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2016.10.28

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学校に「楽しい」を増やした学校犬とは vol.1

子どもたちのやる気を引き出す動物介在教育

学校に登校すると犬に会える――。そんな犬好きにとっては夢のような小学校が東京都杉並区にあります。教育の場に動物を同席させる「動物介在教育」に2003年から取り組む私立立教女学院小学校で、現在は10月から新しく仲間に加わった1頭も含め、4頭の学校犬が活動中です。犬たちの飼い主であり同校の教頭である吉田太郎先生に、その取り組みについて聞きました。3回にわたってご紹介します。
※取材にうかがった9月末時点の学校犬は3頭でした。

#Lifestyle

Author :写真=永田雅裕 文=古川あや

誕生日の祝福を受けるエアデール・テリアのベローナ

「9月23日で2歳になります、ベローナさん」
 礼拝堂に子どもたちの笑顔が広がり、茶色と黒のむくむくとした毛に覆われた犬が6年生の女の子にリードを引かれ、跳ねるように祭壇に登った。今週、誕生日を迎える女の子たちの列に加わったのは、学校犬ベローナ。立ったり座ったり、司会を務める吉田先生に近づいたりと落ち着かないようすでみなの注目を集めている。
 キリスト教の愛と奉仕の精神を建学の理念とする同校では毎朝礼拝の時間が設けられ、毎週水曜日にはその週に誕生日を迎える子どもが一人ひとりチャプレン(学校付き牧師)から祝福を受ける。犬にも祝福?と思われるかもしれないが、ベローナは子どもたちの仲間だからこの学校では自然なことなのだ。

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名前を呼ばれて祝福を受ける列に加わったベローナ

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神妙に!? チャプレンの祝福を受ける

子どもたちに"仲間"として接してもらうべく大型犬を導入

「動物介在教育(Animal Assisted Education)」とは聞きなれない言葉だが、教育者が学習過程に実際に動物を導入し、さまざまな効果を期待するというもの。具体的には子どもの道徳的、精神的、人格的な成長促進や、学校を中心とする地域コミュニティへの社会的恩恵があげられる。
 立教女学院小学校では感情表現力の高い犬との触れ合いを通して、子どもの「共感する心」を育てることを目指しており、そのための重要なスタッフである"学校犬"は現在3頭(※9月末時点)。動物介在教育のためにセラピー犬や使役犬による学校訪問を行う団体などもあるが、同校の学校犬は一日中、学校で過ごしている。とはいっても学校で飼育されているのではなく、毎朝7時40分に飼い主である吉田先生と一緒に登校し、夜8時ごろに帰宅する「通勤」スタイルをとっている。

 メンバーは、先ほど誕生日の祝福を受けたエアデール・テリアのベローナ、そして福島の被災犬ウィルとブレス。ウィルはイングリッシュ・セッター、ブレスはジャーマン・ポインターのミックス犬で、みな20キロを超える大型犬だ。身体の小さい小学生が一緒に過ごすには制御しやすい小型犬の方がいいのでは? という疑問も浮かぶ。

「学校犬は子どもたちの"仲間"ですから、子どもたちのパワーに負けないよう、カラダも大きく、体力もある大型犬がいいと考えました。小さい犬はおもちゃになってしまいがちですが、大型犬ならば、犬と人間がいい関係を築けなければリードは持てないということをしっかり教えてくれます」と、吉田先生。

 大型犬が身近にいる環境は、現在の日本ではまだまだ珍しい。子どもはもちろんだが大人でさえ、カラダが大きいというだけで怖いと感じる人は少なくない。だが、同校の子どもたちに犬を恐れるようすはない。もちろん、犬が苦手な子もいるが、その子なりに負担のない程度の距離を測りながら触れ合っているそうだ。

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立教女学院小学校の学校犬 左からブレス、ベローナ、ウィル

学校に楽しいことを増やしたい

 動物介在療法(Animal Assisted Therapy)、動物介在活動(Animal Assisted Activity)に次ぐ第3の分野として欧米では注目され始めていたものの、13年前の日本で動物介在教育はほとんど知られていなかった。そんな状況の中、長らく日本の小学校で飼育されてきたウサギやニワトリではなく、犬を学校に迎え入れることを訴えたのは吉田先生ご本人だ。
 長年にわたって犬をパートナーとしてとらえてきた欧米とは違い、日本ではまだまだ犬の肩身は狭い。そんな中、教育の場に犬を導入するという発想はどこから生まれたのだろう。

「振り返ると、私が子どものころ、迷い犬が学校に入ってくると学校中がウキウキして、学校で犬を飼えたらいいなと思うことがありました。直接のきっかけは、不登校の子の『学校に犬がいたら楽しいだろうな』という言葉です。子どもたちのために、学校に楽しいことを増やしたいと思いました」

 その女の子は一時期、引きこもりのような状態だったが、休日にお互いの愛犬を連れて井の頭公園を散歩したことを第一歩に、散歩がてら学校に立ち寄る、放課後に犬も一緒に教員室で補講を受ける、といった段階を経て、ついに登校できるようになった。

「犬は子どもたちに特別な力を与えてくれる、と直感しました。また、本当の命のぬくもりに触れさせて、子どもたちに命の大切さをしっかりと教えたいという思いもありました」

お試しスタートで始まった学校犬

 立教女学院小学校は歴史のある伝統校。保護者も児童も、立教女学院を選んで入学してくる。そこに国内を探しても前例のないチャレンジをしようというのだから、周囲が驚くのは当然だろう。その説得には2年ほどかかったという。参考にしたのは、2001年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「人と動物の関係に関する国際会議」で採決された、「動物介在教育実施のためのガイドライン」。専門家の意見も聞き、資料をそろえ、教員会議で提案した。

「当時はまだ赴任して3年目ぐらいだったので、周囲の先生方は何を言い出したのか、という感じでした。噛んだらどうするのか、犬嫌いな人やアレルギーの人はどうするのか、ニオイや抜け毛は、と課題は多かったのですが、一つひとつをしっかりと話し合って、コンセンサスを得ていったんです。基本的に学校の先生方は、子どものためになるということに反対されません。犬の購入から食事、医療までかかる費用はすべて自分もちでということで、お試しでスタートさせてもらうことになりました」

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犬を取り入れた動物介在教育の先駆者である吉田先生

 そうして、"お試し"から始まった学校犬。徐々に活動範囲も広がり、運動会や校外活動はもちろん、老人ホーム訪問などの子どもたちの校外ボランティア活動にも同行し、行く先々に笑顔を届けている。学校案内のパンフレットにも登場しているほか、入学希望者への説明会にも出席して学校のPRにも一役買っている。「学校犬がいるから立教女学院に行きたい」という子どももいるほどで、今やすっかり同校の「看板犬」となっている。

■次の記事はこちら
>>伝統校に学校犬が受け入れられるまで


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◎INFORMATION

吉田先生の執筆による、初代学校犬として2003年から2015年まで多くの人に愛されたバディを主人公にした本が発売中。取材に訪れた2016年9月には、バディから学んだ23の言葉とエピソードで構成されている新刊も発刊されました。
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