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2016.08.19

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日本初のファシリティドッグが教えてくれること vol.2

子どもを勇気づけ、親をなぐさめるファシリティドッグの力

日本発のファシリティドッグである、『神奈川県立こども医療センター』のベイリー。ファシリティドッグとは、医療の現場で専門的な治療行為として行われる、動物介在療法に活用される犬のことです。第2回目の今回は、ファシリティドッグが病院に常勤しはじめたことで、子どもたちや周囲にはどんな効果や影響があったのか、前回に引き続き認定NPO法人『シャイン・オン・キッズ』の村田夏子さんと森田優子さんにお聞きします。

#Lifestyle

Author :写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

痛い検査も「ベイリーとなら100回やりたい!」

 毎日同じ病室とベッド、繰り返される痛い注射や検査。入院している子どもたちにとって辛いことばかりだった病院に、日本初のファシリティドッグのベイリーがやってきたのは、2009年のこと。
 以来、子どもたちの治療に取り組む姿勢に、顕著な変化が現れ始めた。

「痛くて辛い骨髄穿刺※の検査でも、ベイリーと一緒にできるならあと100回やりたい! っていう子がいたり、ベイリーが来る時間だからって、楽しいはずの外泊から早く帰ってきたり。先日も、ベイリーと一緒にいたいからと、退院を1日延ばしたっていう子がいました(笑)。
 入退院を繰り返している子も以前は入院を嫌がって泣いていたのだけど、ベイリーが来てからは『早くベイリーに会いたいから入院したい』なんて笑顔で話すので、まわりの人から『まるで旅行に行くかのようね』って言われているそうです」
と、ベイリーのハンドラー(犬をコントロールする人)を務める森田優子さんは話す。

 病院に行けばベイリーがいる。ただそれだけで、子どもたちにとって病院が楽しい場所になってしまう。これは、人間では決して代われない役割だ。

(※骨髄穿刺(こつずいせんし):胸骨、大腿骨、もしくは腰骨に針を刺して、骨の中にある骨髄組織をとる検査。痛みを伴い、子どもたちはもちろん、大人でもつらい)

 ファシリティドッグの効果に関する研究はまだ始まったばかりだが、一部ではすでに医学的な成果につながるヒントも得られている。

「静岡県立こども病院で看護師の方が行った研究によると、骨髄穿刺の際に犬が処置室に一緒に入った群と入っていない群で、唾液アミラーゼの示すストレス値が違ったそうです。犬が入っていない群は検査前にストレス値がピークになるのですが、犬が入った群は検査前にストレス値が上がらない、という結果が出ています。症例が少ないながらも、潜在的に重要な結果と言えます。今後は、犬の好き嫌いや検査回数歴といった条件統一、そして神奈川県立こども医療センターとも協力して対象数を増やすなど工夫を図り、エビデンスとしての確立を目指したいですね」
と、プログラムコーディネーター(農学博士)の村田夏子さん。

 検査の20~30分前からファシリティドッグが子どもたちに付き添うことで、子どもが安心して検査に臨めることが、数値的にも証明される日がくるかもしれない。

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ファシリティドッグにふさわしい性格と、徹底したトレーニングがベースにあるベイリーだからこそ、子どもたちの扱いが多少不慣れであっても、のほほんとしている

医療スタッフと認めてもらうことで、真価を発揮できる

 ファシリティドッグのハンドラーは医療従事者であり、ファシリティドッグは医療行為にかかわる部分まで踏み込んで活動できることが、セラピードッグとの大きな違いであることは、前回も紹介した。
 ところが、医療行為に参加するには、病院側に、ハンドラーとファシリティドッグを医療スタッフとして認めてもらうことが、必要不可欠になる。

「ファシリティドッグを使った動物介在療法って、私達がいくら『こういうこともできるんです』と言ってもダメで。現場の先生や看護師さん、リハビリのPT(PHYSICAL THERAPISTOの略。理学療法士)さん達に、どうやってベイリーを使おうかと考えてもらって、声を掛けてもらわないと何もできないんですよ。
 一番最初にファシリティドッグを受け入れてくださった静岡県立こども病院では、最初の2年間は個人情報にアクセスできず、セラピードッグと同じような活動しかできなかったんです。そこから、病院との信頼関係が少しずつ築けて、先生達もかなり協議してくださり、2年後にようやく電子カルテを見られるようになりました。今の活動ができているのは、ひとえに病院スタッフの方々の理解のおかげですね」
と森田さんは話す。

 だからこそ、病院内でベイリーを好きになってくれるスタッフを増やして、ベイリーが遊びに行ける部屋を増やすことも、森田さんの大切な役割だ。最初はボランティアの外部スタッフという形で病院に出入りし始めた森田さんとベイリーだが、今や休日に一緒に遊びに出かける病院スタッフもたくさんいる。そして、ベイリーのことを好きなスタッフが増えれば、ベイリー自身も嬉しいのだ。

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病室だけでなく、処置室や手術室にも付き添って勇気づけてくれるベイリー

ベイリーを抱きしめて泣く親も

 ファシリティドッグのメリットを語るうえで、忘れてはいけないことがもう一つある。
 子どもが重い病気にかかることで、子どもと同じか、もしくはそれ以上に深く傷ついている、子どもの家族へのケア効果だ。
 明るい未来があるはずだった子どもの重い病気を告げられたとき、親は大きなショックを受ける。告知する先生も気を使い、告げられた親も何か言わねばと必死に言葉を探す。そこにベイリーがいるだけで、その場がほっと和むのだ。

「小児病棟の場合、子どもの看護と同じぐらい、親御さんの看護が大事なんです。苦しそうな子どもを見ることがどんなに辛くても、親は子どもの前で泣くわけにはいきません。廊下でベイリーをぎゅっと抱きしめたまま、泣いている親御さんもいらっしゃいます。そんなとき、ベイリーはじっと静かにその悲しみを受け止めているようです。ベイリーとの間には言葉がいらないのが、逆にいいみたいですね」

 どんなに重い病気を抱えていても、ベイリーを見るだけで子どもの表情は明るくなる。そんな子どもの姿を見守る親も、ほっとなぐさめられる。そして、親自身がベイリーに癒されることもある。
 また、そこにベイリーがいるだけで、今まで交流のなかった親同士が、ベイリーをなでながら自然と言葉を交わしている、なんてことも。
 医療行為においてとても重要な、家族のケアもまた、ベイリーの大切な仕事の一つなのだ。

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森田さんとベイリーの部屋は、子どもや家族からの贈り物や手紙でいっぱいだ

◎ファシリティドッグの写真集が発売中!

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MY BEST FRIEND AT THE HOSPITAL
~こどもたちの目にうつったファシリティドッグ~

文章:藤沢文翁
写真・写真監修:桐島ローランド
発行者:認定NPO法人シャイン・オン・キッズ
発売日:2016/8/1
http://sokids.org/ja/photo-book/
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詳細は以下のサイトをご覧ください。
https://greenfunding.jp/fca/projects/1567/
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