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2016.11.11

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学校に「楽しい」を増やした学校犬とは vol.3

それぞれに伝えるべき「使命」を持った学校犬たち

立教女学院小学校の子どもたちの変化からもわかるように、動物との触れ合いが私たちの心身によい影響を与えることは、多くの研究によって証明されています。立教女学院小学校の学校犬たちは心身面の成長の手助けはもちろんですが、ある"使命"を持って"仕事"をしています。最終回となる今回はそれぞれの使命と、これからの歩みについてご紹介します。

#Lifestyle

Author :写真=永田雅裕 文=古川あや

ウィルとブレスは、福島を忘れずにともに歩む決意の証

 立教女学院小学校の子どもたちが心待ちにしている授業がある。「その日はワクワクして一つ前の電車に乗ってしまう!」という子もいるほどだ。それは一般の学校の道徳にあたる「聖書」の時間。理由は学校犬も一緒に授業を受けるからだ。
 この日、1年A組の教室にやってきたのはウィル。明るい声が教室中に広がった。

「ウィルだぁ」
「ベローナがよかったのに~」

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授業の始まりに教室を回って子どもたちと挨拶するウィル

 吉田先生とウィルは教室を回り、子どもたち一人ひとりとあいさつを交わす。距離感はさまざまだ。何度もなでる子、軽く触るだけの子、中には犬が苦手なのか、緊張気味に指の先でつつくだけの子もいる。あいさつを済ませると、ウィルは自分から教室前方の入り口近くに置かれたベッドに横たわって寝る態勢に入った。

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授業中のウィルは、リラックスしてお昼寝モード

 子どもたちは口々に、朝の礼拝で誕生日の祝福を受けたベローナのことを話していたが、ふと一人の子が「ウィルの誕生日はいつ?」と問いかけた。

「ウィルの誕生日はわかりません。東日本大震災のあと福島で放浪していたから、だれもわからないんです。何歳かもはっきりはわかりません」と吉田先生は答えた。

 福島からの被災犬であるウィルとブレスは、「福島を忘れずに、ともに歩む」という思いを持って引き取られた犬たち。2011年3月に起きた東日本大震災の後、被災地の子どもたちを笑顔にしたいとバディとリンクを連れて訪問活動を重ねたことがきっかけとなった。ウィルは「福島を忘れない」という「意志(Will)」、長く放浪して苦労してきたブレスには、神様の「祝福(Bless)」がありますようにという想いが込められている。

 震災から5年が経ち、世の中では震災の記憶は薄れがちだが、同校では福島の人たちへの思いが今も強い。当時の記憶のない一年生たちも、ウィルやブレスの存在を通して、震災のことを学んでいる。

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授業が終わりに近づいたころ、突然ウィルは教壇の前に場所を移動した。この後、子どもたちが先生のところにノートを見せにくるのを知っていたのだろう

個性豊かな犬たちも受け入れられる土壌ができた

 穏やかな優しい犬だったバディ、そして母親っ子の甘えん坊だったリンクとは少し違って、現在のメンバーはそれぞれ個性豊かだ。椎間板ヘルニアが悪化し、四肢麻痺になって歩けなくなり、大手術して復活したウィルはおとなしいおじいさん犬だがかなりの頑固者。ブレスは震災後の福島の山中で、お腹を空かせて1年もの間放浪したこともあってか、食べ物やオモチャが絡むと、人の手を噛んでしまうことがある。ベローナはバディの姪っ子だが、2歳という若さのせいか落ち着きがない。

「実は、ブレスは子どもを噛んでしまったことがあります。でも、噛まれた子が『私が扱いを間違ったから。そうやったら噛むぞって注意されていることをしちゃったから。悪いのは私でブレスじゃない』と保護者の方に訴えたそうです。保護者の方からは、『吉田先生、ブレスがかわいそうだからもう怒らないで』と言っていただいたほどです」

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注意が必要なブレスだが、みんなリラックスして接している

意欲が出れば、勉強も楽しくなっていく

 学校犬の導入当初「噛んだらどうする」「うちの子にはアレルギーがあるのに」という声が寄せられたことを考えると、学校犬への理解は深まり、取り巻く環境は大きく変わった。
 もちろんこれは一朝一夕に成し得たことではなく、積み重ねてきた実績と信頼があるからこそ。周囲を納得させた一番の理由は、やはり子どもたちに現れた変化だろう。
 学校犬が来て以来、意欲のある積極的な子が増え、人にも動物にも優しい子どもに成長している。

「意欲のない子はなかなか伸びません。本来、子どもは楽しいことや興味のあることを見つけたら、そこに一直線に進んでいきます。自然と勉強もする。勉強が楽しくなると、将来の夢ができてくる、というふうに好循環していきます。こういった、子どもらしさやモチベーションをぐっと伸ばしてくれるのが、学校犬であったり、図書館に新しく入った本だったりするのです。生き物だからこそ、いろんな波及や広がりが自然に起きてくると思います。私は犬好きなので学校犬を選びましたが、他の動物でもいいと思います。とにかく子どもたちが学校を楽しいと言ってくれること、それが一番です」

命を扱う動物介在教育には、さまざまなハードルがある

 同校の取り組みに興味を持って問い合わせてくる学校はあるというが、同校のような形態での動物介在教育を行っているケースはまだないようだ。動物介在教育によってもたらされる教育効果は図り知れないが、実際に行うのは容易なことではない。動物は道具ではなく、命ある生き物だからだ。誰が世話をするのか、そして世話をする人への体力的、時間的、金銭的な負担は大きい。
 1頭、2頭と少しずつ増えてきたとはいえ、大型犬が3~4頭となると負担は相当なものだろう。子どもたちのためとはいえ、なかなか踏み出せることではない。

 吉田先生も「この取り組みはとうてい一人ではできませんでした。困ったときには必ず助け船がありました」とこれまでを振り返る。過去に中型犬の飼育経験しかなかったこともあり、しつけに関して悩むこともあったし、厳しい指摘を受けたこともあったそうだが、その都度、話し合いを重ねていくうちに、協力の輪が広がっていったという。
 犬たちの医療やトレーニングは動物介在教育に賛同した獣医師やトレーナーが継続的に協力してくれている他、保護者の方々からもさまざまな支援が寄せられている。

アイメイト協会の繁殖犬、クレアと新しいチャレンジを

 動物介在教育を始めて13年目の今年、新しいチャレンジが始まった。まずは他の教科の授業への学校犬の参加だ。教頭という管理職に就いている吉田先生だが、以前は1年生から6年生まで各学年2クラスすべての聖書の授業を担当していた。しかし現在は1年生と6年生の4クラスのみで、学校犬の授業参加の機会も減っている。幸いなことにこの数年の間で、元バディ・ウォーカーの卒業生が二人、教師として赴任してきた。彼女たちのおかげで、他の授業にも参加させていく方向に進んでいるそうだ。
 そして二つ目は、学校犬にアイメイト(盲導犬)協会の繁殖犬クレアを迎えること。昨年秋にベローナを迎えたとき、バディと行ってきたことをベローナと繰り返すのか、新しいことにチャレンジするべきなのかを考えた結果の選択だという。

「12年間、バディとともに学校の子どもたちに目を向けた取り組みを行ってきました。東日本大震災が起き、福島の犬2頭をお預かりすることになり、それによって福島の人を勇気づけ、震災を忘れないことにつながりました。昨年は、縁あってバディの姪にあたるベローナを迎えることができたのですが......。これから先、どんな取り組みをしていこうかと考えているときに、神奈川県の『やまゆり園』で重い障がいをもった人たちが次々に殺傷されるという事件が起き、衝撃を受けました。これまでも、障がいを持っている人たちへの社会の理解が低いという思いがあったので、立教女学院小学校ならではのやり方で考えていけることはないかと考え、アイメイト協会の協力を得て、繁殖犬ボランティアを始めることになったんです」

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アイメイト協会の繁殖犬クレア。子どもたちと歩んでいく仲間が増えた

 抜け毛が気になるからと、13年前は回避したラブラドール・レトリーバーの学校犬の誕生だ。10月12日に無事に"初出勤"を果たしたクレアは、現在1歳。アイメイト候補生の子犬を産むことが仕事だ。これから子どもたちはクレアを通して、アイメイトの役割、育成する人たちの思いや努力、そして視覚障がいを持つ方々への理解を深めることになる。
 子どもたちのための動物介在教育に、社会貢献活動が加わる新しい取り組みだ。動物介在教育の可能性をさらに広げる一歩に注目したい。

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>>学校に「楽しい」を増やした学校犬とは vol.1 子どもたちのやる気を引き出す動物介在教育
>>学校に「楽しい」を増やした学校犬とは vol.2 伝統校に学校犬が受け入れられるまで

◎INFORMATION

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立教女学院小学校の動物介在教育の歩みや日々の出来事は、ブログ『動物介在教育の試み 立教女学院小学校で活動する学校犬のフォトブログ』に紹介されています。ぜひチェックしてみてください!




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