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2016.12.07

動物歯科のスペシャリストに聞く「正しいオーラルケア」vol.1

愛犬の口腔トラブル予防のために、正しい知識を身につけよう

林 一彦 動物歯科クリニック花小金井動物病院

一日でも長く愛犬と一緒にいたい! 犬と暮らす人の願いはこれにつきるのではないでしょうか。今や愛犬の健康は飼い主の最大の関心事。オーラルケアへの意識が高まった昨今では、さまざまなケアグッズを目にするようになりました。でも、「犬が歯みがき嫌がるのよね」とお悩みの飼い主さんも多いようです。動物歯科の専門医の林一彦先生にお話を伺いました。

写真=大浦真吾 文=古川あや

#健康

日本で唯一の動物歯科専門医

 東京都小平市の花小金井動物病院で日々多くの犬たちの治療を行っている林一彦先生は、日本はもちろん、世界的にみても珍しい"動物の歯医者さん"。その経歴はというと、獣医学科卒業後、獣医学の修士課程に進み、修了後には日本大学松戸歯学部の病理学教室の講師、さらにイギリスのブリストル大学歯学部留学を経て、日大松戸歯学部で歯科疾患や歯科治療に関する研究を長年行ってきた動物歯科のスペシャリスト。歯学博士であり獣医師でもあるという貴重な存在だ。

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犬たちの歯を守る動物の歯医者さんは日本大学の名誉教授

「大学を定年退職した後に、この病院を始めたのは、現在の動物歯科を巡る状況に一石を投じたかったからです。獣医師は基本的に全科診療を行うため、その弊害として歯の治療について勉強不足の方が多いように思います。人間の場合は医学部と歯学部があり、さらに各専門科に分かれているのに、動物はすべて一人の獣医師が行っています。犬の医療についてももっと専門性を高めるべきです」

正しいオーラルケアの知識を広げるために

 もともと奥様の道子さんが動物病院を開業していたというベースはあったものの、私財を投じて歯科専門病院を開業したのは、将来的には動物の歯科医を育てる教育の場の設立につなげたいという思いがあってのこと。日本に限らず諸外国でも、獣医学部で歯や口腔内の治療について学べる場がほとんどない現状では、動物歯科の進歩は望めないからだ。

「例えば、歯のトラブルがあった場合、すぐに抜歯を勧める方が多いのですが、抜歯は治療ではありません。まずは治療を試みるべきです。このような診療の結果、動物病院不信に陥っている飼い主さんが多いことは、獣医師の一人として大変残念なことです」

 そこで、まずは歯科治療を行いながら、オーラルケアに関する飼い主さんの意識を啓発していこうと3年前に同院を開業。月5、6回、飼い主向けのセミナーを同院で開催しているほか、自治体主催の講演などを通じて、動物を飼う側が正しいオーラルケアの知識をつける手助けをしている。これがひいては獣医師の意識改革につながっていくはずだからだ。

スケーラーを使った無麻酔での歯石除去

 開業から3年、口コミで評判が広がり、週休2日の同医院が診察にあたる犬の頭数は1カ月に300頭を超える。人間の歯科医と同じニオイがする院内には診察室1室に処置室2室。処置室には人間の歯科治療の際にも目にする器具がずらりと並ぶ。

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(左)ずらりと並ぶ治療器具。人間用のものを使っている。(右)根部の治療に使う器具(ファイル)。同院では人間同様の歯科治療が可能だ

 最近は歯科専門と看板に掲げる動物病院も登場し、全身麻酔をかけて超音波スケーラーで歯石を取り除く施術を行っている病院も多いが、同医院ではヒトの歯科で用いられているスケーラーを用いて動物看護士が歯石除去を行う。もちろん無麻酔での施術である。
 通常は1人のスタッフが犬を保定し、1人が歯石の除去を行うが、嫌がる犬などには7人がかりとなることも。だが、決して犬を押さえつけるのではなく、安心させるように優しく抱くというイメージだという。このスタイルは犬たちにも負担が少ないようで、動物病院は苦手なのに、花小金井動物病院には喜んで入ってくるという犬もいるそうだ。

「イギリスに留学した時期、現地ではちょうど動物のオーラルケアが注目され始めていました。シェパードがエプロンをつけておすわりしたまま歯石とりをしてもらっているポスターを見かけましたが、それが理想の姿だと思いましたね」

犬の口の中を知って正しいケアを

 安心して愛犬の歯科治療をお願いできる獣医師が少ないという現状では、飼い主自身が正しい知識を持ち、愛犬の口の中を健康に保つ努力が欠かせない。まずはなぜオーラルケアが必要なのか確認しておこう。
 犬の場合も人間と同じで口の中のトラブルを防ぐためにオーラルケアを行うが、幸いにして虫歯になる菌を持たないために、歯周病予防がその目的となる。ここで注意したいのが、歯周病の原因は歯石ではなく、プラーク(歯垢)ということだ。
 私たち人間と同様、犬の口腔内にはプラークが発生する。歯の表面などについているネバネバした物質がそうだが、これは細菌の塊で、さまざまな代謝物質を出している。この物質が歯肉の炎症などを起こし、歯周病の原因となっているのだ。

「7~8歳の犬の約80%が歯周病にかかっているといわれていてますが、これは40~50年前とまったく変わっていないんです。一方で、人間はというとオーラルケアの習慣が広まったことで、45歳超で40%となっています。人間は朝と夜の1日2回、歯みがきしていますよね。自分だけ歯みがきして飼い犬は放ったらかしというのは怠慢だと思います」

 歯みがきで簡単にとりのぞけるプラークだが、数日放置するだけで石灰化して歯石となる。ひどくなると歯ブラシでは太刀打ちできず、動物病院での処置が必要だ。

「歯石がついてしまった場合には、すでに歯周病になっていると考えてください。口臭は歯石がついているからではなく、歯茎に生じた炎症や膿から発生している菌のニオイなんです。ですから歯石除去は治療の一環で、症状によってはルートプレーニング、洗浄、排膿、貼薬などの処置が必要です。また、いったん歯周病になったら完治することはありませんから、歯みがきのケアを行いながら、定期的に獣医でメンテナンスする必要があるんですよ」

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インタビュー中に犬の3段階に分かれたオーラルケアについて説明する林先生。動物歯科への熱意にあふれている

 林先生に分かりやすく予防と治療の関係を説明してもらったのが次の表だ。

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「確かに歯みがきは犬にとってストレスかもしれませんが、歯周病の予防や治療につながります。また、歯石やプラークを取り除いたあと、数日たてばまた歯の表面はプラークでいっぱいになります。とにかく日頃の家庭でのケアが大切なんです。"転ばぬ先の杖"ならぬ"転ばぬ先のブラッシング"ですね」

 話を伺えば伺うほど、歯石をつけない、歯周病にならないための日頃のケアの重要さに気付かされる。



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