magazine

  1. HOME
  2. MAGAZINE
  3. 『アニマル・ドネーション』が考える、日本型動物福祉の形とは?

2017.01.06

読みもの        

寄付がつないだ、幸福な関係 Vol.1

『アニマル・ドネーション』が考える、日本型動物福祉の形とは?

日本初の動物関連限定のオンライン寄付サイト『アニマル・ドネーション』。アニドネへの寄付金は、保護団体、そして保護犬を迎え入れる家庭へと、どのようにつながっていくのでしょうか。そんな命のバトンを3回にわたって追っていきます。1回目である今回は、アニドネ代表の西平衣里さんに、『docdog』担当プロデューサー廣瀬理子が直撃インタビュー。設立の経緯から、日本の動物業界の現状、これから目指すべき方向までを、熱く語っていただきました!

#Lifestyle

Author :写真=大浦真吾 文=山賀沙耶

「人も動物も救える仕組みを作りたいと思いました」

廣瀬:こんにちは! 今日は西平さんのお話をうかがえるのを楽しみに来ました。よろしくお願いします!

西平:こちらこそ! よろしくお願いします。

廣瀬:アニマル・ドネーションさんって、日本初の動物関連限定のオンライン寄付サイトなんですよね。どういった経緯で、このような寄付サイトを始めることになったんですか?

西平:そうですね、どこから話せばいいか......。11年前に14年間勤めたリクルートを辞めて、毎日深夜まで働くような激務から、自分でコントロールできる仕事に変えたんですね。それを機に念願の動物を迎えようと思ったんです。ところが、そのときに迎えたトイ・プードルのTRU(トゥルー、11歳)がお腹の弱いコで。粘膜便と血便が続いて、悩みに悩み、獣医ジプシーもフードジプシーもしました。そのときにネットにかじりついていろいろ調べていて、ペットの繁殖流通のことや殺処分のことなど、動物福祉の問題を知ってしまった。知った以上、放っておけないというのが、そもそものきっかけです。

廣瀬:なるほど。そもそも、どうして犬を飼おうと思ったんですか?

西平:小さいころから動物好きで、猫は20匹近く、あとは鳥とか魚とかと暮していました(笑)。TRUを迎えるときも本当は猫をと思ったんですが、主人がすごい猫アレルギーで。毛の抜けない犬ということで、トイ・プードルになったんです。

廣瀬:実は猫派なんですね(笑)

西平:自分が飼い主として動物を飼うのはこれが初めてで、今から思えば完全に育犬ノイローゼでしたね。しつけの本とか何冊も読んで、迎えて最初の10日間は仕事の休みをとって、私自身もベッドではなくTRUのハウスの近くで寝たり。そのせいで、TRUは最初から分離不安気味だし、ブリーダーさんには「育犬ノイローゼだからちょっと預からせて」って言われたり。
 しつけにも困って、近所の犬の幼稚園に駆け込んで。そこでいろいろ教えられると、すごくちゃんとしたいという気持ちがあるので、横断歩道の前でいちいちこんな子犬に向かって「オスワリ!」とかやってたんです(笑)

廣瀬:横断歩道で子犬にオスワリ!(笑) その姿を想像すると笑えます。

西平:今思えば、別にそこまでやらなくてもいいんですけどね。そういうトンチンカンなことを1年ぐらいやっていました。本当に申し訳なかったです。

廣瀬:でも、その気持ちよくわかります! 真面目な犬の飼い主なら一度は通る道かもしれないですね。
 話を戻すと、それで動物福祉の問題を知ってしまった、と。

西平:はい。あるとき、情報誌主催の保健所見学のセミナーに参加したんですね。東京都ってもともと殺処分数は少ないですし、しかもセミナーで行っているので、「このシーズーはどこに行きます」とか、保健所側でも見学者が辛くならない状況にセッティングしてくださっていたんです。
 ところが、そのとき猫が1匹搬入されてきて、私の手元にすりよってきて。で、「この猫ちゃんはどうするんですか?」って聞いたら、「成猫なので、もしかしたらこの子は......」ということを言いづらそうにおっしゃっていて。事情を聞くと、入院しなきゃいけないおじいちゃんが泣く泣く持ち込んだんですって。
 私、保健所に持ち込む人ってすごく身勝手な人だと思ってたんですけど、そうじゃない人もいるということが衝撃だったんですね。それで、社会構造として、何か人も犬も猫も救える仕組みができないかなということを考え始めました。

廣瀬:なるほど。そこからすぐに寄付サイトを思いついたんですか?

西平:いえ、1年ぐらいリサーチをしていろんな人に会って、最初は動物の情報サイトを立ち上げようと思っていました。リクルート時代に結婚情報誌『ゼクシィ』に立ち上げからかかわって、メディアの力でウェディング業界に風穴を開けたという経験があったので、サイトに情報を集約させて、混沌とした動物業界を発展させたいって大げさながら思ったんです。
 同時に、それまで商業ベースで生きてきたので、非営利活動団体(NPO)はファンドレイジングにとても苦労しているのが衝撃でした。保護活動をしている方もほとんど持ち出しだったり、離婚してまで続けるとか、そういうのもちょっとアンバランスだなと。お金があればもう少し動物やかかわる人を救えるのなら、そこをマッチングするウェブサイトを作ろうと思って立ち上げたのが、今のアニマル・ドネーションです。

161213_03.jpg

廣瀬:今、動物保護団体や補助犬団体、啓発団体など16団体が登録されていますが、団体を選ぶ基準ってどうしているのでしょうか?

西平:サイト内にも記載しているのですが、法人格や活動歴などの概要基準に加えて、信頼性、持続性、先駆性、協調性、動物福祉面という5つの観点から審査し、判断しています。特に最も重視しているのが、"動物福祉"という観点です。2015年には公益社団法人に認定されたので、最終的には審議委員会の方々と相談しながら、掲載の可否を決定しています。

「行政施設が104カ所もあることはメリットになると思います」

廣瀬:アニドネさんにとって"動物福祉"というのが一つの重要なテーマかと思うんですが、西平さんが考えられている、日本型の動物福祉とはどういうものですか?

西平:日本には動物愛護にかかわる行政施設が104カ所あるというのが、一つの大きな特徴かなって思うんですね。それらはもともと狂犬病対策のために作られたのですが、税金で運営されている施設がそれだけあるというのは、捉え方を変えればメリットになると思うんです。
 最終的な受け皿という意味では、その行政施設に保護団体やボランティアが紐づくっていう形を、ここ数年でとれるといいなと思っています。先行していっているのは東京都とか、施設を新しくした京都とか神奈川、奈良県もがんばっている。こういうところがもっと増えるといいですね。

廣瀬:そのほうが動物業界の構造自体を大きく変えられる可能性がある、ということですか?

西平:そうですね。保護団体さんには大きなところもあるけれど、どうしても母体が脆弱だと長く続かないというのも、目の当たりにしてきたので。
 同時に、日本は動物業界が営利にかたよった構造になってしまっているので、そこは一般の方々の知識レベルを上げていかないと、動物福祉は浸透しないだろうなというのは、よく思います。

廣瀬:けっきょく今でも動物をペットショップで買う人が多いですしね。

西平:そうですね、ペットショップ自体が悪いというわけではないですが、そこには生き物を繁殖流通させることの難しさや生体の展示販売など、いろんな問題があることも知ってもらいたいですね。
 法律上でも、日本ではまだ動物は命ある"モノ"なんですね。それが、動物福祉の進んでいるヨーロッパなどの国にいくと、感情とか情緒とか感受性のある生き物ということになっていくんです。感受性があったら、放りっぱなしはかわいそうだよね、ということになっていくので、こういった概念を持ってもらうことが、動物福祉の基本かなと思うんですよね。

廣瀬:その辺り、国民の生活様式が動物の生死にどれくらい密接に関わってきたのか、歴史的背景のある問題ですよね。

西平:そうそう。歴史を辿れば、ヨーロッパは動物に対してすごくひどいことをしてきた上に反省があり、またノブレス・オブリージュ(「特権的な地位には相応の義務が伴う」という倫理観)の精神が根付いているので。日本では徳川綱吉さんはがんばりましたけど、そうはいっても八百万の神みたいな、動物がいて当たり前という感じですよね。
 そこを日本型の動物福祉に変えていくのは、一般の方々の知識レベルの向上と、動物業界の気持ちある人たちが仕組みを変えていくこと。そのうえで行政設備が整えば、私たちがミッションとしている「日本の動物福祉を世界トップレベルに」ということに近づけるのではないかなと思います。

161213_05.jpg

「今後は動物のための"遺贈"も扱いたいと考えています」

廣瀬:アニドネさんは寄付サイトですが、日本には寄付文化が浸透していないってよく言われますけど、実際のところどうなんでしょう?

西平:アメリカなどはわかりやすく、資産のある方の寄付は当たり前ですね。キリスト教ではもともと収入の10%を寄付するという考えがありますし。そもそも教育の時点で全然違っていて、優秀な学生であるほど、社会貢献してから企業に入るみたいな流れが当たり前なんですよね。
 それから、海外で活動するNPOの収支を見ていると、半分は遺贈なんです。

廣瀬:遺贈ですか。

西平:そう。寄付慣れをしている方々でも、常日ごろからいつでも寄付をするかというとそうでもなくて、自分の財産の一部を最期は社会貢献に使うというのが、ものすごく浸透しているんです。

廣瀬:それ、日本だったら子ども同士で遺産の取り合いですよね(笑)

西平:そうかもしれませんね。日本では遺産を相続人に残したくなくてNPOへの寄付を検討するという、ネガティブな理由も多いようです。

廣瀬:そうですか......。でも、今は子どものいない人も増えているし、遺産を動物のためにっていう人も増えてくるでしょうね。

西平:実際、相談を受けたりもするんですよ。先週もお電話で相談があって、猫のために500万円遺してたんだけど、猫が先に死んじゃったから、動物のために役立てたい、という。

廣瀬:500万! すごい。

西平:今後は、アニドネ経由で遺贈を活動団体に届けられるスキーム作りも計画しています。

161213_04.jpg

廣瀬:そのような仕組みがあれば、アニドネさんで寄付した人には、自分の寄付金でどのコが救われたとか、誰かに引き取られて幸せになれたみたいなことってどこかで確認できるものなんですか?

西平:今そこまではできていないですね。寄付使途ブログというのは、寄付先の団体さんに書いていただいたり、こちらで書いたりします。そこで、いつ振り込んだ金額でこういうことやってますっていうのは、レポートにしてお伝えするようにはしていますね。あとは、アニドネマガジンの発行準備を進めていて、そこでは保護活動についての特集を組んだりしています。

廣瀬:例えば、犬を飼いたいけど飼えない環境にいる人たちが、寄付で犬と繋がっているという意識が持てるといいのかなと思いました。
 世の中には、犬が好きで犬を飼っている人、犬が好きだけど飼えない人、そしていちばん多いのがどちらでもない人、あとは犬が苦手な人。だいたいこれぐらいの要素かなと思うんです。犬が苦手な人とは、お互いが心地よく暮らせる社会を作るしかないのですが、それ以外の人たちってわかり合えるというか、動物と一緒に生きている素晴らしさを感じられる仕組みって作れるんじゃないかと思っていて。docdogでもそういうことをしていきたいなと思っていますね。

西平:それ、すごくわかります! 実は私たち動物好きって、マイノリティなんですよね。「あの人たち犬好きな変わった人たちだから」って。でも、動物が嫌いな人が2割だとしたら、残り8割の人は、動物がいることの価値を理解してくれる社会がいいなと思うんです。犬猫といると気持ちが落ち着くとか、エビデンスも出ているわけですし。
 そうなれば、例えばキャンキャン吠えているコがクレームの対象になるのではなくて、まわりもケアしてあげるとかね。

廣瀬:何十年かかるかわからないけれど、犬が好きな人、嫌いな人、どちらでもない人も、三者の立ち位置で心地よい社会というのを作っていきたいなあと思っています。
 docdogでは今、犬の靴をメインに扱っているのですが、犬の靴って、犬をある程度コントロールできていないと、使いこなすにはとても難しいアイテムです。だからこそ、犬の靴を自由に履かせられている飼い主さんは、犬へのリテラシーがとても高い人だと思います。今後、犬の靴の認知度が高まり、必要に応じて使いこなせるような人が増えていけば、業界全体の意識向上につながるんじゃないかと思っています。

西平:それで靴、なんですね。

廣瀬:それに、ペット業界の市場って、まだまだ犬に優しくない商品も多い。その中で、犬にとって機能的で、生活の質が少し上がる必要とされるようなアイテムを扱うことで、違った角度から底上げができるんじゃないかと考えています。

西平:なるほど。靴、買いますね(笑)

>>次回は、アニマル・ドネーションの寄付先の一つである保護団体にうかがい、実際にどんな活動をしているのか、見せていただきます。

◎プロフィール

161213_06.jpg

西平衣里さん

『アニマル・ドネーション』代表理事/マネジメントディレクター。14年間のリクルート勤務中に、中途採用情報誌や、結婚情報誌『ゼクシィ』の立ち上げなどに、編集制作、クリエイティブディレクターとして携わる。リクルート退社後、ヘアサロン経営者を経て、2010年、日本初の動物関連限定のオンライン寄付サイト『アニマル・ドネーション』を立ち上げる。この寄付サイト運営を自身の社会貢献と位置づけ、動物との幸せな共生社会実現のために、幅広い分野で活躍中。
http://www.animaldonation.org/

ボランティアのドレスコード!?は、動物たちを守るためのもの

人と動物とのコミュニケーションの不思議

人と動物とのコミュニケーションの不思議
ボランティアのドレスコード!?は、動物たちを守るためのもの