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2016.10.05

「古典的条件づけ」と「オペラント条件づけ」 Vol.1

「ほめるしつけ」、その落とし穴とは?

荒田明香 東京大学 大学院農学生命科学研究科

もはや家庭犬の間では一般的になっている「ほめるしつけ」。しかし、実は「ほめるしつけ」だけでは問題行動を解決できない場合もあります。"ほめるしつけ"の前に大切なのは、実は"嬉しい気持ちにするしつけ"。愛犬との信頼関係を築くうえで知っておきたい、これらの犬の学習行動に関して、東京大学の特任助教、荒田明香先生に聞きました。少し難しい話になりますが、理解しておくときっと役立つはずです。

写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

#しつけ

「ほめられるためにやる」では根本的解決にならない

 例えば、動物病院の診察台に乗るのが怖くてじっとしていられない犬に対して、飼い主がじっとさせるために、"ほめるしつけ"でオスワリさせてオヤツを与えたとする。その犬が何とかオスワリしてオヤツをもらったとしたら、これで"ほめるしつけ"は成功だろうか。
 もし仮に何とかオスワリできたとしても、実はその犬には怖い気持ちが残っていて、ブルブル震えていたとしたら......。それでは結果的に診察台の上でオスワリできていたとしても、根本的な解決にはなっていないのではないだろうか。

「"ほめるしつけ"あるいは"しかるしつけ"って、起きてしまった行動に対してほめるのかしかるのかで、その行動の頻度が増えるのか減るのかというだけのこと。そのとき犬の気持ちがどうだったかは、ある意味無関係なんです。なので、犬がどういう気持ちでその行動をとったかということは、置き去りになってしまう場合があるんですよね」
 と、荒田明香先生は話す。
 ほめるしつけは、確かに飼い主にとって望ましい行動という結果を引き出すことができるかもしれない。その一方で、結果ばかりを求めるために、愛犬の気持ちを無視してしまう可能性がある。

 愛犬の立場に立って考えるなら、ここで解決すべきは愛犬が「診察台でじっとしていられない」ことではなく、そもそも愛犬が「診察台を怖がる」ことのほう。また、「診察台を怖がる」ことを解決できれば、「診察台でじっとしていられない」という問題も解決しやすくなるケースがほとんどだ。
 つまり、愛犬のネガティブな気持ちを変えてあげることなくしては、問題行動を根本的に解決することは難しい。それには、"ほめるしつけ"だけでなく、言わば"嬉しい気持ちにするしつけ"が欠かせないのだ。

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"ほめるしつけ"と"嬉しい気持ちにするしつけ"

 ここで、少し難しい話になるが、動物病院が苦手な犬を落ち着かせることを例に"ほめるしつけ"と"嬉しい気持ちにするしつけ"の仕組みの違いを見てみよう。

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"ほめるしつけ"は、学術的に言うと「オペラント条件づけ」という理論を利用している。オペラント条件づけとは、犬の自発的行動(自ら行おうという意識を持って示す行動)に続いてプラスもしくはマイナスのことが起きる(あるいは取り除かれる)という状況変化によって、自発的行動の頻度が増減することをいう。
 この場合でいうと、診察台の上でオスワリをしたらごほうびがもらえたから、診察台に上がると自分からオスワリするようになる、といった行動として現れる。しかしこれでは、行動は変わるが、苦手な気持ちは変わらない可能性がある。

 それに対して"嬉しい気持ちにするしつけ"が利用しているのは、「古典的条件づけ」。本来は何の意味も持たない刺激や状況に対して、生得的反応(生まれつきその動物に備わる生理学的反応や情動反応)を引き出す刺激を加えることを繰り返すと、何の意味も持たなかった刺激や状況だけで生得的反応が現れるようになることだ。
 この動物病院の話にあてはめると、診察台の上で何をさせるわけでもなく、ただごほうびをもらうことによって、もともとはただの台でしかない診察台に乗ること自体が嬉しいものになる、といった反応になる。有名な「パブロフの犬」の仕組みと同じ、というとわかりやすいだろうか。

「"落ち着かせる"とは一定の姿勢でじっと我慢させることではなく、気持ちがリラックスし、その結果冷静に振る舞える、ということだと思います。ところが、オペラント条件づけだけでしつけをしていると、愛犬に我慢をさせてばかりになるかもしれません。ネガティブな気持ちがベースにある場合には、愛犬の気持ちに焦点を当てた、古典的条件づけを利用することが大切です。これは、愛犬の気持ちに寄り添うやり方なので、愛犬との間の信頼関係構築にも役立ちます」

 このことは、愛犬を人間の子どもに置き換えて考えるとわかりやすい。「親にほめられるから勉強する」のではなく、「勉強自体が楽しいからやる」となったほうが、精神衛生上も健全だし、結果も出やすいはずだ。

"ほめるしつけ"が通用しないケースとは

 それでは、"ほめるしつけ"でありがちな失敗例には、どんなものがあるのだろうか。

「例えばチャイム吠えに対して"ほめるしつけ"を使うなら、チャイムが鳴ったときハウスに入ったらオヤツをあげる、と教える場合があります。吠えることと両立できない、ハウスに入るという行動をとらせることで、チャイム吠えを防ぐのです。もちろんこれはこれで解決することもあるのですが、そもそもチャイムの音自体に嫌な気持ちを持っていて、チャイムが鳴ると反射的に吠えてしまっている場合、飼い主の『ハウス』の指示が聞けないこともあります。そういう場合は、古典的条件づけを使って、チャイムが鳴ると同時に犬の目の前に大好きなオヤツをばらまいて、そちらに意識をそらすだけで、うまくいくケースもあるんです」

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 そもそもの問題行動が、犬自身どうすれば得かを考えて行動している「オペラント条件づけ」なのか、犬のネガティブな気持ちからくる「古典的条件づけ」なのか。主な原因がどちらなのかによって、"ほめるしつけ"と"嬉しい気持ちにするしつけ"のどちらがより有効なのかが決まってくる。
 つまり、問題行動を根本的に解決するには、その原因を見極めることが不可欠なのだ。
 さらに言えば、問題行動には多少なりとも犬のネガティブな気持ちが関係している場合が多い。犬の気持ちを理解し、古典的条件づけを使って対応することは、ほとんどのケースで必要となってくる。

 問題行動が起きる原因は実にさまざまであり、"ほめるしつけ"のマニュアルに当てはめて対応するだけでは解決できないこともある。
 もし愛犬に問題行動が起きてしまって、本などで読んだ通りに"ほめるしつけ"をしても直らないのなら、愛犬がなぜそのような行動をとったのか、その気持ちをもう一度考えてみよう。結果としての行動だけでなく、気持ちに目を向け、そこを少し変えてあげることで、解決するケースも多いのだ。

>>次回は、古典的条件づけを利用したしつけを行う際のコツやポイントについて、取り上げます。

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