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2016.09.09

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日本初のファシリティドッグが教えてくれること vol.3

ファシリティドッグのいる病院を増やすために

日本にたった2頭しかいないファシリティドッグを利用した、動物介在療法をもっと日本に普及させるための課題、そして私たちにできることとは? 最終回の今回は、病院に常勤し医療行為にかかわるファシリティドッグを利用した動物介在療法の未来について、引き続き認定NPO法人『シャイン・オン・キッズ』の村田夏子さんと森田優子さんにお聞きします。

#Lifestyle

Author :写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

夢は全病院にファシリティドッグを!

 現在日本で活躍するファシリティドッグは、『神奈川県立こども医療センター』のベイリーと『静岡県立こども病院』のヨギの、たった2頭だけ。これを日本の全病院に普及させたいというのが、日本で唯一のファシリティドッグプログラムを行う認定NPO法人『シャイン・オン・キッズ』の夢だ。
 ところが、その夢に向かって突き進むに当たっての壁は、まだまだ厚い。

 最も大きな障害となるのが、資金の問題だ。
 1頭のファシリティドッグを病院に導入するにあたってかかる経費は、初年度で約1,200万円、その後も年間約900万円ずつ。現在ファシリティドッグを導入している神奈川県立こども医療センターと静岡県立こども病院では、最初は全額をシャイン・オン・キッズが負担してきた。そこから徐々に病院側の信頼を得て、少しずつ委託金などを負担してもらえるようになってきている。
 今後、さらに多くの病院に導入してもらうにあたっても、病院側だけでなくその背景にある行政の理解と一部費用の負担は不可欠だ。

「今も全国の病院から声はかかるのですが、結局は資金面がネックになって、最終的な導入まで至っていません。私達がずっと無償でやりますと言えれば、もっとスムーズに導入していただけるとは思うのですが......。今の日本の病院は経営が厳しいところも多く、そんな中でファシリティドッグの費用を負担してもらうのは、かなり難しいようですね」
 と、プログラムコーディネーター(農学博士)の村田夏子さんは話す。
 資金を安定化させる意味でも、第2回で取り上げたエビデンスの確立が必要になっているそうだ。

 ちなみに、ファシリティドッグプログラムを生み出したアメリカでは、どのぐらい導入が進んでいるのだろうか。
 盲導犬以外の補助犬育成で世界最大の団体、CCI(Canine Companion International)で2014年の1年間に育成されたファシリティドッグの数だけでも47頭。全米での頭数ということであれば、もっと多いということになる。
「今年の2月に村田と私が視察に行ったサクラメントの子供病院では、病床数65床に対して4頭のファシリティドッグが活躍していました。それに比べて、神奈川県立こども医療センターの場合、病床数419床に対してベイリー1頭だけ。1頭当たりの子供の数で考えると、その差は歴然ですよね」
 と、ベイリーのハンドラー(犬をコントロールする人)森田さん。

 このアメリカと日本の普及率の差は、どこからきているのだろうか。
 まず、アメリカには国民皆保険制度がなく、お金に余裕のある人がかかる病院の場合は各病院が基金を持っていて、病院側の資金にも余裕があること。また、病院のスタッフがハンドラーを兼業で務めているため、人件費が抑えられること。それに加えて、寄付の文化が浸透しており、寄付金が集まりやすいことも大きな違いだ。
 単にアメリカの後追いをするだけでなく、日本の制度や状況に合わせた導入の方法を模索する必要があるだろう。

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ベイリーのハーネスには支援してくれている団体のワッペンも貼られている

ベイリーのような犬を日本で育成できるか

 ファシリティドッグそのものの育成も、大きな課題の一つと言える。
 ファシリティドッグがストレスなく任務を遂行できるのは、育成施設による犬の適性の見極めと、特別なトレーニングの成果でもある。第1回でも紹介したように、現在日本で活躍するベイリーとヨギは、ハワイにある使役犬育成施設『HCI(Hawaii Canines for Independence / 現Assistance Dogs of Hawaii)』によって、適性のある子犬として選ばれ、育成されたうちの2頭だ。
 今後、日本でもファシリティドッグの導入が今より進んだ場合、海外で育てられた犬を連れてくるよりも、日本国内で育てたほうが効率的になってくる。ところが、日本に育成できる施設を作るまでの道のりは、なかなか険しそうだと村田さんは言う。

「日本に育成施設があったらというのは、ずっと思っているし口にも出してきたのですが、実際にハワイの施設を見てきて、これはちょっと遠いなと。マウイ島にあるベイリーの育ったHCIは、施設で一度に管理し切れる頭数は6頭までと制限し、それ以上は犬を置かないのです。施設には犬舎もクレートもなくて、森の中のドッグランのような場所を犬達が自由に走り回っていました。きれいなビーチでリードを外し、みんなでワーイって遊んでいて......。とにかく、犬がのびのびと楽しめることにフォーカスして、無理なく育てられています。だからこそ、病院に常勤するという特殊な環境でも、人に愛情を持って接することができるのでしょうね」

 そんなハワイの現状を考えると、日本でベイリーやヨギに匹敵するファシリティドッグを育成できるのかどうかは、かなりの難題だ。
 さらに、医療現場という人間の生命にかかわる場所で働く以上、たった1回の事故が大きな問題になりかねない。いかに安全にプログラムを継続していくかを第一に考える必要があり、安易に育成して導入することは決してできないのだ。

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仕事中以外は、ベイリーも普通の犬。人に遊んでもらったりなでてもらったりすることが大好きだ

多くの人が理解し、支援することが最も大切

 病気に苦しむ患者やその家族を、さまざまな面で助けてくれるファシリティドッグ。ファシリティドッグを利用した動物介在療法をもっと日本に普及させるために、私たちにできることは何だろうか。

 第一に、ファシリティドッグという犬のことを知り、口コミやSNSなどでまわりの人達にも伝えること。
 今年8月に発行されたばかりのファシリティドッグの写真集『MY BEST FRIEND AT THE HOSPITAL~こどもたちの目にうつったファシリティドッグ~』(認定NPO法人シャイン・オン・キッズ刊)や、ベイリーのことを取り上げた書籍『ベイリー、大好き セラピードッグと小児病院のこどもたち』(小学館刊)もある。
 ベイリーとヨギが勤務するのは、重い病気の子供達もいる小児病棟のため、仕事中の写真の撮影や公開にかなりの制約がある。それでも、ファシリティドッグの必要性を理解してもらわなければと、村田さん達も懸命の広報を行っている。
 これらの本を手に取ったり、イベントへ足を運んだりするとともに、まわりにも広めていくことが、支援の第一歩だ。

 第二に、できる範囲で寄付をすること。
 現在、日本で唯一ファシリティドッグプログラムを行うシャイン・オン・キッズは、8割が寄付で成り立っている。プログラムを普及するに当たって、寄付金はなくてはならないものだ。
 寄付の方法は、シャイン・オン・キッズのサイトからクレジットカードでの振り込みや、今月から新たに始まる年間サポート制度「シャイン・オン!サポーターズ」(12,000円/1口、特典つき)で継続的に支援することも可能だ。その他にも、古本やDVDを提供する、コラボ商品を購入する、自動販売機を設置して売上を寄付する、チャリティイベントやパーティを主催する、といった方法もある。

 寄付は、ファシリティドッグ普及のためにできる、最も直接的な支援だ。可能な方法、可能な範囲で協力を検討してみてほしい。

 日本でファシリティドッグを多くの病院に普及させていくには、まだまだ障害も多い。けれど、もしも自分自身や子ども、犬好きな親しい人が病気で入院することになったとしたら、ファシリティドッグのいる病院といない病院のどちらがいいか。そう問われると、答えは明白だ。
 ファシリティドッグの存在によって、人に寄り添うことのできる犬の力をより多くの人が感じるだろうし、また、人に寄り添うことの好きな犬にとっても喜びが増えるはず。
 ファシリティドッグを利用した動物介在療法は、人と犬がお互いをよく知り、共生していくための、新たな形の一つと言えるだろう。

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ベイリーのような犬が増えるならと、写真の撮影や公開に協力してくれる家族も多いそう

◎ファシリティドッグの写真集が発売中!

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MY BEST FRIEND AT THE HOSPITAL
~こどもたちの目にうつったファシリティドッグ~

文章:藤沢文翁
写真・写真監修:桐島ローランド
発行者:認定NPO法人シャイン・オン・キッズ
発売日:2016/8/1
http://sokids.org/ja/photo-book/
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◎「GREEN FUNDING by T-site」での寄贈キャンペーンにもご協力お願いします!

詳細は以下のサイトをご覧ください。
https://greenfunding.jp/fca/projects/1567/
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