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2016.09.07

”問題行動”を犬目線で考えてみよう Vol.3

人間本位の考えだけでは、根本的な解決はできない

荒田明香 東京大学 大学院農学生命科学研究科

最終回である今回は、吠える、噛む、排泄を失敗するなど、問題行動に対処するにあたって知っておきたい基本的な考え方を、荒田明香先生に聞きました。人にとっても犬にとっても、ストレスを抱えず生活を送るための大切なポイントは、いったい何なのでしょうか?

写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

#しつけ

"きっかけ"を避けるだけで解決することもある

 実際に問題行動で困っている人にとって最も気になるのは、具体的にどのように対処すればいいか、ということだろう。これに関しては、「まずは問題行動のきっかけとなる状況を回避すること」と、荒田明香先生は言う。
 ここで、第1回で示した「問題行動の起こる仕組み」を、もう一度見てみよう。

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 例えば、日本でよく問題になるチャイム吠えは、"きっかけ"であるチャイムの音を変えることで、とりあえず解決する場合もある。しかし、もちろんそれだけでは根本的な解決にはならない。チャイム音を変えたうえで、チャイム音が鳴ったら落ち着いて待つということを教えつつ、飼い主も慌てた行動をしないといった対応をセットで行うことが大切だ。

 できることなら、吠える、噛むなどの問題行動まで発展する前に、特定のきっかけで現れるストレスサインや怖がっているサインを察知して、そのきっかけの部分を調整してあげられるといい。
「あくびをする、口や鼻をなめる、目をそらす、毛づくろいをするなどはストレスサインの一種ですが、自分の気持ちを落ち着かせる際や、相手に敵意がないことを示すためのカーミングシグナルとして使われることもあります。また、怖がっているときには、耳を伏せる、尾が下がる、重心が後ろに下がる、逃げるなどのサインを示します。
 何らかのきっかけによってネガティブな感情が起き、これらのサインを出してもどうにもならなかったときに、吠えたり噛んだりといった段階に進むことが多いです。基本的なサインを理解して、普段の生活の中で愛犬が示していないか見てあげましょう」

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撮影中という緊張する場面であくび。これもカーミングシグナルの一つだ

OKの状態をほめ、それが増えるよう仕向けるのがコツ

 とはいえ、問題行動を誘発するきっかけの中には、回避しづらいものもある。例えば、散歩の時にリードを引っ張るという問題に関しては、"散歩に出る"というきっかけ自体を回避するわけにはいかない。実は、この場合のきっかけは"リードが張る"ということでもある。

「"引っ張る"という問題行動で言えば、若い犬の場合、散歩の前半はどうしても勢いよく歩いてしまうことが多いですよね。これに対して、犬を横につかせるという方法もありますが、匂いを嗅ぐという犬の楽しみを奪ってしまうことになりかねません。
 リードを緩めることを意識して、前半は小走りでついていく、後半になって落ち着いてきたら、そのときにいっぱいほめながら歩く。それで、少しずつ落ち着いて歩ける時間を増やしていければOK、という感覚で取り組むといいと思います」

 問題行動を根本的に解決していくうえで最も大切なのは、犬の心地よさを考え、犬が自ら望ましい行動をとり、望ましくない行動が減っていくようにと、飼い主が仕向けることだ。

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興味のあるものを発見すれば、ついそっちに行きたくなる。私たちが街中で気になるお店を見つけたときに駆け寄るのと同じ。絶対にしてはいけないというのは、なかなか難しい

ラブラドール・レトリーバーすべてが盲導犬になれるわけではない

 問題行動の少ない犬なら、当然、一緒に暮らしやすいのは間違いない。
 とはいえ、犬と暮らし始める段階から、理想を求めすぎたり、完璧を望みすぎたりするのもよくないのでは、と荒田先生は言う。
 盲導犬のラブラドール・レトリーバーや、CMで見たようなかわいいチワワ、バッグに入ったプードル......。たとえ理想を持って同じ犬種を飼い始めたとしても、その理想に近づけないコだっている。
「もちろん、多少は理想のイメージがあったほうが、トレーニングのモチベーションは上がります。けれど、犬達にはそれぞれ個性があって、そのコそのコに合ったゴールがあるはず。理想に近づけなかったコが落第者という考えは違うと思います。愛犬のトレーニングに関しては、飼い主さんの理想像から減点して評価するのではなくて、できたことを加点方式で見てあげるほうが、お互いにとって幸せなのではないでしょうか」

言葉を話せない犬との相互コミュニケーションを!

 第1・2回でも見てきたように、犬は人間社会の中で生活するにあたって、かなりの部分を人間に合わせてくれている。その犬の感覚を想像してみるなら、私達が言葉も文化もまったく知らない国に行った場合と似ているだろう。
「例えば、言葉もまったく通じない国に連れて来られ、挨拶のつもりで手を出したら、その手をたたかれてしまった。なぜかと思ったら、実はその国では握手はマナー違反だった、なんていうことがあるかもしれません。犬にとって人間社会で暮らすことって、そういうことの繰り返しだと思うんです。特に犬と人間の物理的距離が近くなった現代社会では。だから、私達も犬を自分達に合わせさせるだけでなく、犬側の文化もちゃんと知って受け入れないといけませんね」
 人間と犬はもともとの文化がまったく違うのだから、何も言わなくてもすべて飼い主の思い通りにしろというのは、どだい無理な話。したがって、問題行動が起きるのは、ある意味当然のことなのだ。

 私達は自分の希望を言葉にしてして伝えることができるけれど、犬にはそれは通じないし、また彼らが自分の希望を私達に説明することもできない。ただ、ストレスサインを示していたり、さらに言うと"問題行動"という形で犬が訴えていることもあるだろう。
 だからこそ、もし飼い主にとって望ましくない行動が起きそうだったら、こちらの一方的な考えを押し付けるのではなく、まずなぜ犬がそうするのかを考え知ること。そのうえで、私達の希望と彼らの本能的な行動の間で、お互いストレスを抱えず共同生活が送れる点はどこなのか、落としどころを見つけよう。
 そうしていく中で、もし彼らが私達の希望を少しずつ受け入れてくれたら、そのときは感謝の気持ちを込めて、たくさんほめてあげよう。

>>"問題行動"を犬目線で考えてみよう Vol.1 / その問題行動、本当に犬が悪いの?

>>"問題行動"を犬目線で考えてみよう Vol.2 / 吠える、噛む、排泄の失敗。その行動の原因は?



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