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2016.08.31

“殺処分ゼロ”が、動物達にとって本当の幸せか?

人と犬の幸福な関係に必要な、"動物福祉"の考え方

加隈良枝 帝京科学大学 生命環境学部

動物達にとっての本当の幸せと、私達はどう向き合えばいいのか。"動物がかわいそう"の一言では語り尽くせないこの問題について、動物福祉の観点から、帝京科学大学生命環境学部の准教授、加隈良枝先生に聞きました。

写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

"動物がかわいそう"を超えて、私達が考えるべきこと

 動物の繁殖流通システムの問題や、愛護活動の話の中で、必ずといっていいほど出てくるのが、「動物がかわいそう」という言葉。ところが、"かわいそう"というのはとても人間中心の言葉で、具体的にどういう状態が"かわいそう"と思うかは、人によって違ってくる。

 例えば、ブリーダーにしろペットショップにしろ一般の飼い主にしろ、どういう飼い方をしていれば適正な飼育環境と言えるのか。飼育スペースの広さはどうか、新鮮なごはんと水を与えられているか、必要な予防接種は受けているか、適度な運動をさせられているか......。
 これらにはっきりとした基準がなく、"かわいそう"かどうかだけでの判断では、状況はなかなか改善されない。

「現状、動物の飼育方法の明確な基準や規制がないので、例えば行政がペットショップなどに調査に行ったとしても、ひどい飼い方をしているという判断が下しにくいようです。『飼育スペースがすごく狭いですね』と言ったところで、『いや、これで大丈夫です』と言われれば、反論しようがないですからね」

160803_02.jpg

動物愛護とは違う"動物福祉"とは?

飼育方法などの基準を決める上で、一つの指針となるのが、動物福祉の考え方だ。
 動物福祉の国際的な基準として認知されている、イギリスの農業動物福祉審議会によって確立された「5つの自由」を、以下に挙げてみよう。

(1)飢えと渇きからの自由 =新鮮な水と、健康と活力を与える食餌の供給
(2)不快からの自由 =安全な場所や快適な休息場を含む適切な環境の提供
(3)痛み、けが、病気からの自由 =予防または迅速な診断と治療
(4)正常行動を発現する自由 =十分な空間、適切な施設、同種の仲間の提供
(5)恐怖と苦悩からの自由 =精神的苦痛を避ける状態や対処の提供

 重要なポイントは、"かわいそう"な動物を助けることが動物福祉ではない、ということ。
 動物福祉の考え方では、食肉や実験、展示、飼育などで、人間が動物を利用することを全面否定してはいない。ただ、生きている限りは「動物が精神的、肉体的に十分健康で幸福であり、環境に調和していること」、また殺す際にも「可能な限り苦痛を与えないこと」というのが、動物福祉の考え方の基本だ。
 つまり、生きている動物が今幸せかどうかを、動物主体で冷静に客観的に判断すること。そのことが、動物福祉の観点には必要不可欠なのだ。

"殺処分ゼロ"で、幸せな動物は増えたか

 この動物福祉の考え方をもとに、昨今の"殺処分ゼロ"の運動を見てみよう。
 保健所などに引き取られて殺される犬猫をなくそうと、数年前から "殺処分ゼロ"をスローガンに活動する自治体や有志の団体が増えてきた。実際に"殺処分ゼロ"を実現したと宣言する自治体もある。
 果たして"殺処分ゼロ"の達成で、幸せな動物達は本当に増えたのだろうか。

「自治体で殺処分される犬猫がゼロになったといっても、実際のデータを見てみると、殺処分されるはずだった犬猫達がすべて飼い主のもとにわたったわけではなくて、実際には動物保護団体に譲渡されています。したがって、現在、各地の保護団体はパンク寸前。それだけの動物が密集して暮らしていると、例えば感染症などが発生した場合には、一気に施設内全体に広まってしまう恐れがあります。
 また、そもそも保護団体の施設で生涯過ごすことが、動物達にとって本当に幸せなのかどうかは、よく考える必要がありますよね。もっと怖いのは、人を噛んでしまう危険性のある犬を、初めて犬を飼う飼い主にそのまま渡してしまう、といったケース。下手したら、飼い主にとっても犬にとっても、最も不幸な状況になりかねません。動物行動学など科学に根ざした、適正な譲渡を行うことが必要だと思うのです」

 極端な言い方をすれば、動物達は殺されなければ幸せなのか、生きていさえすればいいのか。
"殺処分ゼロ"という言葉の響きだけに惑わされず、動物達の本当の幸せとは何かを、人、動物、さまざまな立場から問い続けることが、今、求められている。

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