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2016.11.04

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学校に「楽しい」を増やした学校犬とは vol.2

伝統校に学校犬が受け入れられるまで

「学校に楽しいことを増やしたい」と、感情表現の豊かな犬による動物介在教育を取り入れた立教女学院小学校。「お試しスタート」から13年たった今、校内に犬がいる風景はごく自然なものとなっています。子どもたちは学校犬からどのようなことを学んできたのでしょうか。第2回目はこれまでの歩みを中心にお伝えします。

#Lifestyle

Author :写真=永田雅裕 文=古川あや

バディ・ウォーカーの仕事は"ウンチ拾い"

 学校犬の居場所は「バディ・ルーム」と名付けられた、教員室横の明るい小部屋。仕事のないとき、学校犬たちはここでのんびり昼寝している。毎日8時間以上を学校で過ごすのだから、オシッコはもちろんウンチもする。散歩も必要だし、バディ・ルームも清潔に保たなければならない。

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犬たちに朝ごはんの準備をするのもバディ・ウォーカーの役目

"出勤中"の犬たちの世話をするのは、6年生のボランティア・グループ「バディ・ウォーカー」のメンバーたち。今年は6年生73人の3分の2にあたる50人が名乗りを上げ、10人ほどのグループに分かれて交代でお世話に当たっている。

「期間は1年間で、途中で辞めることは許されません。バディ・ウォーカー募集の説明会では、実際にはウンチを取る仕事だと何度も強調しますが、年々希望者が増える一方です。アレルギー持ちなのにどうしてもと希望して、バディ・ウォーカーになった子もいます。散歩だけでいいと言っても、ゴーグルとマスクを着けてまで掃除をしていました」

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休憩時間は犬たちにとっても楽しみな時間

 午前中の20分休みの時間になると、犬たちのもとにバディ・ウォーカーが駆け込んでくる。てっきり吉田先生がリードをつけてバトンタッチするのだろうと思っていたら、子どもたちだけでテキパキとリードをつけて外に飛び出していった。
 中庭を気ままに歩く3頭。犬がしゃがみ込むと、「くさい―」と鼻をつまみながらウンチを拾って、ごみ箱にダッシュ。"ウンチを取るときは息を止めて拾う"のがコツだそうだ。

「サボる子はほとんどいません。犬の世話をすることを通じて、責任感も強くなり、積極的な子が増えてきたと思います。グループ内でいざこざが起きることもありますが、自分たちで解決しています。リードを持つのがすごくうまいなど、子ども同士がお互いを認め合うよいきっかけにもなっているんですよ」

子どもにも犬にもストレスの少ない、ゼロから作り上げた教育プログラム

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 児童たちはもちろん、教職員にも保護者にとっても校内に犬がいることは当たり前になって久しいが、ここに至るまでの道のりは決して平たんだったわけではない。何しろ、ゼロからスタートしたのだから、プログラム作りや環境づくりの大変さは想像以上だったはずだ。
 吉田先生がまず取り掛かったのは、学校犬にふさわしい犬種選び。専門家の意見を聞きつつ最終的に選んだのは、エアデール・テリアだ。大型犬で子どもたちにも優しい犬というと、盲導犬としても活躍するレトリーバー種がまずは浮かぶが......。

「レトリーバーも候補でしたが、アレルギーの人や衛生面に配慮して、抜け毛が少なく訓練性の高いエアデール・テリアに決めました。見た目がテディベアみたいでかわいらしいことも、犬が苦手な子でも受け入れやすいのではないかと思って」

 そして、迎えたのが初代学校犬「バディ」。生後3カ月から学校に通い、一躍人気者になった。子どもたちの学校へ行くモチベーションが急上昇したことに疑いの余地はない。
 吉田先生はバディを伴った最初の授業で、犬の性質や苦手なことを伝えていく。どのように接するべきなのかを話し、子どもだけでなく、犬にとっても事故の起きない快適な環境づくりを心掛けた。
 同校の動物介在教育の歩みはバディの一生とほぼ重なっている。犬の成長は早く、すぐにカラダも大きくなるから、犬をハンドリングする技術も覚えないと危険だ。ボランティアのドッグトレーナーによる講習や、獣医師による犬の生態を学ぶ授業などを行い、子どもたちの犬への理解度を深める活動にも取り組んでいった。

犬たちも学校が好き! 毎朝シッポを振ってクルマに乗り込む

 子どもたちの日記や作文には学校犬たちがたびたび登場し、教室にはベローナやウィル、ブレスの絵が飾られている。とにかく子どもたちに愛されている学校犬だが、聴力の優れた犬に子どもの甲高い声は刺激が強いこともあり、子どもを苦手とする犬は少なくない。学校犬としての生活は、犬にとってどうなのか気になるところだ。

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1年生の教室のデコレーションは、学校犬とバディ・ウォーカー

「犬たちは毎朝シッポを振ってクルマに乗り込むので、学校に行くのは楽しいのだと思います。犬が行きたくないとクルマに乗り込まなかったら、私も無理やり連れてきたくはありません。例えば、バディは病気が進行してカラダが辛くなっても、学校に行きたいとクルマに前足をかけるほどでした」

 特にバディと子どもたちの信頼関係は深く、2度経験した出産・子育てでは、生後3週間の子犬を子どもたちが抱くのをリラックスして受け入れたほどだ。

「子犬はコロコロしていて愛らしく、世話したい、抱っこしたいってみんな言いますが、実際はオシッコ、ウンチ、ミルクの繰り返しです。お世話した子どもたちは子育ての大変さを実感したと言っていました」

 2度目の出産で生まれた子犬の1頭が学校犬2代目のリンクとして残り、学校中でバディの厳しくも愛情にあふれた子育てを見守ることにもなった。

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授乳中のバディ。子育ての大半を学校で行った

死ぬことは冷たくなること、固くなること

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 肥満細胞腫という悪性腫瘍の闘病を1年余り続けたバディは2015年1月、11年10カ月の命を終えた。礼拝堂でお別れの礼拝を行った後も、直接お別れできるように祭壇にバディを安置したところ、子どもたちの反応はとても印象深いものだったそうだ。

「バディの死体を忌み嫌うものとしてとらえずに、優しくなでながら、それぞれにお別れの言葉をかけていました。毛がふさふさしていて、まるで眠っているみたいだけど、死というのは冷たくて固くなることなのだと実感したようです」

 そしてその2カ月後、リンクが突然死する。子どもたちは命のはかなさ、今を生きることの大切さを知ることとなった。

 2回の出産を通して、生命誕生の神秘、子育ての大変さなど、子どもたちは多くのことを学んだ。また、病を得て病気と闘う姿、そして死に向かっていく過程も見続けることとなった。吉田先生の目指した「命」の大切さをバディの一生を通して学び、生きること、死ぬことについて考えた子どもたち。それぞれが得たものはかけがえのないものに違いない。

■関連記事
>>学校に「楽しい」を増やした学校犬とは vol.1 子どもたちのやる気を引き出す動物介在教育
>>学校に「楽しい」を増やした学校犬とは vol.3 それぞれに伝えるべき「使命」を持った学校犬たち

◎INFORMATION

ウィルとの出会いから、突然歩けなくなってからの闘病、そして復活と、過酷な経験をしてきたウィルの物語を、吉田先生がまとめた本も発売中。被災地福島への思いも込められています。

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『奇跡の犬、ウィル 福島から来た学校犬の物語』
著者 :吉田太郎
発行所:株式会社セブン&アイ出版
発売日:2016年2月9日
定価 :1,300円(税別)




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