊長類研究所で世界の動物園のオランウータンを研究している、黒鳥英俊先生にお聞きしました。前編である今回は、類人猿とのコミュニケーションのとり方や、彼らの持つ感情についてインタビュー。犬との違いも考えながら、読んでみてください!

写真=docdog編集部 写真提供=黒鳥英俊  文=山賀沙耶

高校生のときすでにサルと暮らしていた

 30年にもわたって、動物園で大型類人猿などと付き合ってきた黒鳥英俊先生。まずは、類人猿に興味を持つことになったきっかけから聞いてみた。

――黒鳥先生と類人猿の出会いは、高校生のときだとか......。

黒鳥:そうなんです。高校2年のとき、カニクイザルというサルを飼っていました。親が船に乗っていろんな港に立ち寄る仕事をしていまして、当時ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)もまだなく、動物の取り引きも自由だったので、親からの手紙に「オランウータンがいいか、サルがいいか」と書いてあって。とりあえず小さいほうがいいからと、サルにしました。このサルともうすっかり気が合ってね、いつもグルーミングしている状態でした。

――サルを飼うって、当時でもそんなに一般的なことではないですよね!?

黒鳥:ないですね、普通(笑)。でも、犬猫と同じような感じでいましたよ。ただ、ジャンプしたりするぐらいで(笑)。ご飯も、僕たちが食べるのと同じものを食べていました。ただ、残念ながら不注意で1年経たないうちに死なせてしまって......。うまく飼えなかったというショックもあって、そこからサルに興味を持つようになりました。

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類人猿に興味を持つきっかけになった、カニクイザルのポンコと

――それがきっかけで、動物園の飼育員に......?

黒鳥:はい。飼育員になるには、獣医とか畜産とかそういった動物系の学部で勉強する必要があったので、茨城大学の農学部畜産学科を経て、千葉大学大学院を卒業して、1978年に東京都の上野動物園に赴任しました。
 それからはずっと類人猿との生活ですね。だいたい動物園内のエリアで担当動物がセットになっているので、類人猿だけでなく、アシカとかアザラシなどの海獣も担当していましたけどね。

 約30年の動物園勤務中には、1985年に動物園初のチンパンジーの人工授精に成功したり、数々の類人猿の出産や子育てに立ち会ったりしてきたそう。

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人工保育で育てた、上野動物園のオランウータンのリュウ(写真提供=東京動物園協会)

パッと見の判断力は人間より優れている

 動物好きにとって憧れの職業である、動物園の飼育員。飼育員とはいえ、もともと野生動物である類人猿とすぐに仲良くなれるわけではないはず。そのコミュニケーションのコツとは......?

――飼育員といっても、最初から動物たちとすぐ仲良くなれるわけではないですよね?

黒鳥:そうですね。ゴリラなどは、最初はこちらを脅かそうとして、ドーンとぶつかってきたりします。脅してくるのはまだいいんだけど、メスのローラは3週間エサを食べなかったですね。大分県の動物園で子ども同然に育てられていて、そこから東武動物公園に行ってから上野に来たコで、人が育ててきたため自分を人間だと思っていたようで、他のゴリラを怖がってしまって......。

――そこから少しずつ、信頼関係を築いていくわけですね。

黒鳥:そうですね。向こうにもやはりしきたりがあって、いきなり小屋に入っていくと、自分の家に土足で入られたような感じなので。あまり急に目の前にはいかず、少し遠くにいると、向こうもこちらをチラチラ気にしているから、だんだん近くに寄っていって、大丈夫だよっていう感じでそばに寄ります。

――だいたいどのぐらいの期間で馴れていくものですか?

黒鳥:半年経てばだいぶ馴れますね。あとは好き嫌いもあります。彼らは言葉を話せない分、音声でコミュニケーションをとるのですが、表情を読み取ったり、攻撃や仲直りを高度な身振りで行ったりしているので、パッと見たときの判断力は人間よりずっとすごいですよ。それと、オスはだいたい女性の飼育員が好きなようで、身体の大きい男性飼育員を嫌がることが多いですね。

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――彼らは飼育員を何だと思っているのでしょう?

黒鳥:召し使いじゃないですか(笑)。何でもしてくれる人。絶対ダメなのは、彼らよりも上に立とうとすること。それはかなり気をつけていましたね。

――そのあたり、犬とは違うんですね。

黒鳥:ちょっと違いますね。特にゴリラとかチンパンジーは群れで暮らしていて、オスがトップでメスをたくさんまとめているわけじゃないですか。そのオスを頭ごなしにしかったりすると、プライドを傷付けてしまう。だから、みんなの見ている前ではしからないとか、そういう気遣いは必要です。だいたい飼育員の存在感があまり強くなるとうまくいかなくて、空気みたいな感じでいるのがいいですね。

類人猿は人間に近い部分がある一方で、犬のように人間と長く共生してきたわけではない。特に人間社会ではなく動物園で暮らしている動物の場合、種としての能力を最大限生かせるような環境で飼育し、人間は陰から見守るというスタンスのほうが望ましいようだ。

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多摩動物公園のチンパンジーたち

ゴリラやオランウータンはとても優しい動物

 非常に頭のいい類人猿たち。彼らは、どのような感情を持ち、どれぐらい人間のことを理解しているのだろうか。

――類人猿のもつ感情というのは、人間と近いものですか?

黒鳥:犬と比べても、かなり人間に近いと思いますね。今まで、人だけがいろんな感情を持つ能力があるとずっと言われてきましたが、同じヒト科の類人猿も同じように感情を持っているし、死というものもある程度理解しています。

――例えば、仲間が死んだとしたら......。

黒鳥:心配してそこから離れなかったこともありました。自分の子どもだったりすると、特にそうです。彼らは先のことはあまり想像できなくて、目の前のことしか頭にはないけれど、その場で死んだり、いつもいるコがいなくなったりすると、そういうのは敏感に感じていますね。やはり愛情ある生き物なので。
 特にゴリラやオランウータンは、非常に優しい動物ですよ。ゴリラは顔が黒くて怖そうだし、力もあって、最初に発見されたときから魔物のような扱いを受けてきたわけだけれど、彼らが威嚇して「これ以上近づくな」と脅すのは、争いを避けるためなんですよね。だから、こちらがちゃんとルールを守っていれば、攻撃してきたりはしないんです。

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多摩動物公園で世話していたオランウータンのジプシーは、何かが欲しいときにはこのポーズをするそう

――人間とあんまり変わらないんですね。

黒鳥:飼育員になりたてのころは、ウンコやいろんなものを投げつけられたり、散々な目に遭いつつやっていたので、わからなかったですけどね。10年、20年経って、だんだん向こうも心を許してくれるようになると、彼らも一緒なんだなと感じるようになりましたね。
 また、昔のこともよく覚えてるの。前の担当者や獣医師とか、ちょっとでも関係のあった人だったら、お客さんの中に普通の格好で紛れていても、すぐわかりますよ。上野で世話してきたオランウータンのモリーと、多摩動物公園で再会したときは、「モリー」って言ったら「ウッ」って向こうはびっくりして寄ってきましたからね。10年ぐらい会っていなかったのに。

 私たちはつい動物を思い通りにしようとしてしまうが、彼らには彼らなりのルールや作法がある。動物とコミュニケーションをとるには、相手を思いやり、相手の生活様式を尊重すること。そういう意味では、人間とのコミュニケーションと何ら変わらないのだろう。

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10年ぶりに別の動物園で再会しても、ちゃんと黒鳥先生を覚えていたモリー

>>人間と野生動物が共生するには(後編) 動物好きなら知っておきたい、動物園と野生動物の窮状




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