lab

  1. トップページ
  2. docdog lab.
  3. 知っておくべき海外感染症事情

2016.10.12

人も犬も、海外に行くなら気を付けたい

知っておくべき海外感染症事情

田中志哉 高橋動物病院

海外における犬たちの感染症事情は、生活環境の違いにより日本とはまったく異なる場合が多い。犬連れでの海外移住や、飼い主が海外旅行に出かける場合に、気をつけるべきことは? 第2回目の今回は、特に東南アジアの感染症事情やそれに対してできる対策、知っておきたいことなどを、タイの動物病院での診療経験を持つ田中志哉先生のお話をもとに取り上げます。

写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

#健康

死因の約8割が感染症!? 東南アジアの犬事情

 今の日本では、リードを着けていない犬が単独で道端をウロウロ歩いていることは、まずないだろう。ところが、世界には犬が街中を自由に歩き回っている国がたくさんある。
 タイもそのうちの一つで、このことが感染症拡大の一因のなっていると考えられる。

「タイでは、飼い犬の他に地域犬、いわゆるストリートドッグというのがいて、バイクタクシーの運転手さんなど複数の人が、ご飯をあげたり、病気になったら病院に連れていったりして面倒をみています。タイ仏教では、タンブンといって、功徳を積むと来世でいいことがあると言われているので、みんな動物を大切にするんですね。ただ、いつ誰がワクチンに連れていったかわからないなど、感染症予防が万全でないので、どうしても感染症にかかるリスクは高くなります。この犬たちが、感染症を広げる要因の一つになっているのは事実ですね」
 と、タイの動物病院での診療経験を持つ、高橋動物病院の田中志哉先生。

 田中先生がタイに滞在中、自ら集計していたデータでは、犬の死亡原因の約8割が感染症で、郊外にいくとその割合はさらに高まるだろう、とのこと。タイの犬たちにとって、感染症は死に直結する恐ろしい病気なのだ。
 特に多く見られたのは、エーリキア症。この病気は、前回取り上げたアナプラズマ症と同様、感染した犬の血液をマダニが吸血し、その犬から離れてまた別の犬を吸血することによって、感染が広がっていく。地域犬には耳の中がマダニだらけという犬も多く、同じ通りに住む犬たちが次々罹患するというように、通りごとに感染が広がっているそうだ。
 また、狂犬病も皆無ではない。都市部ではほとんどないものの、郊外では年に数例出ており、まだまだ撲滅という状況には至っていない。

「もう一つ難しいのは、感染症の管理がしにくいことです。日本でもし感染症が発生したら、罹患した動物は隔離され、感染経路の調査などが行われます。それによって正確なデータが取得でき、感染拡大を防ぐことができるのですが、タイには特定の人に飼われていない地域犬が多く正確な感染経路や罹患数などがわからない......。そのため、対策がとりにくいんですね」

161004_02.jpg

もし犬連れで海外に移住するなら

 それでは、もし何らかの事情で海外に住むことになった場合、どのような感染症対策をすればいいのだろうか。
 タイの場合、飼い犬の一般的な感染症予防は、ノミ・ダニ予防、フィラリア予防、狂犬病、混合ワクチン接種と、その組み合わせは日本とほぼ同じだという。少し違うのは、年中蚊がいるため通年でフィラリア予防が必要なことと、フィラリア予防は飲み薬よりも注射のほうが一般的なこと。

 それに加えて、タイの動物病院には、上記のエーリキア症の検査キットが必ず用意されている。 「エーリキア症のスナップ検査キットというのがあって、簡単な血液検査をすれば結果が10分でわかるんです。その検査を半年に1回して、感染していることがわかったらすぐ治療を開始すれば、早期発見で重症化せずに済むはずです」

 ところが、バンコクには日本人が多く住んでいて、通訳を置いている日本人向けの動物病院があるものの、ほとんどの通訳は医療的な知識を持っていないため、トラブルも多いという。また、病院での説明がわからなかったからといって、インターネットで検索しても日本語ではほとんど情報が出てこないため、自分で調べることも難しい。

 また、愛犬を連れて移り住む場合、日本から東南アジアの国に入るのは簡単だが、東南アジアの国を出て日本に入国するのはとても大変だ。なぜなら、日本が狂犬病清浄国(発症が報告されていない国・地域)なのに対して、東南アジアの国々は非清浄国だから。

「犬連れで日本に帰国するには、愛犬の狂犬病抗体検査証明書が必要なのですが、タイには抗体検査ができる機関がほとんどありません。日本で調べるとなると血液を送る必要があって、それには検疫を通さなければならないんです。ようやく狂犬病抗体検査が終わっても検査をクリアしてから6カ月以上経たないと日本に入国できないので、日本に帰国するとなったら、遅くとも9カ月ほど前から準備し始める必要がありますね」

 ただ、心強いことに海外では犬を飼っている日本人同士の強いネットワーク がある。その中で、先に帰国した人からの情報などが共有されているため、参考にすると安心だ。まずは、現地駐在の日本人向けフリーペーパーや日本人学校、日本人会などで情報収集するといいだろう。

 ちなみに、東南アジアに移住してから犬を飼い始めることもあるかもしれないが、現地で犬を購入することは極力避けたほうがいい。現地のペットショップやマーケット、ブリーダーで販売されている犬は、パルボウィルスなどの病気を持っていたり、ダニがたくさんついていたりと、トラブルが非常に多いそうだ。

161004_03.jpg

飼い主が海外で人獣共通感染症にかかることも

 飼い主だけが海外へ出かける際にも、感染症への意識は持っておきたい。特に東南アジアでは、街中を歩き回る地域犬をかわいいからと気軽に触ってしまうと、狂犬病やエーリキア症、アナプラズマ症など、人獣共通感染症にかかるリスクがある。

 また、犬に触らなくても感染してしまう、恐ろしい人獣共通感染症もある。レプトスピラ症は、ねずみのオシッコから水を介して感染する病気で、傷口などから水中の細菌が入って、犬や猫、人にも感染する(タイでは年間数千人の感染者が出ている)。5〜14日間の潜伏期間を経て帰国後に発症する場合もあり、風邪かなと思って放っておくと容態が急変することもあるため、注意が必要だ。

「バンコクは水はけの悪い都市で、大雨が降るとしょっちゅう洪水が発生するんです。しかも、道にゴミが落ちていたりするので、ネズミもたくさんいますし。だから、雨で水の溜まった道路をサンダルなどで歩くのは危険です。僕もタイにいるときは、道路に水が溜まっていたら足を水に浸けないように、長靴を履いて出てすぐクルマに乗るよう心掛けていますね」

 感染症への対応は、知っているか知らないかでまったく違ってくる。そのリスクや恐ろしさを知って、飼い主も愛犬も感染することがないように、各自でしっかり予防と対策をとっておこう。

掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法等により保護されています。



 この記事が気に入ったらいいねしよう!
 最新記事をお届けします。

トレーニングの成否を分けるオヤツ使いこなし術

脱・滑るフローリング!愛犬のためにできる床対策とは?

脱・滑るフローリング!愛犬のためにできる床対策とは?
トレーニングの成否を分けるオヤツ使いこなし術