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2016.09.21

問題行動に隠れた不満やストレスに気付こう

「アニマルウェルフェア」の観点から、問題行動を考える

荒田明香 東京大学 大学院農学生命科学研究科

単に問題行動をやめさせるだけでなく、そもそもなぜ愛犬はその行動をとるのかを考えてみましょう。もしかするとそこには、愛犬の不満やストレスなどが潜んでいるかもしれません。問題行動と"アニマルウェルフェア(動物福祉)"の関係について、動物行動学を専門とする東京大学の特任助教、荒田明香先生に聞きました。

写真=永田雅裕、大浦真吾 文=山賀沙耶

#しつけ

"NO"だけでなく"WHY?"の視点も必要

 例えば、愛犬が大事なスリッパをくわえて遊んでボロボロにしてしまったとする。それを解決しようと、「"問題行動"を犬目線で考えてみよう Vol.3」に沿って"きっかけ"となる状況を回避するなら、愛犬の届かないところにスリッパを片付ければいいだろう。ところが。それで一件落着かというと、そうではない場合もある。
「問題行動の起こる仕組み」を図で見てみよう。

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「スリッパをくわえて遊んでボロボロにしてしまう」という問題行動の場合、"きっかけ"は「スリッパが目に入ったこと」で、②は「くわえて遊びたい」という気持ちだ。
 それでは、①に当てはまるのは何だろうか。物をくわえるのが好きな犬種だとか、家の中で自由に行動させている環境といったことに加えて、散歩が足りずに欲求不満ということも含まれているかもしれない。その場合、いくらスリッパを愛犬の届かないところに片付けたとしても、今度はゴミ箱を倒したり、床を掘ったり、家具をかじったり......と別のきっかけによる問題行動として現れるだけなのだ。

「愛犬が困った行動をするようになった場合、ついついその行動をやめさせることばかり考えてしまいがちです。ところが、いくらそれをやめさせられたとしても、その行動を起こす原因になっている、ストレスが溜まってイライラしている状態など根本的なところを解消しない限りは、愛犬の気持ちは満たされませんよね。特に、きっかけを取り除いても問題行動が減らない場合や、いろいろなきっかけで問題行動が起きている場合は、もっと根本的な原因を考えてみる必要があります」

その問題行動、ウェルフェアの危機のサインかも!?

 ここで、最近よく話題に上る"アニマルウェルフェア(動物福祉)"の考え方について、知っておこう。
 アニマルウェルフェアとは、「生理的、環境的、栄養的、行動的、社会的な欲求が満たされることによってもたらされる幸福(ウェルビーング)の状態」と定義されている。加隈良枝先生のページでも紹介したが、アニマルウェルフェアの国際的な基準として認知されているのが、以下「5つの自由」の考え方だ。

(1)飢えと渇きからの自由
(2)不快からの自由
(3)痛み、けが、病気からの自由
(4)正常行動を発現する自由
(5)恐怖と苦悩からの自由

 特に犬の問題行動とかかわりの深い(4)、(5)に関して、もう少し具体的に説明しよう。

(4)正常行動を発現する自由 =探索する、動くものを追いかけるなどの生得的な行動を発現する機会や、人間や犬など他者とのコミュニケーションを取り、社会的欲求を満たす機会が提供されていること。
(5)恐怖と苦悩からの自由 =しかられたり脅されたりすることがなく、犬のプライバシーが尊重されていること。苦手な刺激を避けることができる、あるいは苦手な刺激に馴れる環境が提供されていること。

 実は、これら(4)、(5)の危機が原因となって、問題行動が起きている場合が少なくないのだ。
 例えば、外に出かけていろいろなにおいを嗅ぐという犬にとっての"正常行動"が制限されている場合、愛犬が欲求不満に陥ってイタズラをするかもしれない。あるいは、社会化不足によって他の人や犬が"恐怖と苦悩"の対象である場合、無理にあいさつさせようとすることで、他の人や 犬に対してすぐに吠えるようになるかもしれない。
 これらの場合、いくらイタズラや吠えることをやめさせようとしても、根本的な原因である欲求不満や恐怖が解消されない限りは、愛犬のウェルエフェアは確保されないことになる。逆に言えば、問題行動は愛犬のウェルフェアが守られていないというサインかもしれないのだ。

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運動やにおい嗅ぎは犬にとって必要な"正常行動"

 アニマルウェルフェアが守られないことによって起きる問題行動は、イタズラや吠え、マーキングや排泄の失敗、甘噛み、興奮しやすい、自分の足をなめ続けるなど多岐にわたる。また、攻撃や自傷などの深刻な問題にも、ほとんどの場合にウェルフェアが関与している。
 中でも「(4)正常行動を発現する自由」が脅かされて欲求不満に陥っている場合が多い。そのため、散歩や遊び、犬が楽しめる時間などを増やして欲求を満たすことで、問題が解決したり、解決しやすい状態になったりすることがほとんどだ。

「散歩の時間は、ただ運動になるだけでなく、外でにおい嗅ぎをしてさまざまな刺激を受けられるという意味でも、とても大切です。とりわけ重要なのは、散歩の 質。散歩は100%犬のための時間と思い、愛犬が散歩を楽しんでいるかどうか、よく観察してみてください。飼い主さんの横にぴったりついて歩かせるのは安全ではありますが、嗅覚の優れた犬にとってはつまらないかもしれません」

 また、イタズラに関しては、欲求不満に加え、飼い主の気を引きたくてしている場合もある。普段は飼い主があまり関心を向けてくれないけれど、イタズラをすれば大騒ぎしてかまってくれると学習すると、飼い主が困るイタズラばかりを繰り返すようになってしまう。

「この場合、イタズラをしているときには騒がず反応を返さないことに加えて、例えば自分のオモチャをくわえているときなどには『あれ、何それ?』と少しテンション高めに反応してあげるといいと思います。愛犬が望ましい行動をしているとき、案外飼い主さんは関心を向けていないことも多いものです」

 ただし気をつけたいのは、逆に飼い主のかまいすぎが原因で、愛犬の依存やイライラにつながる場合もあること。特に食事中や睡眠中などは、愛犬のプライバシーを尊重すべきだ。知らず知らずの間にストレスを与え続けていないか、愛犬のストレスサインを見逃さないようにしよう。

 愛犬の問題行動が起きると、飼い主自身が困るのはもちろん、飼い主がいつも怒っていたり不機嫌に接してしまったりすることによって、さらに愛犬にストレスを与え、悪循環に陥ることも。逆に、その問題行動が少し軽減するだけで、飼い主が心の余裕や優しさを取り戻すことができて、解決するケースもある。
 問題行動は愛犬からの何かしらのメッセージととらえ、その根本にある原因は何なのかを冷静に考えて、取り除く工夫をしてあげよう。それによって、それぞれウェルフェアの確保された快適な生活を取り戻すことができるだろう。

 そこに必要なのは、もしかしたらほんの少しの思いやり、なのかもしれない。




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