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2017.01.13

犬の感じている世界を知る Vol.2【嗅覚/後編】

犬の生活に欠かせない「におい」を通して見る世界

荒田明香 東京大学 大学院農学生命科学研究科

人間の1億倍とも言われる、犬の嗅覚。マーキングや、犬同士のあいさつなどによって、犬たちはどんな情報を交換しているのでしょうか。犬の五感の不思議に迫るシリーズ2回目の今回は、1回目に続いて、犬の嗅覚に注目します。今回も東京大学の特任助教、荒田明香先生に教えていただきました。

マーキングは言わば"名刺交換"

 嗅覚の鈍感な人間にとって理解しづらい犬の行動の一つが、排尿などによるにおいつけ行動=マーキングだろう。マーキングは、ひと言で言えば犬同士の情報交換。「縄張りの主張」などと言われることもあるが、他の犬を縄張りから追い出したいというほど強い意味はなく、「通りましたよー」とメッセージを残す役割があると考えられている。また、自分のにおいをつけることで安心するという側面も持ち合わせている。そのため、室内でマーキングが見られる場合には、不安などのストレス要因が存在していないか探ってあげる必要があるだろう。

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街中では、マーキングをしてしまったら水で流しておくなどの配慮も必要だ

 犬はオシッコのにおいから、その犬の体内ホルモンのバランスを嗅ぎ取り、ある程度の年齢や性別、ストレス状態、メスであれば発情周期などの情報を分析できると言われている。マーキングをするのはオスだけというイメージがあるが、メスでもマーキングをするコもいる。中にはマーキングしない犬もいるが、もしかしたら単に飼い主がにおいを嗅がせないようにしたり、外で排尿をさせないようにしていたりすることが要因かもしれない。

「マーキングは、一見、尿を体外に排出するための排尿とまったく同じ行為に見えますが、実は犬にとっては全然違うものととらえている可能性もあると思います。例えば人間で言えば、お腹が空いていて何か食べる場合と、観光地などに行ってお腹は空いてないけどご当地の名産を記念に何か食べるのでは、同じ食べるという行為に見えても目的が違いますよね。犬にとってのマーキングと排尿も、実はそのぐらい違うものなのかもしれません」 と、荒田明香先生は話す。

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においを嗅ぎ合うあいさつ、させたほうがいい?

 犬たちはマーキングによってお互いのにおいを嗅ぎ合うだけでなく、直接会った場合でも、においによって情報を交換する。犬同士のあいさつといえば、おしりのにおいを嗅ぎ合う行為を思い浮かべる人も多いだろう。
 犬同士が対面したときにおしりのにおいを嗅ぐことが多いのは、おしり周辺に肛門や肛門嚢、性器など、においの発生源が密集しているためと考えられる。同じ理由で、口のまわりのにおいを嗅ぐことも多い。

 それでは、散歩中に他の犬に会った場合、犬同士のあいさつは必ずさせなければいけないのだろうか。
「ノーリードの状態であれば、犬同士だけの間で『嗅いでもいいかな』『いいよ』というような微妙なコミュニケーションが行われるので、犬たちに任せておけばいいと思うんです。ただ、リードをつけての散歩中の場合、犬同士のボディランゲージが読み取りづらくなってしまいます。
 他の犬のにおいってとても魅力的なものだとは思うので、犬同士がフレンドリーで、飼い主さん同士もあいさつをさせることに同意した状態であればいいのですが、犬が嫌がっているのに飼い主さんが無理やりあいさつさせることなどは避けたいところです。また、毎回嗅がせるようにしていると、嗅げなかったときにストレスになってしまうので、小さいころから嗅いでいいかどうかを飼い主さんが伝えてから、嗅がせる練習をしておくといいと思います」

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他の犬とあいさつさせるときは、リードが張ってしまうと、犬同士ボディランゲージが読み取りづらくなる。リードはできるだけ緩めてあいさつさせよう

まだまだ謎の多い物質、フェロモン

 もう一つ、犬の嗅覚の中で本能的な行動に大きく関係しているのが、フェロモンだ。
 フェロモンとは、動物が体内で生成して体外に分泌すると、同種の他個体に影響を及ぼす特定の化学物質のこと。通常犬がにおいを嗅ぎ取ったときは、そのにおいの情報が脳の中で伝わり、「今、ご飯のにおいがしたな」などと認識する。ところがフェロモンの場合、嗅覚器官の中の鋤鼻器という器官で感知すると、意識に上らないまま、行動や内分泌系に変化が表れる。
 具体的には、発情期のメス犬が発するフェロモンや、母犬が乳の周辺から発する安寧フェロモンなどがあるとされている。フェロモンは少量でも強く作用するため、発情期のメス犬が外を散歩するだけで、近所のオス犬たちがフェロモンを感知して脱走してしまうこともあるという。

「犬にもフェロモンがあり、それが作用しているだろうということはわかっていますが、それ以上に詳しいことはあまりわかっていません。フェロモンを感知する器官は人間では退化してしまっていることもあり、におい以上に想像することが難しいかもしれません。しかし、よくわからないことがあるからこそ、愛犬をしっかり観察して想像することが大切である、とも言えますよね」

犬を通してにおいの世界を想像してみよう

 1回目に続いて、犬が感じているにおいの世界を解説しながら、犬の嗅覚の素晴らしさについて紹介してきた。
 しかし、怖がりの犬の場合、散歩中ににおいを嗅ぐことができなかったり、そもそも外に散歩に出かけることもままならなかったりというケースもあるだろう。その場合は少しずつでも外でゆったり過ごし、においの探索に慣れさせる時間を設けつつ、家の中でも鼻を使う環境を作ってみるとよい。例えば、宝探しゲームやノーズワークのような遊びをすることでも、においを嗅ぎたいという欲求を満たすことができる。
 また、犬の嗅覚は他の感覚に比べて、年を取っても衰えにくいと言われている。体力や感覚の衰えが見られる高齢犬でも、嗅覚で脳に刺激を与えれば、脳の活性化や認知症予防にもなる。

 犬にたくさんにおい嗅ぎをさせて、そのようすをじっと観察してみよう。そして、私たちにはわからないにおいの世界とはいったいどんなものなのかを、想像してみるのも面白いだろう。

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>>次回は、特に高い音に対して敏感な犬の聴覚の不思議について、取り上げます。

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