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2016.09.14

動物と暮らしやすい環境作りも大切

感情論を超えて実現すべき、動物に優しい社会とは

加隈良枝 帝京科学大学 生命環境学部

幸せな動物と飼い主を増やすために、動物の繁殖流通システムはどう改善していくべきなのだろう。第1回第2回では、その現状や問題点を確認してきた。最終回である今回は、問題を解決するために進むべき道とは、また、私達にはどんなことができるのかを、考えてみたい。

写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

理想的には、需要に合わせて繁殖をさせること

 動物の繁殖流通業界の進むべき方向を見定めるためには、まず、理想的な繁殖流通とはどのようなものかを考える必要がある。
「最優先に考えるべきは、飼い手のいない動物が出ないことです。そう考えると、例えばあるブリーダーのところの子犬を飼いたいという人が5人集まったら、ブリーダーが繁殖をさせ、飼いたい人は子犬が生まれるのを待つというのが、理想ではないでしょうか」
 と、動物福祉の観点から動物の繁殖流通システムに関する研究を行っている、帝京科学大学の准教授、加隈良枝先生。

 もちろん、その時ちょうど5頭の子犬が生まれるとは限らないし、オス・メスどちらがいいとか、どのカラーがいいとか、性格のおとなしいコがいいなど、すべてを希望通りにそろえるのは不可能だ。けれども、そこは犬側の事情を最優先に考えて、希望に沿う子犬が生まれるまで待ち続けるのが、あるべき姿だろう。

「ただ、子犬を飼いたい人にしてみれば、半年も待てないから早く入手できるところがあるならそこで買ってしまおうというのが、人間の心理ですよね。だから、そこは繁殖・流通・販売の側に規制をかけて、動物福祉が守られるようにすることが必要になってきます。一般企業が動物を販売している限り競争があるので、自主的な取り組みだけに任せることは難しいでしょうね」

 現在、犬猫などの販売業の規則に関しては、動物の愛護及び管理に関する法律(動物管理愛護法)の「第三章 動物の適正な取扱い」の「第二節 第一種動物取扱業者」の中に記載されている。2012年の法改正により、販売業者の犬猫の所有状況の報告が義務付けられ、生後56日(8週齢)に満たない犬猫の販売、引き渡し、展示が禁止(ただし附則あり)されるなど、その規制が厳しくなりつつあるのは事実だ。

 けれども、"ペット先進国"と言われるヨーロッパ諸国では、犬猫はペットショップでの購入よりも、アニマルシェルターからの引き取りかブリーダーからの購入が一般的だ。日本とヨーロッパでは大きな違いがあるとはいえ、状況改善のための一つの方策として、販売業者への規制の強化は進めていく必要あるだろう。

※2012年の動物管理愛護法の改正にあたっては、環境省の動物愛護部会の下に設置された「動物愛護管理のあり方検討小委員会」において、計25回の議論が行われており、その議事録や資料はすべて環境省のサイトに掲載されている。犬猫の販売に関する内容は、特に第4回・第5回で話し合われており、興味深いので目を通してみてほしい。

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動物が売れなければ、ペットショップは成り立たない

 展示販売による動物への悪影響や、売れ残った動物の処遇など、さまざまな問題点が指摘されているペットショップ店頭での子犬・子猫の販売。だが、いまだに少なくない数のペットショップが廃業せず営業し続けているのは、購入する消費者がいるからだ。

「以前、犬の飼い主さんを対象として、愛犬を入手したルートとその理由を調査したことがありました。その結果、入手先はペットショップが約半分、ブリーダーからが残りの半分、動物保護団体などからの譲渡はごくわずか。さらに、ペットショップで入手した人の理由は、見事に一目惚れが一番多くて、しかもその犬種について事前に調べていない人が多いということがわかりました」

 安易に購入できてしまうペットショップが存在することも問題だが、購入してしまう消費者側にも責任の一端はある。そういったショップで購入することで、そんな"つもり"はなくとも、問題の多い繁殖流通システムの存続に加担してしまっているかもしれないのだ。

「調査の中で、なぜ動物保護団体などからの譲渡を受けなかったのかということも聞いたのですが、一番多かった理由が『子犬が欲しかった』。そして、『検討したが、保護団体の条件に合わなかった』という人も少なくありませんでした。さまざまな保護団体の条件を調べてみると、学生や一人暮らし、共働きはダメとか、収入はいくら以上とか、確かにけっこう厳しいんです。そうして譲渡を受けられなかった人が、ペットショップに行ってしまう可能性もあるようです」

 一度は飼育放棄された動物を新しい家族に譲渡する、保護団体の基準が厳しくなるのは当然といえば当然だ。しかし、これらの厳しい条件も、実際に譲渡された動物たちのその後を調査したデータをもとに作られているかといえば、そうではない。
 今後は、客観的な調査データをもとに、社会学的・行動学的根拠に基づく譲渡のルールを作成していくことも必要だろう。

動物と暮らせる人を増やすことも大切

 販売業者への規制強化も、保護団体などの厳しい譲渡条件も、動物たちの幸せを思ってのこと。けれども、販売条件や譲渡条件が厳しくなればなるほど、動物と暮らせる人達の数は減る結果になるのは容易に想像できる。
 それでは、日本より規制の厳しい欧米では、日本よりもペットの数が少ないのだろうか。

「実は、日本の世帯ごとのペット飼育率は、欧米に比べてあまり高くなく、半分ぐらいと言われています。このペット飼育率を倍にできれば、それだけ受け入れ側のキャパシティが増えるので、譲渡されていく犬も増え、取り組んでみようという飼い主も増えるはず。そうすれば、ペット市場ももっと盛り上がると思うんです」

 動物が好きな人、動物にかかわる仕事をしている人で、動物の数が減ってほしいと考えている人はほとんどいないはず。
 動物を飼える人を増やし、さらにその動物たちが幸せに暮らせる社会を実現するためには、動物を飼いやすい環境を作ることが大切だ。

「それには、例えばペットと入れるお店が増えるとか、公共交通機関に一緒に乗れるとか、社会の受け入れがもっと進むことも必要だと思います。また、今の日本でペット飼育のバリアになっていることの一つが、一人暮らしや高齢でペットを飼えないという問題。それも、例えばペットを飼っている人のグループでお互いに見守り合うとか、病気になったらサポートできる体制を作るなど、複数の人がかかわって育てる仕組みを作ることによって、解決できるかもしれません」

 欧米では、一人暮らしで犬を飼い、散歩に行けないときはドッグウォーカーに頼むことなども一般的だという。日本なら犬がかわいそうと思われがちだが、純粋に動物のことを考えれば、忙しい飼い主に短時間しか散歩してもらえないより、散歩のプロにたくさん遊んでもらったほうが、間違いなく幸せだろう。

 また、「これは極論ですが」と前置きをして、加隈先生はこう付け加える。
「飼えなくなったから手放す、というのをもっと一般的にしてもいいのかもしれません。飼うのが難しい状態で無理に飼い続けたり、捨ててしまったりするより、そのコにとっての新しい幸せの道をちゃんと考え、探すほうが、結果的に動物の幸せにつながるのではないかと思うのです。動物は一瞬『え!?』と思うかもしれないけれど、その後に新しい飼い主との楽しい生活が続くのであれば、それはそれで幸せなのではないでしょうか」

 人にとっても動物にとっても幸せな社会を作るには、飼い主、ブリーダー、販売業者、民間の動物保護団体、行政などさまざまな角度から調査研究を行ってデータを蓄積し、問題点を洗い出すことが欠かせない。そして、その調査結果と客観的考察にもとづくノウハウを集約し、普及させることが大切だ。
 一方で、社会における動物に対する意識を向上させ、動物と暮らしやすい社会を作ることも並行して進めていく必要がある。

「一つ言えることは、幸せな動物がたくさんいる社会は、人間にとってもいい社会だということ。だから、その社会を目指すことは、決して間違いではないと思うんです」

 規制を設けたり行政を動かしたりするためには、しっかりとしたエビデンスに加え、多くの専門家による知見が必要不可欠だ。しかし、社会的な意識向上、風土醸成のためには、シンプルに私達一人ひとりが、動物の"幸せ"について考えること。また、考えられる人を地道に一人ずつでも増やしていくことなのかもしれない。

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