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2016.07.28

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日本初のファシリティドッグが教えてくれること vol.1

犬を活用した医療活動、"動物介在療法"とは?

"動物介在療法"という言葉を聞いたことがありますか? 動物介在療法とは、医療の現場で専門的な治療行為として行われる、動物を介した補助療法のことです。現在、この動物介在療法に常勤でかかわっているのは、日本でたった2頭の"ファシリティドッグ"のみ。ここでは、ファシリティドッグを活用しての動物介在療法の現状について、認定NPO法人『シャイン・オン・キッズ』のプログラムコーディネーター(農学博士)・村田夏子さんと、ファシリティドッグハンドラー・森田優子さんのお話をもとに、取り上げます。第1回目の今回は、ファシリティドッグとはいったいどんな犬なのかを紹介していきます。

#Lifestyle

Author :写真=永田雅裕 文=山賀沙耶

セラピードッグとは違う、"ファシリティドッグ"

 神奈川県立こども医療センターの廊下を、青いハーネスを着けた1頭の白いゴールデン・レトリーバーがトコトコトコと歩いていく。すると、その姿に気付いた子どもや親たちが、
「あ、ベイリーだ!」
「ベイリー、かわいい!」
と声をあげて近づいてくる。みんなに触れられて満足そうに、そのゴールデンは、じっとしたまま白いシッポをゆらゆらと動かしている。
 病院の中に犬がいる。それは見慣れない、少し不思議な光景だ。
 このゴールデンこそ、日本初のファシリティドッグ、ベイリーなのだ。

 「ファシリティドッグってセラピードッグとどう違うの? とよく聞かれるんですが、その違いは大きく分けて4つあります」
と、認定NPO法人『シャイン・オン・キッズ』のプログラムコーディネーター・村田夏子さんは話す。

 1つ目は、セラピードッグが常勤ではないのに対して、ファシリティドッグは1つの病院に毎日出勤するフルタイムワーカーであること。2つ目は、セラピードッグの多くは基本的なしつけを受けた家庭犬であるのに対して、ファシリティドッグは専門的なトレーニングを経た使役犬であること。3つ目は、セラピードッグの場合はハンドラー(犬をコントロールする人)が飼い主であるケースが多いのに対して、ファシリティドッグのハンドラーは医療従事者であり、ファシリティドッグとともに専門的なトレーニングを受けた人であること。
 そして4つ目。「最も大きな違いは、セラピードッグの役割が"動物介在活動"、いわば人を癒すことであるのに対して、ファシリティドッグの役割は"動物介在療法"、つまり単に患者様を癒すだけでなく、医療行為にかかわる部分にまで踏み込んで活動を行うことです」

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ベイリーを挟んで右側が、認定NPO法人『シャイン・オン・キッズ』のプログラムコーディネーター(農学博士)村田夏子さん、左がファシリティドッグハンドラー・森田優子さん

 ベイリーの主な仕事は、入院病棟を回って、病気の子どもたちに触ってもらうこと。それに加えて、子どもたちと仲良くなっていくと、採血や点滴の時、手術室に行く時などに、ベイリーについてきてほしい、という子が出てくる。その他にも、薬を飲むのが苦手な子の応援に行ったり、リハビリに同行したり、外に一緒にお散歩に行ったり......。その活動内容は、ただの"癒し"を超えて、医療の分野にも大きくかかわっている。
 ベイリーのようなファシリティドッグは、現在日本には2頭のみ。神奈川県立こども医療センターに勤めるベイリーと、静岡県立こども病院に勤めるベイリーの後輩犬・ヨギだけだ。

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毎日病院にいるファシリティドッグだからこそ、入院中の子どもたちとの絆も強い

子どもたちの直訴によって、週5回勤務が実現

 日本のファシリティドッグ第1号のベイリー、実はオーストラリア生まれ、ハワイ育ちだ。
 ベイリーが日本にやってくることになったのは、日本在住のアメリカ人、キンバリーさんが息子・タイラーを小児がんで亡くしたことがきっかけだった。自分たちの経験を日本の子どもたちのために生かしたいと考えたキンバリーさんは、タイラー基金(現・認定NPO法人シャイン・オン・キッズ)を設立。小児がんの子どもたちのためにできることはないかと思っていた時、視察先のハワイの病院で出会ったのが、ファシリティドッグのタッカーだった。そして、タッカーが育ったHCI(Hawaii Canines for Independence / 現Assistance Dogs of Hawaii)の施設でトレーニングを受けていたのが、ベイリーだ。

 一方、日本初のファシリティドッグのハンドラーである森田さんは、2007年ごろ、小児病棟に看護師として勤務しながら、密かに苦悩していた。
 「病院の中って子どもにとって、なーんにも楽しみがないんですよ。それで、自分がすごく無力に感じてしまって......。それに、長期入院していると、子どもの発達が遅れていっちゃうんですよね。ここに動物がいたら、子どもたちを笑顔にしてあげられるだろうなと思ったし、発達面でもいいだろうなと考えていたんです」
 毎日同じ病室とベッド、繰り返される痛い注射や検査。しかも、それに耐えたとしても、病気が治って退院できる子ばかりではない。中には、もはや何の処置をすることもできず、弱っていくのを見守ることしかできないケースだってある。
 子どもたちを笑顔にするために、他にできることはないのだろうか。森田さんが思い悩んでいたときに、ベイリーのハンドラーとして白羽の矢が立ったのだ。
 2009年、森田さんはHCIでハンドラーとしての研修を受けるため、一路ハワイへ。英語での研修と試験を乗り越え、2週間で無事合格を手にして、ベイリーと日本に帰国した。
 日本初のファシリティドッグ誕生の瞬間だ。

 ところが、ファシリティドッグとして日本に来たからといって、ベイリーがすぐに病院に常勤できたわけではない。
 「そもそも日本では、病院に犬を入れるという感覚がないですからね。ファシリティドッグに唯一興味を示してくれた静岡県立こども病院も、まずはトライアルで来てくださいということで、1週間ボランティアとして行くところから始まりました。最初は病棟には入れず、『犬に会いたい子は親御さんと一緒に廊下に出てきてください』という感じで。それが、少しずつ信頼していただけて、プレイルームまでOKになり、ベッドサイドまでOKになり、ついには添い寝もできるようになりました」

 それでもしばらくは週3回勤務だった森田さんとベイリーだが、最終的に週5回のフルタイム勤務ができるようになったきっかけは、子どもたちによる直訴だった。
 「子どもたちが『ベイリーは毎日必要なんだ!』って、院長室に直接言いにいってくれたらしくて(笑)。それからしばらくして、週5回勤務が認められて、正真正銘、常勤のファシリティドッグとなることができたんです」
 ベイリーが最初に勤務していた静岡県立こども病院では、骨髄穿刺のときにもファシリティドッグがずっとそばにいることが認められている。骨髄穿刺とは、白血病の診断などのために、骨髄に針を刺して血液を採取する検査のこと。子どもにとっては痛くて辛い検査であり、医療者にとっても緊張を伴う処置だ。その大切な検査の部屋に犬が入れてもらえるなんて、すごいことだと村田さんは言う。

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病院の幹部の人たちが働く部屋を、自由に歩き回ることが許されているベイリー。ここまでには実に長い道のりがあった

子ども、親、病院のスタッフ、みんなにとって必要な存在

 現在8歳になるファシリティドッグ、ベイリーの1日を見てみよう。
 ハンドラーの森田さんと暮らすベイリーは、まず朝起きたら森田さんと散歩に出かけて、ご飯をもらい、ブラッシングや歯磨きなどのケアをしてもらう。その後、病院に出勤し、10時ごろから業務開始。活動1時間ごとに1時間の休憩をとりながら、16時ごろまで働く。16時ごろ退勤し、その後はまた森田さんと散歩に出かけ、ご飯をもらって、1日が終了する。
 勤務中のベイリーのスケジュールは、森田さんが管理している。
「何時に手術室まで同行してほしいとか、何時の注射に付き添ってほしいとか、先にわかっている予定の時間を空けて、その他の時間はカルテを見ながらどこを回るかを決めています。特に重点的に回るのは、ターミナル期(終末期)の子のところですね」

 もちろん、中には犬が苦手な子もいないわけではない。ただ、ほとんどの場合は、ベイリーになら触ることができるようになるという。半年かかってようやく触れるようになった子もいる。犬が苦手な保護者も、ベイリーは平気という人も多い。
 また、ベイリーは病院幹部の部屋を自由に歩き回るほか、看護師の部屋、検査課、治験管理室、看護教育課といった部屋にも遊びにいく。仕事中以外であれば、大好きな先生を見かけたら飛んでいってなでてもらうことも。ハードな業務の合間にベイリーに触れることで、病院のスタッフたちもまた癒されているのだろう。

 ベイリーが日本に来て、静岡県立こども病院に初出勤してから約7年、現在の神奈川県立こども医療センターに勤め始めて約4年。入院中の子どもたちにとっても、保護者にとっても、そして病院のスタッフたちにとっても、今やその存在はなくてはならないものになっている。

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院内にはベイリーと森田さんの控え室があり、昼休みには一度閉め切ってベイリーを休ませている

◎ファシリティドッグのベイリーとヨギの写真展が開催されています

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『小さな勇者としっぽの仲間』
日時:開催中〜2016年9月4日(日)
場所:駿府博物館 静岡県静岡市駿府区登呂3-1-1 静岡 新聞放送会館別館2階
http://sbs-bunkafukushi.com/museum/
開館時間:9:30〜17:00
休み:月曜
入館料:高校生以上300円、中学生以下・障害者手帳ご提示の方は無料
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◎ファシリティドッグの活動を行う認定NPO法人シャイン・オン・キッズへの寄付をお願いいたします

詳細は以下のサイトをご覧ください。
http://sokids.org/ja/
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